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火魅子伝神の使い代行者 第五話前編「俺が仇?」 (H:ゲーム+小説 M:キョウ+オリ J:ギャグ+シリアス)
日時: 07/01 04:51
著者:

「なあキョウ?」

「何?」

 相変わらず森の中を歩きながら大和は歩きながら思った事を聞いてみる事にした

「後、どれくらいなん?伊雅って人に会えるまで距離とか時間とかさあ?」

「ゴメン、僕も大体の位置しか分からないから正確に後どれくらいっていうのは答えられないよ」

 ハ~と大和はこっちに来てから何度目だろう?と思いながら溜め息を吐いた

「でも、今は七割位まで来てるよ、後三割だから頑張ろうよ」

 後三割。もう七割。まだ七割。考え方は人それぞれ、普段の大和ならもう七割まで来たと前向きに考えていただろう

 しかし、昼を食べるまで約二時間森の中を歩き、昼を食べ、暫く歩き魔獣に襲われたのがおよそ二時間前、時計を見ると今は午後三時少し前、流石に疲れが出てきた大和にとって七割は微妙だった

「じゃあ、会えるのは日が落ちた位になりそうやな?」

「そうだね、暗くなりきる前には何とか会えるよ」

「んじゃあ、あと少し頑張るか!」

 改めて気合を入れて歩き出そうとした大和に魔獣の時のような嫌な感じがした

(オイオイオオイ……待ってくれよ…嘘やろ?)

「どうしたの?大和?」

 いきなり立ち止まり怪訝な顔つきで辺りを見渡す大和に聞いたキョウはつい先程の事を思い出した

「もしかして……また?」

「……そうやろうな。多分向こうやわ」

 何故か分からなかった、しかし大和は確信があった自分の今見ている方向、そんなに遠くない所に魔獣がいると



「キャアアアアーーーーー」

「伊万里!!!!」



 突然自分が向いている方向から女の声がした

(女の声……?)

 誰かが襲われていると思った大和は駆け出したくなった、しかし自分は伊雅に会わなければならない

(…何を考えてんねん俺は!!)

 一瞬とはいえ迷ってしまった自分に怒りを感じた

「キョウ!」

「な、何?」

 恐い顔をしたと思ったらいきなり自分の名前を呼んだので思わずキョウは驚いてしまった

「お前自分の姿を隠せるか?」

「え、うん。『穏伏の術』っていうのがあって,外からは『見えず、聞こえず、感じず』の効果があるんだ」

「なら、それをやってここにいてくれ。ああ、それと荷物を頼む」

「え、大和行く気なの?しかも一人で?」

 キョウは驚いた。大和なら放って置くことは無いだろうと思っていたが、まさか自分を置いて行くとは思っていなかった

「あんな叫び声聞いて放っとくわけにはイカンやろ?それに荷物があったら早く走れへんし。キョウ、言うたら悪いけどお前は戦えへんやろ?」

 大和の言うことは当たっていたので無言で頷いた

「スマンな、出来るだけ急いで戻ってくるわ!」

 言うなり大和は荷物を地面に降ろし帰りに迷わないように手の届く範囲で出来るだけ大きな枝を折りながら声の方へ走っていった

 すぐに大和は見えなくなりキョウは荷物の周りに円状に文字を書き始めた。最後の字を書き終わると内側から字の外側に円を書き始めた。一周すると一瞬淡い光りを発した

 今の行為をもし誰かがそばで見ていたら円を書き終わると同時に荷物とキョウの姿が幻が消えるようにうっすらと消えていくように見えただろう

自分のやるべきことを済ませキョウは大和が向かった方を見て強く祈った

(大和!死なないでよ!)

 



