火魅子伝 DOD (改訂版)第02話 (H:小説+α M:九峪・キョウ・天目・真姉胡・紫香楽+オリ J:シリアス)
日時: 01/23 06:53
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それは唐突にやってきた。

いつの間にか空から現れ、瞬く間に城内に壮絶な破壊をもたらしていった。


水の上に建てられたその城はもともと拠点防衛用のものではなかったが、いったい誰がこのような事態を考えただろうか。

無慈悲な灼熱の炎は逃げ惑う兵、無謀にも向かってゆく兵、おろおろ戸惑う兵、すべてを飲み込む。

断末魔の声すら喰らい尽していくように、炎は地をなめて広がっていった。





ここ征西都督府は現在滅亡の危機に瀕していた。






「ふうん、結構もろいな。それに木造だからよく燃える。」


崩れかけ、焼き焦げた城壁の上から、九峪は征西都督府の様子をうかがっていた。

空ではアンヘルが飛び回っていて、兵が集まっている場所を狙って炎を撒き散らしている。

もはや征西都督府は指揮系統は崩壊したと見てもいいだろう。

いたはずの兵はほとんどが死体すら残さず燃え尽き、今ではその数を十分の一以下に減らしていた。


中には剣や弓を捨て、逃げ出す兵もいた。

いや、今ではそんな兵の数のほうが多いくらいだ。



「もうじき落ちるな・・・」


九峪は笑みを浮かべると城壁から飛び降りる。

十数メートルはあったであろう高さをものともせず、華麗に着地すると、すぐさま腰に下げていた大剣を抜き放ち、駆け出した。

崩れた城壁、建物の間を縫って走り、跳び越えて行く。

やがて数人の兵が九峪の視界に入った。

彼らも九峪の姿を見つけ、急いで剣や槍を構えるが九峪は強く足を踏み込むと、剣を一気に振りぬく。

鈍い感触と振動。

それを感じた次の瞬間、目の前の兵の一人が肉塊に変わった。

生暖かい血と肉片があたりに飛び散る。


「ひ、ひぃいいい!!」

「た、たすけ・・・・」


残りの兵は戦意を消失したのか、後ずさるが九峪は容赦せず、次々と叩き切っていく。

あたりは瞬く間に血の海に変わった。

九峪は全員を切り捨てると、すぐに走り出す。

九峪の行く手には、まだ炎に包まれていない、征西都督府の中でも特に大きく豪奢な造りの建物があった。

おそらく王宮。

九峪はそこにこの征西都督府の司令官がいると踏み、アンヘルに燃やさないよう指示していたのだった。


         司令官はなるべく生け捕りにしたい。まだ役目があるのだからな・・・


九峪はその建物の中に足を踏み入れて行った。
























「逃げ遅れている者には手をかしてやれ!それから避難経路は東の通路を使え!まだ火の手が回りきっていない!」


都督府の政務殿では派手で細工が細部まで施された面積のごく小さな鎧と大きな羽飾りを背負った女性がしきりに指示を出していた。

もはや政務殿が焼け落ちるのも時間の問題。

彼女とその親衛隊達は都督府からの脱出をはかり、すばやく行動していた。

緊急事態でも冷静さを失わず、唯一彼女達だけが秩序を保っていた。


「天目様!紫香楽はまだ王宮に残されているようですが、どうしいたしますか!?」


先ほどから指示を出していた女性、天目が声をかけた女性を振り返る。


「あんな無能なお飾りはほおって置け!!いるだけ足手まといだっ!それよりも自分達ができる限り生き残れるように努力しろ!!」

「はいっ!」


彼女が走り去ると、天目は部屋を見渡す。

天目以外の人は全員出て行っており、その場にいるのは天目だけであった。

天目は急ぎ足で部屋にある棚に向かう。

部屋の主を趣味に合わせられて造られたそれは豪華なものであったが、逃げる身となった彼女にはもはや無用のものだった。

天目は手に持った鍵を使い、一つの引き出しを開ける。

そこには真っ白に輝く小さな箱が入っていた。

