火魅子伝神の使い代行者 第五話後編「なんじゃこりゃーー!」 (H:ゲーム+小説 M:オリ・キョウ・伊万里・上乃・仁清 J:ギャグ+シリアス)」(純)
日時: 07/03 02:22
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大和からチャックの閉め方を習い四苦八苦しながらも閉める事が出来た伊万里をみて、ようやく顔を見て話が出来ると大和は思い安心した

「伊万里〜、仁清が気が付いたよ〜」

 言われて二人は気が付いた仁清の方へ視線を向ける

「ア、アレ?ここは…そうだ!伊万里は?魔人は?」

「ハイハイ仁清、落ち着きなって魔人も伊万里ももう問題ないわよ、この…え〜と名前何だっけ?」

 説明しようとした上乃が途中で大和のほうを振り向いた

「ああ、そういえば自己紹介してへんかったな、俺は大和ヨロシク」

「私は伊万里です、本当に助けて頂いて有難う御座いました」

「私は上乃だよ〜助けてくれてありがとうね〜」

「僕は仁清です。あの、あなたは?魔人は?それに伊万里のその格好は?それに僕の怪我がいつの間にか治ってるし」

 仁清は自分が気絶している間、何が起こったのか全く予想すら出来ない

 見た事も無い格好をした見知らぬ人がいるし魔人はいなくなってる、オマケに伊万里は真っ黒な服を着ている

「ああ、簡単に説明するで?」

 仁清の方を向いて言ったが伊万里も上乃も頷いた

「俺は旅人、今はある人に会う為に歩いててんけど近くで悲鳴が聞こえたから来てみた。
 
 魔人は俺が倒した、んで今伊万里さんが着てる服は俺のを貸してる、君等の怪我は俺が治した。他に聞きたい事は?」

「はい、大和さん」

「何?伊万里さん?」

「私の事は呼び捨てで構いませんよ?」

「私も〜」

「あ、僕も」

 伊万里が言うと上乃、仁清の二人が続いた

「まあ、三人がそう言うならそうさせて貰うわ、俺のことは好きに呼んでくれて構わんからな」

 三人が頷く

「それじゃあ、大和はどこに行こうとしてるの?」

「さっきも言うたけどある人に会わなアカンから今はその人の所に向かってる」

「その人ってさ〜大和の恋人?」

 横目で上乃が伊万里を見ると僅かにビクッと反応するのが見えた

「ハハハ、ちゃうちゃう男やってそれに俺にそんな人はおらんって」

 伊万里が小さく安堵の息を吐くのを上乃は見逃さない

「ふ〜ん、あのさ〜私達の村に来ない?」

「あ、上乃?」

 いきなりの提案に大和ではなく伊万里が驚いた

「だってさ〜もう少ししたら日が沈むでしょ?夜の内は獣が動き回るから出来るだけ安全な場所にいた方がいいでしょ?仁清はどう思う?」

「僕もそれに賛成だね、安全っていうのもそうだし何よりも何もお礼しないっていうのは嫌だね」

「だってさ〜?」

 言いながら上乃は伊万里を見た、それを聞いて大和は考える

「あ、それとも伊万里は大和に村に来て欲しくないんだ?」

「そ、そんな事は無い!私だってお礼をしたい!」

 普段の伊万里をしっている者なら大変驚いただろう

 上乃にからかわれ怒っている伊万里ならともかく焦っている伊万里は誰一人としてみた事が無い

 今の仁清がそうであるように

「折角やけど…」

 大和が喋りだすと三人は大和に目を向けた

「悪い、ちょっと急いで会わなアカンからまた今度会った時にして」

「え〜良いじゃない一日ぐらいさ〜」

「上乃、止めなさい!大和さんにも都合があるんだから」

「そうだよ、大和さんに悪いよ」

「ブーブー」

「ハハハ、じゃあ俺はもう行くわ、三人とも気ぃつけてな」

「あ、大和さん!」

 走り出そうとした大和を伊万里が呼び止めた

「ん?何?」

「このお召し物どうすれば良いんですか?」

 伊万里はジャケットの襟を引っ張りながら大和に聞いてきた

