火魅子伝〜霊狩人〜第19話(火魅子伝×魂響) |
- 日時: 07/13 23:37
- 著者: ADONIS
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美禰の街から出ていた星華や伊万里、藤那達が帰ってきた。
彼女たちの活動は順調にいったおり、復興軍はその勢力を拡大できた。
特に、星華は半島に戻っていた只深の一行と合流していて、只深から大量の武器、防具や様々な代物などを送ってくれた。
さらに、傭兵2百名も加わっており、復興軍の戦力は格段に強化された。
それによって、耶麻台国復興軍はその総兵力を五千にまで増加した。
ここで、日魅子は川辺城を落とそうと考えていた。
川辺城を落とせば火向の国は完全に復興軍の者になるのだ。
しかし、問題はその途中にある刈田の街だ。
最新の情報によると、この街には久根国兵八百がいるらしい。
その為、無視して進む訳にもいかない。
そんなことをすれば、後方の補給部隊を襲撃しかねないし、復興軍に協力する村や里に危害を加えかねないのだ。
刈田の街の近くに、砦を作り、千人ほど抑えの兵を置くと言うのも駄目だろう。
此方にそんな遊兵を作る余裕はない。
そうなると、刈田の街を攻略するしかないのだ。
しかし、攻城戦となると此方の被害が馬鹿に出来ない。
それに、街に住民に与える被害も無視できない。
復興軍は九洲の民のために、戦っているというのを御旗にしているのだ。
その為、民衆に与える被害は、こちらの軍の被害より深刻な問題だ。
やはり、奇策をもってあたるのが良いだろう。
私は、重然を呼び付けた。
「日魅子様、何のご用ですか?」
暫くすると、重然がやって来た。
「聞きたいことがあるの。この時期に、この辺りの海で鯨は捕れる?」
「鯨ですか?まあ、探せばいますが」
重然は、腑に落ちない様だったが、日魅子の質問に答えた。
「ねえ、貴方達は鯨を食べる?」
「ええっ、肉は美味いし、鯨油は捕れるし重宝していますわ」
「じゃ、鯨が沢山捕れたときとかは、街に運んで売ったりする?」
「はい、そうしていますが。あの、日魅子様一体それがどうしたんですか?」
流石に重然も日魅子が何を考えているか分からず、戸惑っていた。
「次の作戦で鯨を使うつもりなの。それで、鯨って中に人間が入れる?そうね、肉や内蔵とかを取ったらそれなりの人数が入れると思うんだけど」
「え、でも骨や内蔵を取ったら中が凹んでしまいますよ」
「そうよね。じゃ何らかの補強をしないと」
日魅子は、考え込んでいたようだ。
「ああ、御免なさい。実は刈田の街の攻略に、鯨を使うの。だから重然、出来るだけ大きい鯨を二頭、出来れば三、四頭取ってきて欲しいのよ」
日魅子は、戸惑っている重然に、トロイの木馬の話をする。
「昔、あるところにトロイという難攻不落の都市があったの。侵攻軍はその都市を落とせずに苦戦していたのよ。ある時、侵攻軍は巨大な木馬を用意したの。侵攻軍が撤退したときにトロイの兵士達はその木馬を戦利品として、都市の中に入れたのだけど、その木馬の中には敵軍の兵士達が潜んでいたの。トロイの兵士達の油断を突いて、進入した兵士達は城門を開き、さしものトロイも陥落したってお話」
日魅子の話を聞いた重然は驚いた。
「まさか、日魅子様、その木馬の変わりに鯨を使われるのですか?」
「そういうこと。だから鯨を捕ってきてね。それと阿智と蔚海にもいって、海上部隊総動員してね。あまり時間がないので頑張ってね」
「はい、海人集団の腕の見せ所ですわ」
重然は張り切って鯨を捕りにいった。
後は、会議を開いて今回の刈田の街攻略作戦を幹部達に話しておく必要があった。
こういった奇抜な作戦は、反対する者もいるだろうから、説得は念入りにしておこう。
結果として、刈田の街は日魅子の”刈田の鯨作戦”で、あっさりと陥落した。
作戦としては、まず重然達が三頭の鯨を刈田の街に運んだ。
一頭は街の留守に、酒と一緒に献上させた。
残りの二頭は、街で解体されて、売られたが、実際に売られたのは一頭分であった。
一頭の鯨の中には、清瑞や志野たち潜入部隊が潜んでいたのだ。
清瑞達は、街の各所に潜んで夜を待った。
街に入るときにチェックされなければ、街に侵入者がいることは気づかれないのだ。
その後、重然はなにくわぬ顔で、街を出ていった。
そして夜中に、清瑞達は城兵を攻撃した。
彼らは外に警戒をしていたため、想定外の内側からの攻撃にあっさりと全滅した。
その後、清瑞は外に合図を送り、城門を開いた。
そして、復興軍の夜襲部隊、八百が刈田の街に突入した。
日魅子が夜襲部隊を八百にしたのは、敵に気づかれ無いように、最低限の人数にしたからであった。
しかし、人数を減らしている分、精鋭で構成されていた。
何しろ紅玉、香蘭、伊万里、藤那、雲母、星華、衣緒、哥羽茉莉が含まれていた。
夜襲部隊が宮殿に侵入しても、久根国は事態を把握しておらず、この騒ぎを兵達の喧嘩だと勘違いしていた。
ここで、日魅子の計略が効果を及ぼした。
日魅子は、鯨と一緒に献上した酒の二割ほどに、忌瀬特製の眠り薬を混ぜていたのだ。
眠り薬を仕掛けたのが二割なのは、酒を飲んだ兵士達が全員眠っていたら不審に思われるからだ。
しかし、酒を飲んでも大半の者が平然としていれば、多少兵士達が眠り込んでしまっても疲れから、酒が入り眠り込んだだけと判断されていた。
これが、予想外に効果を及ぼした。
日魅子は久根国兵の一割あたりでも、眠ってくれれば良いと考えていた。
実際、眠っている兵士達は二割程度であるが、小隊長が何人か眠ってしまったのだ。
これによって、実質三割が兵力外となっていたのだ。
そして、日魅子と伊雅の率いる本隊が街に入り、宮殿制圧の援軍を送ると事態は宮殿は一気に陥落した。
こうして、復興軍は殆ど被害を被ることなく、刈田の街を落とした。
復興軍の幹部や兵士達は誰もが、日魅子の深謀遠慮に感心した。
また街の住民達もこれには驚いた。
夜中に騒ぎがあったと思ったら、刈田の街が復興軍に落とされていたのだ。
復興軍の鮮やかな手際に感心すると共に、街の住民に被害を与えなかったことに感謝した。
通常、攻城戦ともなると、その街の住民にもかなりの被害が出るのが常であったのだ。
それだけに、復興軍の手際の良さが注目された。
日魅子は街の住民の代表を集めると協力を要請した。
彼らは、これを快く引き受けてくれた。
こうして、耶麻台国復興軍は川辺城攻略を進めていった。
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