 時は少し戻る

 大和達が黙々と森の中を歩いていた時、二人とはそんなに離れていない場所を男女三人が歩いていた

「ね~伊万里~お腹すいたよ~」
 
 長い髪を結いポニーテールにしている女の子が自分の目の前にいる長い黒髪の女性に話し掛けた

「上乃、さっきお昼食べたでしょう?それに仁清の分を半分食べたじゃない、その言葉を使っていいのは仁清よ?」

 伊万里と呼ばれた女性はチラッと二人の後ろにいる男を見た

「いいよ、僕は別に気にしてないから」

 仁清と呼ばれた男は素っ気無いほど簡単な言葉で返事をした

 仁清がこういう言い方をする時は遠慮する時だった。付き合いの浅くない二人はすぐに分かったが上乃はあえて気付かない振りをし

「仁清は気にしてないってさ」

 伊万里は二人に分からないように小さく溜め息を吐いた

 上乃は悪い子では無い、昔から姉妹として一緒に暮らしてきた伊万里には分かっていた。しかし、少しばかり調子乗りなとこが残念と常々思っている

「っていうかさ~今回は本当に獲物に嫌われたね」

「そうね」

 今度は二人の事を気にせずに溜め息をした

 村から狩りに出て早三日、狩りをしながら大物に出くわせばもう少しは続けられただろうが残念ながら一度も出会う事は無かった

 そのおかげで三人は村に向かって歩いていた

 伊万里と上乃が持っている愛刀はもちろん、仁清の十八番である弓も使われる機会は今回は無く特別手入れをする必要は無かった

 しかし食料が尽きてしまっては断念せざるを得ない

「ま、今回は運が無かったと思ってさ、早く村に帰ろうよ~」

「!静かに!!」

 突然仁清が叫んだ

「ど、どうしたの?」

 普段が普段だけに今の仁清の様子に驚いた上乃はどもりながらも仁清に聞いた

「何かがこっちに来る……獣…じゃない、何だろ?この気配と足音は?」

 仁清の耳と第六感は村の狩人の中でもずば抜けている

 伊万里や上乃はもちろん玄人である村長であっても勝てはしないだろう

 そんな仁清が体を少し震わせながら警戒したのだ、ただ事であるはずがない

「速い、熊でも猪の足音でも気配でもない…、もうすぐここに来る!」

 仁清が視線を向けた方を二人は刀構えながら顔を向けた

 すると、森のほうから木々を倒しながら何かが出てきた

「フフフ、見つけたノン♪」

「魔、魔人!?」

 伊万里は刀を持つ手に力がこもった

「うげ!何こいつ!?」

 上乃は思わず身を引いてしまった

 仕方が無いといえば仕方が無い。現れたのは人間の言葉を喋ってはいたが人間ではなかった

 大きさは160センチ強はある仁清の軽く1.5倍以上はあり、相撲取りをもっと大きくしたような体 
  
 身に付けているのは片手に持ったそこら辺の木より太く、人の身長ぐらいの長さの棍棒と腰に身に付けた腰ミノだけ

 しかし何と言っても一番衝撃的だったのはそいつの顔だった一言で言うと、というか例えが一つしかない 

 豚だったそれも可愛い豚などではなく、豚の顔に人の欲望全てを混ぜたような醜い顔だった

「うげ!とかこいつ!とは失礼なノン、僕様には屯即(とんしょく)という立派な名前があるノン」

 醜い脂肪の体の胸を張って言った

「う~ん、やっぱり二人共可愛いノン、どっちを僕の物にしようか迷うノン」

 屯即は細い目を更に細くし仁清を見た

「その前に~、邪魔な臭い男を殺すノン」

 仁清は弓を構え身構えた。そして伊万里と上乃の二人が自分の愛刀を構えた

「そんな事させない」

「そうそう、仁清を殺させはしないし何よりも…」

 上乃は一度大きく息を吸いこんで

「あんたみたいな!ぶっっっさいくな奴の物なんかに!絶っっっっっ対になってたまるものですか!!」

 出せる声の精一杯の声で上乃は叫んだ

「君達の意見なんかどうでもいいノン、僕様がするって決めたらするだけだノン」

 屯即は自分の顔全てのい届きそうなぐらい長い舌で舌なめずりした

「ヒィィ~~~~~~!」

 恐怖感よりも生理的悪寒が上乃を襲い全身に鳥肌が立った

「上乃!しっかりしなさい!」

「!ゴ、ゴメン!」

 伊万里に叱責され上乃は気合を入れなおした

「上乃!仁清!いくわよ!」

 二人は無言で頷いた

 伊万里と上乃が左右から同時に走り出し、仁清が一本、二本、三本と連続して矢を放つ走る二人を抜かし三本の矢は屯即の顔目掛けて飛んだ


  カツカツッカツッ


 屯即が持っていた棍棒を眼前に構え矢を棍棒で受け止めた瞬間、伊万里と上乃は一気に速度をあげ、伊万里は左から上乃は右から二人同時に刀を振るった

((やった))

