Lovers Ver亜衣  (H:小説 M:九峪×亜衣 J:ほのぼの?)
日時: 03/17 19:40
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「あははははははぁ〜」


やたらに明るい笑い声が聞こえる。

その声に呼応して、周囲からもにぎやかな笑い声が生じた。

耶牟原城の一室。

もう夜もふけてしまってはいるがその部屋は篝火がたかれ明るくなっている。

部屋の中では耶麻台共和国幹部の数人をはじめ、いまや火魅子となった藤那までもがそろっていた。

床にはかなりの数の土器や皿に盛られた食料が置かれており、それらを囲んで談笑している。

誰もが明るく笑っており、にぎやか、と言うよりも騒がしいと言った感じだ。

時折聞こえてくる手をたたく音。

軽やかな楽器の音。

そして部屋に充満する独特のニオイ。


そう、今ここでは宴会が開かれているのだ。

そして輪の中心にいるのは

九峪だった。







「よしゃああっ!もう一杯っ!」

「く、九峪様っ!?そろそろ御止めになった方が・・・」

「ほらぁああ〜、飲みなさあああぁい〜」

「きゃああっ!?誰よ!?志野にお酒飲ませたの!?」

「おらああっ!!閑谷っ!飲めぇ!!」

「ひぇええええ!!」


まさしく阿鼻叫喚。

あたりに散乱している土器の数がそれを雄弁に物語っていた。

そして九峪。

今までこういう場でもほとんど酒を飲むことのなかった九峪だが、今晩は珍しく、しかもかなりのハイピッチで次々土器を空けてゆく。

すでに九峪の顔は真っ赤で、酔っていることは一目瞭然だ。

一部の良識人が九峪の体を気遣って止めようという仕草を見せるが、場の雰囲気がそれを許さなかった。


「九峪様っ!このままだと明日がつらくなりますよっ!!」

「だぁいじょうぶだって!!」


説得しようと九峪のそばにいる亜衣に九峪は少し顔を近づけて言った。

次の瞬間、漂ってきた酒のにおいに亜衣は顔をそむけた。

そこへスッと九峪のそばに、土器を持った星華が寄って行く。


「ささ、九峪様。お注ぎします。」

「おうっ!!」

「星華様もっ!!これ以上九峪様にお酒をすすめないでくださいっ!」


だがすでに星華も酔っているのか、それとも聞こえているが無視しているのか、少しも止めるそぶりを見せない。


「よしっ!!閑谷、裸踊りだっ!!」

「ちょっ!?ちょっと止めてよおおぉ!!」


輪の中央では藤那が女装させられた閑谷を引きずって立たせようとしていた。

それを見ている周囲の人達も歓声をあげて応じた。


「いけっ!!閑谷っ!!」


普段なら「まあまあ。」などと言って止めに入る九峪も今夜ははやし立てていた。


「そんなあああぁ・・・九峪様まで・・・」

「ふっふっふ。今日は俺の誕生日だしなっ!!がんばれよっ!!」


そう。

今日は九峪の誕生日。

この宴会もそれを祝って開かれたものだった。

めでたく二十歳になったためこれまでほとんど飲まなかった酒を飲もうと、積極的に酒に手を伸ばしたのだ。

しかしそれだけではここまで酔うことはなかっただろう。

原因は周囲の女性陣にあった。

ポイント稼ぎのためか、それとも酔わせて如何こうしようという企みのためか、次々と九峪にお酌をするために近づいていったのだ。

八方美人な九峪のこと、当然断ることなどできるはずもなく・・・・・・

このような事態となったのだ。

もっとも九峪が中途半端に酒に強いのも災いして、というのもあったが。

すでにお酌をしていた伊万里や上乃達はつぶれて寝てしまっている。


「ああああぁ〜気分いいなあぁ〜」


