火魅子伝〜霊狩人〜第18話(火魅子伝×魂響) |
- 日時: 07/11 21:22
- 著者: ADONIS
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魔人の襲撃から数日が過ぎた。
その頃になると、たった一人で百匹以上の魔人を斬り殺した日魅子の驚異的な武勇は、復興軍だけでなく、美禰や当麻、去飛の街の住民に伝わっていった。
これは、通常なら畏怖の対象になりかねない事であったが、日魅子が100年ぶりに現れた直系の火魅子であるため、彼らはむしろ好意的に受け入れていた。
元より、女王火魅子は特殊な神通力や驚異的な能力で、耶麻台国を治めていたのだ。
直系の火魅子が、超人的な能力を持っていても可笑しくないのだ。
最も日魅子はそんなことより、先に魔人襲来の被害に頭を痛めていた。
日魅子は、今後魔人の被害を抑える為に、対魔人戦術を考案しなければならなかった。
日魅子にとって、人外の化け物と戦うのは、選ばれた退魔家系の人間だけであった。
彼らは、先祖代々に渡って磨き上げてきた霊能力で戦っていたが、普通の人間を使って魔人を倒すとなると、戦い方を一から考え直さなければならない。
といっても一般兵で、魔人を倒すとなると、やはり毒を使うのが良いだろう。
それに、忌瀬が先の当麻城防衛戦で、笑い茸の粉末を使って、久根国兵を笑わせて、戦闘不能にしたらしい。
魔人も生物だから、呼吸はするだろう。
まずは、笑い茸の粉末を投げ付けて、それを魔人に吸わせる。
後は、動きが鈍った所を、強力な毒を塗った槍や矢などで、攻撃すれば有効なはずだ。
すでに、それらは忌瀬に制作を頼んでいた。
「日魅子様、大変です!」
兵士達が、私の元へ駆け込んできた。
「どうしたのですか?」
日魅子は兵士のあまりの動揺に驚きつつも答えた。
「日魅子様に面会を希望する方々が来たのですが、・・・」
「へえ、どなたですか?」
日魅子は不審に思い、兵士に尋ねた。
確かに、私に対する面会希望者は少なくない。
復興軍に靡いた街、村、里などの代表者や、かつての耶麻台国縁の者など。
私は、そうした人々と接するのも重要だと考えていたので、時間が空いていれば面会していた。
流石にあからさまに怪しい者には、会うことはしなかったが。
しかし、それならここまで慌てるのはおかしいのだ。
「それが、三人の魔人なんです」
兵士が予想外の言葉を返した。
「何故、魔人が私を訪ねて来ていますの?」
日魅子は不審に思った。
私の暗殺の為?
いや、それならわざわざ私に面会を希望する訳はないだろう。
「まあ、いいわ。一応会いましょう」
何はともあれ、会わなければわからないのだ。
日魅子は、その魔人達に会うことにした。
三人の魔人が日魅子様に会いに来たとの知らせには、伊雅や彩花紫達にも届いており、謁見の間には緊張感が漂っていた。
その場にいる三人の魔人は、見た目は人間に似ていたが、長いうさ耳があり、際どい衣装を着ていた。
それは、元の世界での、バニーガールその物であった。
一瞬、古代世界のコスプレイヤーかと思ったが、そうではないらしい。
しかし、その見た目とは裏腹に、二人は魔人としての気配はかなり強く、かなり強力な魔人であると思われる。
しかし、もう一人の方は気配が全くしない。
魔人特有の気配すら無いのだ。
日魅子は逆に、その事を不気味に思い警戒していた。
彼女達は、兎華乃、兎奈美、兎音と名乗っていた。
魔人の中でも魔兎族という種族の三姉妹だそうだ。
「それで、魔人である貴女達が、私に何のようですか?」
「私達は、ある人物の頼みで、貴女の護衛に参ったのですわ」
長女の兎華乃が発言した。
ちなみに兎華乃は三人の中で外見が一番幼く、唯の幼女にしか見えない。
ある人物?
日魅子はこれには心当たりがない。
魔人に手助けを頼むのだから、その人物は左道士かと考えたが、左道士で耶麻台国縁の者などいない。
だいたい倭国で、魔人を使っているのは久根国だけである。
なら、久根国の人間が、この魔人達を差し向けたと考えるのが自然であったが、それだとまた話が腑に落ちない。
その目的は、私を油断させて、暗殺することだというなら、最初からこっそりと忍びこんで、私を殺せばいいのだ。
確かに私は、直接の戦闘では強いが、毒殺や暗殺の類には強くないのだ。
全ての龍駆石にいえることだが、私の虚構守鎧(アイギス)は、展開していないと意味がない。
つまり、寝込みを襲われたり、不意打ちをくらうと一溜まりもないのだ。
その為、私が無防備となる入浴や睡眠の時は、信用できる護衛を必ず付けている。
私の性別の事もあるので、その護衛は全員女性である。
ちなみに、毒などは、日魅子が禍曲剣との契約で生命力が強化しているので、常人よりは耐性がある。
この魔人達の実力なら、その護衛を始末して、私を殺すことも可能だろう。
しかし、こうして魔人だと名乗り出て来て、堂々と私に面会を希望するのは解せない。
ならば、本当に私の護衛に来たということだろうが、そんなことをする人物に心当たりがない。
しかし、対魔人用の戦力が不足しているのも確かだ。
折角、味方すると言っているのに、断るわけにもいかない。
「まあ、その人物の事は置いておくとして、貴女達は復興軍が、魔人や魔獣に襲撃されたときは、それを倒すのに協力してくれるのですか?」
「はい」
兎華乃が頷いた。
「わかりました。では、貴女達には協力して頂きます」
日魅子の言葉に、皆が騒然となる。
「宜しいのですか日魅子様」
伊雅が尋ねた。
「ええ、私は久根国とは違うから、魔人を人間同士の戦いに使うつもりは無いわ。でも、彼女達には、魔人や魔獣に対しては、働いて貰うつもりよ」
そして、日魅子は自らの懸念を皆に説明する。
それは、久根国が魔人や魔獣を復興軍に使ってきたときの、此方の対魔人、対魔獣戦力の不足であった。
先の魔人達の襲撃もあって、この懸念は皆も切実に考えていたのだ。
「まあ、だからその時は猫の手でも借りたいのよ。多少問題があってもここは受け入れるべきだわ」
日魅子の言葉に皆がしぶしぶ頷く。
「まあ、彼女たちの事は、一般には秘密にしておくわ。皆もこの事は口外しないようにね」
日魅子は魔兎族に関して箝口令をだした。
こうして、魔兎族三姉妹は復興軍の対魔人戦力として受け入れられた。
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