火魅子伝神の使い代行者 第一話「バイト代、貰えんかった〜!」
日時: 06/14 02:48
著者:

「すみませ〜ん、ロープより中へ入らないで下さい」

(ふう、どれだけ人来んねん。まあ、しゃあないか。邪馬台国の銅鏡が見つかってんからな。)




約三ヶ月前そのニュースはテレビのニュース速報はもちろんスポーツ、経済など種類を問わず全ての新聞の一面を飾った。

『ついに邪馬台国見つかる?』

『7月7日、九州大学教授、姫島教授の発掘チームが耶牟原遺跡で歴史上類のない銅鏡を発見しました。
 専門家によると銅鏡には「ヤマタイコク」と読める部分があり伝説の国が発見されたのではと言われています』

『邪馬台国は九州にあった!』

テレビでは連日連夜特別番組が放送され、耶牟原遺跡には考古学の権威達がこぞって集まった。





それから一ヶ月がたち、まだ断定は出来きってはいなかったが専門家達は耶牟原遺跡が邪馬台国のあった場所で間違いない

と、いう結論に至った。

そして発見された銅鏡は女王ヒミコが使っていた。とう事になった。

「日本の歴史の重大な発見は日本国民全員が見る資格がある」と、いう姫島教授の発言で銅鏡は

各地方の出来るだけ大きな博物館に展示される事となった。

九州、中国、四国地方の展示が終わり笑いの都関西の番になった。




しかしタイミングが悪いことに関西で一番大きな博物館が改装工事が終わった次の日から

展示が始まる事となった為、博物館内での人事がうまくいっていなかった。

最も大きな問題が警備だった。出入り口や順路に立つ者、夜の警備等どうやっても人数が足りなかった。

打開策として館長が館長の孫である橘大和と友人の数名に昼の警備と夜の警備のバイトを頼んでみることになった。


「大和、済まないが博物館の警備を頼めないか?」

「爺ちゃん、俺今友達とキャンプしてんねんで?無理に決まってるやん」

「そう言うな、タダとは言わん、一人一日に付き2万円で一週間どうじゃ?」

「…ちょっと聞いてくるわ」

「わかった、吉報を期待しとるぞ」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「もしもし爺ちゃん、皆やるって」

「おお!有難い!それじゃあ今から出来るだけ急いで来てくれんか?時間が惜しいんじゃ」

「分かった、ほなまたあとでな」


一日2万円という言葉につられた大和と友人達だったが昼は立ちっぱなし夜は寝られない事を

この時はどれだけ辛いかをまだ知らなかった。
[作者のオマケ・・・いや、マジで辛いですよ。ホンマに。昔やった時死ぬかと思いましたよ]




あまりの一日目の昼の辛さに大和達は夜は半分が寝て半分が起きておく交代制にすることにした。




一日目二日目と問題無く展示が終わったその夜、大和達が寝泊りしている部屋に館長と姫島教授が顔を出した。

「大和、元気にしとるか?」

「爺ちゃん。…と確かあなたは姫島教授っスよね?何で此処に?」

「いやなに、君のお爺さんとは旧知の仲でね、久しぶりに会おうと思ったのと警備の人に
 ある事を伝えに来たんだよ」

「報告?なんスか?」

「明日はワシの孫が通う学校の修学旅行があって此処に来るんだよ、
 高校生だから大分騒がしくなりそうになる。それを伝えておこうと思ってね」

「そうなことの為のわざわざ?」

「私の孫はだね、なんと言うかその〜元気が良すぎるというか、うるさいというかとにかくまあ
 そういう形容詞が当てはまる子なんだよ。
 よく目立つ子だからもしかしたら迷惑をかけるかもれないけどよろしく頼むよ」

「はい、分かりました。スイマセンわざわざ」

「いやいや、っとあまり遅くなっては私達が迷惑だね。私達は御暇させていただくよ」

「はい、ありがとうございました」

「大和、頑張ってくれよ」

「OK、任せといて〜」




<というわけで冒頭に戻る>

(ハア〜ほんまに人多いな)

博物館は朝9時に開館し夕方6時に閉館するようになっている。

今は1時でありほかの時間に比べれれば比較的人の数は少なかった。

しかし休憩に行けるほど少なくはなかったので昼飯はまだ食べられていない。

(しゃあない、今日は昼飯は抜きやな・・・ん?)