何かの石を加工されてできているそれを天目は取り出す。


「これだけは・・・なくすわけにはいかない・・・なんとしても、私の望みをかなえてやる・・・」


天目はその箱を、ぎゅっと握り締める。


「天目様っ!!いつまで残られているのですかっ!!」


後ろから叫ぶ声が聞こえる。

天目は振り返り、その女性に走り寄る。


「すまない、真姉胡。待たせたな。」

「早くここから脱出しましょう。ほとんどの親衛隊員は無事脱出できたようです。」

「そうか、では急ぐぞっ!!」


彼女達は走り出した。

すでに政務殿にも火の手が回っており、時折柱が倒れ、火の粉が飛んでくる。

そのたびに、天目は羽飾りを操り、柱や火の粉を跳ね飛ばす。

やがて無事に建物の外に出たが、天目は目の前に広がる凄惨な光景に目を奪われ、足を止める。

もともと狗根国に忠誠など誓ってはいないため、兵が何人死のうと天目は気にも留めないが、たった一匹の龍によってこの惨劇が引き起こされたのかと思うと、背筋が寒くなった。


        もはや狗根国には勝ち目はないな・・・


そう心の中でつぶやくと上空のアンヘルに目を向けた。


          グォオオオオォン!!


アンヘルの咆哮と炎が次々と地にたたきつけられていた。


「化け物め・・・」

「天目様っ!!早く!」

「ああ!!分かってる!」


天目はアンヘルから目をそらすと再び走り出した。




















同じ頃、王宮内ではさらなる混乱が巻き起こされていた。

血しぶきが飛び、炎が飛び交う。

まだ崩壊を免れていたはずの王宮が次々に破壊されていった。


「き、貴様っ!!我々に刃向かってただで済むと思っているのかっ!!」


まだ状況を理解していないのか、それとも虚勢を張っているのか、十数人の完全武装の兵が九峪を取り囲んでいた。

そして離れた場所に多くの兵に守られた、男がいた。

その男が着ているものは鎧ではなく、仕立てのよい、鮮やかな着物であった。


「愚かな。なんと愚かな輩だ・・・」


九峪はあきれた表情を浮かべ、剣を横に構える。

そして次の瞬間、体をひねり、どんっと片足を踏み込むと、剣を横に薙ぐ。

斬撃をそうように衝撃波が生じ、前にいた数人の兵がそれに巻き込まれ、切り刻まれながら吹き飛ばされる。

彼らが再び立ち上がることはない。


「なっ!か、かかれっ!!」


隊長と思われる兵が号令をかけると、周囲の兵がまたたく間に九峪に向かって殺到してくる。

九峪は振り返り、後ろからかかってきた兵を剣でたたきつぶし、踏みつける。

そして右左、そして前に剣を振りながら進み、移動を続ける。


乱戦になった時に剣術など役には立たない。

どうせ剣を振り回すだけで当たるのだ。


九峪は右の兵に向かって剣を振り下ろす。鈍い手ごたえとともに血が九峪の顔に飛び散る。

しかし九峪は顔色を変えることなく、冷ややかな目で見るだけだ。

不意に左から九峪に向かって槍が突き出される。

九峪はそれを身をそらすことで避け、左手を槍を持つ兵に向けた。


「吹き飛べ。ブレイジングファング。」


九峪がそう言葉を放つやいなや、左手から赤い火球が発せられ、兵に衝突する。

当たった兵の後ろにいた兵ごと吹き飛ばし壁に衝突すると、火球ははじけ、爆発が生じる。

空いた空白地帯に九峪は走り込むと、守られている男に向かって走る。

周囲の数人の兵が壁になろうとするが九峪は再び斬撃を発する。

ほとんどの兵達が血を流し地に倒れこむ。


「ひぇっ!」


男は腰を抜かしたのか、その場にへたたりこむ。

九峪はその男に走り寄るとあごを蹴りつけた。

吹き飛ばされ、壁にぶつかり気絶したのか、動きを止めた。


「さあ、お前らには用はない。さっさと滅べ。」


悠然と九峪あたりを見回す。

そして剣を頭上に振り上げ、群がっている兵たちに向かって振り下ろした。


「ファングオブイフリートっ!!!」


              ドオオオオオォン!!


