九洲炎舞 第六話 「必要なこと」 (H:ゲーム+小説 M:九峪・キョウ・案埜津・伊雅・オリ J:シリアス)
日時: 11/13 08:24
著者: 甚平




「九峪様、キョウ様、着きましたぞ」

どことも知れない森を抜け、伊雅を迎えた九峪一行は一路、伊雅の住む隠れ里に向かっていた。

そして、たった今到着した。(手抜きではありません)

伊雅との出会いから二日。

副王伊雅を迎え、これからの方針を話し合うために伊雅の住む隠れ里に向かうこととなった。

野宿続きだったために九峪と案埜津は実に潔く受け入れた。

キョウもこれから活動するための拠点がほしかったため、これを承諾。

かくして一人増えた九峪一向はすぐさま出立し。

「へ〜、ここが伊雅の隠れ里か」

「早く湯浴みがしたい」

「うん、ここなら拠点にいいね」

現在に至る。

伊雅は早足に里へ向かう。

今まで復興への明確な成果が上がらなかっただけに、今回の出来事は大きかった。

伊雅は今すぐにでも里長に九峪とキョウを紹介したかった。



















「伊雅様。長がまいりました」

「伊雅様。お帰りなさいませ。そちらの方々は、耶麻台国縁の方ですかな?」

戸が開き、伊雅たちの姿を認めた里長は平伏した。

「うむ、面を上げ。今回は今までにない成果を上げてな、それがこちらに居られる方々だ」

「はあ、こちらの方々はどういったご身分の方でございましょうか?」

里長の問いに伊雅は満面の笑みを浮かべ声高々に言った。

「こちらにおわすは耶麻台国神器の精・キョウ様。そしてその御隣が、耶麻台国復興のために異世界より降臨された神の御使い、九峪様だ」

「じ、じ、じ、神器の精様と神の御遣い様!!?」

驚いた里長は「はは〜〜」と額を床にこすりつけながら平伏した。

それを見下ろすキョウはまじめな顔をしながらも。

(そうそう、これが普通だよね〜。九峪の対応があれだから自分が偉いってこと忘れそうになっちゃうよ)

などと考えていた。

九峪は九峪で。

(・・・・・・時代劇みたいだな・・・あれは江戸時代か?)

結構バカなことを考えていた。

案埜津は我関せず。九峪の横でじっと座っている。

「こ、これはこれは・・・・・・お初にお目にかかります。私はこの武川(たけかわ)の里の長をやっております、秦野(はだの)と申します。かつては耶牟原城で文官として働いておりました。今後、お見知りおきのほどを」

秦野と名乗った男は平伏したまま自己紹介をした。

キョウは平然としたものだが、土下座をされることに慣れていない九峪はどこかむず痒い。

(・・・なんか、嫌だな。これって)