一瞬銅鏡が光ったような気がした。

照明の反射かと思ったが照明は固定されているし自分が場所をまったく移動していないので一瞬だけ光るのはおかしい

照明がかなり明るいのでカメラを使う際でもフラッシュを使う必要も無い

確かめようとも思ったが自分は此処を動くことが出来ない

(誰かの携帯のカメラかな?それにしては変な感じがしてんけどな…?)
   



結局調べられないまま午後3時を過ぎた。耳の無線のイヤホンから高校生の団体が入場したとの知らせが入った。

(教授のお孫さんがいはるんやったな)

暫くすると順路の後ろの方が騒がしくなり始めた。制服を着ていたので間違いは無いだろう

隣と喋る者、携帯を触る者など様々だが基本的には歴史的発見ということで近くに来た時には真面目に銅鏡を見ていた。

中には許可されているためデジカメや携帯用カメラで撮るものもいた。

列は最初の方が見えなくなってもまだ最後尾は見えていなかった。



  リィ〜〜ン 



(鈴の……音?ストラップか何かか?にしても何やこの…懐かしさみたいなものを感じるのは?」

と、その時一人の女子高生がいきなり後ろに倒れていった。大和はとっさに頭を下から支えた。

体はその女の子の隣にいた男子が支えていた。

「おい!日魅子!しっかりしろ!日魅子!」

周りの目も気にせずにその男子は必死で女の子を呼び続けた。

(ふ〜ん、この子ヒミコって言うのかあだ名か何かかな?)

大和が不思議に場違いなことを考えている内にその女の子の目がうっすらと開いた。

「日魅子!大丈夫か!?」

男の子が思わず顔を思いっきり近づけて聞いた

「ちょっ…ちょっと九峪、近いよ」

「あ、ゴメン」

女の子に突っ込まれて男の子が顔を離した。

女の子は自分でもよく分からなかったらしく回りをキョロキョロ見回した。

「アレ?私?何で床に座ってるの?」

「ハア〜あのな〜」

無事なのでホッとしたのと拍子抜けで男の子から大きなため息が漏れた。

「君がいきなり倒れてんで?」

男の子に失礼かとは思ったが自分自身も心配だったので思わず質問に答えてしまった。

「ええ!私が!…え〜と?」

「ああ、俺はココで警備しているモンや、貧血か何かやったら事務所に連れて行こか?」

「え!あ、いえ、だっ大丈夫です!はい!」

周囲の人達が驚かんばかりの早さで女の子が立ち上がった。

「そ、そうかそれならええんやけど」

「それでは失礼致します」

言うや否や今度はいきなり順路に沿って走り出した。

「おい!日魅子!ったく。あ、さっきはどうもありがとう御座いました。
 俺だけだったら多分あいつ頭を強く打ってました」

「いやいや構へんよ」

自分の尻をはたきながら大和が立ち上がった

「あんな時は横からやったら体を支えるよりは両手を肩と後頭部の後ろに回した方が安全やねんで。
 階段とかで正面から人が突っ込んできたなら自分がマットになる気持ちで、
 力を入れすぎず勢いを殺しながら一緒に転んだったらええねん
 高い位置やとあんま意味ないけどきま、一応覚えとき」

周りのギャラリー達が思わず頷いていた。

大和は男の子を手招きし耳を貸せというジェスチャーをした

「例え君があの子のお尻を触りたかったとはいえ時と場合を考えや?」

小さく耳打ちをした

「ち、違いますよ!」

「ハハハ。冗談やん、ジョ・ウ・ダ・ン。ほらそれよりもはよ追いかけたりや」

もちろん二人が話している間に女の子の姿は見えなくなっていた。

「あ、ハイ。本当にどうもありがとう御座いました」

お辞儀をして男の子が走り出そうとした

「あ!それから」

男の子が振り向き何ですか?という顔をした

「博物館の中は走るの禁止」

大和がお母さんが小さい子にメッとするようなジェスチャーで注意した

男の子が思わずプッと噴き出した。

その後もう一度お辞儀をして今度は早歩きで歩いていった。

(若いって良いな〜……こんなん思うから皆からオッサンくさいって言われるんやろな)

人知れず落ち込んだ時、さっきよりは弱くはあったが再び鈴の音が聞こえた。

(又か?なんなんや、さっきから?)

