火魅子伝 DOD (改訂版)第04話 (H:小説+α M:九峪・キョウ・伊雅・清瑞・忌瀬・虎桃 J:シリアス)
日時: 03/10 04:35
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「何!もうこの辺まで攻めてきてるのか!」


豊後の静かな森の一角にある小さな砦の中から女性の声が聞こえる。

砦は所々壊れたり燃えた痕跡が残されており、数日前にここで戦闘があったことを物語っていた。

その中では背の高い女性を中心に数人の青年が話し合いを行っていた。


「はい。たしか四日前に進撃を開始したはずなのですが・・・もうすでに長湯の街にせまっているとか。」


一人の青年が言葉を発する。

それを聞いていた他の青年達は皆、興奮したように騒ぎ出す。


「おい、本当にすごいぞ!」

「神の遣いが現れたってのは本当なんだなっ!」

「今度こそはいけるぞ!!」


そんな騒ぎの中で女性だけは考え込むようなしぐさを見せる。

端整に整った顔はわずかにくもり、口元に手を当てている。

ふとそばにいた一人の少年がその様子に気づいたのか、女性の顔を覗き込むようにいった。


「どうしたの?藤那?何か悪いものでも食べた?」


それを聞いた途端、ニュウっと藤那と呼ばれた女性の手が伸び、少年の右頬の二本の指でつまむ。


「いたっ!いたああああぁ〜!?」


藤那はつまんだ指をゆっくりと自分の方に引き寄せる。

その動きに従って、少年も痛みに涙を浮かべながら引き寄せられた。


「閑谷、何だその言い方は。私が考え込んでいたらそんなに変かっ!」


藤那は目を細めながら閑谷のもう片方の頬のつまむと両側に引っ張る。


「いひゃい〜!ひひゃいへは〜〜!!」


必死で閑谷は藤那の手を振りほどこうとするが藤那の手はなかなか離れない。


「まったくっ!」


ひとつため息をつくと藤那はパッと手を離す。

閑谷は真っ赤にはれた両頬に手を当て、藤那をにらんだ。


「ひどいよっ!僕は藤那の心配をしただけなのに!!」

「どこがだ!」

「してたってば!!」

「してない!!」

「した!!」

「してない!!」


噛み付くような閑谷の抗議に藤那が反論し、二人の口論が続く。

周りの青年達はまたか、とあきれたような、おかしいような表情を見せる。

だがほおって置けば際限なく続くことを身をもって知っているため、その中の一人がおずおずと二人に話しかけた。


「えっと・・・藤那様、閑谷もやめてくださいよ。それで、藤那様、これからどうしましょうか?」

「ああ、それだがな・・・」


藤那は周りの青年達に向き直る。

そして立ち上がり腰に手を当て、胸を張る。


「この私抜きに反乱など起こされてたまるかっ!!絶対に合流するぞ!」



























「それではこれから、当一座の目玉、踊り子志野の舞でございま〜す。」


ほのぼのとした声を聞き、周りの観衆が大きな歓声を上げる。

周りの声援、視線を一身にあび、一人の踊り子とおどろおどろしい仮面をかぶった数人の男たちが現れた。

彼らから発せられる緊迫感があたりに満ち、観客達は皆押し黙り、静かになる。


だんだんとリズムが早くなる音。


それにつれて踊り子と男たちの動きも早く、鋭いものに変わっていく。

さながらほとんど実戦に近いそれに観客達は息を呑む。

踊り子の肌をなぜるように刃が通り過ぎるたびに誰かが息を呑む。


甲高い剣戟の音。


金属のぶつかる音が徐々に速まっていく。

流れるような身のこなしでかわし、打ちつけられる剣。

次々に切りかかって来る男たちと反撃する圧倒的に不利な踊り子。

観客の押し殺した悲鳴が聞こえた。


やがて踊り子が優勢に変わる。