 大事な上着を忘れるとこだったがアレを脱いだら伊万里は上半身裸

「あ〜、代わりの服とかは?」

「スイマセン、村にまで行かないと無いんですよ」

「ホラホラ、行こうよ?ね?」

 好機を得たとばかりに再び上乃が誘い出した

「う〜ん、しゃあない貸しとくわ」

「え?」

「だから、俺は急いで会わなアカン人がいるから村に行ってる暇は無い、伊万里はそれを着ないと困る

 じゃあどうするか?また会った時に返してくれたらええ」

「え、でもいつ?どこで?返したらよろしいんですか?」

「分からん、でもまあその内会うやろ、ほんじゃあな」
 
 言うなり大和は自分が来た方へ走っていってしまいやがて見えなくなった

「あ〜あ、行っちゃった、伊万里〜ダメだよ?あそこは強気で押さないと?」

「…うん」

 上乃のからかい半分の言葉にも上の空で答え伊万里は大和が消えていった方へ目を向け続ける

「それにしても今回の狩りは最悪〜私の大事な刀は折れるし、ねえ伊万里?」

「…うん」

「…伊万里?」

「…うん」

「…惚れた?」

「…うん……って違う違う!そういうのじゃ無くて、ただ方術みたいなのを使えるし強いけどそれをはなにかけない良い人だな〜って

 それに優しいし恋人もいないみたいだからもしか……ああ!私は何を言ってるの?」

(ハ〜こりゃ重症だ、でもなんか嬉しいかも)

「仁清〜」

 伊万里のあまりの狼狽振りに固まっていた仁清が呼ばれて横に来た

「何?」

「ちょっと耳貸して?」

 伊万里が自問自答を繰り返す間二人は小さな声で相談した

(っていう事なんだけど、どう思う?)

(う〜ん、僕としては大賛成だけど…)

 チラッと頭を抱えながら唸っている伊万里を見ると正直に賛成しずらい

(…伊万里は大丈夫かな?)

(それは私に任せて)

「ねえ?伊万里」

「私は私は……ああ!」

 何者の声にも耳を貸さないと言わんばかりの混乱っぷりだったが

「大和の事なんだけど」

 この一言で正気に戻った

「何?」

「服、早く返さないといけないよね?」

「そうね」

「今回の狩りは最悪だったよね?」

「そうね」

「だから、村に帰ったらまたすぐに狩りに行かない?」

「それと服とどう関係があるの?」

「狩りをしながら大和を探せばいいじゃない」

 伊万里はハッとした、どうしてこんな事に気付かなかったのだろうと

「え、でも上乃あなたの刀折れたんじゃないの?それに仁清の矢だって」

「ああ、家に帰ったら予備の刀を持ってくるから良いわよ」

「僕の矢も村の人に貰うから別にいいよ」

「そ、それにどっちに向かって歩いて行ったかなんて分からないでしょ?」

「何言ってんの?伊万里〜大丈夫?足跡辿ればすぐに分かるじゃない」

「それはそうだけどもしかしたら迷惑になるかも……」

「フ〜ン、大和に会いたく無いんだ?いいよ〜私と仁清の二人で行くから」

 伊万里は慌てた、まさか上乃がそんな事言うとは夢にも思わない

「い、行くわよ服を借りたのは私なんだから私が返さないと意味が無いでしょ!」

「はいはい、それじゃあ、準備しましょうか」

 自分の折れた刀を鞘に戻す上乃に仁清が小声で話し掛けた

(もし、伊万里が行かないって言ったらどうするつもりだったの?)

(それは無いわ、私達の中で一番大和に会いたいのは私でも仁清でも無くて伊万里なんだから)

「二人とも何してるの?早く村に戻るわよ!」

 いつもは常に落ち着いて行動していた伊万里が珍しく二人を急かした
 
「は〜い、行くわよ仁清、あんまりゆっくりしてると伊万里の雷が落ちるわよ」

「う、うんそうだね」

 二人が近くに来ると伊万里は早足で村に向かって歩き出した

 後ろを付いて行く二人は声を落として話を続ける

(でもさ?)

(何?)

(大和さんに、伊万里が惹かれてるのは分かるけどあんなに変わって大丈夫かな?)