 二人は同時に思った

 どう考えても避けられる間合いでは無い

 振るった刀が屯即を切りさ……


   ブヨンブヨン


 かなかった

 三人は驚いた

 二人が同時に走り相手の目を矢に引き付け、仁清が矢を射る。仕留めればそれまで、相手が避けるなりしたところを二人相手とすれ違いざまにしとめる
  
 途中までは確かにうまくいった。しかし最後の二人の刀が全く効かなかった

「フフフ、なかなかやるノン、でもそんな鈍ら刀じゃあ、僕様に傷をつけるのは無理なノン」

 屯即が余裕の顔で二人の方を向いた 

 鈍ら刀、そんな事はもちろん無い、二人の刀は、村にいる時は毎晩しっかりと磨いでいる

 ここ三日は使っていないので切れ味は抜群なことは間違いない

 刀が鈍いのではなく屯即の体がとても硬く尚且つ弾力性が有り過ぎる

 背中を狙い仁清が再び連続で矢を射った

 しかし、矢ですら傷をつける事はできず伊万里、上乃の刀同様肉に弾かれてしまった

「フフフフフフ、無理無理、そんな矢、ましてや男の攻撃なんかが僕様に効く筈が無いノン」

 首を回しチラッと仁清を見た屯即は再び伊万里と上乃を見た

「それじゃあ、未来のご主人様である僕様の強さを見せてあげるノン」

 言うなり屯即は二人に向かい走り出した

 その体からはとても想像出来ない速さで二人の前に来ると棍棒を二人に向かって振り下ろした

  
  ズガーーン!


