火魅子伝 〜月下貴族〜 第二話 (H:小説+オリ M:九峪・キョウ Jシリアス |
- 日時: 04/12 19:31
- 著者: 混沌騎士
- 第二話 吸血鬼というもの
征西都督府に行くのを嫌がっていたキョウだったが、天魔鏡を九峪が持っている(荷物を整理する時についでに服の中へ入れといた)ので、否応もなくついて行くことになった。が――
「ねぇ、九峪やめようよ〜。なんでわざわざそんな危ないとこに行くのさ〜。捕まっちゃうよ〜。捕まったら殺されちゃうんだよ?九峪死ぬのが恐くないの〜?」
森を北の方学に向って抜けている途中、既にキョウは何回となく同じような内容の事を言っていた。それを馬耳東風が如くに聞き流していた九峪だったが、さすがに耳の直ぐ側から聞こえてくる声を無視し続けるのには限界がある。
「うっせぇ〜な。ようは捕まらなきゃいいんだろ?ダイジョーブだって、心配すんな。たかが人間に捕まるほどやわじゃあねぇ」
「なんか、その言い方だとまるで九峪が人間じゃないみたいな言い方だね」
「ハッハッハッ〜〜。人間じゃないみたいじゃなく実際に俺は人間じゃないぞ。あっ」
しまった、と思った時には既に遅かった。
「えっ!?九峪、人間じゃないの?」
一瞬、誤魔化そうか、と考える九峪だったが、どうせいつかばれるだろうと思い直して言うことにした。
「ああ、俺は千年前に既に人間を止めている。そんころから吸血鬼をやっているんだが、吸血鬼ってわかるか?」
「う、うん。人の血を吸って生きる、ってヤツでしょ?太陽の光を浴びると灰になる。って、九峪太陽の光を浴びると灰になっちゃうの!?」
魔術を知らないのに吸血鬼の事は知っているのか、と不思議に思う九峪だったが、別段言うことでもなかったので、直ぐに頭を切り替えた。
「まっ一般的な吸血鬼のイメージがそれだな。俺の場合はちょっと特殊でね。不死性が強すぎて弱点らしい弱点はないんだよ。別に流水を渡れないってことはないし、銀を打たれても別にどうってことはない、それに、太陽の光で即灰と言うわけでもない。まあ、それでも太陽の光をじかに浴びると細胞は焼けていくんだが、それは焼けてく側から復元していくから肉眼で見た程度じゃ何が起こってるかなんてわからねぇ。………強いて弱点を言えば、復元する時に力を使うから太陽の下じゃいつもより多く力を消費するって言う程度だな。だいたいそれも微々たる量だし、それで死のうと思ったら十年ぐらい血を飲まずにずっと太陽の下にいなけりゃならねぇな。もし、一瞬でも月の光を浴びたらある程度の力は戻ってくるから、血を飲まずにいても死ぬのに千年以上かかっちまう。………それ以外じゃあ、切られても潰されても直後に復元するから、原子か、分子レベルにでも一瞬でされない限りは死なない自信がある」
実質的に不死身。
「凄いよ九峪!!それじゃあ、九峪って死なないの!?」
九峪の頭の上に座って、ポフポフと九峪の頭を叩くキョウ。
自分が吸血鬼と言ってこんなふうに喜ばれたことのない九峪は、自分の生きてきた中でも中々に上機嫌だった。
上機嫌になると口数も通常より多くなる九峪は、キョウに吸血鬼講義をしだした。―――森の中を陸上選手も真っ青な速度で駆け抜けながら。
「一般に知られている吸血鬼のイメージ――――
1、燕尾服もしくはテールコートにシルクハットを被り、襟の立った表地が黒で裏地が赤のマントを羽織り、翻している古典的なヨーロッパ貴族のような姿をしている。
2、赤ワインや薔薇が血液の比喩として用いられる事がある。
3、太陽の光にあたると灰になってしまう。
4、白木の杭を心臓に打ち込め死亡する。
5、銀を嫌い、銀の武器を使えば傷付けることができる(不死身性を破れる)。
6、川や海などの流れる水を越える事ができない(空を飛ぶ動物に変身していたり、橋やボート等があれば別)。
7、十字架やニンニクに弱い。
8、鏡に映らない。
9、初めて訪問した家では、その家人に招かれなければ侵入できない。
10、コウモリ、狼、霧などに変身出来る。
11、人間を超越した身体能力を持ち、長く生きたものには超能力を操れるものもいる(サイコキネシスや暗示など)。
12、吸血鬼に血を吸われ死んだ人や、吸血鬼の血液が体内に入った人は、吸血鬼になる。