「あ、ああ。俺は九峪雅比古。耶麻台国を復興させるためにこの世界に来た。まあ、宜しく頼む」

「へ?は、はは〜〜〜!」

秦野がますます低くなる。

この世界では秦野の身分は決して高くはない。

今ではだいぶ親しくなったからといって本来はであれば伊雅とも言葉をかわすことを許されない。

それなのにこの神の遣いは自分のような身分のものに「宜しく頼む」と言った。

これに驚き戦くのも無理はない。

人生にあるかないか。普通ならばない。

それほどまでに名誉なことなのだ。

横では伊雅が目を見開いている。

神の遣いが、一里長に「宜しく頼む」と言った。

里を治める長とはいえ、それほどに身分は高くない。

そんなものに、現段階で耶麻台国の頂点に君臨している神の遣いが自ら頭を下げる。

世襲的なこの時代の感覚としては到底考えられない。

「く、九峪様。いくら秦野がこの里の長とはいえ、自ら頭を下げる必要など・・・」

伊雅が九峪を諫める。

九峪の行動は、伊雅には到底理解不能だった。

「伊雅、秦野にはこれから何かと世話になるんだ。なら、こちらもそれ相応の礼儀は守るべきだぜ」

神の遣いにこう言われれば伊雅はもう何もいえない。

伊雅は今まで誰かに頭を下げるという経験があまりなかった。

せいぜい国王とキョウか。

キョウにいたっては最後にあったのが三十年も前だ。

実質、伊雅が頭を下げるのは国王ただ一人といってもよい。

「は、いや、しかし・・・」

「秦野は耶麻台国勢なんだろ?ならこれから一緒に戦っていく「戦友」じゃないか」

伊雅はこれで完全に押し黙る。

今まで絶望しそうになった自分を支えてくれたのは他でもない、秦野をはじめとした武川の里の皆だ。

だからこそ自分は諦めず、その結果九峪とキョウに出会った。

そう考えたとき、秦野は間違いなく「戦友」だと思い知った。

伊雅は目から鱗が落ちた気分だった。

平伏したままの秦野は涙ぐんでいた。

神の遣い様が、自分を轡を並べて戦う者として認めてくれた。

至上の喜びだった。

絶望に耐え、皆で伊雅様を支え続け、今日まで生き延びてきた。

耶麻台国復興を、夢見てきた。

その自分が、神の遣い様と一緒に戦える!

これほどの名誉があろうか?

これほどの誇りがあろうか?

