矛盾の刃――――終幕後編・久遠―――

 

――――「桜花狂咲(チェリーブロッサム)」――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もっと、ずっと』

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、彼女が好きなんだ。

 愛しくて、守りたいんだ。

 

 

 ――――――俺は静かに、彼女の名を呼んだ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………久遠」

 

 

 

 

「…………♪」

 

 私は恭也に駆け寄り、隣に座った。

 

「……凄かったね。あんまり見えなかったけど」

「…………そうか?」

「うん。強いんだね、恭也」

「…………………………そうかな?」

 

 ………………?

 

「どうかしたの?」

「………いや。本当に、俺は強いのかな?」

「…………?………うん。強いよ」

 

 それでも、恭也はなんだかぼんやりしている。

 

「うーん?………………そうだ!」

 

 私はふと思いつき、勢いよく立ち上がった。

 

「じゃあ、久遠とやってみようよ!」

 

「………………………………………………………………………は?」

「久遠に勝てたら、神咲の誰よりも強いことになるよ。一人なら、薫より私のほうが強いし」

「………そういえば久遠は、強かったな…………」

「うん!だから――――」

「ああ。やろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺気が周囲に満ちていく。

 

 ……………さすが恭也。全然スキがない。

 

「……………………」

「……………………」

 

 ………………!

 じれた私は弱めた雷を放つ。

 

「………!?」

 

 ………消えた!?ううん………

 

「………そこっ!!」

 

 ぎぃん!

 

 私の爪と恭也の刀がぶつかり、甲高い音を立てる。

 

 …………………速い。こんなに速く動けるなんて。

 

 …………恭也も僅かに驚いた顔をしたけど、攻撃は鈍らない。

 

 ぎ!ぎ、がぁん!ぢぃん!

 

 そのまま何度か打ち合う。

 

「………………雷っ!」

 

 バシッ!

 

 私の雷は一瞬前まで恭也がいた空間を灼き、霧散した。

 かわされた瞬間、私は前に走った。

 同時に、背後で風を斬る音がする。

 前へ体を捻りながら跳躍し――――――

 

「雷っ!」

 

 これは当たる、と思った瞬間、

 

 …………さらに恭也が加速し、見えなくなった。

 

「な!?」

 

 

 

 …………その叫びの一瞬後。

 

 空が、見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………う?………うーん……………」

「気がついたか…………大丈夫か?すまん、少しやりすぎたか」

 

 …………あ、そっか。負けたんだ。

 

 あまり、悔しくはなかった。

 

「えへへ………やっぱり、強いね、恭也♪」

「………………そのようだな」

 

 恭也が私の頭を撫でてくれる。

 

「……えへへ………♪」

「……………ふ…………」

 

 あ、笑った♪

 

「ねえ、恭也……………」

「………ん?どこか痛むのか?」

 

「………久遠、恭也のこと好きだよ。恭也は?」

「…………ああ。好きだよ………」

「どれくらい?」

「………………え?」

 

 私がここ最近、ずっと変身したままでいる理由。

 

「久遠がずっとこの姿なのは、恭也に女の子として見てほしいから」

 

 

 

 恭也の家。

 私の頭を撫でてくれるとき、小さく微笑んでくれたこと。

 

 神社の境内。

 私の大切なあの場所で、月に照らされながら、踊っていたこと。

 

 帰り道。

 少し顔を背けながら、手を握ってくれたこと。

 

 

 

「恭也を見てるとね、久遠、どきどきするよ」

「恭也は、どうかな?久遠を女の子として見てくれる?久遠のなにかを見て、どきどきしてくれる?」

 

 

 

「…………ああ」

「ほんと!?どんなとき?」

 

「例えば………今だ」

「………え?今?」

 

「例えば今、俺がああ、と言ったら、お前は笑ってくれたな」

 

 恭也は優しげに笑って、また私の頭を撫でてくれる。

 ………顔が赤くなるのがわかる。

 

「…………♪」

「例えば今、俺がこうして頭を撫でると、お前は笑ってくれるだろう?」

 

