火魅子伝〜霊狩人〜第22話(火魅子伝×魂響)
日時: 07/15 14:14
著者: ADONIS
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日魅子率いる耶麻台国復興軍は、都督府を総攻撃するため、進撃してきた。

これに対して久根国は迎撃に出ていた。

やはり、防御に向かない、都督府で籠城するつもりは無いようだ。

それに対して、久根国軍は魔人百を先頭に置き、後方に久根国兵千五百が展開していた。

やはり、魔人達を突撃させて、こちらを粉砕するつもりのようだ。

日魅子は、予定通り全軍の指揮を軍師の彩花紫に任せ、自ら魔兎族三姉妹と共に、敵の魔人達を撃破することにした。

そして、魔人百匹が突撃を開始した。

これに対して、私と三姉妹で迎え撃った。



紫の斬撃が弧を描く。

その度に、魔人達が日魅子に討たれていた。

「はああああ!」

日魅子の前に現れた、巨人のような姿をした魔人を切り裂く。

続いて、巨大な蜘蛛の姿をした魔人を薙払う。

日魅子は、禍曲剣で魔人達の魂を捕食していた。

それは、まるで鬼のように、いや、そこにいたのは一人の美しき剣鬼であった。

魔兎族三姉妹は、日魅子が討ち漏らした魔人達を次々と殺していった。

それは、惨劇の宴。

血と肉で描かれた地獄絵図のように、

「は、ははっ!」

日魅子の顔に、歓喜の笑みが浮かぶ。

禍曲剣の本質は殺戮。

殺戮の中でこそ、その真価がある。

自分の中に、殺戮を楽しむ部分が、あることは気付いていた。

しかし、やめられない。

禍曲剣の影響を受けているのかわかる。

でも、人は誰しも闘争本能を持っている禍曲剣の剣霊を受け入れている日魅子は、その本能が強まっていた。

だから、敵は殺す。



日魅子達が魔人を次々と倒している事に、久根国兵は慌てた。

たったの四人の女に、百匹もの魔人が次々に討たれているのだ。

その、化け物じみた強さに怯んだ。

やがて、日魅子が、最後の魔人を斬り殺す。

それを合図に、耶麻台国復興軍が久根国軍千五百に突撃した。

これは、日魅子が指示していた事だ、魔人と戦う際に味方がいては、足手まといになる。

だから、復興軍には日魅子達と魔人との戦いには、干渉しないように頼んでいたのだ。

頼みの魔人達を失った久根国兵は、復興軍の突撃を支えきれず、押されている。



復興軍は順調に久根国軍を押していたのだ。

やはり、頼みの綱の魔人達を目の前で尽く倒されて、士気が落ちた久根国兵と、総大将である日魅子の戦いぶりを見て、勇気づけられた復興軍では勢いが違う。

後一息だと、日魅子が思った瞬間。

咄嗟に、日魅子はその場を飛び下がった。

一瞬後、先ほどまで日魅子がいた場所は爆発した。

「何者です?」

そこにいたのは骸骨姿の人型。

魔人ではない。

だがこの気配は、人間の物か?

「儂は、久根国の左道士監の蛇骨だ」

「蛇骨、成る程、やたらと魔人を召還していたのは、貴方だったわけ?」

兎華乃が蛇渇とかいう左道士に恨みを込めて、話しかけていた。

「兎華乃、知り合いなの?」

「ええ、私達はこの蛇渇の所為で、魔人界に帰れなくなったのよ」

日魅子の質問に兎華乃が答えた。

成る程、それは恨むわね。

魔人とって、人間界は水も空気も合わず、長期間生活できる環境ではないのだ。

兎華乃達は、天目に助けられて、何とか生き延びていたのだが、その苦労は相当な物であったであろう。

それにしても、日魅子はこの蛇骨という男が、並の左道士ではないと一目で分かった。

確か事前の情報だと、魔界の黒い泉で力を得ているらしい。

只の優秀な左道士というだけではなく、とうに人の身を捨てているのだろう。

ある意味、禍曲剣と契約することで、その力を得ている私と似てはいる。

それだけに、あの魔人の大量召還も理解できた。

この左道士は、桁外れの能力を持っているのだろう。

「その通りだ。さて、直系の火魅子よ。大王の為にここで死んで貰うぞ」

「そう、奇遇ね。私も貴方には、死んで貰うつもりだったから」

日魅子としては、魔人を大量に召喚できる左道士を、野放しにはできない。

放置するには、危険すぎるのだ。

「死走傀儡」

蛇渇が手にした大量の札を空高く撒き散らし、札は舞い降りてそこら中ある魔人の死体に落ちていった。

すると、札の付いた魔人の一部がゆっくりと起きあがった。

「な、何故これだけしか動かない?」

蛇渇が驚愕した。

「・・・成る程ね。死体を操る左道と言う訳ね。でも、あくまで魂が無事だった死者しか操れないようね」

蛇渇の死走傀儡が失敗したのは、何れも禍曲剣に魂を喰われた魔人達だった。

「そうか貴様、魂を喰らっておるのか」

蛇渇がやや驚きつつ私を見た。

確かに、魂を喰らうという外道行為を平然としているとは、普通は思わないだろう。

しかし、そんな物は私には関係ない。

禍曲剣と契約したときから、私は外道に堕ちているのだから。

「魔人の死に損ないか、厄介ね。兎華乃悪いけど、蛇渇の相手をしてね。私はこの死に損ないを始末するから」

日魅子は兎華乃が蛇渇に恨みを持っているので、彼女に任せることにした。

「分かったわ」

兎華乃が頷いた。

「・・・兎華乃か、まだ生きているとはな」

「あら、私達はある人の助けで助かったのよ。まあ、それはともかく蛇渇あの時のかりを返して貰うわ」

兎華乃が蛇渇に襲いかかった。



動き出した魔人達は既に死体であるので、痛みもなく死なないはずだった。

しかし、禍曲剣に斬られた者は、次々と倒れていった。

いくら、死者でも、魂を捕食されては一溜まりもないのだ。

日魅子が魔人の動く死体を片づけたころには、兎華乃と蛇渇の戦いは終わっていた。

蛇渇は兎華乃には勝てず、撤退したのだ。

その際に、蛇渇は兎華乃の追撃を振り切っていた。

そして、復興軍と久根国軍との戦いも、復興軍の勝利で終わっていた。

これによって、九洲の久根国兵は一掃されたのだった。