九洲炎舞 第五話「回り廻って」 (H:ゲーム+小説 M:九峪・キョウ・案埜津・伊雅 J:シリアス)
日時: 10/29 00:10
著者: 甚平



国分から離れた九峪と案埜津は特に行く当てもなく街道を歩いていた。

墓を作り終えた二人は国分から追っ手が放たれる前に丘を離れた。

九洲の地理に疎い九峪と、国分を離れたことのない案埜津はこれから何をするべきかわからず、途方にくれていた。

歩き続けることはや三日がたっていた。

「だ〜〜、死ぬ〜、死んでしまう〜」

九峪はよろめきながら歩いていた。

この時代の移動は徒歩が基本だ。

馬車などもあるが、それは大所帯での移動だけだ。

現代の自動車や電車に慣れ親しんだ九峪に、この移動方法は多少なりとも辛かった。

「九峪、体力なさ過ぎ。本当に旅人なの?」

疲労困憊の九峪を案埜津は冷ややかに見つめる。

この時代の人間はそろいもそろって健脚揃いだ。

機械もなければ自動車もない時代。全ては体が資本となる。

それは案埜津も同じなわけで。

そんな案埜津からすれば九峪は異常なまでに貧弱だった。

ともすれば、九歳の自分よりも体力がないかもしれない。

墓を作っていたときの九峪の姿は最早忘却の彼方だった。

もちろん九峪もそこまで体力がないわけではないのだが。

「確かにねぇ、いくらなんでも体力なさ過ぎだよ九峪」

「だったらそこから出ろーーーーーーーーー!!」

怒りの咆哮。

背負っていたリュックを手に持ちそれを思いっきり地面に叩きつけた。

「ぶげぇぇ!!」

リュックの中からキョウの轢かれた蛙のような声が聞こえた。

リュックの中からキョウを引きずり出し、そのまま放り投げる。

  ポーーーン  ゴン

きれいな曲線を描いたキョウは、これまた見事な音を立てて地面をはねた。

「ちくしょう、余計な体力使わせやがって・・・」

ピクリとも動かないキョウに悪態をつく九峪。

それを案埜津は呆れたように眺めていた。

あの二人?は先ほどから同じことを繰り返している。

キョウが袋の中に入る。

重くなった袋を九峪が背おう。

そこでキョウが余計なことを言って、そのたびに九峪の制裁を食らう。

案埜津はすでにキョウのことは知っていた。

あれから三日もたったのだから、すでに顔合わせも済ませている。

最初は驚いた。

すでに滅亡した耶麻台国の神器とその精。

そして九峪の正体。

九峪が耶麻台国復興のために耶麻台国の守り神より遣わされた「神の遣い」であると知ったとき。

目の前の男が、突然雲の上の人間となった。

本来ならば、自分のような一平民が話してよい相手ではない。

今まで対等だった関係が、突然崩れた。

そのことが案埜津を恐れさせた。

九峪は自分を置いていくのではないか。

自分を捨てていくのではないか。

案埜津は聡かった。

治安の乱れたこの九洲で、一人で生きていくことなどできない。

身分というものが、どれほどの意味を持つか。

それを案埜津はよく分かっていた。

案埜津には九峪しかいない。

家族を失い、行き場のない案埜津にはすでに九峪しかいないのだ。

九峪についていくと決めた。

九峪もそれを許してくれた。

だが、九峪は―――

気がついたときには、体が震えていた。

再び失うことを、心底恐れた。

だが―――

『確かに、俺は神の遣いだ。だけど、そうである以前に「九峪雅比古」個人でもある』

九峪の言葉を思い出す。

「平民」と「神の遣い」の立場は違うとしても、「案埜津」と「九峪雅比古」は同等の立場。

そして自分はそんなことは気にしない。

明確な言葉にしなくても、案埜津はそれに気づいた。

九峪は身分を重視しない。

神の遣いとして具体的にまだ動いていないのも理由だが、九峪は案埜津個人を見ている。

それはどの権力者にもできない、しかし現代の教育を受けた九峪にとっては当たり前のこと。

「神の遣い」が「平民」を一個人としてみる。

案埜津にはそれが衝撃的で、また嬉しくもあった。

だから案埜津は今も九峪と共にいる。

「たく、こいつは・・・。おら、さっさと行くぞ」

九峪は転がっているキョウを拾い上げるとおもいっきり揺さぶった。

「あぶぶぶぶぶぶぶぶぶ」

かなり奇怪な声を発するキョウ。

それでもまだおきない。

聞くに堪えないうめき声に案埜津は耳を押さえている。

「九峪、早く起こさないと日が暮れる」

鬼の形相で揺さぶる九峪に案埜津が声をかける。

ただでさえ白いキョウの顔が蒼白になってきたのを心配したからではなく、このままでは本当に日が暮れるのではという心配と、九峪にこれ以上余計な体力を使わせないためだ。

「はあ・・・はあ・・・そ、そうだな・・・」

息も切れ切れに九峪は揺さぶるのをやめると、今度はリュックの中から天魔鏡を取り出す。

天魔鏡にはある機能がついている。

天魔鏡が破壊の危機に瀕したときに、自己防衛機能が発動し、キョウがどんな状態でも復活できるというとても便利な機能だ!

