仮面の人 その一 人助け:おっさんの場合  (H:ゲーム? M:キョウ×伊雅+オリ? J:シリアス?)
日時: 01/29 21:23
著者: hinotama

「なんで助けちまったかな。」
使い古された鎧を纏ったその男はボロボロになった剣を投げ捨てると目の前のいる殺気というものを自分に向ける厳しい眼つきをした年老いた男を見下ろしていた。
「そう睨むなよ。一応アンタの敵じゃねぇんだからよ。」
顔面を覆う兜のせいで表情は分からないが、火の上がる戦場跡である周りの状況には全く似つかわしくない軽薄な態度をとっている彼からは余裕というものすら感じられる。
彼のこういうところは慣れている人間でない限りあまり好ましいものとは取られないらしい。
「そうでないにしろ、そうであるにしろお主の言葉を簡単に信じろというは無理ではないか?」
「そりゃそうだ。」
建物が崩れその余波である火の粉が二人に降りかかる。
彼は虫を追い払うような仕草をしながらも視線はそのままだ。
その先にいる老兵は剣から手を離さない。
「おいおい、俺は丸腰だぜ?」
「例え武器がなくてもお主ならわしを殺せる。」
先ほどまで行われていた戦いの手合いを見ていた老兵にとって彼はただの兵ではなく、得体の知れない化物・・・そのほうが正しい表現のようにも思われた。
「まいったねぇ。」
村の建造物の倒壊は進む一方、彼のテキトウな言動とはうって変わってその様子は「静」そのものであるが、敵国に名を知られる老兵はその「静」の気迫に威を押され必死に自らを保っていた。
肌を焼く熱気が漂うこの場において冷や汗の一つすらかいておらず、対して彼は全身から汗を滲ませ手を仰ぐ仕種を忙しくなく続けている。
何時斬られてもおかしくないというのに、その様子はあくまで余裕。
「なあ、場所変えねぇか?」




彼は当惑していた。
なぜここにいるのかすら彼にとっては意味不明であり、現在までの行動はなんとなくという以外に説明のしようがなかった。
だから、
「なんとなくだ。」
としか答えられない。
当然のことだが目の前の人物はそれでは納得せず、様子の変化なく、
「すると、お主はなんとなくで自分の国を裏切ったというのか?」
などと客観的に見ればそう思う質問をする。
しかし、彼の混乱を深めるばかり、
「何言ってんだ、おっさん?」
「何をとな、お主は狗根国の兵士であろう?」
「はぁ?どうしてそうなるんだよ、敵対している国の兵士がなんでアンタを助けるんだよ!」
「それは分からぬが・・・少なくともそのような格好をしているのだ、疑わぬ方がおかしいであろう?」
「格好?」
「ああ、そうだ。その鎧は狗根国兵のものであるはずだが。」
そこで彼は自分の格好をじっくり観察してみる。
少しの間。
そしてポンと手を叩く。
「おお!!アンタのいうとおりだ。」
「・・・・」
剣から手を離さないもののかなり呆れぎみだ。
老兵はなんとなくだが目の前にいる彼は自分を挑発しているのではなく本当にそう言っているのではないかとすら思えてくる。
今の彼はあまりに無防備なのだ。
「こんなもんのせいでガンつけられるぐらいならいっそう暑苦しいし、脱いじまうか。」
ただ単にうっとうしいとばかりに彼は兜に手をかけると取り外しにかかった。
しかし、その瞬間だった。
彼の胸元からまばゆいばかりの光が溢れ出すと、
「とうッ!!」
「あうっ!」
彼の顎に衝撃が走りそのまま仰け反るようにたおれたのだった。
「な、何だ?」
「やめんかい!!」
彼は顎をさすりながら正面を見てみる。
老兵がいるだけだ。
「おお、あなた様は!!」
「?」
老兵は空の方を見ながら畏まった態度をとっている。
明らかに自分に対するものではない。
そこで、先ほどまで自分の顔があったあたりに目を動かしてみると、
「よっ、元気かい?」
なぞの飛行物体が軽やかに挨拶をしていた。
「・・・」
「くっ・・・ぐ・・るじい・・・」
彼はごく当たり前のように人差し指と親指を使い、そのなぞの飛行物体の首を『くいっ』と絞めた。
飛行物体は赤くなりもがいている。
その様子を見た老兵は顔を青くしている。
「お、お主、何てことを!!」
少しの間。
はっと我に返った老兵は今にも掴みかからんばかりに彼に詰め寄った。
彼は老兵が近づいてくる前にぱっと話す。