13、いわゆる始祖、オリジナルと称される最初の吸血鬼は感染によって吸血鬼となった者より強力で、特に日光に対して強い場合が多い。
――――というのは8割方が正確ではない。――――
1のような格好は1、2世紀も前のものであり、今じゃ、よっぽどの馬鹿か好事家でもない限りしていない。
2も上と同じ。
3〜6は1000年未満の者にしか当てはまらない。
7〜9はまったくのでたらめ、吸血鬼を怖がるあまりに、ありもしない方法を思いついた人間の真っ赤な嘘。もっとも火のないところに煙はたたぬって言うから、そういう根拠があると思うけど、たぶん、魔術か神術がそのもとになっているはずだ。
10、11,12、13はそれぞれ半分当たってるな。
10では、個体差はあるが、長く生きた者はコウモリ、狼、霧のほかにも年を経るごとに猫、蚊、カラス、ワニ、豹、虎、ライオンと言った動物に変身する能力を獲得していき、最終的には伝説の化け物であるバジリスクやドラゴンにまで到達することができるようになる。
11には魔術に適した体に作り変えられるということがプラスされる。身体能力は・・・・・まあ、いずれ見せてやるから楽しみにしてろ。
12の他にも何らかの魔術的作用で長く生きた蛇やコウモリなどと言ったものが人間に変身する能力を見に付けてなる場合もあるし、珍しいものになると長く生きた吸血鬼に見られただけでなったのもいる。
最後のは始祖だけでなく、1000年生きた吸血鬼なら全てがそうだ。
――――なぜなら、人間が対決しつづけたのは若い吸血鬼だけであって、それ以上の者ではないからだ。吸血鬼ってのは不思議な種族で、その成長にはいくつかの段階がある。――――
第1段階、期間は転化――人間から吸血鬼へとなること――後の1〜20年間。この段階にある奴は大別して2種類あり、1つは自分が今までの自分とは違う生物となり、かつての同朋の血を吸って生きるしかなくなったと嘆く愚か者。もう1つは過去の自分を遥かに超越した力を手に入れたと喜ぶ大馬鹿者。前者は自分で命を絶ち、後者は調子にのって人間の血を吸いすぎて人間側のものに始末される。この二つを生き残れた者達だけが次の段階へとすすめる。
第2段階、期間は転化後200年まで、第1段階で半数以下に減った奴らが今後の自分のみ身の振り方に付いて考え始める。大半の者は吸血鬼の本能として、この段階から自分よりも年長の吸血鬼を探してその教えを乞おうとする。
第3段階、期間は転化後200年から、200年を過ぎたあたりから多くの者が死を望み始める。これは吸血鬼となり、永遠にも等しい命を手に入れたといってもその精神はまだ人間のままであり、人間の心は200年よりも長く生きるようにはできていないから、と言われている(200年生きた人間は今までいなかったから本当のところはもっと別にあるのかもしれないが)。この段階が吸血鬼にとってもっとも過酷な期間となる。新米の3分の2はこの願望に勝てず、自ら日光の下に出て日の光で焼き尽くされるか、正体をあらわして人間の吸血鬼ハンターに狩られる。
第4段階、期間は転化後999年まで、この段階に関しては特に言うことはないな。人間に滅ぼされる危険性がほとんどなくなり、精神も吸血鬼として生きるのに相応しいようになってくる。ってくらいだけだ。これが人間の知る吸血鬼の最終段階。後は千年越えを待つだけだな。
第5段階、期間は転化後1000年から、1000年を境に吸血鬼は完成体となる。どんな環境下でも順応して生きていけることができるし、その不死性も血と月の光さえあれば半永久的だ。これが本当の吸血鬼にとっての最終段階と言っていい。この段階の吸血鬼がなぜ人間に知られていないかというと、この段階ともなるとそうとう知恵者になるし、何よりやる気に欠けて来るからだな。俺のように千と百年ちょいすぎてるのならまだしも、2千年ともなると動くことさえしようとはしなくなる。どっかに自分だけの城をぼっ建てて魔術で覆い隠してずっとそこで寝てるのが普通だな。理由としてはほとんどの事を知ってしまってつまらなくなったって感じだな。