「あ〜と、秦野。とりあえず顔を上げてくれ」

「はい・・・」

神の遣い様・・・九峪様に、みっともない顔は見せられんな。

秦野は涙を拭い顔を上げた。

「九峪様、伊雅様。共に・・・・・・耶麻台国を復興させましょう!」

秦野の決意に、九峪と伊雅は頷いた。

その様を、キョウは感激の眼差しで見つめていた。



































「九峪様、お疲れでしょう。部屋を用意させましたので、そちらでお休みください」

「私も九峪と同じ部屋で寝る」

「はは、わかりました」

夕食を取った九峪と案埜津は秦野の家に居座ることとなった。

秦野の家には伊雅もいるため、里で一番身分の高いものの家でということだ。

案埜津も九峪と同じ部屋で寝る。

秦野は案埜津のことは聞き及んでいたし、九峪がわざわざ連れて旅をしているということで、案埜津には敬語を使う。

温厚な性格の秦野は、子供の案埜津を悪くは思っていない。

九峪がいろいろと気にかけているため、大事にしようとさえ思っている。

それでも案埜津が九峪のことを呼び捨てにしているときはかなり焦ったが。

伊雅もそれを聞き咎め、案埜津を怒鳴るも九峪が「別にかまわない」と言うので強くはでられない。

九峪と案埜津は秦野に案内され、あてがわれた部屋に来た。

部屋には二組の布団があり、隅には床机が置かれている。

箪笥もあり、その上には天魔鏡が飾られていた。

床机の横と布団の近くには燭台が立ててあり、火が灯っている。

「それでは私はこれで。どうぞゆるりと」

言い、秦野は戸を閉める。

遠ざかる足音を聞き、九峪は布団の上に座る。案埜津もそれにならう。

「九峪、これからどうするの?伊雅様とは会えたけど、これからは?」

案埜津の問いに九峪は暫しの間黙った。

「うう、ん、そうだな・・・・・・おい、キョウ」

九峪は天魔鏡に向かって呼びかけた。

天魔鏡から軽い光が放たれ、キョウが現れる。

そのままキョウは九峪と案埜津のところまで寄ってきた。

「何、九峪?」

「とりあえず、伊雅と合流するという最初の目的は果たされたわけだよな。伊雅や秦野と話し合ってここを拠点に活動するけど、次はどうする?」

「うう〜ん、そうだねぇ。とりあえず地盤は手に入れたから、次は火魅子候補かな?結局は火魅子いての耶麻台国だからね」

キョウの言葉に考え込む九峪。

確かに、次に必要なのは火魅子候補だろう、それは九峪も考えた。

だが。

「でもよ、火魅子候補はまだ子供なんだよな。年齢的には案埜津と同じくらいか?旗印にしてもちょっと、いやかなり幼いな」

火魅子候補はまだ幼い。いくら求心力としてもかなり心もとない。

それはキョウもわかっていた。

うんうん唸る九峪の服の裾を何かが引っ張った。

振り向いてみると、案埜津がこちらを見上げている。

「九峪、火魅子候補って何?」

「ああ、火魅子候補ってのわな、王族の中でも一番偉い人のことだ。まあ、次期女王だな」

九峪の無難な答え。

しかし案埜津は更なる疑問をぶつけてきた。

「ふ〜ん。じゃあ、九峪とどっちが偉いの?」

「どっちって・・・・・・・・・・・・キョウ、どっちだ?」

しばらく考えた九峪だが、わからずキョウに聞いた。

「今の段階なら九峪かな。火魅子だったら九峪よりも上だけど、あくまでまだ候補だから」

「ふーん」と案埜津は黙る。

九峪とキョウは質問が終わったとみて、また話し合う。

「星華は十一歳だけど、藤那は今・・・たしか十五だったと思う」

「星華ってのは宗像神社に預けられたっていう子だよな。藤那は・・・たしか阿蘇山系の山奥にある里にいるんだったな。駒木の里だったか」