 屯即が振り下ろした棍棒は地面に大きな穴を開けた

 とっさに身をかわした二人はその力に驚いた


    当たれば一撃で死ぬ  


 そう思った

 二人は出来るだけ近づかずかつ隙あらば攻撃できる距離に立った

 屯即がどちらかを大振りの攻撃をして避けてはもう一人が切りつける、隙をみては仁清が射る、それを何度も繰り返した

 何度も繰り返したが相変わらず屯即に傷を付けられない、緊張も後押しし三人は息が上がり始めていた

 仁清の矢は後二本、伊万里と上乃の刀は少し刃こぼれをしていた

「フフフどうしたノン?もう終わりなノン?」

 屯即は息が上がるどころか余裕綽々といった感じで武器を振り回す

「なめるんじゃあないわよ!」

 こちらからの攻撃が効かなくイライラしていた上乃は思わず飛び

「ダメ!上乃!」

 屯即が先程よりも速く棍棒を振り下ろす

 不意をつかれた上乃は回避できそうに無い

「上乃!」

 咄嗟に横から走ってきた伊万里が力いっぱい上乃を押し地面に転がし自分はその反動で反対側に転びながら棍棒を避けた

 屯即は伊万里のその隙を逃さず片手で伊万里を捕まえた

「フフフ、捕まえたノン♪」

「キャアアアアーーーーーー」

「伊万里!!!!!!」

 屯即の力はとても強く片手だけで伊万里を捕まえ軽々と持ち上げた

「離しなさい!このっ離しなさい!」

 伊万里が両手も一緒に捕まれながらも必死で抜け出そうと刀を突いたが威力が全く入らない為効きはしない

「綺麗な髪だノン、これも顔も体もぜ~んぶ僕様の物だノン」

 舌がまるでカメレオンのように伸び、伊万里の髪や頬、肩等を舐め回した。

「イ、イヤーーーーーーーー」

「「伊万里!!!」」

 伊万里が絶叫するとその声に反応したかのように二人が動いた

 上乃が前から柄の下の方を持ち突き刺し、仁清が後ろから残った二本を連射するとすぐに腰の短刀をもって走った

  
   ポキン……


 上乃が刀を突いた瞬間、刀は真ん中辺りで折れてしまった
 
 仁清の矢も傷をつけることは出来ず、力に限り突いた短刀も僅かに肉がへこむだけに終わる

「全く分からない奴等だノン」

 上乃の方を向き大きく息を吐くと上乃は吹き飛ばされた

「キャッ、う!」

 上乃が受身も出来ずにまともに背中を打った。そのまま後ろにあった木に頭をしたたかに打ってしまった

 続いて自分のすぐ近くにいる仁清を屯即は人がハエを追い払うような軽い感じで払った

「うわっうぐ」」

 上乃とは違い木に背中と後頭部を同時に打ってしまい、意識が朦朧としてしまった

「上乃!仁清!、この!離しなさ…」

 二人が吹き飛ばされ屯即を睨んだ伊万里だが背筋が凍った

 自分を捕まえている魔人の目が以前、性欲を持て余して自分を襲ってきた他の村の男の目に凄く似ていたからである

「ウフフ、ウフフフフフフ」

「あ……イ…ヤ」

 魔人の舌が素早く動き伊万里の胸元を切り裂いた

「イヤー!」

「フフフ、キレイな胸なノン」

 両手が塞がっている為、胸を隠す事が出来ない伊万里はおもわず目をつぶった

 現実を見たくは無い

 しかし、現実は無情である、屯即が自分の胸を舐めたのである

「!!!!!!!」

 身の毛もよだつ思いだったが恐怖と恥ずかしさのあまり声が出なかった

「フフフ美味しいノン、こっちはどうかノン?」

 舌が下半身の方へソロソロと恐怖感を与えるようにワザとゆっくり伸びてきた

「フフフ、じゃあ頂きますノン♪」

 
    シュパ


 そんな音が聞こえた

 伊万里が目を開けるとさっきまで自分に体を這っていた、あの舌が途中から切れていた

「うがやぎゃーーーーーーー」

 訳が分からない言葉を発しながら屯即は自分の身に何が起こったのかを知った

 刃物が飛んでき自分の舌を切ったのである体と違い自分の舌は弾力や硬さは無い

 屯即は刃物が飛んできた方角を見るとさっき自分が払った男が立っていた

 意識は殆ど無く立っているのが不思議なぐらいで

「い……伊…万里…を離………せ」

 その一言を言うと仁清はバタッと倒れた

「仁清!」

 伊万里は抜け出そうと足掻いたがどうあっても捕まえられた手からは抜けられない

「くぉの~人間如きがーー!俺様に傷を付けて生き長らえるとおもうなよーー!」

 さっきまでの軽い感じの話し方からはとても想像出来ないほど恐ろしい声で屯即は唸り、仁清に向かい歩いた

 伊万里は激しい怒りを覚えた

 目の前で大事な人達が殺されるというのに何も出来ない自分を

 大事な人を虫でも扱うかのように殺そうとする魔人を

「仁清!」

 もう一度叫んだ、反応は無かったがほんの少しだけ上下する仁清の背中が見えた

 生きているのは確かだ、だがこのままではもうすぐ死んでしまう

 怪我の為か魔人によってかのいずれかによって

「男はやっぱりさっさと殺すべきだったなーー」

 屯即が持っている棍棒を振り上げた、

 伊万里はどうしようもない自分を呪いながら、これから起こる事を直視できず目をつぶった

「へっへ、死ねーーー!!」 

 
   ヒューンドカーーーン


 棍棒が振り下ろされた瞬間、棍棒が粉々になった

 屯即は驚いた、今度は何が起こったか何も分からなかった

 先程の事もあり次は吹き飛ばした女かと思い横を見たが上乃は頭を打って意識を失ったままだった

「フ~、ギリギリやったかな?」

 後ろからこの場に合わないほどゆったりとした口調で話しながら男が現れた
   




 大和は急いで走りながら焦りを感じてた

 自分が走り始めてからやたらと悲鳴が聞こえ始め、おまけに自分の勘が警告を出す

 『さっきよりもヤバイ』

 正直にいうならば放って置きたかった、でも後悔したくないと自分自身を奮い立たせ力の限り走った

「うがやぎゃーーーーーーー」
 
 気色悪い声が聞こえ、思わず背中がゾクッとした

 それでも何とか走り続け、ようやく木々の間から何かが見えた、と同時に驚いた

 何かワケの分からない大きな生き物が片手で女の子を捕まえながら、倒れている男の子の方へ歩いていき男の子の前に立つと、もう片方の手にある棍棒を振り上げた

(アカン!)

 思わず心の中で叫んだがすぐに気持ちを落ち着け右手を棍棒に向けて構えた

(行っけーーー!!)

 心の中で叫ぶと、手の平の前に現れた火の玉が棍棒目掛け飛んでいき、見事粉々に破壊した

 ウッシャ!とガッツポーズをしながら思った

(さてと、どないしょっかな?)
 