なぞの飛行物体は咳き込みながら、老兵に大丈夫だとジェスチャーをしている。
「いきなり、何すんだよ。」
「そりゃ、こっちの台詞だ。いきなり蹴りかましやがって!」
「しょうがないじゃん。君がお馬鹿なことをしてんだもん。」
「何?」
再び彼は人差し指と親指を使い、そのなぞの飛行物体の首を『くいっ』と絞めた。
先ほどよりも力を入れているのか顔が青くなっている。
「お、お主ぃ〜!!」
「大丈夫、大丈夫。スキンシップ、スキンシップ。」
「す、すきんしっぷ?」
「あっ、分かんねぇか?挨拶よ、挨拶。俺たちなりのな。」
そう言うと彼は指を離した。
「川が、お花畑が、誰か知んないけどボクに手振ってた。」
「天魔鏡の精もあの世にいくと同じもんが見えんだな。」
腕組みをしウンウンとうなずく彼。
「何しみじみしてんの?本当に死ぬかと思ったんだからね!!」
「そりゃ悪かった。」
老兵の落ち着きのない様子に比べ彼となぞの飛行物体はカラカラと笑っている。
「失礼ですが、キョウ様はこのものを知っておられるのですか?」
「うん、知ってるよ。」
「キョウ、お前はこのおっさん知ってんのか?」
「うん、知ってる・・って知ってて助けたんじゃないの?」
「知るか・・・と言いたいところだが、どっかで見たことあんだよな・・このおっさん。」
「はぁ・・これだよ、これだから君は・・・」
「うるせぇな、だから何か頭に引っかかるもんがあるから助けたんだろ?」
「こんな状況になっても変わらないねぇ・・君は。」
老兵を無視したようなやりとりはもう少し続き、ようやく落ち着く。
なぞの飛行物体ことキョウは老兵に向き直る。
「用があって出てきたんだけど、とりあえず伊雅、君にはこいつのこと紹介しておくね。」
「すると、この者、いやこのお方はキョウ様のお知り合いで?」
「そうだよ。信じられないかもしんないけどコイツも神の遣いなんだ。」
「何と!」
「はぁ?何言ってん・・・ぐほっ」
彼の後頭部に衝撃が走る。
今度は前のめりに倒れる。
「(君はボクの話にあわせればいいの!!)」
「(先にそう言え、順番が逆だろうが!!)」
彼は右指がピクピクしたがいいかげん話が進まないので我慢する。
老兵こと伊雅がいい加減訝しげな様子が否めないのが分かりすぎた。
男にじーっと見られるのも趣味ではないので愛想笑いするが、兜は全ての表情を隠す。
キョウも何となく気まずくなる。
「おほん、え〜と何だっけ?」
「はっ、このお方も神の遣いだとか。」
「そうそう、そうだったね。」
「この方が神の遣い・・・」
「信じられないかい?」
「いえ・・・実力のほうは確かめさせてもらいましたから。」
「だって、力だけは認めるってよ。」
「少しでも認められただけでもマシってか。」
「いえ、そういう意味では。」
「いいって、俺も自分にそういう威厳があると思ってねぇから。」
「そうそう。」
「お前は認めてろ。」
「はいはい、それでね彼はもう一人の神の遣い九峪とは役目が違うんだよ。」
「邪馬台国の復興ではないと?」
「いや・・その何て言うかな・・・」
キョウは困ったような様子を見せる。
それを見た伊雅はあせりの様子を見せる。
「いえ、失礼しました。私には関係のないことですね。」
「う〜ん、そういうわけでもないんだけど・・とにかく今は彼に話があるんだ。悪いけどちょっとどっかに行っててくんない?」
「はっ、キョウ様のお言葉なら。」
そういうと間髪入れずこの場から去っていった。
あまりにも簡単にもいなくなったので彼はポカンと立ったまま伊雅の後姿を眺めていた。
「上下関係って便利だねぇ。」
「そうでしょ。君も大いに使えばよかったんだよ。」
「柄じゃねぇ・・・んなことよりも説明しろ、おめぇはこの状況を理解してんだろ?」
「全部じゃないけど、だいたいはね。」
「それじゃ、そのだいたいってのを聞かせてもらおうか?」
「う〜ん、まず君がここにいるかだけど、ごめんボクもよく分からない。」
「君がって、お前がここにいるのは理解してんのか?」
「それもよく分からなんだな〜。でも不思議なんだけど君のことは知っているし、もちろん今までのことも。」
「それはお前が俺の知っているキョウだから?」
「そうとも限らないんだよ、これが。ねぇ、ちょっと自分の胸元を探ってみてよ。」
「?」
彼はキョウの言葉に従い鎧の内側をまさぐってみる。