しかしこれをあんまりやりすぎるとキョウが拗ねるため普段は先ほどのように力任せに行う。

それでもキョウは拗ねるのだが。

九峪が余計に疲れる主な理由でもある。

「う、う〜ん・・・いたた、もう!なにするんだよ、九峪!」

「やかましい、余計なことを言うお前が悪い!リュックの中に入れてもらえるだけありがたく思え!」

「なんだよ!オイラの姿が狗根国兵に見つかったら大変じゃないか!」

「だったら天魔鏡の中に入ってろ!」

「やだ!天魔鏡の中から見てるだけなんてつまらないじゃないか!」

「結局はそれかーーーーーーーーー!!」

と、こんなことが数時間前からエンドレス。

二人の様子を、案埜津はじっと眺めていた。









































あまり進むことのできなかった九峪一行は、街道の脇の比較的平坦な場所で野宿することにした。

火を焚き、もう残り少なくなってきた食料を食べると、後はもう寝るだけだ。

「じゃキョウ、後頼んだ」

「はいはいわかったお休みなさい」

九峪のかけた言葉にキョウは憮然と答える。キョウは天魔鏡の中からでているときは寝ることはない。

寝るときは天魔鏡の中で眠るのだ。

おまけに昼夜の感覚がないため昼間でも十分眠れる。

そうした理由から不寝番はいつもキョウの役目だった。

キョウの態度に九峪は苦笑すると自分も横になる。

すぐ隣では案埜津が寝息を立てている。

距離的には添い寝に近い。

普段すましたような態度でも九歳の少女。

いくら周りに人がいても心細い。

そして国分での一件。

あれ以来、案埜津は悪夢を見るようになった。

目の前で父親を殺され、そして自分も殺される。

殺しているのは狗根国の兵士。

お父さんを殺した、あの男。

案埜津はいつも魘されていた。

初めて野宿したときは自身の悲鳴で起きた。

そのときはただひたすらに九峪に抱きついて震えていた。

二度目の野宿。

再び悪夢を見た。

やはりというか、同じ内容だった。

父を殺され、自分も殺され。

そしてあの男が笑っている。

わずか九歳の少女にとって、あの悪夢を連続で見せられることは、まさに拷問だった。

以来、案埜津は九峪と一緒に寝るようになった。

九峪の傍らは、とても安心する。

九峪の隣だけが、最も安らげる場となっていた。

九峪は自分の腕を枕にして目をつぶる。

腕ではなくリュックを使いたいところだが、それは案埜津が枕代わりに使っているためにできない。

必要以上に疲れた(キョウのせい)ために、急速に睡魔が襲ってきた。

火花が散る音と案埜津の寝息を子守唄にして九峪は眠りに落ちた。



























  チュン  チュチュン

「ん、んん・・・・・・ふあああぁぁぁ・・」

小鳥のさえずりに起こされ九峪が目を覚ます。

上半身を起こすと寝ぼけ眼で周囲を見回した。

隣では案埜津が未だ寝息を立てている。

暫しボケッとしていたが、冷たい空気に頭が急速に覚醒する。

「・・・寒いな」

