火魅子伝神の使い代行者 第五,五編「夢現」 (H:ゲーム+小説 M:オリのみ J:ギャグ+シリアス)
日時: 07/07 10:09
著者:

「ん〜よく寝た……アレ?」

 目を覚まし体を起こすとある事に気付く

 フカフカのベット、奮発して買った羽毛布団、高校の時からの愛用の枕

 辺りを見回す

 一人暮らしを始めて約一年間の間使い続けている部屋

 テレビ、コンポ、パソコンがあり台所には冷蔵庫、電子レンジなどの電化製品がある

「ここは俺の部屋……やんな?」

 答える者はいないが思わず誰かに聞くように呟いてしまう

「そう……やわな、あんなんゲームや漫画の世界の話だけやってな」

 ハハハと自分の思っていた以上の想像力に感心してしまった

 ふと、ベットに置いてある日付付き電子時計を見ると午前十一時半いつもならバイトの為に家を出る時間だ

「…やっば!」

 急いで顔を洗い、歯を磨き寝癖を直す

 着替え終わり時計を見ると十分弱経っていた

「メシ食うてるヒマ無いな……」

 独り言をいいながら枕もとに置いてある携帯電話と財布、腕時計をもち家を飛び出した

 約二年間、世界を旅し帰って来た時に衝撃だったのは両親が他界していたことだ

 自分にどうやっても連絡がつかないので自分の祖父が色々法的な手続きを済ましてくれた

 家はそのまま残しておいてくれていたが、いささか自分ひとりでは広すぎると思い家も土地も売って今は気ままな一人暮らしをしている

 今は、特にやりたい事も無いのでフリーターになっているがやりたい事があったらそっちに力を入れようと思っている

「あ〜時間ヤバイな!しゃあないガス代勿体無いけどバイクで行くか」

 急いで駐車場の端に停めてある自分のバイクに飛び乗り急いで出発した

 果たして間に合うのか?





「おはようございま〜す」

 歩いて二十分強、バイクならほんの数分でつく自分のバイト先のお好み焼き屋に着き裏から入った

「ああ〜橘君!ゴメン急いで入って!団体さんが入って来たから二人じゃ手が回らないんだ」

「スンマセン、エースお願いします」

「うぃ〜す、了解です」

 更衣室兼休憩所の部屋に入り急いで着替え厨房に行くと正に戦場

「うわ…何スかこれ?」

 オーダーが山のようにありまるで夜のピーク時のような注文の数だった

「橘君!ゴメン先にサラダ作って!」

「了解ッス」

 お好み焼き屋といってもそれなりの大きさの店なのでサラダや焼きそば、ゲソの塩焼きなどの一品料理、更にはデザートもある

 昼間ならさほど忙しくない為、バイトが二人いれば余裕だった

 しかし今の客席は満席とても二人では収集がつかなかっただろう

「エース頼みますよ!」

 もう一人のバイトの子が言った

 エース、いつの間にかココでの自分のあだ名、

 料理を作るのは速い、また作り方を覚えるのもバイトの中では一番速かった

 自分が日本にいない間に出来た店で身の回りのことが落ち着いてから入ったのでまだ二ヶ月しか経っていない

 しかし、料理の速さそれと他の殆どの者より年上とあってバイトのメンバーはエースと呼んだ





「あ〜疲れた」

「エースお疲れ様です」

 バイトの時間が終わり休憩室で自動販売機で買ってきたコーヒーを飲みながらゆっくりしていた

「明日からでしたっけ?」

「何が?」

「ホラ、エースと友達がキャンプに行くのって」

 言われカレンダーを眺める
 
「あ〜、そういや明日からやったな」

「そういやって荷物詰めてないんですか?」

「いや、荷物は準備終わってるけど、明日からって事忘れてた」

「……そこら辺いいかげんですね」

「まあな。あ、そういえばな、今日変な夢見てん」

「変な?女の子を追い掛け回したんですか?それとも男の子を?」

「アホか!そんなんちゃうわ!」

 大和が見た夢の事を話し始めた

「っていう夢やってん」

「エース〜、確かに今、鐘が見つかったって騒ぎになってますけど何も変な風に夢で見なくたって」

「まあな、あれ?鐘?銅鏡じゃなかった?」

「何言ってるんですか?夢と現実をちゃんと区別してくださいよ」

「スマンスマン……ホンマにそうやな」

 返事をしたものの頭に何かが引っかかる

「そんなんだから、皆の第一印象がそろってオタクだったんですよ」

「やかましいわ!」

 ツッコミを入れると頭に引っかかっていたのは頭の隅に追いやられる

 ふと時計を見ると午後六時

「あ、こんな時間やなそろそろ帰るわ」

「明日に備えて?」

「ああ、ほなお疲れ」

「お疲れさんです」

 駐車場のバイクに鍵入れた時

「ヤマト」

 誰かに呼ばれた気がしたが自分の他には誰もいない

(気のせいか?)

