火魅子伝〜霊狩人〜第1話(火魅子伝×魂響)
日時: 05/22 22:22
著者: ADONIS
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火魅子伝〜霊狩人〜第1話(火魅子伝×魂響)



気がつくと、森の中にいた。

先ほどまで、耶牟原遺跡にいたはずなのに、私は何故かここにいた。

「やあ、日魅子、目が覚めたかい?」

ふいに声が聞こえる。

そこには変わった服を着た、ぬいぐるみの様なものが浮いていた。

それからは、妖怪とは違う気配がした。

だが、人間の気配とも違っている。

「貴方は?」

「オイラは、耶麻台国の神器の天魔鏡の精霊キョウだよ。日魅子をここに呼んだんだのもオイラさ」

「どういう事!」

日魅子はキョウに、掴みかかる。

「く、苦しい放して!」

日魅子に握りしめられたキョウは苦しそうに叫ぶ。

日魅子は、キョウの叫びに我に返り、キョウを放す。

「もう、乱暴なんだから」

キョウが文句をいう。

「で、私をこんな所に、無理矢理つれてきて、いったい何の用なのよ?」

日魅子は憮然としつつ、キョウに訪ねる。

「実は、ここは三世紀の九洲。それも日魅子のいた世界の直接の過去じゃなくて、平行世界の九洲なんだ」

「平行世界? パラレルワールドとか、いうものかしら?」

「そう、それだよ」

日魅子は、これには驚いた。

霊狩人として、様々な術を見知っていたが、平行世界の移動など、人に為し得ぬ奇跡である。

キョウのいうことが本当だとすれば、キョウはかなり強力な存在なのだろう。

キョウは、さらに話を続ける。

「日魅子、君は元々この世界の人間で、ここ九洲を納めていた耶麻台国王の娘。耶麻台国の正統王位継承者なんだ」

「邪馬台国?」

「ああ、違うよ耶麻台国。ここは、日魅子のいた直接の過去じゃないっていったでしょ」

「それにしても、私が耶麻台国の王位継承者で、名前が日魅子だなんて、出来過ぎね」

「それは、オイラも驚いたよ。因みに火魅子の意味も、この世界では全く違うんだ」

「それで、私がこの世界の人間だとしたら、どうして私があの世界に居たのかしら?」

「ああ、それはオイラが、当時赤子だった日魅子を、安全な世界に避難させたんだよ」

「避難?ここはそんなに物騒なの?」

「それには、訳があってね。この耶麻台国は、代々開祖姫神子の血を引く直系の火魅子候補が、女王になっていたけど、100年以上前から、直系の火魅子候補が生まれなくなって、傍系の火魅子候補を女王にしてたんだけど、それも50年ほど前から、傍系からも、火魅子候補がいなくなってしまったんだ。それで、直系の男子を王にしてたんだけど、どうしても火魅子が治めていた頃とは、見劣りしてしまって、国が衰退してしまったんだ」

「火魅子がいないだけで、国が傾いたの?」

日魅子は呆れた。

それは、国家としては致命的だ。

「耶麻台国は、火魅子あっての物だからね。22年前には、火魅子候補が生まれたんだ。50年ぶりに火魅子候補が生まれたので、国中が大喜びしたんだ。その後も火魅子候補が生まれて、14年前には君を含めて、火魅子候補が5人いたんだ」

キョウが当時の事を、悲しそうに話した。

「でも、遅かったんだ。君が王位を次ぐ筈だった耶麻台国は、久根国の侵攻を受けたんだ。当時は、最も年長の火魅子候補でも、7才だった。火魅子を擁立できる状況じゃなかったんだ。結局、14年前に耶麻台国は滅亡したんだ。だから日魅子には、久根国を追い出して、耶麻台国を復興させて欲しいんだ」