見ると焚き火が消えかかっている。

本来は不寝番のキョウが薪を足すはずだが、そのキョウは固まったまま動かない。

「こ、こいつは・・・」

九峪は焚き火に薪を足すとキョウを叩いた。

「痛!・・あ、九峪」

「たく、薪も燃やさねぇで、何してんだよ」

「あ、うん、実は・・ね。結構重大な話があるんだ」

「重大な話?」

キョウの言葉に九峪は首を傾げる。

「うん・・・実は、近くにいるんだ」

「いる?何が?」

オウム返し聞く九峪。

キョウの言いたいことは要領を得ず、いまいちわからない。

「いるっていうのは正しくないね。あるって言ったほうがいいかな」

「だから何がだよ」

九峪の声質に苛立ちが含まれてきた。

「えっと、神器が」

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



「・・・・・・・・・は?」

阿呆のように聞き返す九峪。

近くに何かがあって、それが神器で・・・。

・・・・・・神器?

「おい、神器ってお前じゃないのか?」

「オイラは神器の中の一つ。神器はオイラの他にもいくつかあるんだよ。この感覚は・・・・・・「蒼竜玉」かな」

「蒼竜玉?」

「そ、蒼竜玉。神器の力を高めてくれるんだ。それに、神器の中で一番神器の力を感じることもできるんだ」

「ふーん。てことは、この近くに神器が落ちてるってことか?」

「いや、落ちてるわけじゃないと思う。昨日の夜の段階では感じなかったから。気配がしたのはついさっき。しかもこっちに近づいてる」

「近づいてる?てことは誰かが持ってるって事か。・・・・・・耶麻台国か、狗根国か」

考え込む九峪。

旧耶麻台国勢ならいいが、狗根国勢ならば・・・。

「とりあえずは、様子見だな。神器は向こうから近づいてるんだし、こっちは何もできねえしな」

結論はとりあえず保留。

相手の正体がわからなければ手出しができない。

「案埜津、起きろ」

「ん・・・・・・あ、九峪、おはよう」

揺さぶられて案埜津が目を覚ます。

まだ寝ぼけているのか、目をグシグシとこすりながら起き上がる。

「・・・・・・?どうしたの、九峪?」

段々と意識が覚醒してきた案埜津は、九峪が妙に緊張しているのに気づき、訊ねた。

訊ねられた九峪は幾分表情を和らげて応える。

「誰かがこっちに向かって近づいてきるみたいなんだ。一応俺の後ろに隠れてろ」

九峪の回答はややそっけない。

しかし近づいてくるのが狗根国兵かもしれないと考えるとそれも仕方がない。

それをわかっている案埜津は頷き素直に九峪の背に隠れた。

数分。

「近いよ・・・もうすぐそこ」

キョウも緊張を隠せない。

いくら神器の精とはいえキョウ個人には戦闘力など微塵もない。

九峪の魔剣みたいに戦闘用として作られたわけではないのだから当たり前だ。

相手が狗根国兵だった場合は。

  パリイイン

不吉な音と、問答無用で天魔鏡を破砕される未来が見えた。

それだけは何としても避けたい!

自己保身の強いキョウは狗根国でないことを切に願った。

  ガササ

来た!

