火魅子伝神の使い代行者 第三話「楽しい楽しい?昼御飯」 (H:ゲーム+小説 M:キョウ+オリ J:ギャグ+シリアス
日時: 06/22 04:08
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 森の中を大和は軽いランニング位の速さで移動し、その後ろをキョウが必死で飛んでついて行っていた

「ちょ、ちょっと大和!あんまりとばし過ぎると直ぐにバテるよ?」

「いや〜それがな」

 舌を噛まない為に移動スピードを緩めながらキョウの問いに答えた

「さっきも言うたけど、体が疼いてな。こう『運動しろ運動しろ』って感じで命令してくんねん」

「でも、いきなり反動でバタッて来るかもしれないよ?」

「…そうやな、んじゃあ、歩くか」

 ふと腕時計を見てみると移動を始めて約二時間経っていた。

 最初、キョウに突っ込まれた後、方位磁石で進行方向を確認してからは確認しながらひたすらにまっすぐ来ていた。

 いくら鍛えて山道に慣れていようとも現代人が二時間も軽くとはいえ走り続ける。しかも何の塗装もされていない森の中をだ。大和自身、自分の体力の増加に驚いていた

(身体能力上がるって言うても上がりすぎちゃうか?)

 ゆっくり歩きながら息を整え始めた。

 深呼吸をすると今まで吸った事が無いほど緑溢れる空気が胸に入ってきた。

 車の排気ガス等の公害が全くない澄んだ自然だけの空気、おいしかった

 風が吹くと木々の枝や葉が当たりあい自然の音楽を鳴らしていた 

『グ〜〜〜〜』

 そこへ雑音が二人の耳に入ってきた

「大和?」

「…ゴメン…俺の腹の音や」
 
 思い出せば前日の朝を食べてからは、何も食べていなかった。

 昼は警備が忙しく食べ損ね、夜は家に帰った時か、帰りのコンビニで済まそうと思っていたがそれも出来なかった。

 今まで口にしたのといえば警備員室でのコーヒーと二時間前に飲んだ少しの水だけだった。

「そういえばもう昼ぐらいかやな…」

 影を見下ろすと自分の真下に、上を見ると太陽が真上にあった

 自分の時計が午後11時過ぎをさしていたので時計をちょうど正午にあわせた。

「腹減った〜」

「それじゃあ、休憩がてらお昼にしようか」

「そうやな」

 そう言いながら森を一度抜けるために再び歩き出した。
 
 

 数分歩き森を抜けると斜面に出た。景色は今まで見た日本の山の景色では何よりも美しかった

(そうか…人工物が何も無いんか)

 コンクリート造りの建物の代わりに大きな木々が、高速道路などの人工の道の代わりに川が流れていた。

 ポケットの中から都こ○ぶを出し、一枚食べた。塩がよく効き唾液が出てきた。

(コレも…バっグの中にあるの無くなったらもう暫く食えへんねんな〜)

 箱を見ながらしんみりとなろうとした時

『グ〜〜〜〜〜〜』

 しんみりとする間も無く、情けないほど大きな音で自分の腹が再びなった。

「ところで大和?何を食べるの?」

 キョウが後ろから聞いてきた

「何を食べる?フッフッフ決まってるやろ?」

 荷物を降ろしながら大和が答えた

「現代の子供はおろか年を取った老人でも簡単に作れ」
 
 荷物の真ん中あたり、食べ物をまとめて入れたエリアを探りながら一人言のように続けた

「そして、どんな世代にでも慣れ親しめられている、これや!!」

 叫びながら荷物の中から出してきたのはカレー!そうレトルトのカレー

 レンジでチンは勿論、熱湯に数分入れるだけでも出来てしまう優れもの

「外で食べるカレーは格別やで?キョウも食うやろ?」

「う…うん、でもさ?」

「うん?なんや?」

大和が後ろを振り返るとキョウは言うのが申し訳なさそうな顔をしていた

「鍋も何も無いよね…確か…」

 ハッ!と気付いた、確かに何も無かった…

 火はある、マッチもあれば、キャンプ前に補充したばかりのジッポまである、いざとなれば術もある
 
 釜戸は、石などを積めばどうにでもなる

 しかし

 肝心の調理道具が包丁しか無かった鍋の代用にできそうな物も無かった。

 沈黙が数分続いた

(大和が本気で落ち込んでるよ〜。よ〜しココは一つ軽いギャグで!)

