火魅子伝 DOD (改訂版)第03話 (H:小説+α M:九峪・キョウ・伊雅・清瑞・天目・忌瀬・案埜津 J:シリアス)
日時: 01/29 20:54
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一組の男女が暗闇に包まれた森の中を走っていた。

ひげをはやし、所々白髪が混じった髪の壮年の男。

黒装束に身を包んだ若い女。

彼らはただひたすら目的地に向かって走っていた。

ふと男が口を開く。


「およそ一月ぶりだったか、里に戻るのは。」

「ええ、そのぐらいです。」


女がそれに答える。


「みな無事でいるといいのだが・・・」

「ここのところ耶麻台国の残党狩りが激しくなっていますからね。」

「うむ・・・」


二人が黙りこくる。


その時だった。

急に男の懐から、赤い光が漏れ出す。

光は男が着ている服の生地を透き通し強烈な輝きを発した。


「なっ!?・・・・・・うおっ!?」


驚いた男が懐に手を入れる。しかし次の瞬間、熱いものに触れたかのように男は手を振り回した。

そして地面に溶岩のように、真っ赤に輝いた丸い玉が転がった。


「い、伊雅様!?」

「い、いや、心配ない、清瑞。」


伊雅は手を振りまわしながら答えた。

地面に転がった玉はゆっくりと点滅を繰り返す。

やがて放っていた光が弱まり、ほのかに明るい程度の光へと変わった。

清瑞は恐る恐るその玉に手を伸ばす。

が、次の瞬間


【あー、あー、ねえ、誰か聞こえる?】


その玉から声が発せられた。


「なっ!?」

「これはっ!?」


【あ、やっぱり誰かいるんだね。誰?】


玉から聞こえる能天気な声に驚きながらも伊雅は落とした玉を拾い上げる。


「わしは伊雅と申す者だが・・・いったいこれは・・・」

【伊雅!?やったっ!大当たりだね。】


その能天気な声続ける。


【うんとね、僕は天魔鏡の精のキョウだよ。知ってるよね?】

「天魔鏡!?それは確かに知っておりますが・・・」

【ああ、そういえば伊雅は僕に会ったことはなかったけ。】


う〜ん、と考え込むような声がしたかと思うと、次の瞬間、再び明るい声が聞こえてきた。


【信じてもらえないかもしれないけど、今僕がいるのは耶牟原城なんだ。正確には征西都督府跡なんだけど・・・】

「なんですとっ!?」

【そのおかげで僕の力が高まって、蒼竜玉を通してこうして話せるわけなんだけどね。】


声はまだ続き、伊雅と清瑞には到底信じられないような話を語った。

神の使いの降臨。

征西都督府の陥落。


【・・・というわけなんだけど・・・君たちにはすぐ耶牟原城に来てほしいんだ。】


伊雅と清瑞が顔を見合わせる。

これが罠である可能性も否定できない。

かといって神器のこのような使い方を狗根国の連中が知っているはずもない。

二人が迷っていると、


【もし信用できないなら、明日、空を見てよ。空に龍が飛ぶからさ。】

「龍っ!?それはいったい・・・」

【見てのお楽しみ。じゃあね。】


声は唐突に途絶えた。

伊雅と清瑞は蒼竜玉を見たまま沈黙し続けた。


翌日、二人は行き先を変更し、耶牟原城へ向かうこととなる。





















「これからどうしようか?」

「まずは人材の確保だ。俺の負担がでか過ぎる。」


九峪は急遽張られた天幕の中で、特注で作らせた椅子に座り、これまた特注で作らせた机にキョウに描かせた地図をのせ、それを眺めながら言った。


征西都督府陥落から三日がたった。

天幕を張らせて拠点をつくり、焼け残った武器庫から武器や防具を取り出し、集まってくる志願兵に渡した。

