火魅子伝〜霊狩人〜最終話(火魅子伝×魂響) |
- 日時: 07/16 11:54
- 著者: ADONIS
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狗根国兵千五百を撃破した後で、耶麻台国復興軍はその日の内に、征西都督府を占拠した。
「これで、耶牟原城も解放できるわね。ねえキョウ、後は火魅子候補達から火魅子を選ぶだけだけね」
「あのさ、日魅子」
キョウが言いにくそうに、言葉を詰まらせる。
「ん、何?」
「あれ、嘘なんだ」
「・・・あれって何のこと?」
キョウの言葉に、思いっきり嫌な予感がしつつ、日魅子は尋ねる。
「時の御柱をつかえば、元の世界に帰れるってことだよ」
「・・・どういうこと?」
日魅子は表情を歪ませながら、キョウを問いつめる。
「・・・いやあ、ここは良いところだよ。自然は多いし、空気は綺麗だしね。ここで住めるんだよ日魅子」
キョウが冷や汗を流しながら言った。
「・・・キョウ貴方、私を騙していたの?」
日魅子が殺気だっていた。
「ひ、日魅子落ち着いてよ」
「私は、騙していたのかって、聞いてるのよ」
「だ、だってそうでも言わないと、日魅子は協力してくれなかったじゃないか」
私はキョウの言い訳を聞くなり、キョウをぶん殴った。
「ギャッ!!」
キョウは私のパンチで吹っ飛ばされた。
だが、私はそんなキョウを無視した。
「・・・・・・」
火魅子を擁立しても、元の世界に帰れないなら、今後の対応も見直さなければならない。
最早、九洲にいても仕方がないので、九洲から出ていっても良いのだろうが。
それは、私を信じてくれている将兵や民への裏切りになる。
それは、私の主義に反する。
もう、乗りかかった船だ、私も最後まで付き合うしかない。
しかし、そうなると次の火魅子の事も考えておかねばならない。
本来なら、私が女王争いから身を引いて、傍系の火魅子候補を女王に擁立させるつもりだったが、こうなった以上は、私自身が女王火魅子となるしかないだろう。
「九峪・・・」
だが、日魅子はもう九峪に会うことはできない。
何よりその事が悲しかった。
翌日
征西都督府を落とした耶麻台国復興軍は、都督府で監禁されていた清瑞を見つけだしていた。
さらに思わぬ人物を牢屋で発見した。
「天目が、牢屋に幽閉されていたの?」
どうやら、狗根国軍に破れた後で、牢屋にぶち込まれていたようだ。
日魅子は少し考えて、天目と合うことにした。
兵士達に連れられた天目は、負傷はしていたが、致命傷ではないらしい。
「貴女が元征西都督府の都督補佐筆頭の天目ね。私は耶麻台国復興軍総大将を勤める秋月日魅子ですわ。それと、蛇渇率いる狗根国軍は、既に私達が撃破していますわ。まあ、蛇渇本人に逃げられたけどね」
「・・・それで、私に何のようだ?」
天目の物言いに、皆が眉をひそめる。
「簡単な事よ。九洲の他の地域を制圧している貴女の親衛隊と傭兵達に投降して貰いたいのよね。勿論、命の保証はします。傭兵達には、穏便に半島に帰って貰うだけだし、貴女の親衛隊には、危害を加えるつもりはありません」
「断ればどうする」
「手荒な手段を採らざるを得なくなるわね。最も、総大将が人質になっているから、彼らも投降するしかないと思うけど?」
天目が表情を歪めた。
「・・・わかった。投降する」
「そう、良かったわ。これで余計な手間が省けたもの。あ、それと怪我をしているみたいだから、忌瀬に診て貰うと良いわ。忌瀬悪いけど天目の治療をしてくれないかしら?」
「は、はい。分かりました」
忌瀬が何故か、やや動揺しているようだ。
「ところで日魅子様、天目はどうなさいますか?」
伊雅が私に尋ねた。
復興軍の皆は、日魅子が天目をどう処理するのか、疑問に思っていたのだ。
「そうね。できれば天目には、新しい耶麻台国の国造りに協力して貰ってほしいのよね。勿論それなりの役職を持たせるつもりよ」
この日魅子の言葉に、復興軍の者達が驚愕する。
いくら狗根国に反旗を翻したとはいえ、先日まで久根国の大幹部であった天目を、耶麻台国の要職に付けようと日魅子が考えていたからだ。
流石の天目も、日魅子の非常識な考えに驚愕していた。
「日魅子様、それは何故ですか?」
伊雅が日魅子に尋ねた。
他の者達も同感であったらしい。
やはり、それには不満があるらしい。
「現実問題として、今の復興軍に九洲全土をきちんと統治できるかは、不安なの。実際、私達はもう十五年も九洲を統治していなかったしね。九洲の統治に必要な人材がかなり不足しているのよ」
日魅子に言われて皆も頷く。
確かに、復興軍は人材不足だ。
「その点、天目は曲がりなりとも、九洲を統治していたから、その能力はあると思うのよ。それに、私は九洲の統治を速やかに行うために、狗根国の統治方法で、利用できる物は利用するつもりなの。だから、例え元狗根国の人間でも、役に立つ人材なら活用するべきだわ」
日魅子に言われて、皆も渋々頷いた。
「で、どうかしら天目。私に協力しますか?」
「・・・もし、私が拒否したらどうするのだ?」
天目が聞いてきた。
「別にどうもしませんよ。狗根国は、謀反を起こした貴女を許さないでしょうから、貴女はもう半島か大陸にでも、逃げ込むしかないもの」
確かにそうだろう。
最早大勢は決まっていたのだ。
「・・・良いだろう、お前の元で働こう」
天目が日魅子の話を受け入れた。
「そう、ありがとう。では、早速だけど私達が捕らえている狗根国の人間の中で、耶麻台国に引き抜き事が可能な人物を引き抜いて下さい」
「分かった」
天目はそれだけ言った。
こうして、九洲全土が耶麻台国復興軍の支配下に収まった。
「さて、九洲を狗根国から解放できた訳だし、ここで新しい国名を決めようと思うのよ」
日魅子が皆に提案した。
「耶麻台国を名乗らないのですか?」
伊雅が驚いたようにいう。
「ヤマタイコクは名乗るわ。けど、私達はかつての耶麻台国とは違う事を九洲の民にも理解して欲しいのよ。そこで国名を”邪馬台国”にするつもりよ。まあ、読みは同じで、漢字を変えるだけよ」
日魅子は”邪馬台国”と書かれた竹簡を皆に見せた。
日魅子はこの機会に、元の世界の邪馬台国と同じ国名にすることにしたのだ。
これは、日魅子が元の世界の地名や国名を好んだからだ。
「邪馬台国ですか?」
「そう邪馬台国。それが私達の作る新しい国よ」
日魅子は、皆にそう言う。
日魅子は、ここで邪馬台国の樹立を宣言した。
それは、霊能力を有する霊狩人が、九洲における最高権力者となった瞬間でもあった。
秋月日魅子が、この世界に戻されてから、一年二ヶ月が過ぎたときのこと・・・。
完
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