火魅子伝 〜月下貴族〜 第一話 (H:小説、オリ M:九峪、キョウ J:シリアス、オリクロス)
日時: 04/07 17:18
著者: 混沌騎士

第一話 始動

目を開いて見えたのは鬱蒼と生い茂る深い深〜い森でした。

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「……………………………ふむ」

 こういう場合は慌ててはいけない。自分の今までの行動を思い返し、そして、今の状況を理解するのが大切だ。

(確か……、耶牟原遺跡で姫島の孫が光に巻き込まれるのを防いで・・・…、で、俺がかわりになったんだっけ。プレハブ小屋から森の中へ移動しているこの状況から見るにどこかへ転移させられたと見るべきか。これでも耐魔力には自信があったんだが、何とも簡単に移動させられたな。はあ、ちょっとショック……)
(問題はここが何処なのかってことだな。見たところ結構深い森のようだし、こんなところで居場所がわからないと結構迷うことになるぞ)

「あれ〜、ねぇ君、誰?」

 とりあえず、冷静に今、自分の置かれた状況を分析していた九峪に男とも、女ともつかない中性的な声が掛けられた。

「あ?なんだお前」

「やあ!オイラは天魔鏡の精、キョウちゃんって呼んでくれ!」

見た目的には形容しがたい形状をしているが、問いに素直に答えてくれた事により危険性は高くないと判断。体が魔力から構成されていることから転移の原因の最有力候補とし、情報を得るために接近をはかることにする。

「天魔鏡の精?お前、精霊なのか」

「う〜ん、まっ、そう考えてくれて構わないよ」

(精霊級の相手なら転移されてもおかしくはない、か……。でもこいつからはそんなに強大な力は感じらいないなあ。もう少し詮索を入れてみるか)

「ねぇ、ところで君は誰?」

「俺か?俺は九峪、九峪雅比古。九峪でも雅比古でもどっちでも呼びやすいように呼んでくれて構わないぞ」

「じゃ九峪って呼ぶことにするよ。ところで火魅子は?」

「日魅子?日魅子ってお前が転移させようとしたあの子のことか?」

「うん、そうなんだけど……、何で君がいるの?」

(やはりこいつが原因か。さて……、どう答えたものか)

 しばし考える九峪だが、嘘を言っても仕方がないので素直に答えることにした。

「何でって、俺が邪魔したから」

「えええええええええええええぇぇぇぇぇっっー―――――!?九峪なんてことしてくれたんだよ!!?火魅子を喚ぶのにオイラがどんなに苦労したかわかる!!」

「知らん!(キッパリ)」

「そんな〜」

「大体、勝手にやろうとしたお前が悪い。誰だって目の前で人が突然消えそうになったら邪魔しようとするだろうが」

「う゛っ」

 痛いところをつかれてキョウが黙った。

「それに、日魅子は俺の友人の孫なんだ。見て見ぬ振りは出来ねぇんだよ」

「あっ、それは違うよ」

 落ち込んでいたキョウが復活した。

「はあ?」

「日魅子は元々こっちの人間なんだよ」

「……こっちの人間??確かに日魅子は実の孫じゃないって言ってたけど、どう言う意味だ?」

「あっ、ごめん。今からそれを説明するね。始めに言っておくけど、ここは九峪がいた世界とは違う世界だから」

 そして、キョウはここが元いた世界とは並行世界のような関係にある世界だということ、日魅子は元々この世界の人間で事故によって違う世界にいってしまったこと、何故今、自分が日魅子を呼ぶ戻そうとしているのか、などと言ったことを説明していった。








「――つまり、日魅子は元々はこの世界の耶麻台国といった国の王女で、その国が滅ぼされて日魅子は事故によって俺の世界へときた。んで、お前は日魅子が成人したからそろそろ復興の頃合いだと見て彼女を召還しようとした、だが、召還しようとした時にたまたま居合わせた俺に邪魔されて何の間違いか俺を召喚してしまった、と。そういうことでいいんだな」

「うん、大体そんな感じだよ。――九峪すごい落ち付いてるね。普通なら取り乱すか泣き叫ぶと思うよ」

「ん?ああ、まあな。取り乱してもしょうがないからな。落ち着いて考えたほうが余計な時間をとらずにすむってもんだろ」

「まあ、そうだけどさ。でも、わかっている上にそれが実行できる九峪はすごいよ」

「お世辞を言ってもなんも出ないぞ」

「別にお世辞ってわけじゃないんだけどなあ」

 感心しているキョウをとりあえず無視して九峪は考え込んでいた。

(さて、どうするかな。まさか“世界旅行”されているとは思わなかったな。俺にそんな芸当はできないからとりあえずあっちには戻れないと考えたほうが妥当、か。それに、別に戻れなくても問題はないな。それどころか、異世界に来れるなんて滅多に出来ねぇ体験だから、考えようによってはこれってものすこくラッキーなことかも。となると、まずはこの世界での身の振り方を考えないとな。……でも、この世界にもこの世界なりのルールがあるだろうから下手なことはできねぇな。どうしたもんか……。ん?待てよ。そうだ!キョウがいるじゃないか。さっきの話しから察するにこいつの存在はその耶麻台国って言う国にとって重要なのは間違いない。それに、結構な物知りみたいだしな。とりあえず、この世界に順応するまでこいつの側にいれば何かと困ることはないだろう。そうと決まれば話しは早い)

