あけましておめでとうございます (H:ゲーム+小説 M:九峪・その他 J:ギャグ) |
- 日時: 01/02 01:15
- 著者: 甚平
「九峪様。九峪様宛に、各知事から書簡が届いております」
執務室で仕事をしていた九峪の下に、書簡を盆の上に載せた文官が訪れた。
盆の上には布・竹・木と、いろいろな書簡が大きな山を作っている。
「ああ、そこにでも置いてくれ」
「はい。失礼いたします」
九峪の机のすぐ横にある台に盆を置くと、文官は一礼して退室していった。
「・・・・・・にしても多いな」
書簡を見て、九峪はため息をつく。神の遣いである九峪は、戦争が終結した後でも何かと忙しい。
何せ九峪以上の教養をもっている人間がほとんどいないのだ。政治の大部分は、九峪の専門と言っても過言ではない。
そんな九峪に回される仕事は、はっきり言って多い。べらぼうに多い。
あまりの多さに夜逃げをかましたほどである。(清端によって連行され、亜衣に説教を食らう)
今でさえ、九峪の周りには大量の竹簡、木簡等が煩雑に散らかされている。
そこへこの書簡の山だ。頭も痛くなるというもの。
「まったく、こっちも大変だってのに!」
愚痴をこぼしながら、九峪はやや乱暴に盆の上の木簡を手に取る。
いったい何が書かれているのか、と思いながら目を走らせた。
「―――――――――へ?」
そこに書かれていた文章を認識したとき、九峪はそんな間抜け声を出してしまった。
その木簡の序文はというと―――
『あけましておめでとうございます』
そもそもの始まりは、九峪のある言葉だった。
「そういえば、そろそろお正月だよな」
「「「「「「「「「「おしょうがつ?」」」」」」」」」」
年に一度の大会議の折、宴会の席で言った九峪の言葉に、居合わせた者達が声を揃えて鸚鵡返しに聞いた。
「九峪様。『おしょうがつ』とは、何でしょうか?」
亜衣の言葉に、九峪ははじめ驚いた顔をしていたが、すぐに納得顔で
「・・・・・・そっか。この時代じゃあまだお正月の風習は無いんだな」
と呟いた。
「・・・?何か言いましたか?」
「いや、なんでもないけど・・・」
亜衣の言葉にそう返した九峪は、頭の上に?マークを躍らせている皆に苦笑交じりにお正月を説明する。
「お正月はな、簡単に言えば新年を祝おうという、俺の世界の風習なんだ」
「「「「「「「「「「ふむふむ」」」」」」」」」」
一様に頷く皆。
その中から、小さな腕がひょこっと上がった。
「九峪様〜、質問」
「ん、何だ羽江?」
腕を上げたのは羽江だった。羽江は興味津々の顔で質問する。
「おしょうがつって、何するんですかぁ?」
その言葉に、皆の視線が九峪に集中する。
九峪は少し引き気味になりながらも、説明する。
「まぁそうだな。初日の出を見たり、煩悩を取り払ったり、神様にお願い事をしてみたり、年賀状を出したり、お神酒とか甘酒っていう酒を飲んだり、おみくじ引いたりetc・・・・・・そんなところかな?」
「神様にお願い?」
「酒を飲んだり?」
何か一部で目ざとい反応があったような気がするが無視だ無視!
「ねんがじょう、とは何でしょうか?」
今度は衣緒が質問する。衣緒はどこかの二人とは違って健全な疑問を持ったようだ。
「年賀状って言うのは、新年の挨拶を書いて相手に見せるものだよ。貰ったら相手に必ず返さないといけない」
「必ず、ですか?」
「ああ。最低限の礼儀、ていうかそう言うものなんだよ。挨拶だからさ」
「はぁ」
いまいちピンとこないのか、釈然としない表情で衣緒は生返事を返す。
それに九峪は頬を掻きながら「よくわからないかなぁ」と思った。
そうしてお正月に関してのQ&Aが繰り返される中、羽江がある提案をした。
「じゃあさぁ、みんなでねんがじょうを出そう!」
「「「「「「「「「「おお〜!!」」」」」」」」」」
そんなこんなで、幹部連中で、互いに年賀状出し合うことになった。
「お、思い出した・・・・・・」
呆然としながら、九峪は木簡をもって脱力した。
こんなことを忘れていたなんて。
ということは、これは全部・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・(ゴク)」
生唾を飲み込む。
背に嫌な汗が流れるのを感じる。
「・・・・・・覚悟を決めるしかない」
仕事は押している。本音を言えば、それらをやりたいところだ。
しかしお正月を教えた者として、また神の遣いとして、こちらもやらなければならないだろう。
というかやらなければ、その後の報復が怖い。
「ま、まずは呼んでいこうか・・・」
九峪は、手に持った木簡の続きを読み始めた。
差出人:伊万里
『あけましておめでとうございます。
新年ということですので、年賀状をお出ししました。
こちらでは、元防衛線ということもあって、未だに復旧が終わりません。
とても忙しい毎日です。
九峪様はどうでしょうか?お仕事も大変だとは思いますが、お体にお気をつけてください。
昨年は、本当にお世話になりました。
今年も、よろしくお願いいたします。
では、良いお年を』
「・・・・・・なんていうか、普通、だな」
ちょっと拍子抜けの九峪。
「でもま、伊万里だしな」
それはちょっとひどくない?