九峪の左腕に二つの霊珠が。

右腕には四本の飛翔剣が。

それぞれに握られる。

背後に隠れる案埜津も身を硬くする。

鬼と出るか蛇とでるか。

・・・・・・どっちだ。

  ガサ

藪の中から初老の老人が現れた。

歳は五十前後といったところ。

黒髪だが、ところどころに白髪が混じっている。

堀の深い顔に太い眉毛。

厳つく、精悍な顔つき。

武人を思わせる大きな体。

全身から力強さが感じられる。

初老の老人が、そこにはいた。

「伊雅!?」

「おお!キ、キョウ様!!??」

初老の老人・・・「伊雅」は、キョウの姿を見たとたん、大きな体躯を揺らして走ってきた。

キョウも伊雅の元へ飛んでいく。

案埜津は状況をいまいち飲み込めないが、敵ではないことだけはわかり息を大きくはいた。

そして九峪。

九峪は押し黙ったまま伊雅を見ていた。

(あれが副王・伊雅か。確かにどこか威厳のようなものを感じるな。・・・・・・しかしこうも早く、しかも向こうからやってくるとは・・・俺ってかなりツイてる?)

最期はやや脱線したが、九峪はこの幸運に驚いた。

この世界にきて数日。

僅かその間に目的の一つが達成された。

早すぎじゃねえのか?

しかしこれは幸先がいい。

実際生きているかもわからなかった副王。

それと合流できたのだから。

前途が明るくなるのを九峪は感じた。

九峪のそんな心境にかまわずキョウと伊雅の二人は感動の再会に花を咲かしていた。

「いやあ良かった、伊雅に会えて。狗根国兵じゃないかってドキドキしたよ」

「こちらも、神器が狗根国の手に渡ったのではないかと肝を冷やしましたぞ」

伊雅が豪快に笑った。

なんにしてもめでたい。

キョウは伊雅と合流でき、伊雅は戦乱の中で失われた神器を見つけれたのだから。

「蒼竜玉が反応を示しましたので、もしやとは思いましたが、まさか天魔鏡とは」

伊雅はそういうと懐から蒼竜玉を取り出した。

蒼竜玉の竜の形を模した金属にはめ込まれた水晶が、赤い光を放っている。

「して、キョウ様。そちらの者共は?」

伊雅は視線を九峪と案埜津へ向ける。

対応は穏やかだが、伊雅の目は警戒の光を放っている。

怪しい動きをすればすぐに切れるよう剣の鞘には手をかけている。

「彼は九峪。耶麻台国を復興させるために耶麻台国八柱神が一、天の火矛の呼び声に応えて異世界より降臨した「神の遣い」さ!!」

ドバーーーン!という効果音が聞こえてきそうな感じで、キョウは高らかに宣言した。

「か、神の遣いぃぃぃ〜〜〜〜!!??」

驚く伊雅。無理もない。

伊雅はこのとき、人生でもワースト五位に入る経験をした。

「はは〜〜〜〜〜!」

すさまじい速さでひれ伏す伊雅。

額を地面につけながら叩頭している。

その様に九峪は特に反応を示さない。

―――表面上は。

(おいおいおい、いきなりなんだ?いくら俺が神の遣いだからっていきなりそれか?)

内心では開いた口がふさがらない状態だった。

大きくて、厳つくて、威厳たっぷりなおじさんが。

副王ともあろうおじさんが。

自分に土下座をしている。

九峪は初めて土下座をされたことにより、思考が停止しかけていた。

「えっと、伊雅?とりあえず頭を上げてくれ。これじゃあまともに話もできねえよ」

「は、いや、しかし・・・」

「いいからいいから」

「はぁ」

九峪の説得により伊雅はようやく頭を上げる。

額に少しついた土が少し間抜けだ。

「さっきキョウのやつも言ったけど、改めて。俺は九峪雅比古。神の遣いとして耶麻台国を復興させるためにこの世界に来た。まあ、よろしく」

「は!儂は、耶麻台国副王の伊雅と申します。耶麻台国が滅び、この九洲が狗根国により蹂躙されてから早七年。度重なる狗根国の追跡を逃れ、再びこの九洲の地に姫御子様の炎(かぎろい)の光が照らされることを切に願い、今まで生きてまいりました・・・」

