火魅子伝・九峪の決断(H:小説・ゲーム M:九峪・愛宕 J:シリアス) |
- 日時: 07/02 02:02
- 著者: 北野
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九洲に圧政を布き、民を苦しめていた狗根国。
その狗根国を九洲から追い出そうと耶麻台国が反乱を起こした。
最終的に耶麻台国が勝利し、九洲の民は圧制から解放された。
その復興戦争が終結し、早一年が過ぎ去ろうとしている。
神の遣いとして総司令官を務め、耶麻台国を勝利へと導いた男九峪雅比古は、自分の世界に戻る事なく未だ耶麻台国に身を置いていた。
九峪曰く「復興はしたけど、まだそれで終わりじゃあない。やる事は山のようにあるんだ、すぐには帰れないさ。まあ最終的には帰るつもりだけどな」
周りの者達からは、このままずっと耶麻台国にいてはもらえないかと頼まれもしていた。
だが九峪は「いつかは元いた世界に帰る」と、この事だけは譲らなかった。
「そろそろ元いた世界に帰ろうと思ってさ」
ある日九峪は唐突にそんな事を言い出した。
だが以前から九峪自身が度々言っていた事で、いずれは帰ると皆知ってはいたので、それほど驚く事はなかった。
皆一様に別れを惜しんではいたのだが。
それぞれが思い思いに別れの言葉を交わす。
「・・・・・・」
そんな中一人俯き、周囲とは様子の違う者がいた。
九峪もそれに気付き、声をかける。
「愛宕、どうかしたのか?」
「ううん、何でもない。そうなんだ、九峪サマ帰っちゃうんだ・・・」
「ああ、皆と会えなくなると寂しくなるなぁ」
九峪は感慨深げに言った。
愛宕は九峪の言葉も聞こえていないかのように何か考え込んでいる様子だった。
が、考えが纏まったのか、不意に口を開いた。
「ねえ九峪サマ、ボクも家に帰ろうと思うんだけど一緒に来ない? お持て成しするよ!」
九峪は少し考える風だったが、すぐに口を開く。
「う〜ん、別に急いで帰る事もないし、少しくらいならいいかな」
「やったぁ♪」
愛宕は嬉しそうに笑って見せた。
「それに愛宕一人じゃ、また迷子になるだろうしな」
九峪は冗談めかして言う。
「ヒドーイ、ボク一人ででもちゃんと帰れるんだから!」
愛宕は頬を膨らませて反論した。
もちろん本気で怒っているわけではなかったが。
「ははっ、ごめんごめん、冗談だよ」
愛宕が耶麻台国に身を寄せたのは、彼女がたぐいまれな方向感覚な持ち主なためだった。
要するに迷子だ。
それを九峪が保護したのである。
実際問題、彼女が一人で帰ろうとすれば、十中八九道に迷う事になるだろう。
九峪が一緒に行ったところで、迷わないかというと多いに疑問だが・・・。
「愛宕ぉ、本当にこっちでいいのか?」
九峪は先ほどから何度となく口にしている言葉を繰り返した。
九峪は愛宕の家に招待されたのだ。
愛宕の故郷は内陸ではない、行くのには当然船で行く事になる。
そこまでは良かった。
問題は陸に着いてからだった。
愛宕が持ち前の方向感覚を遺憾なく発揮し、予想通りというか見事に迷った。
だが2人は迷っている事に気付いていない。
九峪にしてみれば、愛宕の道案内に頼るしかないわけで、わかるはずもない。
愛宕にしても、気付かない。
だからこそ耶麻台国に入る事にもなったわけだが・・・。
更に一刻程経過し、さすがにおかしいと気付いた九峪は、おそるおそる愛宕に訊いた。
「愛宕、一つ訊いていいか?」
「な〜に? 九峪サマ」
「俺達って迷ったのか?」
「えっ? そうなの?」
愛宕は思いもよらない事を聞いたような表情をする。
自分が迷っているとは全く気付いていなかったようだ。
「そうなのってお前・・・。もう何時間歩いてるんだよ。愛宕の家ってそんなに遠いのか?」
「ん〜ん、そんなに遠くなかったと思うよ」
「じゃあ、やっぱり迷ったんだな・・・」
九峪は諦めたように言った。
「もう日が暮れる、とりあえず今日は野宿しよう」
二人は適当な場所を選び、夜営の準備をする。