「星華はまだ幼いとして、藤那はいけるんじゃない?十五なら十分やっていけるよ」

キョウの考えは、しかし九峪にはいささか楽観的に思えた。

十五ならば旗印としては問題ないだろう。

だが、一度滅んだ国を興す。藤那一人で大丈夫か?

まだ足りないんじゃないのか?

それに、いま軍を起こすのも問題じゃないのか?

九峪はすばやく計算をする。

「確かに藤那の年なら問題はないが、まだだめだな」

「え、どうしてさ?もう十五なんだから、しっかりまとめられるよ」

(てめえ、本当に神器の精か?)

内心で毒づく。

今軍を起こす危険性を、こいつは何もわかっちゃいない。

こんなんでこれから先大丈夫か?

あ、なんか胃が痛くなってきた・・・。

「そのときの勢いで復興できりゃあ、狗根国はとっくの昔に追い出されてるよ。今まで反乱が失敗してるのは、まともな指導者がいないこともそうだが、その場の勢いでやっているのが大きい」

「えっと、それはどういうこと?」

わからずキョウは聞き返す。

九峪は内心「おい」と突っ込んでしまった。

「組織としての機能を持っていなかったってことだ。軍を相手にするには、こっちも軍を作るしかないんだよ。何人集まろうが、以下に勢いがあろうが、烏合の衆じゃ勝てるわけがない」

キョウと案埜津がうんうんと頷く。

その様子に気を良くしたか、九峪の弁に熱がこもる。

「まずやらなきゃならないことは、優秀な人材を見つけ、必要な兵を集めて、できる限りの物資を集める。軍としての基礎を作り上げることからだ」

「「おお〜〜」」

キョウと案埜津が感嘆の声を上げる。

案埜津なんかは手をパチパチと叩いている。

「ありがとう」

清まして言う九峪。

本人は格好いいと思ったのだろうが、

「九峪、似合わないよ」

「あーそーかい」

しかし案埜津の言葉に直後へこんだ。

「いやぁ、流石は神の遣い!(偽者だけど)考えることが深いねえ。でもそうすると、今は何も出来ないんじゃない?」

「さっきも言ったけど、やれることによる。基盤をつくるのだって立派な戦略だ。拠点は確保したんだからな、これからさ」

「そう・・・だね。今はそれでいいか。じゃあ後は伊雅と秦野がいるときに話し合おう」

「おやすみ」と言いキョウは天魔鏡の中へ戻っていった。

「九峪、私たちもそろそろ寝よう」

「そうだな、起きててもやることないし、もう寝るか」

九峪と案埜津はいそいそと布団にもぐりこんだ。

「で、やっぱりこうなるわけだな・・・」

「何が?」

「なんでもないが、とりあえず案埜津。もう少し離れてくれ」

「ヤダ」

「・・・・・・・さいですか」

程なくして明かりの消えた部屋から二つの寝息が聞こえてきた。

その部屋には布団が二つありながら、一つは平らで、もう一つが妙に盛り上がっていた。



















「おはようございます。九峪様、案埜津さん」

「おはよう、秦野」

「・・・おはよう」

九峪と案埜津は居間に来ていた。

理由は当然朝食のためだ。

「朝餉の準備はすでに整っておりますので、いつでも召し上がれますよ」

「そうか。じゃあ顔を洗ってから食べるよ」

九峪と案埜津はそのまま家の近くにある井戸に向かった。

「さてと、井戸はたしかこっちだったな」

手ぬぐいを肩にかけながら歩く九峪と案埜津。

「ねえ九峪、何か声しない?」

「は?声?」

聞き返し、九峪は耳を澄ます。

「・・・・ふん!・・は!・・・・・・ぬぁ!!」

たしかに声はする。しかもこの声は・・・。

「伊雅?」

「かな?なにしてんだろ」

たしかに。

九峪と案埜津は好奇心にかられ、声のするほうに行った。

「ぬん!はああ!・・・・・でええい!!!」

  ブン!  ビュッ!