ちなみに、999年生きた奴が何百と束になって掛かろうとも千年生きた奴には傷1つ負わすことすらできねェ。僅か1年だろうが、第4段階(未完生体)と第5段階(完成体)の間にはその位凄まじい差があるってこどだ。
――――トまあ、大体こんな感じだな。なんか質問とかあるか?」
かなりの速さで森の中を走っているのにもかかわらず、九峪は息1つ乱さずに講義をし終わった。九峪の頭の上に乗っかっているだけのキョウは、落ちないように九峪の頭にへばりついていた。
「あ〜、うん。さっきの話聞いてて思ったんだけどさ。九峪も血、吸うんだよね」
「あったりまえだろ。吸血鬼にとっちゃあ血を吸うことは一種の欠かすことの出来ない儀式なんだぞ。――あ〜〜、でも、そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫だぞ。血を吸うといっても別に貧血おこさせるほど吸うわけじゃないし、ただ噛まれただけじゃ同類にはならん。俺も昔は加減つかめなくてミイラにさせちゃったことはあったけど、今はもうコツ掴んでるから」
加減とミイラの単語がやけに気になるキョウだったが、九峪を信じてとにかく頷いといた。というかキョウには最早九峪に全てを託すことしか出来ないから、信じる以外にないのだ。それでも不安はある。
「あ〜と、ちょっと聞くけど、貧血にはさせないけど血は吸うんでしょ?誰からどう言った方法で貰うわけ?」
「そうだな〜。血が必要だと言っても俺にも好き嫌いがあるから、相手も選ばずにむやみやたらと吸うのは御免だ。理想としては魔力に富んでいて処女で、美しい若い女性なんだな。その血が一滴でもあれば一日中全力で暴れたって平気だ。それがなけりゃ、処女じゃなくても構わないから若い女性全般。男や老人、獣は却下だ。男に噛み付く趣味はないし、年よりの血ってのはとにかくまずい。獣に至っては論外、血を吸ってもまずいだけで何の力にもなりゃしない。・・・・・方法は、基本的に相手の同意を得てするが、どうしようもない時なら暗示か、魅了でもかけてやるしかないな」
「あ、あのさ。火魅子候補からは吸わないよね」
この時、キョウは九峪が火魅子候補以外から血を吸うのは復興と引き換えに仕方がないとさえ、思っていた。
だが、九峪はキョウの表情から見事にキョウが考えていることを見抜いていた。
「火魅子候補って俺の理想系?」
「あ〜〜、多分。年齢から考えて若いだろうし、歴代の火魅子も皆綺麗だったから」
答えなければ、九峪が不機嫌になってしまう。そう呟くキョウの姿は完全に諦めが入っていた。
九峪も、まだ相手も見ていないのに血を吸わないと約束するような玉ではない。
「ふ〜ん、なら吸っちゃうかもな」
その瞬間、九峪の顔はイタズラ好きの猫の表情になっていた。Byキョウ
「ええええええ!?そんな〜〜〜〜」
何とか血を吸わないように九峪に頼むキョウ。そのキョウの困った姿をニヤニヤ笑いを浮かべながら九峪はのらりくらりと返事をかわしていった。
「――で、これでもまだ俺が捕まると思うのか?」
結局、九峪から血を吸わないという約束を取り付けられなかったキョウは、不貞腐れたように九峪の頭の上で突っ伏していた。
「どうかな。九峪が人外の域にいるのは分かったけどさ。狗根国も魔人を召喚して使役出来るんだよね〜。どうとも言えない、かな」
「まあ、魔人が出てきたら出てきたで、どうにかするさ。魔人とやらの血も結構いけそうだと思わね?俺的には結構いけると思うな」
「知らないよ。そんなこと」
「なんだよ。冷たいな〜。ははあ、さてはキョウ、おまえ拗ねてるだろ」
「別に拗ねてないもん!!」
「やっぱ拗ねてんじゃねぇかよ」
「・・・・・ぷんっ!」
「ありゃ、キョウ?お〜い、キョウちゃん返事しろ〜。返事しないと全速力で走っちゃうぞ〜」
「・・・・・・・・・・」
「あっそ、じゃあパワー全開!落ちないよう捕まってろよ!!」
パッーン
空気がはじけるような音が聞こえた瞬間、九峪の姿が消え、代わりに大気が激しく振動した。
「ちょッ、九峪!?速っ!!うわぃゃあああああああああああああぁあぁぁああぁあああァァァぁーーーーーーーーー!!!!!!!!!???がく」
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