火魅子伝 炎の国に降り立った炎の使者 第一話 (H:小説&風の聖痕 M:オリ J:クロス) |
- 日時: 09/11 16:52
- 著者: 百獣炎擬
- ※前書き
・この作品は、火魅子伝の世界に風の聖痕の設定の一部をクロスさせた物です。
・また、主人公はオリキャラと為っています。
九州・佐賀県にある耶牟原遺跡……
其処に続く道路にて……
「ふむ……暑いな」
汗ばむほどの陽気なのに、上下共に黒のスーツを着込んだ男が呟く。
「そりゃあ……そんな格好をしてりゃあね~」
Tシャツの上に学ランを着込んだ青年が、呆れながらそう言えば
青年の隣を歩いていた高校の制服に身を包んでいる少女が、笑みを浮かべながら男に
話しかけた。
「あはは……紅葉さんも一緒に来てくれるなんて、おじいちゃんも喜びます」
「そう言ってくれると助かる。久々の休暇だが、する事が無くて
暇を持て余して居たからな」
「まあ……先生も感謝してたからな。紅葉さんが悪霊を退治してくれたお蔭で
発掘作業が再開できたし」
「そうそう!! 格好よかったですよね。あの、炎の巨人さん
ねっ!! 久峪」
少女が興奮気味に、隣を歩いていた青年に話しかける。
それを受けた青年……久峪は、苦笑を浮べながら少女に答える。
「確かに。日魅子の言うとおり、格好よかったな
悪霊を圧倒的な力で焼き尽くしたからな」
その言葉を聴いた紅葉は、苦笑を浮べながら間違いを正した。
「圧倒的か……それは違うぞ、久峪。
炎術師の最高峰である、神凪宗家の炎に比べればたいした物では無い」
「げっ!! その神凪宗家って言う連中、あれ以上の炎を操るのかよ……
人間じゃねぇな……」
「確かに。奴等は人の枠を超えているからな」
「へ~……あっ!! 耶牟原遺跡が見えてきた」
耶牟原遺跡発掘の総責任者である姫島教授は
仕事のはかどり具合に大いに満足していた。
彼は遺跡の中をあちこちと歩きながら、大学のスタッフや
発掘を手伝いに来ている現地のボランティアの人達に笑顔を振りまき
気軽に声を掛けて回っていた。
「おじいちゃーん」
「やれやれ、日魅子か」
教授が振り返り、走ってくる孫を見てそう呟いた。
丘を駆け上がり、教授の前まで走ってきた日魅子は、息を整えると顔を上げて
にっこりと笑った。
「どうしたんだ、日魅子。そんなに慌てて?」
日魅子は自分が来た方向を指差しながら、興奮した様子で言った。
「あのね、向こうでスタッフの人が呼んでたよ」
「呼んでいた? わしをか?」
「おーいっ、日魅子ぉ」
丘の向こうから、手を挙げながら久峪がやって来る。
その直ぐ後ろから、紅葉もやってきて教授に対して一礼をする。
「なんだ、久峪君も一緒だったのか。
それに紅葉君も良く来てくれた」
「今回の招待、ありがとうございます。
お蔭で、休暇を有意義に過ごせそうです」
「そう言ってくれると、招待した甲斐があったよ」
「そんな事より……先生、スタッフが呼んでいましたよ。
なんでも、見たことの無い形と模様を持った銅鏡が出たそうです」
「見たことの無い銅鏡!?」
教授の目がキラキラと輝きだした。
もし、卑弥呼に繋がる銅鏡なら、探していた邪馬台国の在処にも
繋がるかもしれないのだ。
「よし、とにかく、直ぐに行こう」
そう言うと、教授はいきなり駆け出した。
しかし、場所を聞き忘れた事に気づき、急停止して振り返った。
「で、場所はどこだって」
「あっちだよ」
教授を先導するように、日魅子が元来た方向へ走り始めた。
それを追って、教授も走り出した。
たちまち、二人の背中が小さくなっていく。
「やれやれ、親娘だねえ。まあ、正確には祖父と孫だけど。
お客さんを忘れて行くんだからな」
久峪はのんびりと二人を見送りながら紅葉を見た。
紅葉は苦笑を浮べながら答えた。
「なに、大発見に為るかもしれないんだ。仕方が無いさ」
「そんなもんか?」
久峪が周囲を見渡すと、広い遺跡のあちこちに、発掘作業をしている者達が
ぽつんぽつんと散見できる。
遥か向こうには、緑に染まった低い山並みが左右に続いている。
青く澄んだ空を飛んでいる鳥の鳴き声だけが耳に届き、のんびりとした風情だった。
「それにしても、のどかだねえ」
「ああ、そうだな」
久峪と紅葉は、先に行った日魅子や教授を追ってゆっくりと歩き出した。
「昔、この遺跡で暮らしていた人達も、こんなのどかな風景を見ながら
生活をしていたのかねえ」
久峪がそう呟いた瞬間、馬のいななきが聞こえた。
久峪は思わず立ち止まり、周囲を見渡すが馬の姿など、何処にも無い。
「空耳か? そうだよな、馬なんているはずが……」