その他にも食料の調達、兵の訓練、偵察の手配などなど、あげていけばきりがない。

これらすべて九峪の指示のもとにおこなわれていた。

これもすべて高度な教育を受けた人材がいないためであった。


「伊雅だったか?元耶麻台国関係者に連絡をとったんだろ?」

「うん・・・もう少しかかるかなあ・・・蒼竜玉の気配はだいぶ近づいているんだけどね。」

「九洲全土にアンヘルを飛ばしたんだ。龍の存在は知らしめることはできた。もうしばらくは敵も攻めてはこないだろう。」


九峪は一度言葉を切る。


「だが、あまり時間稼ぎは持たないぞ。」

「うん・・・」

「ここは地理的に言って、海、豊後、筑前の三方向に警戒を続けないといけない。だから俺はここをうかつに離れるわけにはいかない。よって兵を率いる人材がほしい。」


九峪はトントンと机を指で叩きながら言った。

机を叩く音と外で忙しそうに働く人々の声だけが聞こえる。

と、その時、天幕の一部がめくれ、一人の女が入ってくる。

この辺では珍しい、大陸風の衣装に身を包んでいた。


「九峪様〜、例の女が起きましたよ。」

「そうか、意識の方は?はっきりしているのか?」

「大丈夫みたいですね。普通にしゃべってましたから。」

「そうか・・・会ってみたい。案内してくれ、忌瀬。」

「分かりました。」


忌瀬の後に続き天幕を出ようとした九峪は思い出したように振り向き、キョウに言った。


「後はよろしく。」

「え?」


キョウは九峪の言葉の意味を測りかるが・・・


「キョウ様、兵の訓練なのですが・・・」

「砦の修築についてなのですが。」

「あの・・・」


次から次に現れる指示を待つ人で天幕はいっぱいになった。


「あぁ〜!!早く来てよっ!伊雅っ!!」

























時間は少しさかのぼる。

耶牟原城下に張られた天幕の一つ。

その中には布団が敷かれ、一人の女が寝かせられていた。

その横にもう一人の女、忌瀬が薬草を手に持ち、あれこれと作業をおこなっていた。


「・・・・・・んっ・・・」


寝かせられていた女の唇からうめき声がもれる。

その声に反応して忌瀬が女の顔を覗き込む。

やがてうっすらと目が開かれ、忌瀬の目と合った。


「・・・・・・き・忌瀬?」


忌瀬は人差し指を唇にあてる。


「しっ、静かに。」


忌瀬は女に顔を寄せ、押し殺した声で話した。


「状況は理解できてる?案埜津?」

「い、いや・・・いったい・・・」

「今ここは耶麻台国復興軍の本拠地になってるんだけど・・・かく言う私も帰ってきたらこうなってたとしか言いようがないんだよ。」


案埜津は少しの間考え込むように顔をうつむかせるがやがてはっと顔を上げた。


「たしか龍が征西都督府を破壊して・・・」

「ああ、龍ね・・・見たけど・・・とんでもないね、あれは。」

「それで・・・天目様が非難命令を出して・・・」

「で?」

「・・・・・・」

「まあいいや、思い出せないなら無理に思い出さない方がいいし。」


忌瀬は少し体を引く。


「で、いきなりで悪いんだけど、九峪様に案埜津が起きたことを報告しなきゃいけないんだよ。覚悟してね。」

「九峪?」

「そ、案埜津を焼け跡から拾ってきた人で復興軍の総司令で、神の使い。」

「か、神の使いっ!?」


案埜津が思わず絶句していると、忌瀬は手を振りながら天幕から出て行った。


案埜津はふと我に返るとゆっくりと、時間をかけて体を起こす。

鈍い痛みに顔をしかめた。

手足にうまく力が入らない。

(しばらくは逃げ出せないな。)

案埜津は思考に没頭し始めた。

(とりあえず忌瀬がいたことは多少なりとも心強い。それより天目様はどうなったのだろう・・・無事だろうか)