(フフ…仁清、覚えときなさい)

 上乃は自分もああなる時が来るのかな?と思いおかしくなる

(女ってのは本当の恋をすれば変わるものなのよ)





 キョウと別れた場所に戻ってきた大和は慌てた

 自分が置いた場所に荷物は無いしキョウの姿も見えない 

「キョウ!」
 
「何?」

「うお!」
 
 大声で呼ぶとキョウが自分のすぐ後ろから返事をしたので大和は驚いた

「いきなり後ろから声かけるなんて、ビックリするやんか」

「仕方ないじゃないかいきなり僕の反対方向を向いて僕を呼ぶんだもん」

「大体、何で荷物が消え……」

 そこまで言って、自分が姿を消すように言ったのを思い出す

「もしかして大和、忘れてた?」

「スマン、完全に忘れてた」

「まあ、いいけどね、それより上着はどうしたの?」

「ああ、それはな…………」

 大和は自分が走り出してからの事を出来るだけ事細かくキョウに話した

 魔人のこと、先程の魔獣のこと、再び鈴が鳴ったこと、そして伊万里達の事

「フ〜ンそれで上着をね。その子大和の好みだったの?」


   スパーーーン!


 以前やったように竜の牙をハリセンに変えキョウに突っ込む

「そういうんやない!ただ俺が目のやり場に困ったから貸してあげたんや!」

「そんなカッコ付けちゃって、本当はもっとその子の胸見たかったんじゃないの?」


   スパスパーーーン


「いった〜〜〜、二回も叩く事無いじゃないか!」

「何や?まだ足らんか?」

 大和の目は本気だった

「ゴメンナサイ」
 
「分かればよろしい」

 ハリセンを元に戻し荷物を背負い立ち上がった

「んじゃあ、また歩………く…」

 歩き出そうとした大和がフラフラッと目眩を起こし倒れそうになったが木に寄りかかり事なきを得たがそれだけに収まらず呼吸が苦しくなり心臓の鼓動も激しくなり始める
 
 軽い目眩だったものが平衡感覚が無くなったのではないかと疑う程酷くなり、ズルズルと木に寄りかかったまま崩れ、咳をいつ吐血をしてもおかしくない位の勢いでしだした

「大和どうしたの?大和!?」

 つい先程まで自分と会話を弾んでいた大和が発作を起こしたかのように苦しみだしたがキョウはどうする事も出来ずにいた

 

 
 数分すると息苦しさも目眩も嘘の様に引いていき元の状態に戻った

 落ち着くために水を一口二口と飲み息を整える

「大丈夫?持病か何か?」

 水の飲んでいる大和の軽く上下する背中に話し掛けた

「いや」

 声を出し話せる事を確認すると一度大きく深呼吸してから話し続けた

「俺は持病を持ってへんし、それらしい病気も今までした事無いわ」

 フッと自分の方を向いたキョウは自分の目を疑う

 大和の目の下に隈がある、ほんの数分前には無かった物だ。それも何日も徹夜したかのような酷いものだった

 その事をキョウから聞いた大和は携帯の内側のカメラで自分の顔を写した

「な、なんじゃこりゃーーー!」

「ボケてる場合じゃ無いでしょ!」

「心に余裕を持たせようと思ってん、嘘でもいいからボケたら結構落ち着くもんやで?」

 と、強がってはみたものの実際に見た自分の顔は酷いものだ
 
 一日や二日徹夜してもああはならないだろう

(ってことはやっぱどっちかか)

 鈴か竜の牙か、どちらかの所為かは分からないがいずれかの所為であることは確かだった

 先程の死ぬかと思った程の息苦しさと目眩、動悸さらには今自分の顔に突然出てきた隈

 どれもこれもいきなり出るほど自分は弱い体をしていない

(って言うても始まらんか)

