Lovers Ver珠洲  (H:小説 M:九峪×珠洲 J:ほのぼの)
日時: 03/16 13:16
著者:


○読み始める前に○

この話は私が連載している火魅子伝 DOD とは何の関係もありません。
また、設定はMy Lover Ver藤那(Lovers Ver藤那)と大体同じです。


















「痛てえええええぇっ!!!」

「ふんっ!」


九峪は両手を脇腹にあてると飛び上がった。

その隣では冷めた目で珠洲がその様子を眺めている。


「つ〜ぅ・・・・」


片手を地面につけひざまづくようにしばらくもだえていた九峪の目には、痛みのためかいくらかの涙がためられていた。


「い、いきなり抓ることねぇだろうが!」


九峪はゆっくりと立ち上がりながら珠洲に向かって言った。

手や膝についた細やかな砂がぱらぱらと舞い散るように落ちてく。

珠洲はぷいっと九峪から顔を体ごと背ける。


「水着姿に見とれていた九峪様が悪い。」


棘のある言葉に九峪はわずかに顔を引きつらせる。


「見とれてねぇっ!」

「じゃあ鼻の下を伸ばしてた。」

「それもねぇっ!」

「にやけてた。」

「ってそれも同じ意味だろうがっ!」

「ふんっ!」



九峪と珠洲の言い争いは一向に収まる気配を見せない。

その争いの大声に周囲の兵や海人衆はあきれたような表情を見せる。

もっとも、大声を出しているのはもっぱら九峪の方なのだが。




現在九峪達がいるのは海岸であった。

火向の北部、川辺から多少離れた場所に位置するこの海岸では海人衆を中心とする水軍の演習が行われていた。

そして訓練である事と海辺であることにより、兵達には薄手の服装が義務づけられていた。

もちろん兵には女性が含まれており、さらに言えば耶麻台共和国幹部の姿もあちらこちらで見られた。

当然彼女達の服装といえば水着だ。

そうなれば自然と九峪の視線は水着姿の女性に向いてしまい・・・

かくして痛い目にあう、という事になるのだった。



「九峪様、大丈夫ですか?」


心配そうな顔で志野が九峪の顔を覗き込む。

九峪は涙目ながらも片手を挙げて答えた。


「な、なんとか「志野、近づいちゃ駄目。」


瞬時に珠洲が志野を背にかばうように九峪との間に割り込んできた。

「おいおい・・・」


さすがの九峪も非難じみた声を発する。

九峪の視線がじっと見つめてくる珠洲の目とぶつかる。


「あ、あの、九峪様、そろそろ時間がおしてますので・・・」

「・・・ふう、そうだな。」


そばにいた役人の一人が恐る恐る声をかけると、九峪は一つ深呼吸し、視線をそらした。


「んじゃあ、行くか。」





















・・・ザワ・・・


風に揺られて木々がざわめく。

沈みかけていた太陽に照らされて、周囲の陰影が一層際立った。

建物の影で九峪は木々からもれてくる光を浴びながらたたずんでいた。


・ザ・・・・ザ・・・・・・


葉と枝がこすれる音とともに珠洲が現れた。

九峪はゆっくりと振り向く。

少し早歩きで珠洲は九峪の傍に寄ると、九峪の腕を取りギュッと抱え込んだ。


「・・・・・・ごめんなさい。」


唐突な謝罪。

しかし九峪は苦笑しながら空いているもう片方の手でぽんぽんと珠洲の頭を軽く撫ぜるように叩いた。

それまで曇っていた珠洲の表情が明るくなる。


「まあいつもの事だろ?」

「・・・でも他の人に気を取られないで・・・」


九峪はそっと肩をすくめる。


「俺が好きなのはお前だけ。それでいいだろ?」

「・・・・・・うん・・・」











珠洲が九峪の恋人という位置についたのは本当に唐突だった。



九洲から狗根国を退け、ようやく耶麻台共和国が九洲全土を統治し始めた。

しかし終戦とともに新しい戦いが勃発した。

その名も『九峪争奪戦』

文字通り九峪の奪い合いだった。

幹部などの女性陣が一斉に参戦するというとてつもない戦いとなった。

色仕掛け、妨害なんでも有りの争いが激化する、そのはずだった。

そう、『はずだった』のだ。

開戦まもなく終戦。

女性陣だけでなく男性陣にとっても予想外の結果となった。


まさかの珠洲の単独勝利。


耶牟原城ではそのとき大混乱が巻き起こったものだった。

当事者達に聞けば、


『志野に近づけないため。」


とか


『さあ・・・なんでだろうな?』


などという明らかな照れ隠し&誤魔化しで追求をかわされる。

このため『九峪幼女趣味説』、『惚れ薬使用説』、『忌瀬人体実験説』など奇奇怪怪な説が飛び回ったのだ。

しかしながら、どの説もしっかりとした根拠が無かった。


『なぜ?』


これが今も疑問として残され、七不思議の一つとされているのだった。












「でもなあ、痛いのは勘弁な。」

「だって・・・最近皆水着が派手になってくるから・・・」

「そうか?」

(そうだって。)


珠洲は心の中でつぶやいた。

この時代一夫多妻は当たり前。となればあきらめない女性が出て来るのも当然の事だ。


「九峪様はわたしのものなの・・・」

「ん?」


小さな声でつぶやいた珠洲の声は九峪には聞こえなかったようだ。


「何か言ったか?」

「何も。」


そっけなく答える珠洲を見て九峪はにっと笑う。


「珠洲?」

「?・・っ!」


気づいたとき、珠洲はいつの間にか九峪の腕の中にすっぽりと包み込まれていた。


「言いたい事があるなら言ってくれないと。」


九峪の胸元に顔をうずめる形で硬直していた珠洲ははっと九峪の顔を見上げる。

その笑った顔を見た瞬間、珠洲は九峪にしがみつきながら必死で自分の顔を隠した。

自分の言葉を九峪が聞いていたのだと気づいた。


「〜〜〜!!」

「お〜い。」


顔をうずめながらなにやらじたばた暴れる珠洲に九峪は笑いながら声をかける。


「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っ!」


ようやく上げられた珠洲の顔は真っ赤になり、瞳が潤んでいた。

九峪の心にわずかな罪悪感が走る。

しかしそれにも勝るいとおしさがじわっと広がっていった。


(やっぱり好きだな・・・)


まだ幼さの残りつつも時折現れる他の女性達に劣らぬ美しさに、九峪は自分がすでに捕まってしまっていることを改めて感じた。


「珠洲?言って欲しいんだけど。」

「・・・」


再び顔が押し付けられる。

それでも隠せない耳の赤さが今の珠洲の表情を語っていた。




「・・・・・・好き・・・・・・」

「ありがとう。」





















【あとがき】


もう無理。
疲れました。ほんとに。
珠洲ってこんなに難しいとは・・・

書き直す事三回。本当はもっと早くに出来上がるはずだったんですがねぇ・・・

いつもより量は少なめなんですが御勘弁をw

まあ、Loversは全員やると言った以上、Ver珠洲はいつか書くつもりでしたが・・・
今までで一番難しかったかと。
なんかねえ・・・珠洲のキャラが違う気もしますが・・・
それ以上に九峪も・・・

今回のテーマは『独占欲』と『好きと言わせたい』
とりあえず、できたかな?


え〜と、次回は・・・誰にしましょう?まだ未定です。
いろいろと構想はできてたんですが全部駄目な気がして消去しちゃったんで。

リクエストと感想をお待ちしてます。