火魅子伝〜霊狩人〜第15話 (火魅子伝×魂響)
日時: 07/09 21:53
著者: ADONIS
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「さてと、まず施政方針演説を行うわ」

美禰の街を手に入れた日魅子は、そう言った。

「しせいほうしんえんぜつ?」

星華は、何のことか分からないいった顔だった。

確かに、この時代の人間には理解できない言葉であろう。

「えっと、つまり、美禰の街の人たちに、私達がこれからどうするつもりかとか、どういう政治をするつもりか説明するのよ。美禰の街の人達に私達の事をきちんと説明すれば、より協力を受けやすいわ。そうね、これは星華に頼むわ」

「え、私ですか?」

星華は驚いていたようだ。

「ええ、こういうのは、九洲の人々の支持を受けやすい、火魅子候補がやった方が良いわ。でも、私は次の作戦立案で、時間が空いてないし、香蘭は倭国語が不自由だから、星華しかいないわ」

最も、日魅子は内心大勢の人々の前で、演説するのを嫌がっただけだが、そんな事はおくびにも出さない。

何せ、元の世界では、精々学校のクラスで、発表会をするとき位しか経験が無い。

こういった事は、恥ずかしかったのだ。

「分かりました」

星華は、美禰の街の人々に、自分の顔と名前を売る、絶好の機会のため喜んで引き受けた。

一方、紅玉は一瞬だけ、残念そうな顔をした。

娘の香蘭は、倭国語が不自由のため、こういう場面では不利だったのだ。

「まあ、内容としては、まず久根国が、これまで九洲でしてきた悪行を言って、次に耶麻台国が復興したら、みんなの暮らしが良くなって、先祖代々の御霊も安心するといった事を星華なりに言ってね」

「はい」



結果として、星華の演説は大成功といえた。

美禰の街に人々にとって、火魅子候補の星華は、失われた女王火魅子を、強く思い出す事になったのだろう。

続いて、音羽の復興軍への参加の呼びかけにより、九洲兵全てと、多くの美禰の街の人達が復興軍に参加してくれた。

日魅子は、美禰の街の武器庫を解放して、彼らに武器を回した。



その後の留守の間に集まった復興軍幹部で話し合いが行われた。

「日魅子様、これからどうなさいますか?」

星華が日魅子に尋ねた。

「そうね。その前に真姉胡一つ聞きたいけど、当麻の街は後どれぐらい持ちそうなの?真姉胡が思った通りに正直に話して」

「え、そうですね。まあ、四、五日は大丈夫ですね。彩花紫さんもそれぐらいは持つと言ってましたし」

(それに、攻めてるのがあの常慶将軍じゃねえ)

「なら、それだけの時間的余裕が有るのね」

「あの日魅子様、何を考えていらっしゃるのですか?」

星華は日魅子の意図が読めず、質問した。

「まず、去飛の街を落とすわ」

「当麻の街の救援に向かわないのですか?」

日魅子の言葉に、皆が驚く。

「落ち着きなさい。何も当麻の街を見捨てるとは言ってないわ。さっき言った通り、私達には時間的余裕が出てきたの。だからそれを有効利用するわ」

日魅子は、そこで言葉を一端切った。

「私が恐れているのは、当麻の街を攻めている久根国軍が、私達が救援に駆けつけるのを知って、去飛の街に撤退して、籠城する事よ。これをされたら、久根国の増援部隊が来る前に、決着を付けるのが難しくなるわ」

日魅子の意見に、皆も頷く。

確かに、それは拙い。

「だから、まず先に去飛の街を落として、彼らの逃げ道を塞ぐわ。今なら城の守りは薄いしね。ついでに去飛の街で、兵力の補充をして置くわ。その上で、敵の輜重部隊を捕捉襲撃して、物資を強奪するわ。敵の補給を絶って、干上がらせるのよ」

日魅子の深謀遠慮に皆が感心する。

「しかし、去飛の街を千八百の兵で、簡単に落とせるでしょうか?」

雲母が疑問を持った。

「それなら大丈夫よ。去飛の街には、謀略を仕掛けるわ」

「謀略ですか?」

「ええ、まず美禰の街の住民に、何人か協力して貰って、去飛の街に行って貰うわ。彼らには、美禰の街から逃げ出した事にして、口々に復興軍の勢いが盛んなこと、予想以上の兵力を持っていることを久根国の守備兵に訴えて貰うの。清瑞、ついでに貴女は去飛の街に潜入して、当麻の街を攻めている久根国軍が大苦戦をしているとか、復興軍三千が去飛の街に向かって来ているとか、いろいろ噂をばらまいてね」

「はい」

清瑞が頷いた。

「まあ、そうした上で、私達が去飛の街に押し寄せたら。久根国兵はどうするかしら?私は逃げると思うけどね」

「確かに、そうすれば逃げると思います。敵としては何とか対処しなければならないでしょし、その場合は逃げるのが、一番楽でてっとり早いですから」

紅玉が日魅子の意見に賛成した。

「まあね。それにしても、この常慶とかいう将軍はお馬鹿ね。輜重部隊をまともな護衛も付けずに、本隊の後から連れてくるなんて、自分達の補給を絶って下さいと言ってるようなものよ。まあ、敵がお馬鹿なのは助かるけど」

日魅子はそう言って薄く笑う。

「皆も覚えておきなさい。戦争において、補給とは地味だけど重要な事よ。これを軽視する者は、けして勝者にはなれないわ」



その後、去飛の街攻略は、日魅子の予想以上に、うまくいった。

復興軍が近づくだけで、久根国兵は美禰の街から撤退したのだ。

逃げる際に足手まといになる文官達は置き去りにされた。

彼らは、街の住民に捕らえられ、復興軍に引き渡された。

こうして、美禰の街と去飛の街を落とした復興軍に、近隣の村や里は全て靡いた。

それによって、去飛の街の九洲兵や住民、近隣の村や里から志願兵が集まり、日魅子の手元の兵力は、三千に膨れ上がった。