 変な生き物は狼狽しながら辺りを見回していた

(ここはハッタリかました方がええな)

 一度目をつぶり深く深呼吸をし、大きな生き物に姿を見せた

「フ~、ギリギリやったかな?」





 伊万里は驚いた

 今この場にあんなゆったりとした声で姿を現した者がいること、さらにその者の見た事も聞いた事も無い格好だった

 大和の格好はジーンズ、Tシャツ、半袖のジャケット、現代でいえば普通だったがこの時代からすれば滑稽にしか見えない

「何だ、お前は?」

 屯即は不機嫌そうな顔を向けた

 今日は最低の日だ、自分の大事な友達は焼かれるし人間如きに舌を切られたうえに今度は自分の棍棒を壊された

 ふと、ある事に気付いた

 まさか!と思い匂いを嗅ぐと間違いは無い今、目の前にいる男は自分の友達を焼き殺し近々殺そうと思っていた男だった

「グフ、グフフフフフフフ」

 思わず笑ってしまった

 大和も伊万里もワケが分からない、鼻をヒクヒクさせたと思ったらいきなり笑い出したのだから

「まさか……こんなことで会えるなんて思ってもみなかったノン」

 あまりの驚きに逆に冷静になり口調が元に戻り笑いながら大和を見た

「会える?何で俺がお前なんかに会わなアカンねん?」

 出来るだけ自分が恐がっているのを分からない様に声に余裕を持たせながら大和は聞いた

「それは、お前が僕様の友達のポチを焼き殺したからなノン!」

「ポチ?」

 自分には覚えが無い、そんな名前が付くような者を殺した記憶は今はもとより幼少の頃から無い

「可哀想なポチなノン、あんなにカッコ良かった角が黒い毛が三つ目がもう見れないなんて酷すぎるノン!」

 そこまで聞いてやっと分かった、自分がさっき倒した魔獣の事だと

「ああ、さっきの魔獣のことか?あれは向こうが襲って来たから殺しただけや、襲ってこんかったら俺は殺さんかったわ」

「フン!所詮人間なんて、僕様達魔人や魔獣に殺されるだけの存在なのに生意気なノン」

    
     カチンッ


「そんな人間何百人よりも僕のポチの方がずっと価値があるノン」

  
     カチンッ


「人間なんて皆、僕様達魔人や魔獣に食べられたらいいノン」


     ブチッ


「ふざけんな!!」

 恐怖心は全て怒りに変わった

 大和の声が辺りに響き、伊万里は自分に言われたのでは無いと分かってはいたが体をすくめた

 屯即は驚いた

 普通、自分の事を見た人間は驚くか恐怖に震えるものなのに今自分の前にいる男はそんなのを微塵も出してない、それどころか自分の方が気圧されている

「テメエは絶対俺が殺す!」

 大和の両手にさっき放った火の玉よりも遥かに熱い火の玉が出た

 屯即は本能で悟った、アレを自分が受ければ助からないと

「フ、フン勝手に打てば良いノン、ちょっと勿体無いけど、この子を盾にするだけなノン」

「クソ魔人が」

 仕方なく大和は火の玉を消した

「さてと、それじゃあポチの敵を取らせてもらうノン。あ、もちろんそこを動いたらこの子には死んでもらうノン」

「わ、私のことは構わないで下さい」

「黙るノン!」

 警告のように伊万里を握る手に力を入れた

「う、うう」

「テメエ!!!」

 昔を思い出した、

 あの時も自分が不利になると犯人は人質を取った

 あいつを捕まえる事は出来た、しかし人質になった男の子に一生残る様な思いと傷を負わせてしまった

 自分のせいだった

 もっと自分に力があれば、もっと早くあいつが人質を取る前に捕まえる事が出来れば

 もっと力が欲しい!!

 自分じゃない目の前にいる人を助ける事が出来る力を

   
   リ~~~~~~ン
 

 強く願うとまたあの鈴が鳴った

(また、力を貸してくれんのか?スマンな)