食事には、愛宕が家へのお土産として持ってきた食料の一部を流用した。
まさか道中で食べる事にはなるとは、思いもしなかっただろうが・・・。
食事が終わり、二人は焚き火を囲んで向かい合って話していた。
「まったく、愛宕には最後まで心配かけられるな」
九峪は笑いながらそんな事を言う。
冗談のつもりなのだろう。
だが愛宕はそれに答えなかった。
「・・・・・・」
九峪の言葉に無言でいる愛宕の様子に違和感を感じ、九峪は尋ねる。
「ん? どうした?」
「ごめんなさい」
「そんな事気にするなって。いつも元気に笑ってた方が愛宕らしいぜ」
九峪は素直に謝られた事に驚きつつも、愛宕を元気づけるのを忘れなかった。
「ありがと、九峪サマは優しいね」
「そうかな」
九峪は照れたように頬を掻きながら答える。
「でもヒドイね」
「えっ!?」
突然の愛宕のその言葉に九峪は驚きの声をあげる。
「だって元の世界に帰っちゃうんだもん」
「さっき九峪サマ言ったよね、笑ってた方がボクらしいって・・・。でももう笑えないよ、九峪サマがいないんじゃ・・・」
愛宕は立てた膝に顔を埋め、言葉を切った。
その瞳に溜めた涙を隠すために。
「・・・・・・愛宕・・・」
九峪はそんな愛宕の姿を見てある決断をした。
「愛宕、俺と一緒に来るか?」
数瞬後、九峪はそんな言葉を口にしていた。
翌日、なんとか家に到着した二人は、愛宕の家族に事の次第を説明した。
もう愛宕はここには帰って来ない事も・・・。
いざ帰る際には皆の前ではなく、密かに帰る事になった。
事情は、火魅子と神器の精であるキョウにだけ説明した。
他の者達には愛宕の事はおいおい話してもらうように頼んである。
説明すれば必ず、「自分も行く」と言い出す者がいるだろう。
そのような事を避けるためだ。
現代に戻った九峪と愛宕はまっすぐ九峪の家に来ていた。
九峪としては日魅子の事も気になるところだが、一緒に愛宕がいる。
いきなり女連れで現れれば、日魅子に何を言われるかわかったものではない。
ひとまず日魅子の事は後回しにした。
「ここが九峪サマの家なんだ〜」
九峪の家はどこにでもありそうな一軒家だった。
だが今この家には九峪一人しか住んでいない。
九峪の両親は仕事で海外へ赴任しているのだ。
1人暮らしには広すぎるくらいだろう。
「そう、そして愛宕の家でもあるわけだ」
これからは二人暮らしになるわけだが・・・。
先に九峪が中に入り、愛宕がそれに続こうとする。
「お邪魔しま〜す」
そう言って中に入ろうとした愛宕を、九峪は制した。
「違うだろ? ここは愛宕の家なんだからな。はい、もう一回」
九峪は愛宕の背を押し、外に押しだすとドアを閉める。
数瞬後、再びゆっくりとドアが開かれた。
「えへへ、ただいま♪」
愛宕は少し照れくさそうにしながら言った。
「よし!おかえり」
愛宕は笑みが零れるのを抑えられなかった。
あとがき
どうも、北野です。
かなり久しぶりになりますね。
半年ぶりですか。
今回は久しぶりにカップリングなぞを書いてみました。
本編補完もいいけど、やっぱりこういうのの方が読みやすいですかね。
まあだからといって、カップリングばかり書く気はありませんけどね(笑)
ちなみにこの愛宕はゲーム版を元にしています。
小説版とはまったくの別キャラとなっております。
その辺をご了承ください。
実はもう少し長く書こうとも思ったんですよ、この作品。
現代九州に戻ったのなら日魅子とのやり取りがありますよね。
愛宕を連れ帰ってるので、それについての日魅子の追求とか。
ただまあここは綺麗に終わらせておこうかなと。
(実際綺麗に終われてるどうかはわかりませんけど・・・)
それと最近自分でHPを立ち上げてみました。
ここに投稿した作品に若干手を加えたものの他、些少のものが置いてあります。
お暇があれば覗いてやってください。
次回作は予定がありません。
気が向いたらという事で(笑)
もし良かったら感想ください。
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