「さて次は・・・」
・・・・・・スルーかい。
差出人:香蘭(紅玉が代筆)
『あけましておめでとうございます。
昨夜の日の出はとてもすばらしく、新年がとても明るく感じました。
九峪様も初日の出はご覧になられましたか?
母娘共々お世話になるかと思いますが、これからもよろしくお願い致します。
では、良き新年を』
「・・・・・・(紅玉が代筆)って何だよ?」
釈然としない表情で、九峪。
いやだって、香蘭は字、書けないしさ?
こりゃ紅玉さんが書くしかないっしょ?
「これじゃ香蘭じゃなくて紅玉さんの年賀状だろ」
・・・・・・はい、そうですね。
「まったく、このアホ作者は・・・」
ひ、ひどい・・・。
「さて、次は・・・」
差出人:藤那
『新年明けましておめでとうございます。
お神酒とはいいものです。神聖な酒です。
どれだけ飲んでも閑也に文句を言われません。
甘酒も美味しいです。
今度、共に飲み明かしましょう。
では、よいお年を』
「・・・・・・酒しか書いてねぇ」
げんなりした様子で九峪は呟いた。
酒ばかり書かれればたしかにうんざりもする。
「お神酒を何か勘違いしてるし」
気にしたら負け。
「しかし、これはこれで藤那らしいな」
たしかに。
「神聖な酒とか言って、飲みまくってるな。お神酒を」
間違いなくね。
「・・・まいいや。次々」
差出人:志野・珠洲
『新年、あけましておめでとうございます。
昨年はお世話になりました。
一座共々、感謝申し上げます。
これからも、健康にお気をつけください。
これからもよろしくお願い致します。
あけましておめでとう。
何を書けばいいかわからないから、とにかく書きたいことを書く。
仕事は大変?
大変ならいつでもこっちに来ればいい。
一座に入れてあげる。
乳女や、眼鏡や、田舎女や、馬鹿女に嫌気がさしたらいつでも来て。まってる。
それからそんなことは無いと思うけど、無闇と女に手を出したら新年を楽しめない身体にするから気をつけて。
それじゃ。
いい年を』
「・・・・・・・・・(ガクガクブルブル汗汗汗)」
汗を噴出して震える九峪。
どうした?
「・・・・・・こ、殺される」
・・・君、何した?
九峪は自らの頭を抱えてうずくまった。
「間が、間がさしただけなんだ〜」
・・・ま、別にいいけどさ。
にしても、なんか珠洲に懐かれてるね。どうした?
「いや、いろいろあってさ・・・」
ふ〜ん。
あ、珠洲。
「!!!!!!??????(ビクゥ!!!)」
・・・・・・冗談。
「・・・・・・さ、次だ」
そうですね。
差出人:只深
『新年明けましておめでとさん。
なんや、昨年はいろいろとお世話になりまして、その節はどうもおおきに。
九峪様のおかげで、半島の親父さんにもぎょうさん褒められましたわ。
神の遣い様万々歳ですわ。
今年も、たくさんお世話になるさかい、よろしゅうたのんます。
それでは、良いお年を』
「・・・・・・文で書いてもこれかよ」
呆れた様子の九峪。まさかこう来るとは思っていなかったらしい。
「ある意味すげえな」
たしかに、これはもう才能だね。
「こうなると、伊部の文がすごい気になるんだが」
読まないほうがいいと思う。
「・・・・・・たしかに、怖い」
そうでしょう。
「次でラストかな?」
みたいだね。
「どれどれ」
差出人:星華
『新年明けましておめでとうございます。
昨年は、本当にお世話になりました。
今年はご迷惑をおかけしないように、全力で頑張りますので、また一年よろしくお願い致します。
九峪様は〈初夢〉はもうご覧になられましたか?
私はとてもすばらしい夢でございました。
夢の中の私は九峪様の正妻で、二十七人の子供を授かっているのです。
男子が十二人、女子が十五人でした。
夢の中の私達はとても幸せそうでした。
仕事の傍ら、私達は庭で子供達と遊んでいるのです。
『星華、見てご覧。子供達があんなに楽しそうだ』
『そうですわね、九峪様』
はしゃぎまわる子供達。そんな子供達を、九峪様は目を細めてみていました。
突然、九峪様が私を押し倒しました。
―――以下、規制により添削致します。
では、良いお年を』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗)」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗)
汗を流して固まる九峪。
その表情はかなり引きつっている。
「・・・・・・・・・・・年賀状か、これ?」
・・・・・・しらない。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・俺にどうしろと?」
・・・・・・・・・・・・・・・さぁ?
「これで全部か・・・」
書簡を読み終えたとき、九峪はすでに疲弊しきっていた。
なにせ内容が内容なだけに、疲れまくったのだ。
「伊万里と志野、香蘭(というか紅玉)はあんなに普通だったのに・・・」
普通すぎて内容は覚えていないのだが。
「しかしなんて返せばいいんだ?特に星華」
あの流れだと、まるで求婚されているような気がする。
「ま、まぁとにかく書こうか・・・」
そう呟き、九峪は木簡に筆を走らせる。
「えっとまずは・・・」
『あけましておめでとうございます』
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