火魅子伝 外伝絵巻~九峪戦記~ 第六十一章 壱来城攻略戦 (H:ALL M:九峪 J:シリアス) |
- 日時: 09/01 17:52
- 著者: 神帝院示現
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- 火魅子伝 外伝絵巻~九峪戦記~ 第六十一章 壱来城攻略戦
倒れた影響で攻略戦には出られなかった九峪は、鹿谷城攻略戦が終結した後、壱来城攻略戦に出陣する関係上から、指揮中隊と共に鹿谷城に移っていた。
移った日の翌朝、まだ日が昇ったばかりの時刻、九峪の寝所に近づくものがあった。
「御就寝中、失礼いたします」
扉を隔てた向こう側から、声が聞こえた。
平八郎の声だった。
眠っていた九峪は、目を開けて返事を返した。
「何事だ?」
「昨夜未明、和潮城が攻略されたと、報告がありました」
「そうか、ご苦労……広間に全中隊長を招集しろ。会議を開く」
「了解いたしました」
平八郎は、そう返事を返すと、すぐにその場から去った。
九峪は、平八郎が去ったのを確認すると、寝床から這い出し、戦闘の時に鎧の下に着る服へと着替えた。
そして、すぐさま自室を後にした。
九峪が広間に来たときには既に、九峪直轄の総本隊の中隊長である平八郎、雲母、織部が終結していた。
三人ともすぐに戦闘に出撃できるよう、鎧を着装していた。
「和潮城が攻略されたことは、既に聞いたか?」
九峪が開口一番にそう聞くと、三人はほぼ同時に頷いた。
「和潮が攻略された以上、壱来を攻撃せねばならない。和潮を制圧した伊万里も、明朝には出撃を開始するであろうから、我々も、それに会わせ、出撃する」
九峪がそう言い、平八郎達が頷いた時だった。
まるで計ったかのようなタイミングで、伝令の兵士が広間の前に駆けてきた。
「申し上げます!」
広間の入り口の前でひざまずいた兵士が、そう声を張り上げた。
「何事だ?」
九峪が兵士に問う。
「輪二塚城攻略部隊の志野様よりの書状でございます!」
「志野から……? 許す、ここへ持て」
「はっ!」
九峪の許しを得た兵士は、九峪の傍まで移動し、九峪に書状を渡した。
「さがってよい」
兵士は、九峪にそういわれ、すぐに部屋を後にした。
九峪はすぐさま書状に眼を通し、表情を強張らせる。
「如何様な内容にございますか? 九峪様」
平八郎が、九峪に問う。
「輪二塚城に予想外の援軍あり指示を請う、と書かれている」
「予想外の援軍、ですか?」
雲母が、眉根を寄せて聞き返した。
九峪はその言葉に、手紙の内容を続けて読み上げる。
「手紙には、こうも書かれている。援軍は、狗根国本国の精兵およそ四百五十名、率いるは、朱泥という武将である、と」
「「朱泥!?」」
平八郎と雲母が、同時に声を上げた。
それも当然だった。
二人は、狗根国軍に所属していた時、朱泥と知り合いであったからだ。
軍監と武将という立場ではあったが、それなりに仲は良いほうだった。
九峪も、比古として何度かあっており、琵琶を通して、平八郎と雲母以上に、朱泥とは仲が良かった。
「朱泥が何故そのような場所に……」
雲母が、口元に手を当てて考える。
朱泥が、このような地方にまで出張ってくるのは、かなり稀であったからだ。
「その点も、志野は調べてくれたようだな。書いてある。蛇渇の反乱を阻止できなかったことから、各地の城が蛇渇側に付かないか、視察して周っていたようだな。そして、攻めた時丁度、輪二塚城に駐留していたようだ」
「なるほど……ですが厄介ですな、朱泥は、飛び抜けて、というわけではありませんが、武将としてはそれなりに優秀ですし、兵士も本国の精兵となると、攻め落とすのは容易ではありますまい」
平八郎が冷静に判断する。