 自分の中に暖かく力強い何かが流れ込んでくるのを大和は感じた

 竜の牙を握り村正に変えた

「…つまりこの子を見捨てるつもりなノン?」

 ゆっくり歩いていた屯即の歩みがその場で止まり伊万里を握る力を強めた

「この子?この子ってのは」

 話ながら一瞬、屯即や伊万里が肉眼で確認出来ないほどほんの一瞬だけ、大和の姿が消えた

「この子のことか?」

 話している間に大和の腕の中には伊万里がいた

「え?え、ええ?」

 突然助け出され伊万里は混乱した、体にはまだ捕まれた感触が残っており体も意識もまだ自分が助け出された事実に追いつけ切れていない

 屯即は思わず手を見た、もちろん伊万里はいない

 その手を動かしたそうと思ったとき腕が肩から落ち地面に落ちた瞬間細切れになり燃え始めた

「あ…?ああああ…」

 確かに腕があるべき場所に腕は無い

 しかし頭がそれについてこず痛みすら感じなかった

「うぎゃああーーーー!」

 ようやく頭が認識し痛みを感じたそれと同時に肩から噴水の如く血が噴き出し始めた

 
「大丈夫か?」

 先程とまるで別人のように穏やかな口調で伊万里に尋ねながら討魔の鈴をジーンズのポケットに入れ自分の着ていたジャケットをかけてあげた
 
「え?あ、はい」

「そうか、良かった。ちょっと待っててな」

 伊万里の頭を子供をあやすように軽く撫でた大和は屯即の方を向いた

「に、人間如きがー!殺す!殺してやるぞ!!」

 屯即が走り出そうとした瞬間


     ズン


 重たいタイヤをプロレスラーが殴ったような重い音がした

 大和が屯即が走り出す前に一瞬で間合いを詰め、屯即の腹に思い切り左手を打ち込んだ

 普通の人間が殴ったぐらいではなんとも無い筈だった、殴るどころか刀や矢を用いても傷一つ付けることは出来なかったしかし、大和の右手は肘くらいまで肉に沈んだ

 弾力性と硬さのおかげで肉を貫く事は無くへこんだだけだったが衝撃は十分過ぎる程の威力があった

「ぐ、こ、この!!死ね!!!」

 屯即は残っている手を大和に向けて振り下ろしたが

「軽いな」

 体から抜いた右手でやすやすと受け止めた、と同時に大和の手が当たっている部分から屯即の腕が燃え始めた

「うぎゃあああーーー!」

 腕を大和から離し火を消そうと地面に擦り付けたが火は消えず益々勢いを増していく

「安心しろ」
 
 村正を鞘に収め居合の構えを取った

「せめてもの情けや、一瞬で終わらしたる」

   
   シュッ


 その出来事を外から見ていた伊万里には光が走ったように見えた

 光が走ると屯即が腹から上下に分かれ、次の瞬間には燃え上がり一瞬で灰も残さずに燃え尽きた




信じられない事ばかり起きた

 魔人に遭遇した事、人質に取られたがワケも分からないうちに助け出された事、何よりも自分達では全く歯が立たなかった魔人を瞬く間に倒した目の前の男

「大丈夫か?どっか怪我してへん?」

 いつの間にか目の前には自分を助けてくれた男が明後日の方向を見ながら話し掛けてきた

「は、はい。あの?どこを向いてらっしゃるのですか?」

「え、あ~いや~そのな…」

 一瞬、伊万里の方を見たがすぐに目線を逸らした

「胸を…隠して欲しいねん」

「え?あ、キャ!み、見ないで下さい!」

 大和がかけてくれたジャケットで体を隠した

「アレアレ~?伊万里が赤くなってる~。珍しい~」

 声のした方を見るとニヤニヤしながら上乃が近づいてきた

「上乃!無事だったの!」

「ホラ、隠さないと胸がみえちゃうよ~?」

 思わず立ち上がったが上乃の一言で再びうずくまった

「それよりさ~仁清は?」

 二人はハッとした、情けない話上乃に言われるまで忘れていたのである

 大和は急いで仁清の倒れている所まで走り自分の出来る限り診た

(心臓は…よし、動いてる。息も弱いけどしてるな、骨は……あ~左腕が折れてるな、それと…頭の大きなこぶか)

 大和は仁清をうつ伏せにしこぶに手をかざした

「あの~?」

「ちょっと待ってな、話は三人の怪我治してからな」

そう言った大和の手の平が淡い緑色の光を出し二人は驚いた。今まで見た事も無い光景だった

 段々、仁清の呼吸が大きく楽そうになりやがて眠っているように見えた

「あ、あの~?何をなさっているのですか?」

 大和の後ろに立った伊万里が恐る恐る聞いた

「え?ああコレ?怪我治してんねん」

 言われて仁清を見れば、息は普通にしており飛ばされた時に傷付いていた腕や顔の小さな怪我も治っていた

「え!怪我を治せるの?スゴーイ!方術師なの?」

「まあ、似たようなもんや」

 大和は念じるのを止め、もう一度、仁清を診た、頭のこぶも無く特に外傷も無い

(頼むから脳内出血はしてんといてな)
 