一人、また一人と倒されていく男たち。

ついに最後の一人が倒された時、踊り子がゆっくりと動きを止め、観衆の方を向いた。

とたんに大きな声援といろいろなものがご祝儀として飛び始めた。


すうっと踊り子はそばに立てられた天幕の中に入っていく。

途端に踊り子の表情が笑顔から厳しく緊張したものに変わっていく。

目の前によってきた男に声をひそめて言った。


「どうだったの?」

「もうすでに当麻の街にはいないみたいですね。火向の兵のほとんどが川辺城に集められているとかで・・・」

「やつもそこに?」

「たぶん・・・」


踊り子のそばにいた少女が声をかける。


「追うの?志野。」

「そうね・・・急がないと・・・」


周りの全員に決意の表情が宿った。























「くっくっく、網を張って待っていれば獲物がかかると思っていたが・・・見事にかかったな。」


黒い衣に身を包んだ女性がいかにも可笑しいというように体を震わせて笑っていた。

震えとともに長い黒髪が揺れ、月の光を受けて鈍い光を放っているようだ。

彼女の目の前には捕らえたばかりの六人の女性と一人の少年が転がされていた。

全員に縄がかけられ、さらに二人の女性の体には複雑な模様が書かれた札が数枚がところ狭しと貼られていた。


「この前は逃げられたが・・・今度は絶対に逃がさないよ?」

「くっ!!」


捕らえられた全員に悔しそうな表情が浮かぶ。


「さすがですな、深川様。」


女のそばにいた兵が言った。


「まあね。こいつらが間抜けでよかったよ。」


深川はにやにやと笑いながら捕虜たちの悔しそうな表情を眺めている。


「後ちょっとで反乱軍に合流できたのにねえ・・・まさか筑後で捕まるなんてねえ・・・」

「貴様ぁ・・・」

「おや?貴様?誰のことだい?」


一人の女性が唸るように声をあげると深川はその女のそばに寄るとしゃがみこみ、顎を掴んでぐいっと上を向かせた。

憎しみと悔しさが入り混じった目とぶつかる。


「ん?誰がだい?」

「お前だよ!」


次の瞬間深川は掴んでいた顎を離すと女の髪を掴み一気に地面に叩きつけた。

鈍い音とともに他の女性たちから悲鳴が上がる。



「いいね。そういうのは嫌いじゃない。」


深川はもう一度女の頭を持ち上げ、顔を覗き込む。

鼻から流れてきた血と土で汚れていたが女の表情はいぜんとして変わらない。

女がゆっくりと口を開く。


「覚えとけ。この亜衣様を虚仮にした罪は重いぞっ!!」

「いつまでそんな口がきけるか楽しみだね。いじめがいがあるよ。」


にやっと楽しそうに笑うと深川は女を放り出す。


「さ、さっさと筑護城に連行するよ!!」


周囲の兵がその声に従って動き出す。


「ふん、もうじき包囲網が出来上がるよ。」
























澄んだ青空。

視界の隅を小さな雲が流れていった。

九峪の体に強い風が吹き付けられる。

しかし九峪は揺らぐことなく、その目はただはるか下に広がった大地に向けられていた。



無数の赤

城郭都市を無数の赤が囲んでいた。


バサッ


九峪を乗せて飛んでいたアンヘルが一つ羽ばたく。

再び風が九峪を押さえつける。


『そろそろゆくか・・・?』

「ああ。」


アンヘルの言葉に九峪が答えた瞬間、一気に浮遊感が押し寄せてきた。

羽ばたきの音が消え、耳のそばを風の塊が飛んでいく。

轟音と共に地面が急激に近づいていった。

行き先は城郭都市。


「一気に叩き潰す・・・」


不意にアンヘルが羽ばたいて体を起こし、空に停止する。


オオオオオオオォォォオ!!

ゴオオオオン!!


吐き出された一発の火球が孤を描き城内の一点に着弾した。


ドオオオオオォン!!