「大和元気出してよ!ホラ昔のエライ人も言ったでしょ?
 『パンが無いならお菓子を食べたら良いのに』オホホってね?あ、オホホは僕が付け足したよ?
 それにホラ、まだ都こ○ぶもあるしクッキーもあるじゃない?
 いざと成れば、妖怪油舐めみたいにジッポの油を飲んだり
 カブトムシみたいに砂糖水を木に付けて舐めれば良いんだよ
 あ、そんなことをしたら、大和がいっぱい集まって来ちゃうかな?」

 アハハ、とキョウが笑った

「……………わ」

「え?何か言った」

 何を言ったかはキョウには聞こえなかったが大和がかなり長い何かを言ったのかはハッキリと聞こえなかった。
 
「………で…………わ」

 キョウは大和の左側から近づいた。キョウには死角で見えなかったが大和はキョウから貰い首から下げていた赤い宝石を右手で握った。

「聞こえないって!もっと大きな声で言ってよ!」

「俺は!フランス革命時の庶民でも無いし!
 お菓子ぐらいじゃ気分転換ぐらいにしかならへんし!
 ましてや!妖怪でも虫でも無いわ!!!!」


 スッパーーーーーーーーーーーン!!!!
 ボスン!!!


 小気味いい音と何かが地面に叩きつけられたが響いた
 
 大和がハリセンを利き手である右手で、上からキョウに向けて振り下ろしたのである

 キョウが顔半分を埋めながら何とか聞こえる声で文句を言った

「ちょ、ちょっとしたギャグ…じゃ……ないか」

「ギャグにしても言い過ぎや!ったく……うん!?」

 大和は自分の右手にあるものを確認して驚いた

 ハリセン、今ではテレビ等でバツゲームなどで使われるもの、
       画用紙等の硬い紙の一辺を山折り谷折りを繰り返し作られるもの

 頭の中でそんな文が流れた 

(ちゃうちゃう、そんなんどうでもええねん!) 

 自分で自分を突っ込んだ後、顔半分埋もれているキョウを引っ張り出した。

「キョウ!これは確か『使う者の意志を読んでそれを実体化させる物』やったよな!?」

「う、うん」

 大和の勢いに自分が怒っていた事も忘れ思わず素直に頷いた

「そうか、それやったら」

 大和はハリセンを元に戻し、目を閉じ実家のい台所を思い出した

 戸棚の中、コンロの上、洗い場、全てに共通する物、フライパン!!!!

「やっぱりな…」

 大和の手には自分で選んで買った、今ではもう懐かしい慣れ親しんだフライパンがあった

「スゴイよ!竜の牙にこんな使い方があったなんて!」

「『竜の牙』?何やそれ?」

「何やそれって今、大和が持ってる……言ってなかった?」

「初めて聞いたわ」

 自分を守ってくれると同時に自分を脅かす物の名前を知った

 竜の牙、ある意味、諸刃の剣にはふさわしい名前かもしれなかった

「ふ〜ん、竜の牙ね、あ、それよりもや!これなら料理出来るで!」

 言うな否や、大和は再び目を閉じある物を思い描いた
  
 友達が持ってきたもの、キャンプ等でしか使わない、しかしながらもこれがまたうまくいったらご飯が美味しい、そうその名は

 
 飯盒!!!!


 目を開けると手には飯盒の取っ手の部分があった、

「ヨッシャーーーー!!!キタキタ、コレなら出来るで、美味しいご飯が出来るで!!!