 二人には悟られないように小さく願う 

「フ~、取り敢えずはこれで大丈夫やさて、どっちから診て欲しい?」

「上乃、先にお願いしなさい」

「え?私からで良いの?」

「私は捕まってただけだから特に怪我らしい怪我はしてないわ、上乃は頭も背中も打っていたから診てもらいなさい」

「うん、わかった。って言う事でお願いしま~す」

「はいよ~」

(外傷は特に目立つのは無いな。あ、頭にこぶか。後は背中の打ち身ぐらいかな?)

「気持ち悪かったり、目眩がするとかは無い?」

「ぜ~んぜん無いよ~」

「ほな大丈夫そうやな、ちょっとじっとしててな」
 
 仁清の時のように大和の手の平からは淡い緑色の光が出、上乃のこぶにかざした

 触らなければ分からないほどの大きさではあったが結構な大きさではあるこぶが見る間に小さくなりやがて無くなる

 次に大きく開いた背中に目立つ青い打った痕に手をかざした

 頭から暖かいものを感じなくなった上乃は手で先程までこぶのあった所を触って驚く

「スゴーイ!本当に治ってる!」

「ああ、動かんといて」

「上乃!じっとしてなさい!」

「は~い」

(へ~息あってるじゃん)

 上乃は人知れず喜んだ

 自分の姉である伊万里は美人であり甘くは無いけど優しい、狩りの腕はあるし自分の目標でもある

 しかし村人達以外と話す時は殆ど無表情だし話す事自体も少ない他の村人に人形のようだと呼ばれている事だってある

 そんな伊万里が今自分の後ろで怪我を治してくれている男の前では自分達に話している時の様な雰囲気で話している

 しかも、赤面をしていた。あれは自分がからかっている時でもあまり見た事が無い

「よし!終わり」

「あ!もう終わった?」

「ああ、もう大丈夫やと思うで」

 言われ立ち上がり体を動かしてみると爽快だった、痛さはもうどこにも無いし疲れも大分取れている

「ん~問題無いよ~」

「そうか、そら良かった。さて次は君やな」

「え!私ですか?でも私かすり傷位しかしてませんよ?」

「それでも一応な、女の子が体とかに怪我してんのはあんま見たくないねん」

「え、あ、じゃあそのお願いします」

「あ、伊万里、私仁清起こしておくね」

 言うなり上乃は仁清を起こし始めた

 今の返事の仕方を見ても今までの伊万里からは見れなかった表情だった、まるで初恋をした少女のような

(コレはもしかして伊万里本気かな~)

 伊万里は上乃の素早い行動に呆然とした

「あの子は何考えてるんだか…」

「ハイハイ、それよりも体動かさんといてな」

 体を動かそうとした伊万里の体を大和が上から押さえた

「あ、はいスイマセン」

 伊万里は不思議に思う、家族や家族同然の仁清以外の男に服の上からでも触られるのは本当に嫌だった。でもこの人だったら何とも無い

 他の村の男達は伊万里の事を見ると良からぬ事を考える者も少なくは無かった、実際に行動してきた者もいたが全て返り討ちにあった

 そのため、自分達の村の村人以外と話す時は意識して無表情にしているその為人形と影で呼ばれているがどうでもいい

(女の子…か)

 今自分に言われた言葉だが自分がそんな風に言われたのはどれ位振りだっただろう

 妹の上乃は良くそう言われる明るいし可愛い、付き合ったという話は聞いた事が無いが自分とは違いすぐにいい人が現れるだろう

 二人でいる時、女の子と呼ばれるのはいつも上乃だった

「よし、もうええよ」

 色々考えている内に終わったらしい

「スイマセン、ありがとう御座います」

(…この人はどう思っているんだろう?)

 お礼を言った伊万里がジーッと大和を見るとフッと大和が目線を逸らした

(ああ、この人もやっぱり)

「あのさ、お願いやから胸を隠してくれへんかな?閉め方を教えるから」

 伊万里はジャケットの前が開いているのに全く気付かずに大和を見ていたと分かり再び急いで前を隠した

(この人は……違う)

 何だか嬉しかった