そこには上の服を脱ぎ、筋骨隆々という言葉が相応しい肉体美を誇る伊雅が剣の稽古をしていた。

汗を流しながら、かなり真剣な目で・・・・・・おそらくは襲いくる狗根国兵を夢想しながら、剣を振るっている。

  ヒュッ  ビュウウン!

風きり音が響く。凄まじい剣速だ。

伊雅の繰り出す動作は一つ一つまとまっており、同じ動きを何百何千何万回と繰り返してきたのだろう。

副王であり武人でもある伊雅の剣捌きは筆舌に尽くしがたいほどに凄まじかった。

この剣技は狗根国との戦いの歴史なのだろう。

九峪にはそう思えた

九峪と違い案埜津は少し怯えている。

伊雅の振るう剣も、案埜津には圧倒的な暴力として映った。

しかしそこに恐怖の色は薄かった。

あれから時間が経ったのもそうだが、伊雅の剣が九峪の飛翔剣と同じに見えたからだ。

あの剣が自分に向かって振るわれることはない。

あの力は守るための力だ。

九洲の民を救いたい。そんな伊雅の思いのこもった力だと、案埜津はそう思った。

だから案埜津は怯えながらも、それに恐怖はしなかった。

「ふうーーーーーーっ・・・ん?おお、おはようございます、九峪様」

剣を休めた伊雅が稽古を見ていた九峪と案埜津に気がつき挨拶してきた。

九峪はそれに片手を挙げて応える。

「おはようございます、伊雅さま」

案埜津も挨拶する。

「うむ。昨夜は休められましたかな」

「ああ、よく休めたよ」

「そうですか、それはよかった」

「伊雅は、剣の稽古か?なかなか迫力があったぞ」

「は、ありがとうございます。来るべきときに備え剣を磨き技を磨く。これも武の慣わしにございます」

九峪は感心する。

何時とも知れない戦いの日に思いを馳せ、ただひたすらに己を磨く。

九峪のような若い人間にとって、伊雅や秦野のような老練された人間の存在はありがたかった。

「そっか、伊雅のような人間が中心にいてくれれば耶麻台国復興も叶うな」

「は、ありがとうございます」

「じゃあ、俺と案埜津は顔洗いに行くから」

九峪と案埜津は伊雅に見送られ井戸に向かった。

井戸は秦野の家の近く、少し開けた場所にある。

井戸はここのほかにも後二箇所あり、里の人間はここか、もしくは近くの川で水を汲んだり洗濯をする。

  バシャッ

「ふぃぃぃ、冷て〜〜〜」

桶で汲んだ水を顔に思いっきりかけ、その冷たさに完全に目を覚ます。

案埜津も同じようにあまりの冷たさに震える。

「さすがは地下水、冷たいな。それに・・・・・うん、美味い」

桶に残った水を手ですくって飲む。

ひんやりとして非常に澄んでいる。

「やっぱ現代の水道水とはぜんぜん違うな」

「すいどうすい?なにそれ?」

聞いたことのない単語に案埜津が反応する。

「え?あ、ああ〜え〜とだな。俺の世界にある井戸みたいなものだ」

突然の、しかも予想外の質問に頓狂な声を上げながらも九峪は答える。

「ふーん、それって井戸とは違うの?」

「まあ、少し違うな。水道水は蛇口を捻ると出てくるから」

「じゃぐち?」

「あー・・・」

なんて応えたものか。

まさかこんなところでこんな質問を受けるとは。

これからはコミュニケーションに苦労しそうだ。

九峪は自分とこの世界の人間との知識の相違に気づき、面倒だなと辟易した。

「水道って水が通る道があってな、そこを通って蛇口っていうところについてる栓を回すと水が簡単に出てくるんだ」

九峪の説明に案埜津はどこか曖昧だ。

まだ漠然としたイメージしかないが、それでも簡単に水が出るということはわかった。

「それって便利だね」

まあ、そうだろうな。

井戸で汲むより断然手軽なのはたしかだ。

でもな、案埜津。

金、取られるんだよ。
















顔を洗った九峪と案埜津は秦野の家に戻ってきた。

用意してもらった朝食を胃に詰めることに集中する。

朝食とあって質素だが、野宿での極貧生活よりはましだ。

案埜津も慎みなどどこ吹く風、頬いっぱいにご飯を頬張っている。

秦野はすでに食事を終えたのか、九峪の向かいに座っている。

「あ、秦野。飯が終わったらちょっと話があるからさ、伊雅を呼んでおいてくれるかな。場所は俺の部屋で」

「伊雅様ですか?わかりました」

秦野は九峪に一礼し、居間を出ていった。

九峪は碗に入った水を飲み干すと一息ついた。

「ふ〜、ごっそさん」

「ごちそうさま」

九峪がくつろいでると、案埜津も食べ終わった。

九峪と同じように最期に水を飲む。

「さて、俺、ちょっと伊雅たちと話があるから」

「わかった、いってらっしゃい」

「ああ、よっと」

九峪は立ち上がり居間を出て行った。

九峪を見送った案埜津は暫し宙を見つめた。

「・・・・・・何しよう」

最近の案埜津の生活サイクルは九峪を中心に回っている。

案埜津一人でいる時間はあまりない。

そのため、これから何をするか迷うのだ。

「・・・散歩しよう」

案埜津は立ち上がると居間を出る。

玄関で靴を履き、

「いってきます」

外へと身を躍らせた。

ところ変わってここは九峪の部屋。

ここには九峪、キョウ、伊雅、秦野の四人がそろっていた。

キョウを除く三人は三角になる形で向き合っている。

「それで、九峪様。お話というのは」

切り出したのは伊雅。鍛錬の途中に秦野から九峪様がお呼びとの報せを聞き、九峪の部屋へ赴いた。

部屋に入るとすでに九峪が御座に座って待っていた。

何気に自分たちの分の御座も用意してあり、すぐ隣にはキョウが浮いている。

これは何か重要な話だと伊雅は直感した。

「ああ、これからのことについて話し合おうと思ってさ。それでまずは現状の確認。この武川の里には副王の伊雅、天魔鏡の精・キョウ、そして神の遣いの俺がいる。神器も天魔鏡と蒼竜玉があり、そして現在この里には約六十人強の耶麻台国勢がいる」