暫くすると完全に聞こえなくなった。

(なんや気持ち悪いな。……ま、ええか)

気持ちの切り替えが早い。これもある種の才能だろう。

(気にしててもしゃあないな、さて仕事頑張るか)

この時、銅鏡を見ていた人は銅鏡に不思議な影が写ったように見えた。

もっともそれは一瞬で一度きりだったので皆が皆、気のせいで済ませていた。




その夜


「なあ大和?」

シャワーを浴びてきた友達が筋トレをしている大和に話し掛けてきた。

「ん?何?」

一時筋トレを中断しあぐらをかきながら呼びかけに答えた

「いやな、俺らキャンプの途中でココに来ただろ?」

ウンと言いながら大和が頷いた。

「んで、お菓子とかはこのままで良いとして大して無いとは言え米とか野菜の食料や
 ナイフとかテントの材料あったら邪魔だろ?一度持って帰らないか?
 幸いココからなら皆の家も比較的近いことだしさ」

「せやな〜あっても邪魔になるだけやし車もある事やしな、そうしよか
 でも誰が持って帰るん?
 詰め込んだら一人のバッグに入りそうやけど…」

他の全員を見た時、大和は悟った

良い言い方→民主主義

悪い言い方→数の暴力

結果はどちらも変わらなかった

「…OKOK、分かった元々誘ったんは俺やしな責任もって持って帰るわ」

「お、話が分かる〜♪さすが大和。ついでに帰りにコンビにかどっかでお菓子とか買ってきてな」

「ハア〜…了解了解」


数分かけて自分のバッグに着替え、米等の食料、を入れ背負い

友達二人のバッグを借りその中にテントの布と骨組みを入れ手から下げた。

「ホナ、行ってくるわ」

「「「「「いってらっしゃ〜い」」」」」

(こいつ等練習したんか?)

完全にハモっていた。




靴を履き警備員室のドアを開けたとき不意にドアが戻ってき、強くは無かったが鼻を打ってしまった

(イッターーー何やねん!何のドッキリや!)

もう一度、今度は慎重にドアを開けた

ふと、ドアの外を見てみると昼間の高校生達が立っていた。

「あ、こんばんわ…あの何かありました?」

「ま、色々ね」




夜中の博物館、普段は一時間に二度の警備員の足音しか聞こえない場所に

今夜は二人の話声と三人分の足音が響いていた

「本当にスイマセンでした。橘さん」

「ホンマに気にせんでええよ、九峪君、あれはタイミングの悪い事故やってんから」

三人は警備員室の外で自己紹介をし何があったのかを確認した。

説明するなら大和がドアを開けようとした瞬間、九峪がドアをノックしようとしたのだった。

大和は両手に荷物を持っていたためあまり力が出ず、九峪は聞こえねければいけないと思い

強めにドアを叩いたのだった。

正にタイミングと不幸が完全にマッチした事故だった。




「にしてもやぞ、九峪君?」

「はい?」

「修学旅行中の夜中のデートは良いとして
 その場所が昼間に来た博物館というのはどうかと思うぞ?」

「だから…そうじゃなくてあいつがどうしても今すぐに行きたいって言うから来たんですってば」

「冗談だってジョ・ウ・ダ・ン。ん〜でも何で姫島さんはココに行きたいなんて言い出したんやろう?」

二人が二メートル程前を歩いている日魅子を見た。

(しかし、偶然てあるもんやな。まさか偶々助けた子が姫島教授のお孫さんなんてな  
 にしても昼間はともかく今は話とは全然違うな)

「それにしても本当にスイマセン」

「え?何が?」

「昼間にはあいつは助けてもらいましたし、夜は夜でドアをぶつけるし我侭を聞いて貰ってますし…」

「せやから、気にすんなって。昼は体が勝手に動いただけやし
 夜は事故と俺の都合のついでやねんから」

「そう言っていただけると助かります」

「九峪君等の方が五つも下やねんからそんなに気にせんでええよ」

  
  リ〜〜ン 


(!またや!又あの不思議な鈴の音や)

「?橘さん今鈴の音しませんでした?」

「…九峪君も聞こえたって事は俺の気のせいや無いらしいな」

ふと前を見ると日魅子がかなり前におり例の銅鏡の前に立っていた。

 
 
  リ〜〜〜ン   リ〜〜〜ン



鈴の音がさっきよりハッキリかつ強く響いていた。


  
  リ〜〜〜〜〜〜〜〜ン



一際大きな音が響くと銅鏡の鏡から光が放たれた。

(あれは昼間の?)