突然天幕の入り口が持ち上がり、忌瀬が入ってくる。

そして続いて九峪が姿を現した。

予想以上に若い姿に案埜津は驚き、そして警戒で体を強張らせた。

九峪は布団から少し離れた場所に座った。


「さて、いろいろ聞きたいことはあるんだが・・・まずは身元の確認からいこうか。」


九峪の目が案埜津の目をしっかりと捕らえる。


「天目親衛隊副隊長の案埜津でいいのか?」


案埜津はチラッと九峪の背後にいる忌瀬に視線を向けるが、忌瀬は首を横に振る。

そんな案埜津の疑問を察したのか、九峪は言葉を発する。


「結構有名みたいだな。町の人間でもお前の名前は知ってたよ。」


案埜津は依然として黙り続けた。


「で、俺の名は九峪雅比古だ。神の使いを名乗ってる。それと見たかどうかは知らないがあの龍はアンヘルだ。」




その単語を聞き、案埜津の表情が引きつる。

脳裏に炎と破壊が思い浮かび、焼きついたように悲惨な光景が浮かび上がる。


「アンヘルを見たようだな。なら話は早い。もはや狗根国に勝ち目はない。分かるだろう?」


九峪の唇が弧を描く。

その表情を見た案埜津は寒気を感じた。

そして理解した。

この人は天目様の同類だということを。

すなわち、自分が口を割らなければ、用なしとみなされればすぐに処分されるということを。


案埜津がとにかく何かを話して時間を稼ごうとしたその時だった。

急に天幕の中に一人の兵が入ってきた。

非常にあわてた様子で、息が荒い。


「く、九峪様!じょ、城門のところに天目の使いを名乗る女が現れましたっ!!」

「へえ・・・」


九峪はチラッと案埜津に視線を向ける。

そして立ち上がると天幕の出入り口をめくる。


「会おうか。それと、この天幕に兵を配置しろ。厳重にな。」























天目の使いを名乗る三人の女は九峪が使っている天幕に通された。

天幕の周囲は兵によって包囲され、緊張感で張り詰めている。


九峪は三人に視線を向けた。

二人は露出の度合いが違うが同じような衣装を身に着けていた。

しかし一人はフード付きのローブに身を包み、顔の半分以上を仮面で覆っていた。

九峪はフッと笑みを浮かべる。


「俺が神の使い、九峪だ。回りくどいのは嫌いなんだ。さっさと用件を言ってくれ。」


仮面の女が一歩前に出る。


「我々は天目の使いでございます。ここに、天目からの用件が書かれております。」


懐から一枚の絹布が差し出される。

九峪はそれを一瞥すると視線を再び女に戻すと言った。


「読み上げてくれ。」


女が絹布を広げる。

その間も九峪は視線をはがさず、三人の女を見続ける。


「我々、天目以下親衛隊員は耶麻台国復興軍に投降致します。」

「えっ!?」


九峪の隣でキョウが驚きの声をあげる。

一方、九峪は面白そうに笑みを浮かべ、女を眺めていた。


「一体どういう思惑があるんだ、なあ?」

「我々には天目様の意思ははかりかね「俺を甘く見るなよ?」


九峪は女の言葉をさえぎる。


「馬鹿馬鹿しい芝居はやめろよ、天目とやら。」


キョウと仮面の女の後ろの二人が息を飲む。


「そうだな、馬鹿馬鹿しい。」


天目は仮面とローブを脱ぎ捨てる。

迫力のある美貌と後ろの二人よりもはるかに露出度の高い衣装が現れた。

天目は不敵な笑みを浮かべる。


「いつから気づいていました?」

「一人だけあんな格好をしていたら普通は気づくさ。雰囲気も違うしな。」


九峪は自分の対面の席を指差す。


「とにかく座れよ。話はそれからだ。」

「ほう?では、お言葉に甘えましょうか。」


天目は椅子と机を珍しそうに見ながら席に着いた。


「では、話を聞かせてもらおうか。」


九峪が促す。


「ふむ、我々は投降する。我々が知る情報はすべて与える。それに免じて全員の命を保障していただきたいのですよ。」

「なぜ突然投降を?」

「あの化け物の破壊の様子を見て、勝てると思う方が間違っているのでは?」

「お前たちを常に監視できるほど人材に余裕はないな。それに利益も少ない。」


九峪は机に肘をつき、口元で手を組む。

天目は九峪の視線をまっすぐに受け止め、話を続けた。


「では我々は戦力になりましょう。常に監視をつける必要もありません。」

「寝返る、と?」

