火魅子伝神の使い代行者 第四話「いきなりの初遭遇」 (H:ゲーム+小説 M:キョウ+オリ J:ギャグ+シリアス)
日時: 06/26 04:16
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「だ〜クソ、何でこんな藪ばっかやねん!」

「仕方ないよ、人の手なんか全く加えられていない、自然なんだから」

 大和は藪の中を突っ切って進んでいた

 舗装された道でも無ければ獣道でもないただの藪の中をだ

「第一、何でワザワザ藪を突っ切るの?ちょっと避けて進めば良いじゃない?」

「めんどい」

 一言で言い切った。キョウはハ〜と溜め息を吐いた

「それに幾ら正しい進行方向が分かって方位磁石があるって言うても、真っ直ぐ進めるっていうなら出来るだけは真っ直ぐ進んで短く行きたいわ」

「でも蜂や毒蛇がいるかもしれないよ?」

 そのキョウの言葉を聞き、次の藪に入ろうとした足が止まった

「……確かにな」

 救急用キットがあるといっても所詮は応急処置用の物だ。

 もし万が一、噛まれたら死に至るような毒蛇に噛まれたらどうしようもない

 ましてやここは三世紀の九洲、現代のような血清があるわけだ無かった

「しゃあないな、距離は大分損するやろうけど藪は出来るだけ避けるか」

 出来るだけ藪を迂回しながら方位磁石を頼りに出来るだけ最短距離を歩く気の長い歩き方が始まった

 

 歩き出して数分、大和は変な感じがしてきた。

 何を?と聞かれても具体的には答えられないが何故だか首筋がゾクゾクしてきた。

 不意に立ち止まり辺りを見回した。

 見えるのは日の光りが入り緑溢れる森と自分の少し後ろにいるキョウだけ

「どうしたの?」

 キョウが不意に止まり辺りを見回し始めた大和に聞いたが、大和は一瞬視線を合わせただけでまた辺りを見回した

(何やろ?何か分からんけど、何かいる…)

 その時!

 大和の進行方向からみて左側から黒い影が二人に向かって襲い掛かって来た!

「うわっ!」

 キョウは思わず上に飛び上がり難を逃れた。

「クソ!」

 大和は横っ飛びでかわしそのまま地面で一度回転すると勢いを利用しスタッと立った

 もっとも現代にいた時のままなら避ける事は不可能だっただろう。身体能力が上がってギリギリったのだから

 すぐに自分達を襲った影を見た。

 狼かと思ったが大きさが違いすぎた。

 体長はおそらく二メートルを越すだろう。狼とは違い地面につくまで長く、先に突起物がついた尻尾。フワフワどころか触れば傷がつきそうな位硬そうな黒い毛

「グルゥゥゥゥゥゥゥゥ」

 犬の威嚇の声を更に恐ろしくしたような声を出しながら大和の方を向いた
 
 顔は狼を想像させた。しかし狼とは明らかに違う

 瞳が三つあった

 両目と額に一つ、さらには額にはトリケラトプスの角を禍々しくした様な角が左右対称に二本生えていた

 少なくとも大和の知っている現存する動物及び絶滅した動物には目の前にいる様なのはいなかった

「魔、魔獣だ…」

 いつの間に上から下りて来たのか大和の横にはキョウがいた

「魔獣?さっき話しに出てたやつか?なんでこんなとこにおんねん!?」

「十数年前の戦争で魔人や魔獣を召喚した術師がこっちに召喚したまま死んだら召喚された魔人や魔獣はそのままこっちに残ったんだ

 殆どは空気や環境が合わなくて死んだけど中にはそのまま野生化したのもいるんだ、目の前の奴みたいに」

「オイオイ、シャレになってへ…」

 最後まで言う余裕が無かった。再び魔獣が襲って来たのだ!

 キョウはまた上に飛び上がり、大和は横に大きくステップをして回避した

 本能か勘かは分からなかったが考えるより先に頭が下がった

 コンマ数秒前まで大和の頭があった所を魔獣の尾が突いてきた!

  
   ズガッ!