 自分自身に活を入れ再び立ち上がった

「良し!行くで!」

「ダメだよ!もう少し休んでないと!」

 確かに休みたいのは山々だがある不安があった

「でも、さっきみたいな魔獣や魔人が現れるかもしれへんねんで?いつまでもジッとしてるワケにもいかへんやろ?」

 大和の言う事は間違っては無い、今の大和の状態でどちらかにでも襲われたらひとたまりも無い

 しかし、まだ伊雅達に会うには距離もある、何より大和の状態では歩く速度も大分落ちている筈なので時間が掛かる
 
「……大和、ここからあんまり離れていない所に今は使われてない神社があるんだ、一度そこへ行って休もう」

「え!そら俺としても助かるから嬉しいけど、ええんか?会うのが遅くなるで?」

 立ちながら深呼吸をしていた大和は驚き、また息が詰まりそうなりながら聞いた
 
「うん、確かに会うのは遅くなるけど、会えるのはほぼ確実だからね、それより強行軍で進んで大和が倒れでもしたら元も子も無いからね」

「…スマンな」

 気にしないでと言いながらキョウは進路から少し外れた方へ飛び大和を案内し始めた

 普段ならともかく体力、気力共に異常なほど消耗していた大和にとってキョウの『あんまり離れていない』はつらい距離だった





 やがて神社の社が見えた……階段の遥か上に…

「マジかよ…」

「頑張って大和僕は先に上に行って誰かいないか見てくるね」

 言うなりキョウはピューと飛んでいく

 そんなキョウにお門違いな怒りを感じながら大和は都こ○ぶを取り出し一枚噛み締めるように食べた

「ハ〜、行くか!」
 
 塩味が良く効きその味が脳に刺激を与えている間にリズムを崩さず確実に一段一段上っていった

 やがて最上段の社が段々大きく見えてくると突然キョウが飛んできた

「や、大和!大変だよ、あそこ誰かが使ってる!」

「は?何でやねん!今は使われてないんやろ?」

 ようやく休めると思った矢先の嫌な報告、足が何倍にも重くなった気がした

「うん、堂々とじゃ無く人目を盗んで使ってるんだと思う」

「今はいるんか?」

「ううん、今はいないよ」

「う〜〜ん」

 大和は唸りながら考えながらチラッと階段を見た

 ここまで上っておいて休憩も無しとは今の自分にはちとつらい

「なあ?さっき使ってた穏伏の術ってまだ使えるか?」

「うん、後一回ぐらいなら何とかね」

「そうか、スマンけどそれ使ってどうにかしよう、流石に休みたい」

「そうだね、それじゃあ、中に入ろうか」

 壊れた建物の今にも壊れそうな門を開き大和とキョウが中に入ると大和はいきなり何かを踏み危うく滑って転んでしまうところだった

「危ないな〜、何やねん?」

 自分が踏んだ物を拾い上げてみると現代の巫女服に形も色合いも非常に似ている服だった
 
 大和が辺りを見回すと服の他にもワケの分からない物が散乱しそれなりの広さの床を埋め尽くしていた

「なあキョウ?これって巫女服?」

「え〜と、うん、そうだね他にも何人分かの服があるね」

 確かにコレだけの服ならば一人や二人では無いだろう

 奥は薄暗く荷物の中から懐中電灯を取り出し中をじっくり観察してみた

 すると奥の壁の雰囲気が何かおかしい事に気付いた

「どうしたの?」

 懐中電灯で部屋の中を照らしていた大和が壁を睨んだまま固まったのでキョウは不審に思った

「いや、ちょっとな……」

 足元に気を付けながら進むとようやくその違和感が何かに気付いた

 一部、壁が無くあたかも壁があるかのように立体映像の様な物で偽造している

 大和がその部分に手を入れる、傍から見ると壁の中に手が入り込むように見えただろう

 特に手に何も感じなかったので大和は思い切って体ごと入ってみた

 そこは六畳ほどの大きさの部屋だった

 しかし、先程の部屋と違い服も荷物も何も無い

 大和のすぐ後にキョウが入りキョロキョロと部屋の中を見回す

「何も無いね」

「やな」

 他に言う事が思い当たらなかった

「大和ここで穏伏の術使っていい?」

「そうやな、さっき部屋よりずっと暗いし何かあった時でもちょっとは見つかりにくいやろうしな」

 そう言うと大和は荷物を降ろし自分もその横に腰を下ろす

 傍らでキョウが昼間にやったように字を書き最後に自分達を囲う円を書いた

「出来たよ」

「あ、ご苦労さん〜」

「大和、悪いんだけど銅鏡出してくれない?」

 あいよ〜と言いつつ自分の服の間からタオルに包んだ銅鏡を出した

「銅鏡なんかどうするん?」

「僕は本来なら火魅子から力を貰って今みたいに姿を保つんだけど今は火魅子がいないから銅鏡からしか力を供給できない

 だから、出来るだけこまめに入ってないと今みたいに姿を現せることも出来なくなっちゃうんだ」

「フ〜ン、ようは充電みたないもんやな?」

「そういうこと、それじゃあ大和、僕も休むから大和もゆっくり休んでね、お休み〜」

 それだけ言い残すとキョウは鏡の中に消えてしまった

 大和は一箱目最後の都こ○ぶを食べ横になると一日の事が頭に浮かびだした

 この世界に来た事。魔獣、魔人の事。最後に会った三人の事
 
 段々、眠くなりだし自分のベットが恋しいな〜と思ったところで眠りについた