 気にせずにバイクで走り出した




 家に帰ると携帯が突然鳴り出す

 液晶には明日一緒に行く友人、慎吾の名前があった

「もしもし?」

『あ、やっと出た、何回もかけたねんけどなんで出えへんかったん?』

「悪い、バイトやってん。んで、どうしたん?何かあったん?」

『いやな?明日早いやろ?それやったらもう今晩中に誰かン家に泊まろうって話になってんねん』

「ふ〜ん、それは構わんけど誰ン家に?」

『そりゃあ、もちろん大和やって』

 やっぱりな、別に嫌では無いが事あるごとに自分が貧乏くじを引く事が多い

「……別に構わんけど布団そんなに無いで?」

『上から上着でも被れば問題無いって』

「まあ、それでいいなら、別にええよ」

『やった!ほんじゃあ一時間位したら車で俺ン家来てな、皆荷物重くて大変やねん、んじゃ!』
   

       ブツップープープー


「え!おい!もしも〜し」

 返事が無い事は分かっていたが言わずにいられない

 一時間、何とかシャワーぐらいなら浴びれると思うと急いで風呂に入りバイト先の匂いを落とした



 
 一時間後、慎吾の家の近くまで車を走らせると荷物を持った数人の姿が見え、その中の一番背の高い男が大和の車を見つけ手を振る 

「お!大和!こっちこっち」
 
 車を慎吾の近くに止め車から降りる

「お前な〜アレは卑怯やぞ?どうせ今も電源切ってるやろ?」

「正解!ええやん、どうあっても大和は来てくれんねんから」

 ハ〜悪い奴じゃない、でも無駄に計算高い

 子供の頃からの付き合いの友人に溜め息が出る

「荷物は今、車のトランク開けるからそこに入れてな」

「OKOK〜」

 トランクを開けると他の一緒に行くメンバーも皆荷物を入れ、最後の荷物を入れるとバタンッとトランクを閉めた

「それじゃ〜大和の家にGO〜」

「「「「イェ〜〜〜イ」」」」

「近所迷惑やから騒ぐな〜」

 大和が力の無いツッコミを入れた後、それぞれが決めていたかのようにさっさと車に乗り込み最後に運転手の大和が運転席に座ろうとしたが……先客がいた

「……何してんの?」

「え〜やっぱ人の車運転したいやん、傷ついても別に俺は痛くもなんとも無いし〜」

 いたのは昔からの悪友慎吾

「慎吾、お前免許持ってたっけ?」

「いや、只今教習中」

「どけ!」

「ヤ!」

 サッと運転席の足元に置いてある赤い物を取る


     スパーーーン


 重そうながらも軽快な音が住宅街に響いた

 大和の手にはでかでかと『慎吾お仕置き専用』と書かれた赤いハリセンが握られていた

「いった!何やねんこの痛さ!普通もっと軟らかいやろ!」

「お前専用や、画用紙三枚重ねの俺の手作り、手首のスナップも効かしてるから痛いやろ?」

「当たり前や、本気で痛かったわ!」

 慎吾の目にはうっすら涙が浮かんでいた

「大体何で俺専用が三枚重ねの特別仕様やねん!」

「は?『専用』で『赤』やったら三倍は常識やろ?」

「また、古いネタを……」

「それはさて置き、慎吾?どく気になった?」

「ヤダ!」
 
 大和がハリセンを構え

「慎吾?もう一発欲しい?」

 訊ねるではなくほぼ脅すような声が車中に響く

「スミマセン、ドキマス」

 慎吾はすごすごと助手席へ移動をしシートベルトをした

 やっと落ち着いて運転席に座りハリセンを足元に置いた大和は慣れた手つきで運転し始める





「そういえば昨日な、変な夢見てん」

「どんな夢?」

 赤信号で捕まり何もする事が無かったのでバイトでも話したが何となく今も話したくなる

「あんな…」

 夢の中での事を話していると後ろの友人等も会話をやめ大和の話を聞きだした

 話が終わるとちょうど赤信号が青に変わったのでアクセルを踏み出す

「大和さあ、昔から漫画をよく読む奴と思ってたけどその妄想はちょっとヒドイで?」

「妄想じゃなくて夢や!」