城を攻め落とすには、四倍から五倍の兵力を必要とする、輪二塚城の防衛能力自体は、それほど高くないが、それを補うだけの精兵が、その中にいる。
もともとの兵力が百名ほど、それに四百五十の精兵が合流した輪二塚城を攻め落とすには、単純計算で二千七百五十名の兵士が必要となる。
これに対して、輪二塚攻略部隊は、志野が率いる第一軍団千名、その配下にある音羽率いる親衛隊二百五十名、衣緒率いる特別遊撃隊二百五十名、そして合流した香蘭率いる第二軍団千名の、合計二千五百名。
数の上で、既に攻略が不可能な状態なのである。
「その点を、亜衣がすぐに見抜いたようだな。すぐさま兵を退かせて、輪二塚を包囲して膠着状態に持ち込み、こちらからの指示が来るまで待機するつもりのようだ」
「流石亜衣さんね、無理をせず、九峪様の指示を仰ぐなんて」
「本来亜衣ならば、自分の能力だけでどうにかできようが……そう本隊との歩調を考え、指示を仰いだのだろうな。まったく、いつもながら気がまわるな」
苦笑しながら、そう言うと、九峪はすぐさま表情を戻し、指示に移る。
「平八郎、雲母、すぐに配下の中隊を引き連れ、輪二塚城に向かってくれ。ただし、これは攻め落とすための援軍というわけではない」
「と、申しますと?」
九峪の言葉に疑問を持ったのか、平八郎は訊き返した。
「朱泥は、俺にとっても、咲耶にとっても、得難い優秀な人材だ。お前たち二人で、朱泥に掛け合い、輪二塚城を無血開城させて欲しい」
「朱泥が、そうそう降伏するとは思えませんが?」
「そこは交渉の仕方次第でどうにでもなる」
疑問の声を上げた雲母に、九峪はそう言って軽く笑った。
「交渉の際こういえば言い。『我らが率いてきた援軍を合わせて攻め入れば、兵士は皆殺しにされよう。もし、朱泥がその身柄を我らに預け無血開城するならば、兵士が輪二塚城から撤退するのを許そう』と」
「なるほど……朱泥一人の身柄と無血開城を条件に、兵士を見逃してやるわけですな」
平八郎が、納得したように手を打った。
しかし、雲母はまだ納得し切れていないようで、眉根を寄せる。
「しかし、それで大人しく無血開城するでしょうか?」
「なに、とどめにこう言ってやればいい。『ここで兵士を無駄死にさせるのは、咲耶王女殿下の望むことではあるまい。生きた兵士を本国に帰すことこそ、今の貴殿の役目ではあるまいか?』とな」
「そこまで言われれば、朱泥も退かないわけにはいきませんね……さすが九峪様、感服いたしました」
九峪の言葉を訊き、今度こそ納得した雲母が、九峪に一礼した。
「褒めても何も出んぞ」
九峪はそう言って苦笑した。
そして、もう一つ言葉を付け加える。
「朱泥を配下に加えることが出来れば、我々の戦略、政略の幅が更に広がる。なんとしても、生きたまま朱泥を連れて来い」
「「御意」」
平八郎と雲母は、同時に頭を下げた。
「織部」
「なに?」
名を呼ばれた織部が返事を返した。
「お前と俺の中隊は、壱来城の攻略に回る。伊万里と合流し、早急に壱来城を落とす」
「わかった」
「ただ、先に言っておくが、壱来城攻略戦は、神の御使いの復活とその力を見せ付ける戦でもあり、そして、我々と戦ったらどうなるかを思い知らせる戦でもある」
九峪はそう言ってから、厳しい顔になる。
「詳しい話は伊万里と合流してからにするが……壱来城の戦では、狗根国兵を……」
九峪はそこで一端言葉を切った。
そして、低く思い声で続けた。
「皆殺しにする」
「「「!?」」」
織部だけでなく、平八郎も、雲母も、言葉をなくした。
普段に九峪であれば、決して言わないようなことを口にしたからである。
「理由なく皆殺しにするわけではないが、結果的にはそうなる。……織部、嫌なら、ここに残れ。余り気持ちのいい戦ではない。壱来城攻略戦に限って言えば、参加を拒否してもいい」