剣から噴出した炎が兵たちの集団を飲み込み爆発する。

爆発とその衝撃で、すべての兵が完全に戦闘不能となった。

九峪は敵が残っていないことを確認すると、先ほど気絶させた男に近づき、今度は軽く腹を蹴りつける。


「おい、寝たふりはやめろ。お前の名は?」


男は痛みに耐え切れず、目を開けた。


「わ、私はこの征西都督府の、ちょ、長官の、し、紫香楽であるぞっ!」

「ご丁寧にどうも。尋問の手間が省けた。」


九峪はにやっと笑うと、再び思いっきり蹴りつけた。


「グハッ!!くっ・・・」

                  バタッ


紫香楽を気絶させると、九峪は紫香楽の腕を掴み、引きずりながら歩き出した。







外ではアンヘルがもう破壊に飽きたのか、宮殿に陣取っていた。


【クタニ、あらかた兵は焼き払っておいた。あまりにも卑小よ。】


【そうか、では計画通り、一般人の居住区に向かい、姿を示してやれ。】


九峪は届いた思念に返事を返す。


【では、そうするとしようか・・・】


アンヘルは翼を羽ばたかせ、飛び立つ。

それを見た九峪は再び歩き始める。

もはや障害物は何もかも焼け消え、水の上に土台が存在するだけだった。

まっすぐと目的地に向かって歩いて行く。



やがて政務殿の跡地に至った。

政務殿は破壊の度合いが少なく、まだ焼けた柱や材木が大量に残っていた。

九峪は気にせず通り過ぎようとするがふと視界に入ったものに反応して歩みを止めた。


倒れた柱のそばに倒れ伏した女性がいた。

長い黒い髪で露出の多い鎧のようなものを身に着けている。

微かに指先が震えており、顔には苦悶の表情が浮かんでいた。

九峪は彼女の顔をしばらく眺めてると、つぶやく。


「まあ、何かの役に立つかも知れないか・・・」


九峪はその女を肩に担ぎ上げると、また紫香楽を引きずって歩き始めた。




















九峪が立った城壁の下には多くの住民達が集まっていた。

そばにはアンヘルが陣取り、ゆっくりと住民達を眺めていた。

九峪は住民達を見渡すと、剣を振り上げる。

住民達の視線を十分に引き付けたのを確認すると、九峪はもう片方の手で紫香楽の襟首を掴み持ち上げる。

紫香楽は気絶したままだった。

九峪は剣を一気に紫香楽の首に突き立てる。

それを見た住民達から、思わず歓喜の声が上がった。



「今、ここに、狗根国の支配は終わった!!」


九峪は声を張り上げ、掴んでいた紫香楽の胴体と首を城壁の下に投げ捨てる。


「さあ、今こそ自由を勝ち取るときだ!武器を持って立ち上がれ!」



         オオオオオオオォ!!!



ある住民達がこぶしを振りかざし、叫ぶ。あるものは抱き合って泣いている。さまざまな反応を示すが、共通しているのは喜び。

九峪は完全に住民達の扇動に成功したのだった。



「うまくいったね、九峪。」


いつの間にかキョウが九峪のそばにいた。


「ああ、計画第一段階終了。賽は投げられた。」
















続く




えっと・・・コメントいる?

派手にやちゃったw

いきなり征西都督府陥落!! いやあ、アンヘルがいるからこれも可能かなと。

一度やってみたかったんでw

やりすぎでしょうか?感想お待ちしてます。

という訳で、今後のストーリーは勝手につくろうかと。

ふふふ、さあ天目はどうするのか、ほかの登場人物は?など、第03話から本格的に動いてきます。

ちなみに、征西都督府の構造は結構適当です。

確か征西都督府の下に耶牟原城があったような気がしますが・・・きっと壊れず無事でしょうw

では次回!

いつになるかは分かりませんが・・・