「………………峪、…………峪…て…!……九峪ってば!!!聞こえてる?くーたーにー!!」

 今後の方針を決め、先ほどから耳元で自分の名前を大声で叫んでいるキョウへと意識を戻す。

「なんだ。うるさいな」

「だって九峪が返事しないんだもん」

「ああ、悪かったな。ちょっと考え事をしてた」

 事実そうなので、そう答える。

「ふ〜ん。でさ、どうなの?」

「神の遣いをやってくれって話のことか?なら別に問題はなぇ。要はその耶麻台国って国を復興させればいいんだろ?」

 日魅子を召還できなかったキョウは、この状況でも落ち付いている九峪を耶麻台国の神の遣いとして仕立て上げて、耶麻台国を復興させるつもりでいた。

「うんうん。そうだよ♪ほんと、やってくれる?よかった〜。これで復興も大丈夫だね!」

 トントン拍子に進む話しにキョウは九峪のまわりを飛び回った。

「ははは、…………そんなに喜ぶことでもないと思うけどな」

(別に本心から復興させてやりたいとは思っちゃあ、いないが、この世界をしっかりと理解するまで、せいぜい利用させてもらうさ。……それに、やってるうちに本心から復興させてやりたいとも思うようになるかもしれないしな)

 何をしても冷めたままだった心が再び、段々と温かくなっていくのを、心地よく感じながら九峪は、これからやるだろうことに思いを馳せてワクワクしはじめていた。







 当分の方針が決まったこともあり、九峪は自分の持ち物を確認していた。いったいどうなっているのか、着ているジャケットの中から実に様々なものが出てくる。なには絶対に入らないだろうとツッコミたくなるようなものまであった。

「……………着替え10着、戦闘服10着、儀式用着衣3着、太陽電池式腕時計2つ、折りたたみ式世界地図1、コンパス2、学術書250冊………」

「ね、ねぇ、九峪……」

「えーと、投擲用の短剣がざっと500本に、鉛玉100個詰パックが12……、何だ?」

「そんなにいっぱいの物どこに入ってたの?もうかなりの量になると思うんだけど・・・…」

 九峪が地面に並べた物の数は既に1,000を越えており、とても服に収まる量とは考えられなかった。

「ああ、そんなことか。何、いつも身一つで旅してるから持ち物は全部持つようにしてるんだけど、この通り、結構あって普通じゃ持ち運べないんだ。だから、服に魔術で細工を施して家一軒分の物が入れるようにしたんだよ」

「九峪、魔術って?」

「ん?知らないのか。まあ、一般には知られないようにしてあるから当然か。魔術ってのはそうだな〜、文字通りに魔の術を操ることなんだけど……、なんつったらいいかな。魔の力を操れるのは混沌の属性を持つ人間か魔の属性を持つ悪魔で、魔術を操る者――魔術師が行う魔術は個人個人が持つ力に大きく左右される。その逆に神術ってのもあるんだけど、それは世界の力を借りて行う奇跡の事で、これは天使と聖職者や巫女などの極一部の人間にしか扱うことはできないが、これは世界の力を使うから効果は一様にして強力なんだ。………たまに神術よりも強力な魔術を操る者もいるけどな」

 ちなみに俺もその一人なんだけど、と心の中で付け足しておく。

 九峪は昔それで山を吹き飛ばしたことがあった。

「それと魔法は魔術にとっての『自然の法則』みたいなもので、決してあがらってはいけない魔術の法則性のことだから、そこらへん混同しない様に」

「なるほど、方術みたいものだね」

「方術?」

 気になる単語を聞いて、地面に並べられた荷物から顔を上げた。

「うん、こっちの世界にも九峪の言うような魔術や神術と似たようなものがあるんだ。方術と左道って言うんだけどね。もとは天空人や魔人がもたらしたものなんだけど、それを人間が自分たちにも使えるようにしたのがそう」

「天空人に魔人?天使や悪魔みたいなもんか?」

「あっ、そうか。それをまだ説明してなかったね。この世界は『天界』『仙界』『人間界』『魔獣界』『魔界』の5つの世界からなっていて、天界には天空人が住み、仙界には仙人、人間界には人間、魔獣界には魔獣、魔界には魔人が住んでるんだ」

「つまり天国や地獄みたいなもんか?」

「うん、そだよ。数百年前ぐらいまではお互い交流があったんだけど、今ではもうないんだ。でもその頃の名残で文化は九峪がいた世界よりも進んでると思うよ」

「ふ〜ん、こっちではそういう存在は公認されてるんだな。さすがは並行世界ってところか?――いや、ここまで違うともはや異世界って呼んだほうがいいな。…………っと、よし。確認終了!不測の事態でも起きない限りしばらくは大丈夫だな」

「じゃ、いつまでもこんな森の中にいるわけにもいかないし、そろそろ行くか。…………ところでキョウ、耶麻台国が征服されているんなら、その狗根国とか言う国の出先機関みたいのがあるんじゃないのか?」

 九峪がキョウを利用した思っていた時にキョウがしゃべった話から耶麻台国は九州、狗根国は近畿地方、少なくとも中国地方あたりにある見た九峪は、その間には海があって本国からの直接支配は実質的に無理があることから、九洲のどこかに狗根国の統治機関があると見ていた。それをキョウに聞きながら、地面に積み上げていた物を服の中へと入れていく。

「うん、征西都督府っていうのがあるよ。耶麻台国の本拠地だった耶牟原城に新しく建設された町で、方角はここから北の方だよ」

「そっか。なら、まずはそこに行こう」

「……………えっ?」

まるで、これからピクニックにでも行くかのように簡単に言った九峪の言葉に、キョウは言葉を失った。










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