すると何か板のようなものが首から掛かっているに気づく。
それが何なのか分からないのでそれを取り出し自分の視界に入るように持ってくる。
「おい、これって。」
「そう、天魔鏡だよ、だけど君の知っている天魔鏡だけどね。」
「俺の知っている?・・・いや、そうかあいつらが持っているのがここで言う天魔鏡か。」
「それで何でか知んないけど二つの天魔鏡の間を行き来できるんだよね、これが。」
「あ、そう。」
「あ、そうって・・・」
「出来るんだからそうなんだろ?キョウお前が俺のことを知っていればそれでいい。説明聞くの面倒だ。どうせ俺に理解できるとも思えねぇし。」
「確かに。」
「・・・」
キョウは鋭い視線を感じるが気にしない。
彼が何かするならそんな事するよりも先に手が出ているからだ。
「まあいいけどさ。」
「それで?」
「うん、ここはね君やボクが思うほど単純な場所じゃないと思うんだ。」
「だろうな、おかげで頭が破裂しそうだ。」
「普段から頭使わないからね。」
「・・・」
「だけど、よりいい方向に向けようとする努力はいいことだと思うよ。」
「どういうことだ?」
「伊雅を助けたことだよ。」
「伊雅?ああ、さっきのおっさんか。なんであのおっさんを助けたのがいいことなんだよ?」
「なんでって・・それってマジなの?本当に伊雅のこと覚えてないの?」
「覚えていない?俺ってやっぱあのおっさんに会ったことある?」
「あるもある。彼は元邪馬台国の副国王だよ?」
「副国王?そんなお偉いさん・・・」
会ったことがない、そう言おうとした時だった。
彼の頭の中に凄惨な光景が浮かび上がってくる。
名も知れぬ一人の老兵が自分を庇い無残な最期を遂げたその光景を。
自分の無力さに人知れず嘆いたその時の気持ちを。
「俺は無責任な男だな。」
「え?」
彼の表情をキョウはうかがい知ることはできなかったが、雰囲気が急に変わってしまって少し戸惑う。
(結局俺はまだ名前を知らない。)
「いや・・・っていうことは俺はまずい事をしちまったかもしれねぇな。」
「まずい事?どうしてだい、本当だったら死んじゃうはずの元副国王を助けたんだよ。これで邪馬台国復興軍の士気はかなり上がるよ。」
「だろうな。だけどそんなこと問題じゃねぇ。」
「じゃあ何が問題なんだよ?」
「このままいくと伊雅が邪馬台国復興軍に参加することが問題なんだよ。」
「どうしてさ。」
「いいか?これから先、邪馬台国復興軍には神の遣いが参加する、そんでもって火魅子の血を引く女性、しかも嫡流がいる。」
「やったね、もう反乱軍が一気に勢いづくね。」
キョウはウインクをして親指を立てて見せる。
さも完璧といいたげに。
「づかねぇよ。」
冷たくそれを否定する彼であった。
「なんでさ。」
「そんな話何の実績なしに真に受ける馬鹿がいるんだ?それに似たような話、今までにも何回もあったっていうじゃねぇか。」
「だけど、今回は本物だよ?」
「だれがそんなの信じるんだ?」
「信じるさ、だって・・」
「まあ、信じようが信じまいが、まあそれは置いておくとしても、そこへ元副国王が加わる。」
「今度こそやったね、それは皆信じるね。」
「そう、例え始め疑いをもっていたとしても少し実績を得れば信じて参加する反乱軍が増えるな。」
「そうそう。」
「それがまずい。」
「どうしてさ?」
「その情報が広まるのが賛同者だけならいい、しかし実際は敵、狗根国の連中もそれを知るわけだ。」
「そうだね。」
「お前分かってんのか?」
「何がさ?」
「やつらは元々火魅子の血を引く人間の始末はもといい、現在において一番の狙いは元副国王の命だろ?得体の知れないものより、確かなことを処理していくのが定石ってもんだろ?」
「おお、何か君らしくない。」
「ほっとけ。」
「でもそれってそれだけ伊雅のことを脅威に思っているってことだよね?」
「そうだ、確実に仕留められるように大規模な軍隊が編成されるぐらいにね。」
「えっ?」
「だってそうだろ?居場所が分かってんだ、今までのように小規模の軍隊を編成する必要はねぇだろ。不安要因はさっさと確実に消すのが当たり前だ。」
「で、でも、」