爆音と炎が渦巻く。

アンヘルは緩やかに漂うように滑空し、城内に舞い降りた。

数十メートル、地面を滑る。

その進行先にあった建物、兵はことごとく吹き飛ばされた。

やがて停止する。

視界は土煙に阻まれたが、九峪はアンヘルの背から飛び降りると悲鳴と怒号と手がかりに駆け出した。


「さっさと終わらせよう。」


九峪の後方で再び炎がはじけた。


約一時間後、完全に豊後最大の都市、長湯が陥落した。











「報告致しますっ!!家屋がいくつか倒壊しましたが住民には死者はいません。」

「そうか・・・奇跡だな。」


目の前にいる兵に下がるよう手を振ると九峪はつぶやいた。


「まあその方がいろいろと都合がいいか・・・」


九峪がいるのは長湯の街の一角に張られた天幕の中。

机の上には板に描かれた地図が載せられていた。

九峪は手元においてあった短刀を地図の一点に突き立てる。

刃の先端が板に沈み込み、わずかにひびの線が板に走った。


「豊後制圧。」


一度ため息をつく。


「だが危機的な状況にはあまり変化がないな・・・」


そのとき突然天幕の入り口の布が広がり、人が入ってくる。


「お呼びとお聞きしましたが・・・」

「ああ。」


伊雅を先頭に、清瑞、忌瀬、虎桃、そして鏡を抱えた兵とキョウが天幕の中に入ってきた。

全員が席に着くのを確認すると九峪が口を開く。


「忙しいところを呼び出してすまないな。とりあえず現状の確認がしたい。」

「うん?何か気になるの、九峪?」


キョウが尋ねる。


「ああ。」


九峪が頷く。そしてゆっくりと皆を見渡した。


「一つ聞きたい。先ほどの戦い、何か違和感を感じた奴はいるか?」

「い、違和感ですか?」

「そうだ。」


九峪の言葉に伊雅が考え込むようなしぐさを見せた。


「思いつきませんな・・・みごとに圧勝でしたぞ。」

「・・・」


九峪は黙ったまま他の人を見る。

その時、少しのんびりとした声が発せられた。


「あの〜いいですか?」


虎桃だった。

九峪は無言で促す。


「えっとですね、九峪様が気になっているのは長湯にいた兵の数じゃありませんか?」

「続けて。」


九峪の顔に笑みが表れる。


「確か情報ではここには千五百はいるはずなのに大体五百ぐらいしかいなかったような感じだったんですよねぇ。」

「そう、兵力が少なすぎるんだ。」


九峪がもう一度全員を見渡す。


「逃げたからか、それとも何か別の要因があるのか・・・それが気になってね。」

「つまり何か罠でもあるって思ってるんだ?」


キョウの言葉に九峪が頷いた。


「そこでだ、悪いんだが火向に、主に川辺城付近に物見に行ってきてくれないか、清瑞?」

「別にかまいませんが・・・」


何か心配事でもあるのか、清瑞の顔が曇った。


「ですがある程度時間がかかりますよ?」

「かまわないよ。」


そう言うと九峪は伊雅に向き直った。


「進軍はしばらく中止するから。とりあえず兵を休ませることと壊れた城壁などの修理を優先させてくれ。」

「はっ!」


次に忌瀬のほうを向く。


「兵、住民問わずけが人の治療を頼む。」

「わかりました。」


九峪はパンッと手を叩いた。


「用はこれだけだ。以上、解散。」






















「やっぱり結構見てるねぇ・・・あの人は。」


天幕から離れた場所を歩きながら虎桃は忌瀬に話しかけた。


「ん〜、そうだね。」

「なんか雰囲気が天目様に似てるから緊張するなあ・・・」


慌しく動いている兵たちの間をすり抜けるように二人は歩いていった。

現在長湯はお祭り状態であった。

あちこちに篝火がたかれており、夜になった今でも収まる気配はない。

特段九峪が止めなかったため街の人や兵たちで広場は盛り上がっていた。

もっともそのせいで警備にあたっていた天目親衛隊員は忙しくなっているのだが。


「そういえば忌瀬って最初からこの軍にいるんだよねぇ?」

「ん?まあそうだね。帰ってきたらいつの間にか征西都督府が無くなってて、だからとりあえず復興軍に入ってみたんだけど・・・」


もしかしたら最初から狗根国側の人間だとばれてたのかもしれないけど、と忌瀬は思った。

入ってすぐにとりたてられ、いろいろと狗根国について質問されたことを思い出した。


「そうだね・・・確かに天目様に似てるのかも・・・」

「でしょ?」


人遣いも荒いしね、と付け足して虎桃が言った。

不意に背後から声が聞こえてくる。


「あっ!ここにいましたか。探しましたよ、虎桃様。」

「どうかしたの?」


二人のそばに親衛隊の一人が現れた。


「人手がたりないんですよ!手伝ってください!!」

「はいはい。じゃあ、忌瀬、そっちもがんばってね。」

「もちろんだよ。」


忌瀬の視界から瞬く間に二人の姿が消えていった。


「さて、こっちも仕事をしますか・・・」





















バシャッ

水が地面に当たり、雫がはじけ飛ぶ。

水にうっすらと赤いものが混ざった。


「はあ・・・」


九峪は再び水を入れた桶を頭の上まで上げると一気に桶を傾けた。

水が九峪の体を流れ落ち、地面を濡らした。

桶を足元に置くと、顔の前に垂れた前髪をかきあげた。


「あつい・・・」


ふっと体から湯気が吹き出る。


「あは、あはははは・・・」


九峪は片手を顔にあて、表情を隠した。