 
 後ろにあった木を尾が貫いた!貫かれた木は大きな穴を開け尾が抜けるとメキメキと音をたて倒れていった

 避けて無ければ大和の顔はおそらく今の木のように貫かれていただろう

 魔獣が襲ってきた勢いがかなり強かったおかげで、魔獣が止まりこちらを向いたときには約十四、五メートル離れていた。

「クッソ、なめんな!!」

 大きく後ろにステップしながら荷物を降ろし右手で竜の牙を握った

 次の瞬間、右手に握られたのはオートマチック式の銃だった
 
 右手で狙いを魔獣の顔に定め左手で右手を支えた

 バンッバンッバンッバンッバンッバンッ…カツッカツッ

 全ての弾を撃ち切った

 弾は殆どを魔獣に命中させる事が出来た

 しかし、人間なら一撃で致命傷を与えられる事が出来る銃ですら魔獣の皮膚にかすり傷をつけるのがやっとだった

 魔獣は自分が何をされたかは分からなかったが目の前の獲物が自分を傷付けたのだけは分かった

「ゥゥゥガアアアアアアアアア」

 さっきまでの狩りを楽しむのをやめ獲物を狩る事だけに集中し一瞬で半分の距離を半分にした

 大和は竜の牙を村正に変え、構えを取った

 自分の左側から魔獣の右足が襲い掛かってき右手で柄を持ち左手を村正の峰に付け右後ろに飛んだ

 体が吹っ飛び木の幹にぶつかり息が詰まった

「ガハッ!」

 幸い内臓にも骨にも異常は無かったが息がしにくく背中に激痛が走った

 魔獣を見ると今にも跳びかかってきそうだった

 この距離でさっきの速さ、しかも今の体で襲われたらとても避ける事は出来ないだろう

「グァァァァァァァァ」

 魔獣が動いた

「大和!!」

 上からキョウが叫んだ

 
  リ〜〜〜〜〜〜〜ン


 懐かしい音が耳に入った

 あの日、最後に現代にいた日に何度か聞いた懐かしい鈴の音だった

 フッと体が軽くなった息の詰まりも背中の痛みも消えた

 気のせいか魔獣の動きが遅くなった

 いや、気のせいではなかった。目でとても追いきれなかった速さだったのが、今では余裕で避けれる

 再び襲ってきた右足を今度は受けるのではなく避けた! 

 大和が魔獣の攻撃を避け魔獣の右足が木の根元近くに当たり木片が飛び散り辺りに飛んだ、

 いくら魔獣の力が強いといっても今の速さではとてもあそこまでの威力は出せないはずだった

 木がメキメキと音をたて倒れた、魔獣はまだこちらに顔も体も向けていなかった

 銃も大して効かない事を知っていたが、思わず大和は魔獣の左前足目掛け村正を振り下ろした。

 
   スパッ!!


 まさにそんな音をたてて左前足が切れた

 その勢いのままもう一歩踏み出した大和は今度は体をめがけ剣を振り上げた


     リ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン


 振り上げている途中、再び鈴が鳴った。それと同時に村正がの刃が燃え上がった!


     スパッ!!ボゥ!!


 体が真っ二つに切れると同時に魔獣の体が頭の先から尾の先まで一気に燃え上がった

 断末魔を上げる間も無く魔獣は灰になった

(い、今、何が起こったんや?)

 自分自身が一番不思議だった。

 確かに木にぶつかった衝撃で激痛が走り、存分に体を動かせなかった

 魔獣の早さも途中からはとても追いきれなかった

 しかし今、生きているのは殺される筈の自分だった

 ふと、大和は上着の内ポケットに入れてある討魔の鈴を見た

 鈴は僅かにぼんやりと光っていたがすぐに消えてしまった

「大和!!!」

 上からキョウが下りてきた

「スゴイ!!スゴイよ大和!!途中までは死ぬんじゃないかと思っていたけど何?最後のスピードと術は?一瞬で魔獣を倒しちゃったね、もう、あんな術使えるならもっと早く使えば良かったのに」

 極上の笑みをもらすキョウとは逆に大和は思考がまとまらなかった

「俺…が倒したん……やんな?」

「ハア?大和?何を言ってるの?大丈夫?」

 大和は今の出来事を事細かくキョウに話した

「討魔の鈴がね……」

 さっきまでの笑みを消しキョウは神妙な顔になった

「確かに不思議だね、その討魔の鈴は前にも言ったけど本来なら火魅子が身に付ける物なんだ

 その名の通り『魔を討つ』鈴なんだけど、火魅子にしか使えないんだ」

「じゃあ何で俺が?」

「ゴメン、それは僕にも分からないよ。でも一つ確かなのは討魔の鈴は大和の力になってくれる」

「そっか、それは感謝しなアカンな」

 右手で持っている討魔の鈴を見ながら大和は呟いた。

 さっきまで自分が戦っていた場所を見るともう魔獣の灰すら残っていなかった

 あの時のスピード、力、そして村正に宿ったあの火

 欲しかった

 あの力があれば、もう昔のような思いはしなくて済むのに…

 思い出したくない、忘れられない思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡った

 自分に力があれば!敵を倒せる力が!守りたい人を守れる力が!

「大和、大丈夫?疲れてるの?」

 後ろからキョウに話し掛けられ真面目な顔から普段の軽い顔に戻してから振り向いた

「いやいや、ちょっと、討魔の鈴の力に圧倒されてただけやって」

 喋りながらジャケットの内ポケットに鈴を入れ荷物を背負った

「さて、時間くってもうたな、はよ行こか、さっきみたいな奴が一匹とは限らんやろ?」

「そうだね、うん、行こう」

 二人は三度歩き出した。






 やがて二人が去って暫く経った時、この場所にある者が現れた

 鼻をヒクヒクさせ辺りの匂いを嗅ぎだした

「あ〜〜〜〜僕の可愛いポチが火に焼かれて死んじゃったノン、酷いノン、酷いノン

 う〜〜〜〜〜〜、許さないノン、この男の臭い匂い覚えたノン、

 良い匂いの女の子ならともかく、臭い匂いの男は絶対に許さないノン

 うん?この匂いは?」

 再び鼻をヒクヒクさせた

「これは可愛い女の子の匂いノン♪、しかも二人もいるノン♪うっ近くに男もいるみたいなノン…

 ま、良いノン、男は殺せば良いだけだノン、女の子もそれを見れば僕の言う事をきくだろうしノン

 あ、でも、どうしよう、ポチを殺した男を追いかけたいノン………

 ま、匂いは覚えたノン、女の子を僕の物にしてからでも遅くは無いノン

 よ〜し、待っててノン♪可愛い女の子♪今、僕が行くノン」

 そう言うと、凄まじい速さでその場所からいなくなった。

 暫くの間静かだったがやがてその場にも風の音や小動物の鳴き声が聞こえ始めた