「いいか、ある程度組織に力がついているなら多少のことは対処できるし、逆に神の遣い、卑弥呼の血筋の者ってのもいいように利用できる。だがな、今、この規模程度の軍隊、いや・・・そうとも呼べやしない集団にだ、小規模だろうと正規の軍隊が攻めてこられたら、結果はお前にも容易に想像が出来るだろ?」
「だけど、」
キョウには自信があった。
別に楽観視しているわけじゃない。
何が起ころうと大丈夫だという考えを起こさせるものがキョウにはあるからだ。
「運がいい、それも十分に実力だったということなんだろうな。」
「・・・」
しかし、キョウに自信を持たせるものは何か?というものを彼は理解し、客観的に物事を考えられる。
それは「運」であると。
「そのことを知っていたから伊雅のおっさんも下手に行動できなかったんだろう。しかし、そこに神の遣いと天魔鏡の精が力を貸すってんだ、狗根国の出方に焦りを感じていたおっさんにとってありがたさよりも、行動を起こさない自分への脅迫というのに近かったのかもしれないな。」
「・・・何か君、別人みたいだね。」
「・・・」
お前もなといいたげな彼である。
「だけど、じゃあどうすればいいんだよ?」
「てっとり早いのはおっさんを殺して、死体を狗根国軍の宿舎に晒す事だな。」
「・・・・え?」
キョウは意外なことを言われて固まる。
そのまま地面へまっ逆さま。
「うげっ」
痛そうだ。
「な、何を言ってるんだ、冗談にもほどがあるよ、全く!!」
動揺を隠すためごまかし笑いをするキョウ。
しかし、
「なんでだ?一番楽だろ?」
本気らしい。
「こ、この!!」
「おいおい、落ち着け、悪魔で一番楽な方法を言っただけだ、それをやるとは言ってはいねぇ。」
「でも他に方法がなかったらやるんでしょ?」
「本当はいねぇはずの人間だからな。それにその事実をうまく利用することもできるしな。」
「君は!!」
「だからしねぇって、下手するとまずいことにもなるからよ。」
「ううぅ!」
「うなるな、うなるな。そんなことしなくても大丈夫だからよ。」
「どうしてだよ、伊雅が生きているっていうのは知られちゃってるんだよ?ということは邪馬台国復興軍に参加するっていうのが普通じゃん。」
「いや、少なくともあの時、奴自信の非道な行いもあったが狗根国兵では蛇渇しか生き残ってねぇはずだからな。」
「ああそうだよ、まずいじゃん。」
「九洲占領軍本陣・・・いや、どの将校にもその事実は伝わってねぇと思うぜ。」
「どうして?」
「左道士監って奴は敵からすれば脅威、味方からも意味嫌われる存在らしいからな。何かヘマをすれば即左遷っていうのもあんじゃねぇか?なんせどこの将校もなるべく自分のところに置いておきたくねぇんだろうな。理由なんてどうでもいいんだろ。」
「それじゃ・・」
「ああ、だから近いうちに始末しにくるだろうな、俺も一緒に。」
「なんかいろいろ面倒なことになってるんだね。」
「だが、色々都合のいいこともあるということだ。邪馬台国を復興させるといった意味ではな。」
「何それ、何か他にもやらなきゃいけないことがあるような言い方だね?」
「まあな・・・そういことで取り敢えず伊雅のおっさんにはしばらく俺に付き合ってもらうか。」
「付き合ってもらうって、君も合流しないの?」
「それはまずいだろ?」
「やっぱまずい?」
「あたり前過ぎることを聞くな。他にもいろいろ考えなきゃならんことがあるっていうのによ。」
「忙しいね。」
「他人事かよ。」
「ガンバレぇ〜。」
「お前な・・・まあ、いいか。次いこう、次。」
「はい、はい。え〜と、日魅子ちゃんはいい子、九峪は生意気、今のとこ二人とも戦力外。」
「あっそ、次。」
「うわ、興味なしぃ〜?」
「あぁ?そういうわけじゃねぇが・・・まあ引き続き様子を見ててくれや。」
「そんなこと君に言われるまでないよ。」
「だよな、他にできることねぇし。」
「うぅ、言い返せないのが悔しい。」
キョウは彼の目の前を忙しく行ったり来たりする。
全身で気持ちを表す正直な奴である。
「まあ、簡単にくたばらねぇように導いてくれ。」
「どうせ見るだけだよ。」
「それで十分、さあ次・・・って言っても他のことは少し様子をみたほうがいいか?」
「うん、正直ほとんど推測の域が出ないと思うよ。」
「よけいなことを聞いてそれがそれだって断定してるとまずいこともあるからな。」
「そういうこと、そういうこと。」
「だが、確信したらすぐ教えろ。じゃないと・・」」
