火魅子伝〜霊狩人〜第5話(火魅子伝×魂響)
日時: 05/22 22:25
著者: ADONIS
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火魅子伝〜霊狩人〜第5話(火魅子伝×魂響)



伊雅の隠れ里に着いた一行である。

里の屋敷で、話し合いが行われた。

「じゃ、まず自己紹介から、オイラは耶麻台国神器の一つ、天魔鏡の精霊のキョウだよ」

キョウがその場を、取りまとめた。

「私は、秋月日魅子。元耶麻台国国王の実子で、直系の火魅子よ。耶牟原城陥落後に、天魔鏡によって、五天の外の異世界に飛ばされていたんだけど、先日、天魔鏡に、この世界に呼び戻されたの」

「異世界ですか?」

伊雅が驚いていた。

「そう、因みにこの剣と指輪は、異世界の武具よ。まあこの服装もだけど」

「道理で、珍しい服装だと思いました」

亜衣が頷いた。

「そうね。確かにこの世界では、妙な服装に、見えるでしょうけど」

日魅子は苦笑しながらいう。

「それで、異世界では、霊狩人をやっていたわ」

「霊狩人?」

伊雅が訪ねる

「人に仇なす、妖怪や怨霊を倒す狩人よ」

日魅子は妖怪、霊能力、龍駆石などの説明をする。

「それでは、あの異常な防御力は?」

亜衣が、日魅子に訪ねる。

「ええ、この龍駆石の力よ。防御しかできないけど、それだけに強力よ。未だかつて、私の『不可視の鎧(アイギス)』の守りを、破った者はいないわ」

日魅子のその言葉に、皆が納得する。

「私からは、こんなものね」

その後、星華達や伊雅達の紹介が行われた。

しかし、伊万里の紹介がおこなわれたとき。

「私は伊万里と申します。火魅子候補ですが、最近まで県居の里で、山人として育ってきました。」

「県居の里ですと!」

伊雅が伊万里の言葉に驚く。

「県居の里が、どうかしたの?」

日魅子が不振そうに伊雅に訪ねる。

「あそこは、先日、久根国に襲撃されて、壊滅したと聞いています」

伊雅がいいづらそうにいう。

「なんですって!」

伊雅のその言葉に伊万里、上乃、仁清が驚く。

動揺する伊万里達を落ち着かせるために日魅子達は、いったん話し合いを中止せざるを得なかった。



その後、里の敵討ちだと、いきり立つ伊万里達を宥めるのに、日魅子はとても苦労した。



「それじゃ、兵を集めて復興軍を起こそう。みんなも良いよね?」

会議が進む内に、キョウがそういいだした。

伊雅や星華達も、それに同調した。

伊雅は、直系の火魅子と二人の火魅子候補、耶麻台国の神器の天魔鏡が揃ったことで、今が決起するときと考えていた。

星華達も、今までは、星華が久根国から逃れる際に、耶麻台国の神器を無くしてしまったために、火魅子候補であると証明が出来ずにいたため、小規模な活動しか、出来なかった。

だが、天魔鏡によって、火魅子候補としての証明ができることによって、大きな行動が出来ると考えていた。

里の敵討ちを望む、伊万里達はいうまでもない。

「待ちなさい。まだ復興軍を起こすべきじゃないわ」

しかし、日魅子が皆を、押さえる。

直系の火魅子という、この場でもっとも地位が強い日魅子の発言に、皆が硬直する。

「日魅子、何か問題があるのかい?」

キョウが訪ねる。

「あるに、決まっているわ。まず、兵士の練度、武器の数、復興軍を運用する人材の数、不足しまくってるわ。復興軍を立ち上げたら、否応なく直ぐに、久根国軍との戦闘になる。その時に、準備不足では、勝ないわ。まず、復興軍を立ち上げるための、準備期間を設けるべきよ」

日魅子のいうことは、最もであったため、反論はなかった。

「しかし、準備といっても」

伊雅が言いよどむ。

「だから、これから何が必要か、考えましょう。ところで伊雅さん、九洲各地にいる反久根国勢力と連絡がとれる」

「はい、それは可能です」

日魅子の問いに伊雅が答える。

「では、彼らに、久根国に見つからないよう、各地で極秘裏に、兵を集めて鍛えるように、支持を出してほしいの。まずは、兵の練度を少しでも、上げておきたいから。それと武器や防具だけど、これも彼らに、多めに作ってもらいたいわ。私の要請だといって構わないわ」

「わかりました」

「後、乱破を集めて欲しいわ。できれば百人ぐらい」

「乱破ですか、乱破の里に知り合いがおりますので、大丈夫ですが。そんなに乱破を集めて、どうなさるのです?」

「復興軍を起こしたら、九洲各地の久根国兵の動きや、久根国本国の動向など、いろんな情報が必要になってくる、その為よ。それに、久根国本国に、予めに乱破を潜り込ませて、情報収集や、工作活動をしておきたいわ」