九峪の確認に三人は頷く。

「火魅子候補は阿蘇の駒木の里に藤那、宗像神社に星華の二人がいる」

「九峪様、実はそのことで少しお話したいことが」

「ん?なんだ」

「はい、数年ほど前から宗像神社とは連絡のやり取りをしていたのですが・・・・・・それがここしばらく連絡が取れなくなってしまったのです」

「連絡が取れない?」

九峪は首を傾げる。

「宗像と連絡が取れない・・・・・もしや、星華様の御身に何か」

伊雅が慌てる。

星華は狗根国との戦争の折、緊急的に耶麻台国王家の一つ宗像に預けられた。

その星華に何かが。

「こうしてはおられません!九峪様!今すぐ星華様の下へ馳せ参じ「伊雅、ちょっと落ち着け」!!」

伊雅が勢いよく立ち上がる。

興奮しているせいか顔がやや赤い。

今にも飛び出しかねない勢いの伊雅を九峪は諫めた。

伊雅もそれで気勢をそがれ大人しく座る。

「秦野。宗像神社とは連絡を取り合ってたんだよな?いつ頃からなんだ、連絡が取れなくなったのは」

「三月ほど前からです。伊雅様が出立なされたすぐ後に来るはずなのですが、一向に着ません。間者に何かあっただけなのかもしれませんが、どうも気になりまして」

それを聞き考え込む九峪。

間者がトラブルに巻き込まれたのならまだいいが、宗像そのものに何かあれば。

あまりいいことにはならないな。

もし星華が殺されでもしたら復興はかなり難しくなるだろう。

となれば一刻も早く真偽を調べるべきだ。

だが。

「誰か向かわせる必要があるな」

「はい、しかし誰を送り出すものか」

「調べに行くのであれば、儂が行きましょう」

「いや、それはまずい。伊雅はこの里にいる耶麻台国勢の中心だ。そう簡単にどこかへいくのは控えたほうがいい」

「しかし九峪様。今までも同胞を尋ねるために里を留守にしていましたが、特に問題はありませんでしたぞ」

九峪の反対に伊雅は問題ないと主張する。

実際今までも特に問題はなかった。伊雅が抜けてもこの里には秦野という優秀なまとめ役がいる。

だから自分こそが適任なのだ。

しかし九峪は、

「伊雅はこれからの復興のための中心人物だ。おいそれと動くのはまずい」

「ですが、それでしたら九峪様がおられます。なんといっても九峪様は神の御遣いなのですから、中心人物というのであれば九峪様こそが適任だと思いますが」

「いや、それはできないんだ」

「それって、つまりどういうこと?」

首を捻るキョウ。

神の遣いである自分が復興の中心人物になれない。

それはどういうことなのか。

九峪を神の遣いに仕立て上げたキョウもこの発言には疑問があった。

中心にいられないとすると折角の神の遣いのネームバリューが無意味になる。

キョウには九峪の真意が図りかねた。

「神の遣いは必要だが、それはあくまで求心力としてだけだ。神の遣い本人が戦闘する必要はないし、指揮を執る必要もない。ここには副王の伊雅がいて、キョウがいて、秦野がいる。火魅子候補も二人存在して、神器も二つそろっている。実際神の遣いの名は必要ないくらいだ」

この言葉に三人は驚きを隠せない。

神の遣いがいなくても大丈夫だと、そう九峪は言っているのだ。

神の遣いという至上の地位に君臨していながら、それを省みない発言。

神の遣いは変わり者だと思っていた伊雅と秦野は九峪の本質に触れ驚いた。

「それでも神の遣いの名が必要なのはより確実な勝利のためだ。たしかに神の遣いの存在は強大だろう。だが、神の遣いは九洲の民にとって所詮よそ者、その存在は明確な形より靄のかかった幻想であるほうがいい。必要な求心力はすでに存在しているんだからな。それ以上を求めるのは逆にいけない」

伊雅と秦野は感心した。

そして確信もした。

神の遣いは切れ者だと。

伊雅と秦野は九峪をそう評した。

これだけの深謀遠慮、余人には思いつかないだろう。

どれだけ変わり者だろうと流石は神の遣い。

そう思わずにはいられない感動だった。

この方がいれば復興は必ず成ると。

二人はそう信じられた。

キョウは三人の中で唯一九峪の言葉の裏に隠された真意を読み取れた。

九峪は魔術師だ。その存在はこの復興において大きい。

しかし神の遣いとして復興の中心に立てば魔術師としての力が揮いづらくなる。

九峪はそれを嫌った。

別に地位になど興味はない。

復興させることが重要なのだ。

九峪は誠実だとキョウは思った。

しかしその期待は見事に裏切られることとなるのだが、それはまた別の話。

「だから、軍を指揮するのは副王の伊雅にやってもらう。神の遣いよりも伊雅が総大将になれば九洲の民もわかりやすいだろう?神の遣いは偶にお告げを聞いて、それを伊雅に教えるくらいがちょうどいいんだよ」

「では、九峪様はいったいどうするおつもりですか?いくらなんでも、一兵卒として戦わせるわけにはまいりませぬぞ」

伊雅の疑問はもっとも。

神の遣いが幻想なら、九峪はいったい?

それは秦野やキョウも抱いた疑問だった。

伊雅の問いに九峪はいっそう表情を引き締めた。

ここから、俺の仕事が始まる。

「俺はこの九洲の外から来た旅の者で、狗根国兵に襲われているところを神の遣いに助けられた。そしてその恩を返すために伊雅直属の私兵として耶麻台国復興のために戦う」

九峪の語りを三人は口をあけて聞いていた。

儂が?

九峪様を?

私兵として扱う?

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



「ま、そういうわけだから、よろしくな。伊雅『さん』」

「な、な、何ですとおおおおおおおおおおおお!!?」

伊雅の絶叫が木霊した。