「わかってるよ、だからその指を引っ込めなよ。」
「つまらない。」
「ボクにとっては命の問題だよ。本当にね!」
「んなことより、さっきお前何か用があるとかどうとか。」
「用?」
キョウは忙しく彼の周りを飛び回る。
はっきりいってかなりうっとうしい。
少しの間。
限界。
「うげ。」
彼はキョウの脳天に手刀を下ろした。
かなり綺麗に決まった。
「・・・」
爽やか?な顔で親指を立てる彼である。
「何すんだよ!このぉ〜!!」
突進するキョウを手で抑える彼である。
「『くいっ』じゃないぞ。」
ジェスチャーしてみる彼である。
「うぅ、怖!!君、怖!!」
「そう、俺は怖いよ〜。ってお前、思い出したのかよ?」
「思い出す?はっ!!」
「?」
「こんなことしてる場合じゃないよ、何やっているんだよ君!!」
「今更かよ。」
「そうだよ、大変なんだよ。」
キョウに無視される彼である。
「日魅子ちゃんたち逃げ出すことには成功したんだけど、このまま行くと捕虜を護送してる狗根国の一団に遭遇しそうなんだよ。」
「そうか、頑張ってほしいもんだ。」
「うん、おそらく日魅子ちゃんのことだから頑張っちゃうと思う。」
「んで、大変だってのはその事か?」
「そうじゃないんだけど、実はさ今ボクの『偶然力』が働かないことに関係することなんだけど。」
「おい、さらっと意味不明な単語を使うな。」
「へっ?意味不明?」
「ああ。」
「・・・・」
キョウに観察されるように動き回れる彼であった。
やはりうっとうしい。
「・・・」
「うわっ!!やめてよ〜、本当に痛いんだから〜!!」
切実な叫びである。
「まあ、そのことは置いといて、」
「置いとけるなら始めから言うな、それと急用なら要点だけ言え。」
「助けて。」
「はしょりすぎ、それにさっき頑張るっていったんじゃねぇのか?」
「残念、そっちじゃないんだな〜これが。」
「ふざけてる場合か?」
「ごめん。」
「そっちじゃなけりゃ、一体何処の誰がやばいんだ?」
「実はさ、近くに火魅子の血縁者が近くにいるんだけど、そっちのほうにどういうわけか狗根国の一団が近づいているんだな〜」
「おいおい、そんなこと知っているなら、その日魅子ちゃんとやらが何とかしたがるだろう?」
「彼らは知らないよ、だから今安全に進んでいるんだよ。」
「おまえさ、理解はできんけど色々と万能?」
「へっへっへ〜。ようやく分かった?ボクのすごさ。」
「意味不明だからあえて突っ込まなかった。」
「そうなの?まあボクのすごさが分かればいいよ。」
「分かった。」
「ふっふっふ〜。そうぉ、そう」
キョウはさらに動き回る。
兜の奥にある彼の瞳が光ったような気がした。
それに連動して腕が振りあがっているのもポイント高い。
「え〜、そういうわけで君にはその火魅子の血縁者を助けてほしい。」
「・・・」
「え〜と場所はその鏡に従ってくれればいいよ。」
「・・・」
「え〜と・・」
「・・・」
「え〜」
「・・・」
「もうその腕を下ろしていただけませんか?」
「分かった、今のところやることもないようだから行くだけ行ってみよう。だか、」
「無視ってひどいよね?」
「表立って動けないことを理解しろよ?」
「分かってる、分かってるよ。」
「今度はあんなことしねぇ。」
「うん、うん。」
「天誅!!」
「うげっ!」
脳天直撃!!手刀の一撃恐るべしである。
「下ろしたぜ。」
「うぅぅうう、秘密はお互い様のみたいなのに・・・ぐふ。」
「回収、回収。」
彼はキョウを天魔鏡に回収する。
おそらくキョウは向こうの天魔鏡にもどっただろう。
(そう、お互い様みたいだな。)
彼はそのまま伊雅が去ったのほうへと歩みだす。
伊雅の勝手な行動を防ぐためである。
もっとも事情を話せば、少なくとも今回伊雅は協力するだろう。
(なんでこう面倒なことになるかな。)
そう思いつつも彼の足取りは軽やかである。
それは彼が望むこともまた実現可能であることを知ったからだろう。

存在しない彼。
存在しない者の行動とはなかったことになるのか。
これは誰もが知っているが誰も知らない彼の物語である。



ここに初めて投稿させてもらうものです。

これは古い物でもしかしたら読んだことがある方もいるかもしれません。

こんな文ですが最後まで読んでいただければ嬉しいです。