「どっちも変わらんて、ハァ〜我が友はこの三年で立派なオタクになりました。情けない情けない」

「慎吾、次に車止まった時覚えてろよ?」

 大和はチラッと自分の足元にある赤いハリセンを見た

「そ、それよりも大和ン家の近くにあるスーパー寄ってくれへんか?ホラ俺食い物担当やろ?今日買おうと思ってまだ買って無いねん」

「ああ、ええよ。今日のメシもそこで買うか、皆もそれでかまへんよな?」

 返事はバラバラだったが他のメンバーに反対意見は無い




 数分後、スーパーの立体駐車場に車を停め外に出ると

「やまと……」

 また、誰かに呼ばれた気がした

「今、誰か呼んだ?」

 全員首を横に振る

「あれ?おかしいな?」

「大和?大丈夫か?幻聴が聞こえるんか?毒キノコか何か食べたんか?漫画や小説の読みすぎか?
 
 ああ、さてはゲームのしすぎやな、アカンでゲームは一日一時間と昔の偉い人は言うてんねんで?
 
 それとも本当にそうなったときの事考えてたんか?無理無理どう考えたって大和じゃ復興なんてできへんから」

 そこまで聞き大和は赤い物を振り上げ


      スパーーーン


 先程住宅街で響いた音が今度は立体駐車場で響く

 立体だけあってその音は奥のほうまで音を響かせた

「いった、アカンてそれホンマに痛いから」

「あ、忘れてた」

     
      スパーーーン
  

 三度悪夢のような音が響く

「コレは車での分やからな」

「ツ〜〜〜〜、同じトコをスパンスパンと殴りやがって」

「なら要らん事言うな!それに俺が実際に行っても何とかしてこっちに戻ってくるわ!」

 大声で返事を返した大和に慎吾は痛がるのをやめ真面目な顔を向けた

「…………ホンマやな?ホンマに戻ってくるねんな?」

「あ、当たり前や!けどそないに真面目な顔で言わんでも……」

「なら、いつまでもこんな夢見てないでさっさと現実の世界に戻れ!!」

(夢?コレが夢?)

 言われてみればそうだ、おかしい!自分は確かに車は持っているがバイクは無い

 赤いハリセンも今叩こうとしたらいきなり手の平に現れた

 すると駐車場、他の客、慎吾以外の友達がまるで幻のようにスウッと姿が消える

 建物、足元、空、全てが消えていき、そこに残るのは大和と慎吾の二人だけになった

 フッと大和の首に赤い宝石が付いた首飾りが姿を出した

(コレは……竜の…牙?)

「大和」

 先程から聞こえていた幻聴がまた聞こえる

(幻聴や無い、この声は……キョウ!)

「ホラ、キョウが呼んでるぞ?早く起きろよ」

「っていうか何でお前がキョウを知ってるん?」

 さっきから疑問に思っていた事を聞いてみた

 すると、慎吾は子供がいたずらが成功した時の様な嬉しそうな楽しそうな声で笑い出す

「ハハハハハハ!当たり前やろ?俺はお前が作った俺やで?言うてみれば偽者、もっと言えばお前の記憶にあるのは俺の頭の中にもあるってことや、OK?」

 なるほど確かにそうだ

 ココは現実ではなく夢の中、何があってもおかしくない

 笑うのを止め真面目な顔で慎吾は大和に微笑みかける

「そんな事よりもさっきも言ったやろ?早く起きてさっさと復興して現在に戻れ!んで本物の俺に殴られて来い!」

「ああ、そうやな、んじゃまたな!」

「違う違う、『またな』じゃアカンて、お前が作った俺とはこれでお別れ、今度は本物の俺に会え!」

「あ!そうやったな、んじゃあ改めて、『じゃあな』」

「おう、『じゃあな』」

 二人の姿がだんだん薄れてき、大和の意識も失われそうになる

 大和は最後に力を振り絞り偽りの友人に最後に言いたい事を言う

「慎吾!最後に一言、言わせてくれ!」

「何や?」

「何でこんな場面でお前やねん!普通は彼女とか家族とかやろ!」

「知るか!」

 最後のやり取りを終えると完全に意識は無くなりやがてココも何も無くただの真っ白い空間になった