 少々興奮しすぎとの突っ込みが入りそうなぐらいの勢いで大和が吠えた
 
 大和は一度深呼吸をし落ち着いた後、早速料理を始めた

 

 幸い、米は無洗米、貴重な水を使わずに済んだ。

「キョウはどれ位食うん?」

「ん〜普通に人が食べるくらい」

「カレーも?」

「もちろんだよ」

「OK〜〜」

 飯盒に米を二人分入れ水を入れ始めたこういう時飯盒は便利だ、中蓋で約二合が量れるし中に水の量の線が付いているので入れすぎたり少なすぎる心配が殆ど無い
 
 固めが好きな大和はちょっと少なめに水を入れた
 
 大和は一度森に入りすぐに戻ってきた

「何を取って来たの?」

「ああ、これ?簡易の釜戸用にな」

 そう言った大和の手には
 
 大きな硬い枝1本
 Y字に枝分かれした枝2本
 小さいのや大きな乾いた枝がいっぱい
 
 があった。

 
 工具入れから大き目のドライバーを取り2pほど掘りその穴にレトルトを2袋入れ上から水をかけ軽く土で埋めた

「何してるの?」

「まあ、黙って見てろって」

 その上に先程の乾いた枝のうち出来るだけ小さな枝を置いた
 
 小さな枝の山の少し離れた対極の位置にY字の枝を垂直に刺した

 枝分かれしている部分の位置を同じ高さにし、大きな枝を飯盒の取っ手に通し枝分かれの部分に置いた

 大和はバックの中から財布とライターを持ってきた
 
 財布の中からいくつかのレシートを出しライターで火を点けた

 火の点いたレシートを枝の出来るだけ下の方へ入れ残りのレシートを山に突っ込んだ

 暫くすると、火が枝にも点き始めパチパチと燃え始めた

 少しづつ入れる枝を大きくして火の高さが飯盒の半分ぐらいになった時に腕時計を見て一度手を休めた

「さ〜て一先ずはこれでいけるな、ん?何やその呆けた顔は?」

「いや、手際が良いな〜って思って」

「慣れてるだけやって」

 暫くは放って置いても大丈夫なのでキョウと話をする事にした

「なあキョウ?この竜の牙の事やねんけどな、想像した通りに術を使ったり武器を出したりできる万能の物やねんんな?」
              
「正確には意思を読み取ってなんだけどね、それに決して万能じゃないんだよ?」

「どういうことや?、想像した通りに物が出てきたり、術が出来たら万能やろ?」

「ん〜そうだね、ゲームとかで死の呪文てあるでしょ?現実に『コレは聞いた者を殺す呪文だ〜』とか言って聞いた人が死ぬ姿を想像できる?」
 
「いや、心筋梗塞とかで死ぬんならともかく、そんなんで死ぬ姿はちょっと出来へんな」

「じゃあ大和アレを見て」

 キョウの指を指すほうを見ると飯盒の下で火が燃えていた

「アレって火の事か?それがどうしたん?」

「火に触るとどうなる?」

 大和が怪訝な顔になった

「そりゃあ、熱いし、火傷するし、酷い時は死ぬな」

「想像できるよね?」

「そりゃあな…あ、そうか」

 要約すると大和が火を出せたのは実際に火を見たことがあり熱い物でそれが手の平の先にあると想像できたから、

 でも、逆にもし火がどんな物か知らなかったら、例え姿を知っていても熱いと知らなければ、

 出すことは出来ないし、そこに熱くない火が出たりするという事だ。