「……いくよ。比古がするのに、私がしないわけにはいかないよ。比古だって本当はしたくないんでしょ?」
「できるならな。だが、やらねばならん」
「だったら、私もやる。比古が背負う苦しみは、私が背負うべき苦しみでもあるんだ。だから、私もやる」
「……そうか……ならば、もう何も言わん」
織部の決意を汲み取った九峪は、それ以上押し留めるような言葉を言うことはなかった。
そんなことをすれば、織部を侮辱することになってしまう。
「やるべきことは決まった……全軍、直ちに出撃せよ!!」
「「「御意!!」」」
九峪の号令に従い、出撃が開始される。
復興戦争における基盤を作るための第一期戦争の最後の戦闘が、今まさに、九峪の号令と共に、始まろうとしていた。
九峪が率いる総本隊の二個中隊は、伊万里率いる第三軍団より僅かに送れて、壱来城に到着した。
第三軍団は、既に壱来城を包囲しており、いつでも攻撃に移れる常態になっていた。
復興戦争開戦前の軍議で、九峪は、壱来城を挟撃すると述べていたが、それは、伊万里と九峪の軍団が、それぞれ別の方向から壱来城に行く、という程度の意味しか持っていない。
そもそも攻城戦で挟撃しても、反対側から攻撃する、程度のことしかできず、やってること自体は、今までの攻城戦と、なんら変わらない。
故に、九峪は、壱来城攻略戦の前までに、戦の方策を改めて決め、配下の兵士を使者にやり、伊万里にある程度の指示を出しておいたのだ。
だからこそ、伊万里は先じて壱来城を包囲したのである。
総本隊が、無事第三軍団と合流し終えると、九峪は第三軍団の本陣に、織部と共に足を運んだ。
本陣に着くと、伊万里が九峪を出迎えてくれた。
「九峪様、お待ちしておりました」
「出迎えありがとう、伊万里。和潮城攻略、ご苦労だった。聞いた話では、魔人も倒したらしいな。よくやった」
「ありがとうございます」
九峪に褒められた伊万里は、嬉しそうな顔になり、頬を朱に染めた。
「……さて、しばし話していたいが、そうも言っていられん。早速、壱来城攻略の手順を話す」
九峪が真剣な顔で言ったため、志野と織部も、真剣な顔になる。
「まず、戦を始める前に、降伏勧告を出す。敵の数は、増えていなければ、九十七名、千五百を越える我々に対抗する術はない。あるいは降伏する可能性もある」
九峪の言葉を訊いた織部は、先に聞いた話とは違っているため、訝しげな表情になった。
「それで、降伏しなかった場合は?」
何も訊かない織部に代わり、伊万里が、九峪に訊く。
「……まず俺が、城門を破壊する」
「破壊、ですか?」
「そうだ。それを敵に見せ付け、神の御使いが復活したことを知らしめる」
「なるほど……それで、その後は?」
「破壊した城門より雪崩れ込み、敵を皆殺しにする。降伏者を一切出すな」
「っ!?」
伊万里は眼を見開いて驚いた。
織部は一度聞かされていたため、それほど驚かなかったが、初めて聞いた伊万里は、流石に驚いた。
それを気にせず、九峪は話を続ける。
「無抵抗で降伏するならよし、だが抵抗するならば、一切の降伏を認めない。我々に対する抵抗は、即ち視を意味する、ということを、敵に印象付ける。今回の戦は、それが目的だ」
「! そうか、なるほど。復興軍に歯向かうことは即ち死だと印象付けることで、戦わずに敵を降らせる、もしくは敵を退かせるおつもりなのですね?」
「そうだ。味方の無駄な損耗は避けたい。降るもよし、逃げるもよし、だが抵抗は許さん。そう意思表示をすることで、我々と戦おうと考えるものも減る。戦の回数も、味方の損耗も少なく出来るだろう」
「流石は九峪様、先のことまで考えておられるとは」