「いやよ」

「えっ! な、何でさ」

「当たり前じゃない。耶麻台国を復興させるでことは、久根国と戦争をするってことじゃない。第一、14年も前に滅んだ国を、どうやって復興させるのよ?」

「だ、大丈夫だよ、伊雅がいるから・・・」

「伊雅?」

「耶麻台国の副王だよ。国王の弟で、日魅子の叔父にあたるんだ。それに日魅子は何もしなくていいんだ、求心力として、直系の火魅子候補が必要なだけだから・・・」

「私は、耶麻台国復興の御旗という訳?」

「そう、耶麻台国復興軍を興すには、どうしても火魅子候補が必要なんだ」

「で、その伊雅って人は、確実に久根国に勝てるだけの準備をしているの?」

「うっ、だ、大丈夫だよ」

キョウは、どもりつつもそう答えたが、日魅子は、いまいち信用できなかった。

「それより、私を元の世界に、帰して欲しいんだけど」

「そ、それはできないよ。オイラは力を、使い果たしているんだ」

「なんですって!」

キョウの言葉に日魅子は怒って、キョウに掴みかかった。

「があっ、ぐ、ぐるしいいいーー」

「それじゃ、私は久峪と、もう会えないじゃない。この、死ね、死んで詫び入れなさい」

「ぐううう、や、やめてえええ」

日魅子はキョウを締め付けていたが、キョウがぐったりとすると、キョウを後ろに投げ捨てた。

「げほ、し、死ぬかと思った」

キョウはふらふらしながらも、なんとか起き上がった。

日魅子は、そんなキョウを無視して、歩いていった。

「ちょっと待ってよ。日魅子何処に行くんだよ」

キョウが慌てて、日魅子を追う。

「元の世界に変える方法を探すの。貴方は、付いてこないで」

日魅子はキョウの言葉に振り向きもせずに、話した。

日魅子にとって、キョウはもはや疫病神でしかなかった。

キョウはこれには、慌てた。

折角、切り札の直系の火魅子を呼び戻したのに、勝手に何処かに行ってしまっては、耶麻台国復興が頓挫してしまう。

「元の世界に帰る方法ならあるんだよ」

キョウはとっさに、日魅子にそういった。

日魅子はその言葉に、振り返る。

「それは、貴方じゃ、無理なんじゃ無かったの?」

「だ、大丈夫だよ。時の御柱を使えばいいんだよ」

「時の御柱?」

「時空間を移動するものなんだ。けど火魅子じゃないと動かせないんだ。だから耶麻台国を復興させて、火魅子を擁立しないと、使えないんだ」

「つまり、耶麻台国を復興させて、私以外の火魅子候補を、火魅子にすればいいのね」

キョウは、日魅子のその言葉に、大袈裟に首を振る。

「日魅子は直系なんだよ。それも100年ぶりの、とても貴重な存在なんだ。ハッキリ言って、他の火魅子候補はあくまで保険なんだよ」

「それじゃ、耶麻台国が復興しても、私は帰れないじゃない」

日魅子の言葉に、キョウは動揺する。

「ちょっとキョウ。まさかとは思うけど、初めから私を帰す気は無いなんて、言わないでしょうね?」

「そ、そんなことはないよ」

「本当かしら?」

日魅子は、キョウを怪しむ。

とはいえ、他の方法は分からないし、情報が不足している。

ここは、キョウに従うほうがいいだろう。

「まあいいわ。今の所、耶麻台国を復興させるしか無いわけね。この世界は右も左も分からないから、暫くはつき合うわ。この世界の事も詳しく聞きたいし」

「じゃ、とりあえず伊雅の所に行こうか」

「・・・仕方ないわね」

日魅子はキョウと共に森の中を歩いていった。





後年、この世界の姫島教授は、火魅子伝という日本最古の書物の原本を発見し、世間の注目を受ける。

火魅子伝の原本は、中国や朝鮮半島で発見された、翻訳版の写本と同じく、当時の倭国としては、とても珍しい羊皮紙で、書き綴られていた。

その火魅子伝に記されし、伝説の英雄。

それは、五天の外の世界から持ち込まれた武具、”魂を喰らう、神殺しの剣”と”不可視の鎧”を持つ、一人の少女だった。