「え?でもおかしいやん?さっきやった時は火は形を変えて飛んでいったし、武器ではビームサーベルも出たやん?」

「大和、ビームサーベルって現実で見た事がある?」

「あっ!」

 そう、さっき説明通りなら、形は知っていたから形としては出せる、しかし、実際に見た事が無い

 その為、実際に威力を出す事は出来ない、ビームライフルも同様だ。
 
「現実で知っていて出来るだけ正確に想像できないと、どんなに強い武器や術を想像してもその威力は発揮されない。」

「じゃあ、缶をぶっ飛ばした火の玉は?」

「確かに形を変えたけど、あれは無意識で野球か何かのボールを想像したんじゃないかな?缶に当たったのはすごくコントロールがいい球が当たったって感じかな?」

「じゃあ、あの爆発は?」

「多分、大和の中で『当たったら爆発する』みたいなことをどこかで考えていたんだと思うよ。大和?どこかで爆発って見た事無い?」

 思い当たる節は多々あった、昔、二年程世界を回っている間、平和な事ばかりでは無かった、目の前で人が死んだ事もあった。

 想像した武器の中に銃が直ぐに出てきたにはその所為だろう。

 その旅の中で自分から見える範囲で爆発を見た事もあった。

 今、思えば火の玉が当たったときの煙や音はそれに似ていた。

(皮肉なものやな、思い出したくない思い出が無意識に今の自分を助ける形になるなんてな)

「大和?どうしたの怖い顔をして?」

 キョウは大和が突然眉間に皺を寄せ始めたので心配になっていた 

「あ、何でもないで、ついでに聞くけど武器で飛び道具を出したときは、俺が無限に使える銃とかを実際に見ない限りは 弾切れになったらそこで終わりってことか?」

「そうだろうね、でも一度元の姿に戻してまた銃とかにしたら問題は無いと思うよ?」

「それじゃあ、傷を治したり、毒とかを治療するのはどうしたらええん?」

「傷はもうすでに経験したり、直っていくのを見てたりしてたら直ぐに治せると思うよ?毒も同様にね」

 大和はフ〜と大きく息を吐いた。

 飯盒の方を見ると火が弱まっていた。再び木の枝を入れ火の勢いを強くした
 
「っていうか、さっきからキョウ、『多分』とか『思うよ』とか何か曖昧な言葉ばっかりやな?」

「うっ、それは〜その〜ね」

 キョウは言いたく無さそうだったが大和の問いただす様な真っ直ぐな目がそれを許さなかった「

「ハア〜分かった、正直に言うよ」

 自分への突くような痛い視線が無くなった

「実は僕自身は、あんまり術を使わなかったんだ。殆ど剣や槍として使っていたんだ

 術を使ったのは火事が起きたときに火傷の人を治したり、獣の群れが村や町に迷惑をかけた時に討伐用に使ったりで術を想像する機会があんまり無かったんだ。

 色々な術を使ってはいたけど殆どは元から方術にあったのを使っていたんだ」

「だから、いきなり俺が火を出したから、あんなに驚いてたんやな?」

「うん、そうなんだ。ゴメンね曖昧な事を言って…」

「ま、ええけどな、何にせよあいつの能力を使い切れるかどうかは、俺しだいやねんからな」

 今は飯盒の姿をし、ご飯を作ってくれている火竜の牙を見ながら大和は言った。

 大和が飯盒の蓋をドライバーで触ってみるとぐつぐつと振動が伝わってきた

(まだ、もう少しかかるな)