そう昼間に一瞬光ったあの光だった。

もっとも明るさ、大きさ、強さどれをとっても昼間の比ではなかった。  

思わず二人は目を腕で覆った

すると光が日魅子の顔の前に集まり始めた

光は…いや今はもう光ではなく四十センチ程の人の形をしていた

大和も九峪もただボーゼンとするしかなかった。 

「ヨウヤク、アエタネ」

男とも女とも聞き分けが出来ない不思議な声が聞こえた

いや、日魅子の前にいる者が喋っているのだ。

「キミノ、キミノイルベキセカイヘ」

日魅子の足元に不思議な魔方陣の様な物が現れ、いきなり日魅子を中心に光の柱を作った。

日魅子のネックレスがふわふわ首にかけたまま浮き始めた。



  リ〜〜〜ン   リ〜〜〜ン



「鈴が…日魅子の鈴が鳴ってる?昔から何をしても鳴らなかったのに!」

「鈴やと!?」

見れば確かに周りが派手な形はしてはいたが真ん中には一般的な形の鈴があった。 



  リ〜〜〜ン   リ〜〜〜ン



二人が話している間にも鈴は鳴り続けた。

そして日魅子は足元からだんだんと光の泡になっていた。

「姫島さん!!」
「日魅子!!」
 

一瞬早く大和が反応した。

あまりの事に手から荷物を離すのを忘れていたのを思い出し急いで離した。



ガッシャーーーン



テントの骨が派手な音を立てた。

(クソ!情けねえ!これくらいで冷静さを無くすなんて!)

自分を叱責しながら急いで走っていった。

大和が余りにも足が速かったため九峪と少しばかり間が空いた

自分のバッグは背負ったままだったが使い慣れていた物だったので気にもならなかった。 

大和が着いた時には日魅子は膝のあたりまで光の泡になっていた。

「姫島さん!!!」

大声で呼んだにもかかわらず日魅子は人形のように立ったままだった。

(落ち着け、落ち着け俺、こうなったのは鈴が鳴り始めてからやったよな?
 せやったらこの鈴をどうにかすれば!!)
 
大和はネックレスの鎖を千切った!

しかし今度は光の柱が広くなり自分までもが光の柱の中に入ってしまった。

そして自分自身も足元から光のになりつつあった。

その時になりようやく九峪が近くまで来た。

「橘さん!!」 

「九峪君来んな!!!」

その一言で九峪は光の柱に入る寸前で止まった。

(どうする……やっぱ…これしかないわな)

「九峪君、今度はちゃんと受け止めろよ?」

一瞬九峪には大和が何を言ってるのか分からなかったが

ココは橘と初めて会った場所だった。

そう、初めて会話を交わした場所だった。




「あんな時は横からやったら体を支えるよりは両手を肩と後頭部の後ろに回した方が安全やねんで。
 階段とかで正面から人が突っ込んできたなら自分がマットになる気持ちで、
 力を入れすぎず勢いを殺しながら一緒に転んだったらええねん
 高い位置やとあんま意味ないけどきま、一応覚えとき」




大和と九峪が頷きあった

(姫島さん、ゴメンな。ちゃんと九峪君に受け止めてもらってな)

足首が光の泡となった為、踏ん張りは効かなかったが上半身は何とか動けた

ゴメンと思いつつ大和は日魅子の鳩尾の辺りに右手を付けた。

そしてそのまま上半身のバネ、右手の筋力、背筋を使い

「ウルァーーーー」

日魅子を吹っ飛ばした。

光の柱から出た日魅子は泡になった部分が元に戻っていった

九峪は大和に言われた通り自分がマットになる気持ちで、

力を入れすぎず、勢いを殺しながら一緒に転んだ。

「日魅子!日魅子!!」

日魅子は眠っているようだった。もちろん息は普通にしていたので大丈夫そうだった

九峪は日魅子を抱きながら涙ぐんでいた。

(おお〜十分な合格点やな、さて……俺はどうすっかな?)



    リ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン



いきなり電車の発車ベルのごとく左手に握っていた日魅子の鈴が鳴った

それと同時に体が一気に泡になり始めた。

左手も泡になったため鈴を離すことも出来ない。

「橘さん!!」

日魅子を抱いて座ったままだった九峪が大声で大和を呼んだ。

もう胸の辺りまで泡とになり、そのせいかうまく声が出なかった大和は

苦しいながらも九峪に向かって微笑んだ。

ふと目にテントの骨が見えた

(あ〜あ、約束守れへんかったな〜
 そういえば4万も損したんか、大損やな〜)

消え行く意識の中、大和は場違いなことを考えていた。




やがて大和の全てが光の泡になった。

そして光の柱も魔方陣の様な物も消えていた

「た……ちばな…さん」

そこに残るのは九峪と日魅子、テントの布と骨組み

そして銅鏡が在った筈の展示ケース

そう銅鏡が在った筈の……