伊万里は、九峪の考えに感心し、素直にそれを口にした。
当初九峪の真意がわかりかねていた織部も、ようやくその真意を知り、改めて、九峪の策に感心するばかりであった。
「策といえる策でもないが、やるべきことは話した。余り気分のいい戦ではないから、嫌なら参加しなくてもいい。織部は参加するといってくれたが……伊万里はどうする?」
「この先、このような戦は、まだありましょう。無抵抗なものも殺すことも、あるいは、幾度となくあるやも知れません。ですが、その度に逃げるわけには参りません。私は九峪様の配下にある武将。九峪様が行かれる道は、私の行くべき道。ならば、どうしてここで私だけが逃げることが出来ましょうか?」
「……そこまで言うなら、もう何も言わん」
伊万里の覚悟を見た九峪は、それ以上、それについてはなにも言わず、戦の準備に取り掛かった。
「全軍に通達せよ! これより、壱来城攻略戦を開始する!!」
「「はっ!!」」
九峪の号令と共に、作戦の内容が通達されていく。
第一期戦争最後の戦の幕が、切って落とされた。
九峪は、全軍に戦闘準備をさせた状態で、包囲中の軍から進み出て、大声を張り上げた。
「我は、耶麻台国八柱神の一人、天の火矛の御使い、九峪雅比古である! 壱来城の者に忠告する! これより四半刻(約三十分)の間に無血開城せよ!! さもなければ城内の兵、その全ての命がないものと心得よ!!」
声を聞いた壱来城の兵士たちがざわめくのがわかる。
それは当然のことで、死んだと思われていた神の御使いを名乗るものが現れたのだから、ざわめかないわけがなかった。
九峪は、それをよそに、四半刻待ち、改めて声を張り上げた。
「四半刻経った、返答を聞こう!」
九峪がそう声を張り上げたと同時に、九峪に向かって一本の矢が飛んできた。
何も付いていないため、それは矢文ではなかった。
九峪は、飛んできた矢を直前で掴むと、飛んできた方向へ、そのまま投げ返した。
矢は、真っ直ぐ飛んできた方向へと飛んでいき、矢を放った兵士の額を貫いた。
「……それが答えか。では、もはや逡巡も容赦もせんぞ」
九峪は、そう呟くと、白金と白銀の剣を抜き放ち、城門へ向かい歩いていく。
城門へと歩み寄っていく九峪に、何本もの矢が放たれたが、九峪はそのことごとくを叩き落し、無傷のまま城門の前に立つと、白金と白銀の剣に『気』を満たして、振るった。
振るわれた白金と白銀の剣は、城門を細切れにし、城門の会った部分は、大きな穴となった。
「突入しろ! 狗根国兵は皆殺しにしろ!! 投降しても容赦はするな!!」
九峪は、復興軍の兵士たちにそう声を張り上げて命じた。
兵士たちは、その命令に従い、壱来城へ取り付いていく。
城門の跡から中へ突入するもの、城壁へ梯子をかけて上るもの、城の外側から矢を射るもの、様々だが、それらは九峪の命令の下、総攻撃を始めたのだ。
城壁が残っているとはいえ、突破口が開かれた以上、もはや城としての防衛力は半減していた。
百名にも満たない城兵では、千五百を数える復興軍を防ぎきることなど、到底できるものではなかった。
ましてや、九峪の存在と力を見せ付けられた今、戦意など無いに等しかった。
戦は一方的なものとなった。
九峪の下した『皆殺し』の命令が、それに拍車をかけた。
九峪の声は、当然のことながら、狗根国兵にも聞こえており、狗根国兵に心理的な恐怖感を与えていた。
恐怖に負け、武器を捨てて無抵抗の意思を示しても、一切の容赦なく斬り捨てられていく。
壱来城は、狗根国兵の血で染まった。
そんな中、九峪は城へと足を運んでいた。
全体で百に満たぬ兵士しかいない壱来城では、留守のいる城にも、十数名しかいなかった。
九峪は、留守の護衛である、その十数名の兵士のことごとくを殺しながら、留守の間まで進んでいく。