互いに自己紹介を交わす九峪と伊雅。

伊雅は、天魔鏡との再開と神の遣いとの出会いに感激していた。

狗根国が隣国の出雲国を打ち滅ぼし、この九洲にやってきたのが十年前。

九洲遠征に向けられた狗根国勢およそ三万。

長い年月の間に姫御子の加護が弱まり、力を失った耶麻台国を打ち滅ぼしにやつらはやってきた。

何十隻にもなる大船団が、九洲と本土をつなぐ海峡を渡ってきた。

迎撃するも、左道士の繰り出す魔獣や、どんなに腕のたつ猛者でも一人で倒すのは不可能とされる「魔人」に多くの同胞を殺された。

そして三年の戦いの後、国都である耶牟原城陥落により耶麻台国はついに滅んでしまった。

それからは正に苦渋の日々。

兄である国王は処刑され。

愛する妻を失い。

圧制に苦しむ民。

重税に苦しむ民。

男は強制労働にかり出され、女は兵士の慰みに。

その毎日に耐えかね、反乱を起こそうが。

それはすぐに鎮圧される。

日に日に反乱の芽は小さくなっていく。

誰もが狗根国に屈しかけていた。

『耶麻台国の炎は消えた』

共に戦場を駆けた戦友はそう言い残し、自らの剣にかかって果てた。

副王でありながら、何もできない自分が歯がゆく。

情けなく。

そして、悔しかった。

だが!

今、目の前に!

希望が降りた!

苦しみの末に。

諦めなかった末に。

儂は遂に出会った!

希望に出会った!

耶麻台国の守り神は、まだ我らを見捨ててはいなかった!

前途は揚々にして明るい。

伊雅は、知らず知らずのうちに涙を流していた。

「お、おい?どうしたんだ、伊雅?」

いきなり涙を流しだした伊雅に九峪は驚く。

目の前の男が泣くなど、その身に纏う雰囲気からは考えられなかったから。

伊雅は涙を拭い、顔を上げた。

その顔は、とても晴れ晴れとしていた。

「・・・いや、情けないところを見せ、申し訳ありませぬ。ですが、この伊雅。感激のあまり・・・・・・くっ」

目頭を押さえる。

どうも涙腺が緩んでいるようだ。再び涙が出てくる。

伊雅はそれを必死に抑える。

これ以上神の遣い様の前で醜態は晒せん。

俯き涙を堪える伊雅。

しかしそのために今度は肩が震えだす。

その震える肩に九峪は手を置く。

「・・・・・・大変だったんだな、今まで。その苦しんだ分も、耶麻台国復興の糧にして、頑張ろうぜ、お互いに」

九峪の言葉に伊雅は顔を上げる。

「・・・・・・は!必ずや、耶麻台国復興を成し遂げましょうぞ、九峪様!!」

伊雅の顔には、力強い、確固たる決意が浮かんでいた。

「・・・おや?九峪様、後ろにいる娘は?」

ここにきてようやく伊雅は案埜津の存在に気づく。

案埜津は案埜津で今まで気づかれなかったのかといじけてしまった。

そのせいで目の前に副王がいるというのに、案埜津は九峪の背中から出てこない。

「ああ、この子の名は案埜津。国分の街で狗根国兵に襲われているのを助けたんだが、その、家族がいなくてな。これも何かの縁だろうし、一緒に旅をしている」

「旅、ですか?」

伊雅が首を傾げる。

耶麻台国を復興するのではないのか、と。

「耶麻台国復興は俺一人じゃできないからな。まずは人を集めなきゃいけない。その手始めとして、伊雅を捜す旅をしてたんだ」

「おお、そういうことでしたか。なら、ここで会えましたのも、また縁なのでしょうな、はははは!」

九峪の説明で伊雅は納得した。

神の遣い様は、早くも民を救ったのだ。

そして、捜していた自分と偶然にも出会えたのだ。

そのことが愉快で、伊雅は豪快に笑った。

いつ振りだろうか、こんなに愉快なのは。

数年ぶりに、伊雅は腹の底から笑った。