「そういえば」

 キョウの方を向いて大和はある疑問を聞いた

「最初の話に出てた天空人や魔人ってのは何なん?」

 言いながら地面に座った

「そうだね、今のうちに説明しておこうか、大和、五天って知ってる?」

「日本史か古文の授業になんか聞いたことがある様な…」

「多分それは別の事だと思うよ。僕がいってるのは五天」

 キョウはまた自分の指先を光らせて空中に字を書いた。

「五つに世界が分かれていて、それぞれの名前を上から『神界』、『仙獣界』、『人間界』、『魔獣界』、『魔界』って言うんだ

 上から説明していくと神界っていうのはいわゆる天国みたいな感じだね、

 神様とその神に遣える者、そして前に話した天空人が住んでいている場所だよ。大和もここから来たって事にしようね?」

 大和は了解の意味で軽く頷いた

「次に仙獣界、ここには仙人といわれる人が住んでいる。人を超えているけど神では無い人だね。
後、神獣と言われる獣が住んでいる。例えばそうだな…」

「ペガサスやユニコーンみたいなやつか?」

「そうだね、大和の世界の神話に出てくる幻獣だね。性格は基本的に大人しく穏やかなんだ。
人間界は勿論ここだね」

 キョウが人差し指で下を指しながら言った。

「次からは特に大事になってくるからよく聞いてね」

 と言われ大和は神妙な顔になった

「まずは魔獣界、さっき話した、仙獣界とはまるで逆、人は住んでなく、魔獣しか住んでないと言われている
魔獣の性格は極めて獰猛、力は強いし、中には何かしらの能力を持っているのもいる。
稀にここから神獣になるのもいる。元々、竜の仲間の火竜はこっちだったみたい。まあ、逆もありうるけどね
最後に魔界、大和に分かりやすく言うなら地獄だね。住んでいるのは魔人、姿形は様々。人に似ている者もいれば物語に出て来る化け物みたいなのもいる。
知能を持っていて喋る事が出来るしキチンとした思考が出来る。その上、殆どが相手を殺すのを至上の喜びにしているんだ。
しかもに一部だけど、術を使える者もいるんだ。術を使えなくても体が硬かったり、力が強かったり、人を遥かに超えた恐ろしい生き物なんだ」

 想像してみて恐ろしくなった。

 確かに現実世界でも銃やクスリ等の恐ろしい物がたくさんある。

 それでもそれらは使う者がいなければただあるだけの物なのだ。

 しかし、物語に出て来るような化け物たちはどうだろう?


 自分の意志で相手を殺す、自分の楽しみだけで相手を殺す

 
 そんな奴等が目の前にうようよいたら… 

 魔人に比べれば力が小さく同じ人間の不良が可愛く思えた。

「でも、そいつ等は住んでる世界が違うやろ?何で特に大事な話になるん?」

「…十数年前、狗根国が侵略してきた時、予想よりもずっと早かったって話は覚えてる?」

 つい二時間程前の話だ、忘れている方がどうかしている、大和はそんな顔をした

 ふいに前の話を思い出し、今の話を聞いて頭の中に嫌な予感がよぎった

 頭の中でそれが言葉になった。いや、なってしまった大和は恐る恐るキョウに聞いてみた

「まさか…まさかやで?狗根国は……」

 最後まで言葉にならなかった、いや頭のどこかで否定していたのだろう。そんな事はあって欲しくない!と

 現実は無情だった

「うん…今、大和が思った通りだよ、狗根国は魔人や魔獣を人間界に召喚する事が出来る」

 言葉が思い付かなかった

 自分が漫画やゲームで見ていたような化け物達と戦わなくてはならない

「こっちは召喚出来へんの?」

 キョウは無言で首を振った

「じゃ、じゃあ逆の神界からは?」

「試してみたんだ、十数年前に……でも神はもちろん仙人までもが召喚には応じてくれなかった。
本来なら、神界と魔界の間には協定があって、人間の召喚には応じないって約束事があるんだ。
神界はそれを守ってるけど、魔界はそれをこそこそ破ってる魔人がいるってわけ」

「じゃあ、神獣は?」

「神獣と魔獣はそれぞれ天空人と魔人の管轄なんだ。だから神獣は召喚には応じないけど魔獣は上にいる魔人が行くんだから召喚されたら行きたい放題だよ
 
 力の差がありすぎた、それが十数年前の戦いの雌雄を決したのだった

 相手は呼べば幾らでも恐ろしく強い増援がある、こちらには増援は全く無い、これでは勝ち目があるわけ無かった

 自分達が今からする事はこれよりも更に大変だろう

 味方は今のところ無し、敵は万全の体制

 差がありすぎる 

「ま、しゃあないか」

「え?」

 突然、大和の声のトーンが変わりキョウは驚いた

「いや、だってな?今は一番下のどん底やで?後は這い上がって行くしか無いやん?
どんだけ差があろうと関係無い!
『自分でやれることをやれるだけやる』これが俺の座右の銘や!
戦いに勝つしか無いんなら勝つだけや!
弱気になってもどないしょうもないんやからな!」