喚声、そして叫喚。
剣戟の音、そして肉を断つ不快な音。絶叫が響く。
「なんだ、いまのは? 紅葉さんも聞こえたか?」
頭を押さえるようにして、周囲を見渡していた紅葉が答える。
「ああ、聞こえたよ。だが、周囲に悪霊の類は存在しない」
「そうか……空耳だったのかな?」
首を捻りながら二人は再び歩き始めた。
二人は気づかなかった。
いま聞いたものが、これから経験する冒険の前奏曲だった事を。
耶牟原遺跡の一角にプレハブ造りの建物が建っている。
発掘で出てきた遺物を一時保存しておくためのものだ。
夜八時半を回り、発掘のスタッフも居なくなった暗い遺跡の中を、
懐中電灯の明かりがそのプレハブに近づいてくる。
三つの人影は、建物の入り口の前まで来ると立ち止まった。
「なあ、日魅子、いいのかよ? 勝手に入って先生に怒られてもしらねえぞ」
久峪の呼びかけにも応えず、日魅子は持ってきた鍵を取り出した。
「久峪、日魅子くん、何か変じゃないか?」
「ああ。……おい、日魅子。いったい、何しようってんだ!?」
久峪は日魅子の腕を掴んだ。
振り向いて彼達を見た日魅子は、感情の篭らない声で応えた。
「呼んでるの。だから……」
「呼んでるって……誰が?」
「懐かしい声なのよ。だから……」
久峪は思わず怒鳴っていた。
「おい、答えになってねえぞ!」
「いいから、邪魔しないで」
日魅子は久峪の腕を振り払うと扉に向き直った。
(なんだよ、こいつ……)
「久峪、日魅子くんがおかしくなったのは、いつからだった」
久峪は思い出そうとしていた。
朝も昼も、彼女におかしい所は無かった。おかしくなったのは……
「あの時だ、あの銅鏡を見てからだ」
「ふむ。……俺が見た感じでは、悪霊や妖魔の類が取り付いてはいなかった」
「開いた」
その時、日魅子が小さく叫んだ。
久峪と紅葉は、話を止めて日魅子を見た。
日魅子は引き戸を引いて、建物の中に入ったので、仕方なく久峪と紅葉も続いた。
中は真っ暗で、何処に何が在るのかわからない。
久峪が入り口の脇に在る筈のスイッチを探して電気を点け様とするのを
日魅子が押しとどめた。
「ダメよ。電気を点けたら、誰かに気づかれちゃうかもしれないでしょ」
久峪は紅葉と顔を見合わせ、肩をすくめた。
「スリル満点だな。まるでルパン三世にでも為った気分だぜ」
日魅子は久峪のつまらないギャグを一顧だにせず、周囲を懐中電灯で照らしながら
建物の奥へ奥へと進んでいく。
「やっぱ、変だよな、あいつ」
「ああ、たしかにな」
首を捻りながら、少し遅れて日魅子の後に久峪と紅葉が続いた。
奥へと進んでいた日魅子が、急に立ち止まった。
揺れていた懐中電灯の明かりが、陳列棚の一点を差して動かなくなった。
「あった」
明かりの中に銅鏡が浮かんでいる。あの銅鏡だ。
いままでに見たことの無い不思議な形をして、見たことの無い不思議な文様に
彩られた銅鏡。
姫島教授も大学のスタッフもみな興奮していたが、その銅鏡の価値は
久峪にも紅葉にもさっぱり判らなかった。
日魅子が手にしている懐中電灯の明かりは、銅鏡を照らして
ピクリとも動かなくなった。
「それが見たかったのか? だったら、明日にでも先生に頼んで見せてもらえば
いいじゃねえか」
日魅子は久峪の呼びかけにも応えず、ただ一言。
「持って」
と言って、手にした懐中電灯を久峪へと押し付けた。
「なんだってんだよ、いったい!?」
懐中電灯を受け取った久峪がぶつぶつ文句を言っていると、日魅子は棚の銅鏡に
手を伸ばした。
「お、おい、勝手に触ったりしたら……」
「日魅子くん? いったい、どうしたんだ」
久峪と紅葉が慌てて止めようとした時には、日魅子は銅鏡を両手で持ち上げていた。
「し、しらねえぞ、俺は」
久峪が緊張した声を漏らした。
その時……
かたん、と何かが揺れる音がした。
飛び上がらんばかりに驚いた久峪が音のした方へ懐中電灯の明かりを向ける。
しかし、何も見当たらない。
建物の中をあちこちと照らしてみるが、なにも変った所は無いようだ。
「ネ、ネズミでもいたのか?」
「いや、ネズミなどの気配は感じない。
ん? 久峪、上を照らしてくれ」
その言葉に、久峪がふっと明かりを上に向けると、天井からぶら下がっている
裸電球が揺れているのが見えた。
「え? 入り口は閉めたはず」
久峪は入り口の方を振り返った。
入り口の扉はしっかりと閉まっていた。
久峪は嫌な予感を感じ、日魅子を見た。
「おい、それ!?」
「なに!? 馬鹿な、何の力も感じないぞ」
久峪は我を忘れて叫び、紅葉は驚愕の声を上げた。
