火魅子伝〜霊狩人〜第11話 (火魅子伝×魂響)
日時: 07/06 15:24
著者: ADONIS
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当麻の街では、久根国に勝利した祝いの祭祀が行われていた。

この時代では祭りと政治は密接に結びついていた。

彼らは、十五年前に滅んだ祖国が、この街で復活しようとしているという事に大喜びをしていた。

当麻の街にて、再興軍と合流した復興軍は、耶麻台国復興軍として、九洲中に伝わっていった。

再興軍と合流した日魅子は、火魅子候補の藤那とあったが、その際にキョウによって志野が火魅子候補であることが発覚し、一時騒然となった。

その間、只深は、自分たちの商団が持ってきた武器や防具等を復興軍に売っていた。

復興軍にはこれらの物資を買うお金が無かったが、只深は出世払いで良いといっていたのでそれらの物資を遠慮なく購入した。

これからの戦いを考えれば、どの道これらの物資は必要になってくるのだ。

その後、耶麻台国復興軍は、当麻の街の宮殿にて、今後の話し合いをすることになった。

直系の火魅子、六人の火魅子候補を始め、そうそうたるメンバーが集まっていた。

再興軍は火魅子候補の藤那、志野の他、珠洲、閑谷、忌瀬がいた。

「拠点も手に入ったことだし、ここで耶麻台国の復活を宣言したいのだが」

藤那がそう切り出した。

「いえ、それはまだ早いわ。私達は九洲の人々に望まれて、耶麻台国を復興させるという形を取りたいので、早々に復活を宣言するのは待って欲しいのよ」

藤那の言葉に、日魅子が反対した。

「どういうことでしょうか?」

伊雅が不思議そうに聞く。

「つまり、私達は九洲の民の協力が無ければ、兵を集めることも、兵糧の用意もできない。これは分かりますね」

日魅子の言葉に、皆が頷く。

「では何故、ただでさえ久根国の圧政で、苦しんでいる九洲の民が、危険を犯してまで、十五年前に滅んだ耶麻台国を復興させようとしている私達に手を貸してくれるかというと、それは久根国の支配が嫌だからですわ。つまり、私達には”久根国の圧政から九洲の民を解放する為に、耶麻台国を復興させる”という大儀があるのですわ」

日魅子の言葉に皆が聞き入っていた。

「私達はこの大儀を持って、私達が久根国とは違うということを九洲の民に分かってもらうために、九洲の民に十分に報いなければならないわ。九洲の民を味方に付けないと、私達は久根国に勝つことは、出来ないでしょうから。だから私達にとって、九洲の民を大事にすることは、とても重要なことなのよ」

「おお、日魅子様の深謀遠慮には感服いたしました」

伊雅が大げさにいう、最も藤那や志野も日魅子の考えには驚いていたようだ。

「さて、それより久根国に対してだけど、私達が当麻の街を奪取したことは、もう知られているでしょうから、奪還のために軍がくるでしょうね。恐らく四千ほど」

「四千ですか」

亜衣が聞く。

「ええ、此方が当麻の街に籠城しても、それだけあれば十分に攻略できるでしょうから。まともに戦えば、私達に勝ち目は無いわ」

日魅子がそう答える。

日魅子の言葉に、場は騒然となる。

「まあ、それはあくまで、まともに戦えばの話ですわ。私に策がありますわ」

日魅子が余裕たっぷりにいう。

「策ですか?」

亜衣がそう答える。

皆も日魅子の自信ありげな、態度に落ち着く。

「でも折角の機会だから、皆にもどういう作戦が良いか考えて、議論して欲しいわ。なんせこれからは、いつも作戦会議を開いてから、戦うとは限らないもの。幹部達は自分である程度は自分で考えて、動かないといけない事もあるでしょうし」

日魅子の言葉に皆が、議論を交わしていく。

亜衣や伊万里などは城を捨てて、森林地帯で不正規戦を提案したが、星華、伊雅は籠城を主張していた。

どちらも、問題があり議論は行き詰まり、時間だけが過ぎていった。



二日後

久根国が予想通りに、四千の軍勢で侵攻を開始したとの知らせが伝わっていった。

その間に只深は、さらなる復興軍への更なる援助の為に、伊部と一緒に半島へと帰っていた。

「なかなか良い作戦が決まらないようなので、私の作戦を説明しますわ」

皆が議論をしている中、日魅子は一応、籠城の準備を進ませていた。

しかし、久根国の軍勢が来たとの知らが来たので、あまり時間を無駄に出来ない。

日魅子は頃合いを見計らって、そう切り出した。

「まず、私は当麻の街を捨てるつもりはありません。折角手に入れた拠点をそう簡単に手放せないし、街を捨てるという事は、街の住民を捨てるという事よ。そんなことをしたら、久根国に勝つことが、出来ないわ」