「そのとおりです。」

「信用できない。」


九峪は間髪入れずに答えた。

しかし、九峪の答えを予想していたのか、天目は笑みを崩さない。

そして、脱いだローブから一つの、手のひらに乗るくらいの大きさの箱を取り出した。

真っ白なそれを机の上に置く。そして蓋を開けた。

箱の中には、二つの玉が収められていた。

一方は乳白色で表面はなめらかなもの。もう一方は深緑色で表面は艶が消されているような感じのものであった。


「生玉と死返玉。いずれも出面の国の神宝です。」

「うそっ!?」


キョウはふわふわと箱に近づいていく。


「どう?キョウ?本物?」

「う、うん。たぶん。見たことはないけど・・・こんなものがそうあちこちにあるわけないよ!」

「へえ・・・なんでこれをお前が待ってるんだ?」


九峪は天目に問いかける。

その言葉を待っていたかのように、天目は胸を張り、にっこりと笑うと答えた。


「私は出面の王家の人間なのですよ。」


九峪の目が少し見開かれる。

天目の後ろの二人も知らなかったのか驚愕の表情を顔に張り付かせていた。


「俺はこの世界の歴史については詳しくないんだが・・・キョウ?」

「う、うんとね、出面は耶麻台国の同盟国だった国で、耶麻台国よりも先に狗根国に滅ぼされた国なんだ。」

「つまり、狗根国は共通の敵、そういうことですよ。」


キョウの説明に続けて天目が言った。


「ではなぜ狗根国に仕えていた?」

「生き延びる為、そしていつの日にか、出面の復興を果たすための力を得るためですよ。」


九峪は視線をはじめて天目からそらし、机の上の生玉と死返玉を見る。

しばらく考えるように黙っていた。


「まあ、なんとか住民を納得させることはできそうか・・・」


つぶやくように九峪が言う。


「では?」

「天目以下親衛隊員全員を受け入れようか。」

「感謝いたします、九峪様。」


場の雰囲気が和らいだものに変わった瞬間だった。









この決定はすぐさま復興軍全体と耶牟原城下の住民に知らされた。

天目は住民を虐げてはいないためもともと評判は悪くはない。

そのため、出面の王族という事実とともにわりと好意的に受け入れられることとなった。

よって、この日から露出の多い鎧をまとった親衛隊員が歩き回る姿が見られるようになる。





















「人材が一気に増えたのは喜ばしいが・・・・・・その服装は何とかならないのか?」

「せめて服装の自由は与えていただきたいものですね、九峪様。」






続く






第三話です。

天目投降。

そしていつの間にか忌瀬がいたりw

今回かなりオリジナルな設定を持ち出してきました。蒼竜玉の新機能に出面の神宝。

生玉と死返玉の他に本当は足玉、道返玉のもう二つがあるんですが、それらは行方不明という設定です。

まあ、細かいことは気にせずにw


今回は戦闘シーンがなかったな・・・

なんか欲求不満ですw

敵がなかなか城から出てこないから。


次回から伊雅や清瑞が合流します。

そして火魅子候補も・・・さて誰が一番早いのか・・・。

まあ、小説の第二巻の地図見て一番近い人が一番早いんですが。

ばればれだなw




ファルケ様


感想ありがとうございます。
Lv3・Chaosには多分ならないかと。
だって赤くないしw
ですのでLv2ぐらいですね。
それでも十分強いので・・・

枇杷島に関しては・・・まだ秘密w


からから様


感想ありがとうございます。
喜んでいただけてうれしいです。
今までに無い展開って言うのをね、意識してます。
ですので、これからどんどん小説の展開からはずれていきますが・・・どうぞこれからもよろしく。


影の兄弟様


ローマ帝国建立・・・そこまではいかないかとw

まあ、エンドも構想はすでにたっていますが。
これからのお楽しみ、ということで。
またの感想をお待ちしてます。


レイジ様


骸骨はまだ九洲に来てません。
呼ばれる前に反乱が起きたので。
ですからこれから魔人とともにやってくることでしょう。
またの感想をお待ちしてます。


夜様


ええ、続きのストーリー作りが完全にオリジナルです。
だってこの方がやりやすいですし、小説より先も書けますから。
目指すは舞阪さんより早く終わる、ですw