 キョウは不思議な安心感に溢れた。

 まだ会ってほんの二時間程しか経っていないのに目の前のこの青年なら耶麻台国を復興してくれる。そう思った

 根拠は全く無い。しかしそう事を思った

「ハハ、楽観的だね、大和は」

 嫌味でも何でもなく素直にそう思った

「前向きと言って欲しいな〜キョウ君?」

 さっきまでの重々しい空気はどこかへ行ってしまった。

 今は気持ちの良い風が二人の間を吹き抜けていた



「あ、忘れてた!」

 大和が急いで立ち上がり飯盒の様子を見てみた

 蓋を開けるといい感じに炊けていた、長い話の間にうまい具合に蒸らされていたようだ。

「焦げてる?」

「いや、いい感じ」

 キョウが飛んで覗き込んできた

「あ、本当だ、大和早く食べようよ?」

「ちょっと待ってな?」

 大和はまだ熱い燃えカスを足で除けるとドライバーで慎重に少しづつ土を掘り返した。やがて銀色の袋が見つかり試しにちょっと触ってみた。

「あっつ!」

 こちらは温める時間が長すぎたようだ

「大丈夫?」

「ああ、大丈夫や。試しに触っただけやから、火傷もしてへん」

 袋の端を持ち飯盒の蓋を開け、半分を中蓋に半分をそのまま残しそれぞれにカレーをかけた。

「うわ〜美味しそうだね!ところで大和?」

 このパターンは!嫌な予感がした

「…何?」

「どうやって食べるの?」

「どうやってってそりゃあ、スプー…」

「荷物の中には無いよね?」

「んじゃあ箸で」

「それも無かったよね?」

「最後の手段、竜の牙で」

「今、僕達が持ってるのがそうだよね?」

 カレーを盛り、皿代わりにしているので箸には出来なかった。

「……ちょっと待ってろ!」

 大和は残った枝の中からちょうどいい大きさな枝を四本選んで荷物の中から包丁を取り出し、みねを使い出来るだけキレイに滑らかにした。

 救急キットノン中から消毒用のアルコールと脱脂綿を出し出来るだけ薄く塗った。

 真っ直ぐでは無いがほんの少し前には木の枝だったとは思えない、一応箸として使える者が出来た。 

 その時間約三分

「これでどうや?ちょっと曲がってるしアルコールの匂いするけどな」

「…大和って本当に器用だね」

「慣れやって慣れ、そんな事よりも食べようや、ちょっと冷めてるかな?」

「いいじゃん、少しぐらい」

「そうだなそれじゃあ…」

「「いただきま〜す」」

 二人はハモって言いモクモクと食べ出した。

「あ、おいし〜、あんな温め方があるんだね」

「せやろ?でもあれな、上手くいくかどうか五分五分やから正直恐かってん」

 二人は直ぐに食べ終わりキョウは魔法瓶の蓋に入れた水を、大和はペットボトルから直接水を飲んでいた。

「は〜美味しかった」

「せやな」

 二人はかなりご満悦の様子だ。大和は飯盒を元の形にすると元に戻れと念じた

 竜の牙は元の鎖が付いた赤い宝石になった。

 カレーを洗ってなかったのでもしかしたら匂うんじゃないかと思ったが杞憂だった。

 試しにもう一度飯盒にしてみたがご飯粒もカレーも何も付いていないキレイな状態だった

「ホンマに凄いなコイツは」

「竜の牙をそういう風に使う大和のほうが凄いって……」




 暫く景色を楽しみながら休憩をした後ドライバー等をバッグに入れた

 焼けた薪やカレーの袋は穴を掘りその中に入れ念入りに土を戻した

 再びバッグを背負いながらキョウに聞いた

「進行方向は変わってないねんな?」

「うん、向こうも真っ直ぐこっちに向かってるよ」

「よし、んじゃ、行こか!」

 また森の中に入り歩き出した。

(これで暫くはカレーも食えへんな)

 歩きながらそう思い、ちょっとしんみりした。今度は腹の音が鳴らなくすることがしんみり出来た。