しかし、唇が孤を描く。


「楽しい・・・」


そうつぶやいた九峪はしばらくの間クスクスと笑い続ける。

温泉がひかれた風呂場の一角。

九峪以外の人はおらず、その笑い声もつぶやきも聞いた人はいない。

ただ虚空に消えていった。


「抑えないと・・・」


ぎゅっとまぶたが閉じられる。

次に開かれた時、いつもの静かな威圧感を放つ九峪に戻っていた。


「そうこれでいい。」


九峪は少し離れた場所においてあった布で体についた水滴をぬぐうと用意されていた浴衣を羽織った。

藍を基調とするそれから出ている肌のあちこちに無数の傷跡があった。

そのどれもが九峪の今までの生き方をはっきりと示していた。

九峪は屋内に入ろうと出入り口の戸に手をかけた。

その時だった。

九峪が開ける前に戸が開いた。


「あ、もう終わりましたぁ?」


九峪は眉をひそめる。


「何をしている、忌瀬?」


忌瀬は手にしている籠を九峪に示しながら言った。


「仕事ですよ。右腕を出してもらえます?」


忌瀬は言葉を発するや否や、九峪の右腕をつかみ、浴衣の袖をまくった。


「ああ、やっぱり切れてましたね。」


肘の上ほどから肩にかけて赤い線がはいっていた。

そして決して少なくない血が肘までつたい、雫となって垂れていた。

浴衣にも染みになっていた。


「『けが人』を治療しますよ?」

「・・・そういったのは俺だからな・・・おとなしくされようか・・・」

「じゃあとりあえず中に入りましょうか。」


忌瀬に引っ張られるように九峪は屋内に入った。

中では備え付けられていた机の上に様々な器具や薬草の類が置かれている。



「えっと、腕を机の上に置いてもらえます?」


机の上に白い布を広げると忌瀬はそう言った。

九峪が言われたとおりにするとすぐに治療が始まった。

流れた血が瞬く間に布を赤く染めていった。


「それにしてもこれだけの怪我をしていて気づかないんですか?」


責めるように忌瀬が言う。

それに対し九峪はあっさりと答えた。


「気づかないんだ。痛みがないからな。」

「はい?」

「俺は痛覚がないんだ。だから気がつかない。」


忌瀬はそれを聞き表情を曇らせた。


「まずいですよねぇ・・・いつか致命傷を負いますよ?」

「幸い再生力が強くてね。」


九峪は苦笑しながら答えた。

・・・・・・・

・・・



「ん〜、とりあえずこんなもんかなあ。」


九峪の腕に包帯が巻かれていたが、もう血は滲んではいなかった。

忌瀬は籠の中から数個の丸薬を取り出す。


「さ。後はこれを飲んでもらえます?」


九峪は黙ってそれを受け取ると、口に含み飲み込んだ。


「これでいいのか?」

「そうですね。あとは定期的に包帯を取り替えますんで。」


忌瀬はそう言いながら机の上に置いてある器具を片付け始める。


「俺より他の奴らを優先してやれ。」

「他の人が九峪様より重症ならそうしますよ。」


そう言うと忌瀬はにっこり笑うと両手に器具を持って部屋から出て行った。


「・・・どうせすぐ治る・・・」


九峪は静かにつぶやいた。



















続く



まず一言。


大学合格おめでとう、俺!!


ってなわけで実は宮は受験生だったんですねぇ。
受験生がこんなとこで遊んでてよかったのかっ!とかそういう類の突っ込みが聞こえてきそうですが・・・これでもちゃんと勉強してましたよ?
パソコンで遊ぶのは主に夜だしね。

まあ、第一志望に受かったわけで、これからしばらくDODとLoversを書く時間もとれそうです。

ようやく復帰ですかね。


今回はなんていうか今あの人は!?っていうのを少し書いてみました。
といっても香蘭、紅玉、只深達はまだですが・・・
彼女達は次回、ということで。

今回やたら忌瀬が活躍していますがまあ書きやすいしね。

ちなみに九峪の契約の代償が痛覚って言うことにしたわけですが、その、なんていうのか・・・
いろいろ考えるのがめんど・・・じゃなくて主人公の魅力が無くなりそうな代償にしたくなかったんで代償は特に重要ではないと思ってください。

それにしてもなんか文章のレベルがへぼへぼな気がします。
やっぱブランクもあるしなあ・・・
もとからそんなに良い文は書けてませんでしたが・・・

まあそんな感じですがまたお付き合いください。

あ、感想もお待ちしてますので。



ファルケ様

そうですね、アンヘルは本当にでたらめに強いですから。
でもそうあってこそのドラゴンですからね。
今後も容赦なく暴れまくりますよ。
またの感想をお待ちしてます。


影の兄弟様

柚妃は征西都督府にいました。
ですが天目たちと逃れ、ちゃんと生きています。
後々の展開しだいで登場することでしょう。
またの感想をお待ちしてます。


青樹様

えー、結論から言いますとゲームのアンヘルとは別のドラゴンです。
アンヘルという名前にしておけば宮にとっても、ゲームをしたことがある人にとってもイメージしやすいかと思いまして。
性格、喋り方、姿が特に。
ですからアンヘルなわけです。

第三形態については・・・
ごめんなさい。完璧な宮のミスです。
久々にゲームをやってみて確かめると確かに赤い!
ってなわけでこの話のアンヘルは第三形態ということにしたいと思います。
まあ簡単に言えばDOD2のアンヘルですね。
尻尾の先端がひび割れていてそこから炎がもれているあれです。

またの感想をお待ちしてます。