日魅子の言葉に、星華が喜んだ。

「だから、当麻の街に籠城することにするけど、ただ単純に籠城する訳では無いわ。古今東西、援軍のない籠城戦で買った試しが無いしね」

「では、日魅子様はどうなさるのですか?」

伊雅が日魅子に尋ねる。

「まず、久根国軍四千とまともに戦っては、勝ち目が無いわ。だから敵を分散させて、各個撃破するわ」

「分散ですか、ですが日魅子様どうやって、敵を分散させるのです?」

日魅子の言葉に星華が質問する。

「そこで、重然、阿智、蔚海あなた達、海人集団の出番なのよ」

日魅子から名指しされた重然達、海人集団は驚く。

「あっしらの出番とは?」

重然が戸惑いつつも、日魅子に尋ねる。

「久根国軍が侵攻してきたら来たら、精鋭を千二百ほど、食料等の物資と共に、船で敵の後方に海上輸送するわ」

日魅子の突拍子の無い話に、皆が驚愕する。

場は騒然となり、そんな無茶な、できっこ無い等の言葉が聞こえてきた。

「出きる出来ないの問題じゃないわ。やるしかないないのよ。兵の質と量で圧倒的に劣る私達が、久根国に勝つためには、敵の意表を突くしかないわ」

日魅子の一喝によって、場は静まる。

「それはそうですが、では敵の後方に上陸させた部隊と、当麻の街の部隊で、前後から挟撃されるのですね」

亜衣が日魅子に尋ねる。

「いえ違うわ。それでは久根国軍四千をまともに相手にしてしまう。いくら前後から挟撃しても、それでは勝ち目が高くないわ」

亜衣の言葉を日魅子が否定する。

「まず、千二百の逆上陸部隊は、美禰の街の近くに上陸させるわ。そして、美禰の街を包囲して、攻め落とす振りをします」

「攻め落とす振りですか?」

「ええ、実際に攻め落とす必要は無いわ。このままでは攻め落とされると、美禰の街の久根国軍に危機感を与えて、援軍を要請させるのが目的だから。そうすれば当麻の街を攻略する部隊は、兵力を割いて、美禰の街に援軍を送らざるを得なくなるわ。その後、敵の援軍を回避して、当麻の街を包囲している久根国軍を前後から挟撃します」

「しかし、千二百程度で、そんなことが可能でしょうか?」

亜衣が質問する。

「偽装工作で、兵が多くいるように見せかけるのよ」

今まで黙っていた彩花紫が、亜衣に答える。

「そう、彩花紫のいう通りよ。わざと多く旗を立てたり、余計に陣地を作ったりするわ。ついでに船も、その偽装工作に利用するわ。まあ、詳しく話すと・・・」

日魅子は、作戦を最初から最後まで、事細かに説明していった。

「・・・と、まあこれが今回の作戦よ。本作戦を”美禰城、逆上陸作戦”と命名します」

集まった幹部達は、日魅子の非常識な作戦に驚く。

一方、忌瀬も日魅子の作戦に驚愕していた。

忌瀬は天目に密かに頼まれ、復興軍を手助けに来たのだった。

幸先良く女王候補の藤那とあい、また直系の火魅子とあったのだった。

日魅子の立てた作戦は非常識で、意表を付くものであったが、それだけにうまくいけば、久根国軍に勝てるだろう。

これなら、久根国軍に何とか勝てるかもしれない。

忌瀬は、天目に頼まれた課題を乗り越える可能性が出てきたことを喜んだ。

「さあ、籠城の準備、船の用意、物資の準備等、やるべき事はたくさんあるわ」

日魅子は、皆を奮い立たせる。

「よし、我らには直系の火魅子様がおられる。此度も我らの勝利に間違いなし、皆の者、準備に取り掛かるぞ」

伊雅の言葉に将兵達が、準備を開始していった。