「おお、なるほど!」

伊雅は、日魅子の言葉に納得した。

「羽江、飛行挺だけど、もっと増産は可能かしら?」

「うん、可能だよ日魅子様」

「では星華さんは、方術士達に飛行艇の訓練をさせて。飛行艇は、軍団での戦闘や、伝令兵としても、かなり使えるから、役に立つ筈よ」

「は、はい」

「あと、海人集団だけど味方なのは、宗像系だけかしら?」

「今のところはそうですが」

日魅子の質問に星華が答える。

「他の海人集団は、仲間に引き込めるかしら?」

「仲間になりそうな所は、いくつか心当たり有ります。あの何故、海人集団に、拘られるのでしょうか?」

星華にとって、海人は海の上でしか、活動できない集団であったので、日魅子が海人達をそれほど重要視するが分からなかった。

「九洲を奪還しても、久根国は九洲に、再度侵攻を行うでしょう。だから、それを水際で阻止するなり、妨害工作をするなりしたいのよ。それには、ある程度まとまった数の、海人集団を味方にしておく方が良いわ。その為にも、海人集団と一緒に、新型の戦闘艦を開発しておきたいわ」

伊雅達は、日魅子の次々と出てくる意見に驚く。



ここで、説明しよう。

日魅子が何故このように、戦争に関して、詳しいかというと、彼女の霊狩人としての仕事と関係している。

一般人と違い、日魅子は、怨霊や妖怪と常に戦ってきたため、戦闘に役に立つ剣術や格闘技、飛び道具の扱いだけでなく、戦略、戦術なども貪欲に、学んでいた。

日魅子は、戦略、戦術を学ぶにあたっては、兵法書や古今東西の会戦の記録、はては仮装戦記にまで、手を出して参考にしていった。

その結果、この様に戦争やその準備などに詳しくなったのだ。



「とりあえず、私がしておきたい準備はこんな物ね。何か質問は有るかしら?」

日魅子の言葉に、会議が進んでいった。



その日の話し合いが、終わり、日魅子は夜の星空を眺めていた。

この世界は、元の世界とは異なり、街灯も無く、自然が多く残っていた。

それゆえ、夜空の星もよく見えた。

それは、元の世界では、文明の発達と同時に失っていった物だった。

「綺麗な夜空ね」

「日魅子、ここにいたんだね」

日魅子が星を眺めていると、キョウが話しかけてきた。

どうやら、私を探していたようだった。

「ねえ、キョウ。耶麻台国の復興だけど、貴方はうまくいくと思う?」

「う、うまくいくに決まってるよ。順調に行ってるんだから」

キョウは、そう断言する。

そう信じこんでいるのか?

いや、キョウの立場では、それしかないのだろう。

「そうかしら?聞いた限りでは、勝算は低そうだけど」

日魅子はキョウに、そう聞く。

我ながら、やや意地悪だと思うが。

「どうして、そう思うんだい」

流石に、日魅子に其処まで言われると、キョウも不安になってきたらしい。

「簡単な事よ。戦争は基本的に強い方が勝つわ。まさか、私たちが久根国より強いなんて思ってないでしょう?倭国一の強兵あいてに」

「た、確かにそうだけど」

キョウは言いよどむ

「それに、私たちには、致命的な欠点が有るわ」

「欠点?」

キョウが日魅子に問うた。

「そう、私を含めた火魅子候補が、複数いるということ。つまり、王位継承者が複数いるということは、復興軍内部に幾つかの派閥を作ることになるわ。そして、その派閥ごとに女王争いが起こるでしょうね。ただでさえ復興軍は、寄せ集めの烏合の衆であるのに、そんな内部不和が起これば、どうなるかしら?」

キョウは、日魅子の質問に青ざめる。

「それこそ、他の火魅子候補が、あまり活躍しないように妨害したり、私を暗殺しようとしかねないわ。それに、将の不和は、容易に兵に伝わる。本当の意味で、私たちが一致団結して、久根国と戦うのは難しいでしょうね」

キョウは、日魅子の言葉に反論できずにいた。

キョウは、長い間、人間の世界を見てきたのだ。

人間というのが、そういう者だということは理解していた。

「ねえ、キョウ。何故、私をこの世界に呼び戻したの?」

「勿論、耶麻台国の復興の為だよ」

キョウは答える。

「正確には、耶麻台国が復興しないと、貴方が困るからじゃないの?」

「うっ、そんなことないよ」

「そうかしら?」

「日魅子、何でそんなことをいうのさ」

キョウは憮然としつつ、日魅子に聞いた。

「あら、私と久峪を、無理やり生き別れにしたのは、貴方じゃない?私はこの世界に、呼び戻してくれなんて、頼んでないわ。私が貴方に手を貸しているのは、あくまで私が久峪の元に、帰るためよ」

折角、美しい星達を見ていたのに、気分が白けてしまった。

もう、夜である、明日に備えて、寝ることにしよう。

「キョウ、私はもう寝るわね」

日魅子はそういって、伊雅の屋敷へと歩いていった。