「そういうことさ。お前が笑うと、俺は嬉しい。そう―――どきどきする」

 

「……えへへ♪久遠も、恭也が私を撫でるときに笑ってくれると、どきどきするよ」

 

 恭也が笑うと、私も嬉しい。

 

 私が嬉しくて笑うと、恭也も嬉しい、らしい。

 

「えへへ………恭也は木陰のいい匂いがするよ」

「………久遠は、日向の匂いがするな」

 

 私は恭也の手を握り、聞いた。

 

「ね、恭也………」

「……なんだ?」

 

 

 

 

 

 

「もっと、ずっと、いっしょにいたいな………」

「…………ああ、俺もだ………」

「……約束?」

「ああ。約束だ……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――数日後、大学―――――――

 

 

 

 

「ふあ〜」

 隣を歩く赤星があくびをした。

 それにつられてこみ上げるあくびを押さえ込む。

 

「………眠かった……………」

「ありゃ声と言うより催眠音波だな…………アレで講義聴かされる身にもなってほしいよ」

 

 あの教授………人を眠らせようとしているのではなかろうか?そうとしか思えん………絶大な催眠効果だ。あの講義で起きていた奴なんて俺たちを含めて両手で数えられるほどしかいなかったぞ。

 

「…………ん?おい高町。あの人だかり………」

 

 赤星が指した方向には、結構な人垣が出来ていた。

 

「はて?今日、何かあったか?」

「さあ………何もないとは思うけど……行ってみるか?」

 

 …………ふむ。どうしようかと思ったが、こいつは興味があるようだし、たまには赤星に付き合うのもいいか。

 

「………行くか」

「……よし。どれどれ…………」

 

 …………全く見えんな。よっ、と………

 軽く跳躍し、人垣の中心を見る。

 …………って!?

 

「く、久遠!?」

 

 思わず叫んでしまった。

 人垣が一斉に俺を見た。………少し不気味だ。

 

「………恭也!」

 

 人垣の中心にいた久遠は、皆が一定の方向を見たことで生じた僅かな隙間を通り、俺のところ

まで来ると、背中に隠れた。…………人垣から質はともかく、えらく量のある殺気が放たれる。

 

「おい、あんた一体その娘のなんだよ」

 

 その中の一人が喧嘩腰で聞いてくる。

 ……………ちょっと待ってくれ。展開の速さについていけん。

 

 不意に赤星が、俺を指差して「こいつは」と言い、次に久遠を指して「この娘の彼氏だよ」と

言った。………その瞬間、殺気が増す。………恨むぞ、赤星。

 

「そ、それで久遠、どうしてここにいるんだ?」

 

 そう聞くと、久遠は涙目で俺を見上げた。

 久遠は人見知りが激しいから、あの状態はさぞ辛かっただろう。

 ともあれ。

 

「………恭也、いっしょにいてくれるって、言った………」

 

 …………さらに殺気が増した。………どうすればいいんだ?

 

「…………代返はまかせろ」  (早く行け。暴動一歩手前だぞ)

「赤星…………」  (………恩に着る……いやまて、お前のせいじゃないのか?)

 

「と、とにかく行くぞ、久遠」

「…………うん」

 

 歩き出した俺の服の裾をつかんでついてくる久遠。

 …………なんかまた殺気が…………

 

 

 俺は冷や汗をかきながら、大学を後にした……………

 大学を出たとき、まだ少々怖がってる久遠が、口を開いた。

 

 

 

 

 

         

 

 

 

 

 

             「………ずっと、一緒にいて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき。(このあとがきは他のと全く同じです)

 

矛盾の刃完結・久遠編、どーだったでしょうか?

今、一幕を読み返してみて、この頃よりは多少マシなSS書けるようになったんではないかなとか、思ってます。

久しぶりに一幕から読み返すと、覚えてるつもりだった文にもはっとしたりして、なかなか面白いですね。

次は何書こうかな〜

                

                                  浜口一矢でした〜♪