城の中で、もっとも豪奢に出来た部屋にはいると、そこには、四名ほどの護衛と共に、壱来城の留守がいた。
自らの命令上、降伏を認めない立場にある九峪は、身構える四人の護衛たちに近づくと、問答無用で切って捨てた。
四人を斬り殺すのに、数秒しか掛からなかった。
護衛たちは、何もなせぬまま、その場に沈んだ。
九峪は、すぐに留守に視線を向ける。
「ひ、ひいぃっ!?」
留守は腰を抜かして、その場にへたり込んでしまった。
九峪は、二本の剣を、留守に向けた。
「三つ数えるうちに、言いたいことを言っておけ」
九峪は、そう言うと、剣を振り上げた。
「……ひとつ」
「ひっ! や、やめっ!」
「……ふたつ」
「た、たすけっ……!」
「みっつ」
三つ数え終わった九峪は、剣を振り下ろし、留守の体を切り裂いた。
留守は、その場に崩れ落ちて、絶命した。
「留守はここか! って、比古、ここにいたんだ?」
織部が、留守の部屋に入ってくるなり、九峪にそう言った。
「あぁ。たった今、留守を殺した。……全体の状況はどうなってる?」
「たかだか百人程度しかいなかったから、もう戦い自体は終わってるよ。兵士の報告だと、何人か、逃げたみたいだけど……追わせた方がよかった?」
「捨て置いていい。そいつらが、丁度良い情報源になってくれるだろう」
九峪は、そう言うと、剣を収め、自分の手を見た。
「また、この手は穢れてしまったな。俺の心も、体も、いずれは俺の存在全てが……今日は、その始まりだ」
九峪は苦い顔をして、言った。
その九峪の手を、織部はそっと握った。
「どんなに穢れても、比古は比古だよ。私は、ずっと比古の傍にいるよ」
「織部……」
「比古、久しぶりに頭撫でてくれないかな?」
織部が唐突に、九峪に頼んだ。
「え?」
「いいでしょ? 久しぶりに撫でてもらいたいの……駄目?」
「いや、いいよ」
九峪は、微笑みながら、織部の頭を撫でた。
「比古、ずっとずっと傍にいてもいいよね……? 私、もう何も失いたくない……座長みたいに、一座のみんなみたいに、比古まで失いたくないよ……」
「あぁ。ずっと傍にいろ。織部が嫌になるまで、ずっとな」
そう言うと九峪は、撫でる手を離し、歩き始める。
織部も、すぐにそれに続いた。
「織部、伊万里と合流して、総本隊と第二軍団の体勢を整える。場合によっては、輪二塚城へ出撃しなくてはならなくかも知れないからな」
「うん。わかった」
「……織部」
「なに?」
「志都呂は、穢れた俺でも、親友でいてくれるかな?」
九峪は、少し悲しそうな顔をして、織部に訊いた。
「なに、そんな当たり前のこと訊いてるのよ? 当たり前じゃない。座長にとって、どんなに穢れていたって、比古は親友だよ」
「……そうだな。悪い、変なことを訊いた」
「まったくね」
九峪と織部は、そのまま留守の間を後にし、自分たちの仕事へと戻っていった。
こうして、第一期戦争の戦闘自体は、これで終結したことになった。
各拠点の掌握や、占領地域の平定など、まだやらねばならないことは残っていたが、ともあれ、戦闘は終結した。
だが、この後起こるであろう、狗根国の討伐軍との戦争、そして、いずれ戦うことになるであろう蛇渇や紫香楽との戦争が、まだ残っている。
九峪は、早くもそれらに対する策を考え始めていた。
終わった戦いは、まだ長く続く復興戦争の、ほんの一部でしかないのだ。
九峪の長い長い戦いは、あるいは、ここから始まるのだ。
九峪の心を、悲痛に包みながら……。
火魅子伝 外伝絵巻~九峪戦記~ 第六十二章 輪二塚城無血開城 へ続く
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