日魅子が手にしている銅鏡がぼんやりとした光を放っているではないか。
「日魅子、変だぞ、それ。おい、手を離せ」
「日魅子くん、手を離すんだ」
呼びかけにも何の反応も示さず、日魅子はただじーっと銅鏡を覗き込んでいる。
銅鏡が発する光はしだいに強くなり、すぐに部屋の中を見渡せる程に明るくなった。
「銅鏡から手を離すんだ。日魅子くん」
紅葉が日魅子の肩を掴んだ瞬間、光が弾けた。
室内が眩い閃光に満たせれ何も見えなくなる。
脳髄を射る様な白光に耐えられず、二人はきつく目を閉じた。
不意に閃光が消え、恐る恐る目を開けると、閃光の変わりに日魅子の身体を
押し包んでいる緑色をした光の柱が立っていた。
「な、なんだ、ありゃあ!?」
「わ、わからん。わからんが、日魅子くんを助けるぞ」
「お、おう……なっ!?」
久峪は突然、とんでもない事に気づいた。
日魅子の体が薄れてきているのだ。
緑の光が銅鏡に吸い込まれていくにつれて、日魅子の姿がどんどん薄れていく。
「日魅子ーーっ!」
「くっ、間に合え!!」
久峪の絶叫と同時に、紅葉が日魅子に向かって飛び出そうとした。
その時、
「エウヤクアエタネ」
という、男とも女とも付かない不思議な声が二人の頭の中に響いた。
「サア、イコウ、キミノイルベキセカイヘ」
紅葉は飛んだ。
このままでは良くないことが起こる。
そう直感した紅葉は、日魅子に向かって体当たりをしていた。
「久峪、日魅子くんを頼む」
「お、おう!」
弾き飛ばされた日魅子は銅鏡を取り落とし、数メートル吹っ飛んで
床の上に転がった。
銅鏡が派手な音を立てて床の上に落ちた。
「お、おい、日魅子だいじょうぶか?」
床に転がった日魅子は気絶しているのか、ぴくりとも動かなかった。
そんな彼女を抱きかかえて、無事を確認した久峪はほっとため息をついた。
そんな時に、紅葉の声が室内に響いた。
「こっ……これは!?」
久峪は慌てて紅葉の方を向いた。
見ると、紅葉が緑色の光の柱の中に立っていた。
「くっ、紅葉さん!?」
「ぐっ!! 体が動かん!」
紅葉の周囲で緑色の光の点が踊り、紅葉の足元にある銅鏡へと流れ込んでいった。
(い、息が苦しくなってきた……)
紅葉は顔を歪めながら、久峪達の方を向いた。
久峪に抱きかかえられながら、気を失ったままの日魅子。
驚愕の表情を顔に浮べながら、日魅子を抱きしめている久峪。
「ふ、二人とも、無事か?」
二人の姿も室内の光景も、やがてしだいに薄れていき
ついに紅葉は白い闇に閉ざされた。
「くっ、紅葉さーーん!?」
ただ、久峪の声を残して……
紅葉が覚えているのはそこまでだった。
「いなくなった? いなくなったってそりゃ……」
姫島教授は不審気な顔を目の前の二人に向けた。
あたりはもう真っ暗だ。時刻はすでに夜の十時を回ろうとしていた。
耶牟原遺跡のスタッフ棟で、発掘された遺物の整理をしていた姫島教授は
突然やってきた二人に呼び出された。
こんな夜遅くまで二人が遺跡に残っていた事も驚きだが、二人に会って教授は
さらに驚いた。
紅潮した顔で、二人は必死に何かを訴えようとしているのだ。
早口で何事かを捲くし立てる。
だが、興奮しているのか、どうも要領を得ない。
落ちつかせて話を聞いた所、遺物保管用のバラックで紅葉が消えたと
言っているらしい。
「消えた? 消えたとは一体?」
「分かんないよ、私にも。銅鏡が光って、私が光に包まれて
そうしたら、紅葉さんが……」
「銅鏡!? 銅鏡がどうしたんだ?」
慌てた姫島教授は久峪に向かって尋ねた。
しかし、聞かれた久峪にしても事態を完全に把握しておらず、要領を得ない
返答しか返ってこない。
「分からないんです。日魅子が光に包まれたと思ったら、紅葉さんが助けてくれて
そうしたら紅葉さんが消えたんです。銅鏡と一緒に……」
「そうか……、とりあえず彼の職場に連絡してみよう。
なにか分かるかもしれない。きっと、紅葉くんは大丈夫だよ」
教授は二人を安心させる様に努めて明るい声で言った。
「大丈夫、彼はこういう不可思議な事に関してはプロだ。
きっと、直ぐに戻ってくるよ」
「……はい」
「……うん」
姫島教授のその言葉は、ある意味では当たっていた。
そう、ある意味では……
あとがき
初めまして、百獣炎擬です。
この作品が処女作のため、文法等におかしい所があると思います。
よろしければ、感想掲示板に意見や感想などをお願いします。
最後になりましたが、私の拙い作品を読んでいただき
ありがとう御座いました。
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