九峪がバタンと床に寝そべる。

だんだんと眠くなってきているのか、目は半分閉じかけていた。


「九峪様、そろそろお休みになられては?」


ここぞとばかりに亜衣が切り込んでいく。


「んにゃ、まだまだぁあああぁぁぁ・・・」


振り上げられた九峪のこぶしが勢いをなくしてパタンと倒れる。


「九峪様っ!こんなところで寝ないでくださいよっ!」

「わぁかってるってぇ。」


ふわああっと九峪があくびをする。

言葉とは裏腹に、九峪は睡魔に無条件降伏してしまいそうであった。


「あのぉ・・・そろそろ明かりのほうが消えてしまうので・・・」


亜衣のそばに寄ってきた女官が耳元でささやく。

それを聞いた亜衣はスクっと立ち上がるとパンッと両手を叩き、注目を集めた。


「もう明かりが消えてしまうので今日はここまでということにいたしますっ!」


周囲から不平不満の声が飛ぶがそれらを黙殺すると亜衣は部屋の入り口付近で控えていた女官達に目配せする。

それを受けて、彼女達は一斉に部屋の中に散っていき、片付けを始めた。

ふう、とため息を一つつくと亜衣は九峪の方を振り返る。

九峪は壁にもたれかかって座っており、目は閉じているため眠っているように見えた。


「衣緒、衣緒はっと・・・無理か・・・」


九峪を部屋まで運ばせるために衣緒を探したが、すでに衣緒も意識を飛ばしてしまっていた。

亜衣は周囲を見渡し適当な人材を探すが、皆酔って足元がおぼつかなくなっているか、ダウンしてしまっている。

まだしっかりとしている数名も他の人の相手で精一杯だった。


「はあ、仕方ない。私が何とかするか・・・」


再びため息をつくと亜衣は九峪の前にしゃがみ、声をかける。


「九峪様?起きてます?」

「・・・うん・・・」


微かに頷いた九峪の腕を取り、上に引っ張りあげる。

それに従って九峪はゆっくりと立ち上がった。

亜衣は九峪に肩をかし、ゆっくりと歩き始める。

九峪の足取りは予想とは裏腹に意外としっかりとしており、時折ふらつくもののすんなりと九峪の寝室へたどりつくことができた。

歩いている間九峪は一言も言葉を発さなかったが、部屋の前まで来ると


「ん、ありがと・・・」


微かにもらすようにささやいた。


「いえ、かまいませんよ。ですが、今日みたいな真似は控えてくださいよ?」

「ん。」


二人の目の前で部屋の戸が空き、中から数人の女官が出てくる。


「あっ!ど、どうぞ!」


慌てて女官達が戸の前からどく。


「ありがとう。」


亜衣は彼女達に一言礼を言うと部屋の中に入った。

部屋の中には布団が敷かれており、わずかに開いた窓から月明かりが差し込んでいてほんのり明るい。

とりあえず九峪を布団の上に座らせようと、亜衣はかしていた肩をはずそうとした。

その時だった。


「きゃっ!」


不意に九峪の両腕が亜衣の背に回され、亜衣はすっぽりと九峪の腕の中に収まってしまう。

思わず悲鳴をあげた亜衣は九峪を見上げるが、九峪はにっこりと微笑みを浮かべると腕に少し力を込め、ぎゅっと抱きしめる。

亜衣は九峪の笑顔に言葉をなくししばし黙りこくってしまう。

が、

突如浮遊感が体を襲った。

そしてやわらかい衝撃。

気づいたときには亜衣は九峪の上に乗っかるような形で布団の上に横たわっていた。

九峪が亜衣を抱きしめたまま後ろに倒れこんだのだ。


「く、九峪様!?」

「ん〜?」


九峪の顔を覗き込むと、いつの間にか目はパッチリと開かれていた。

先ほどの眠たそうな様子はどこにも感じ取れない。

瞬間九峪と目が合う。

にっこりと微笑みを浮かべた九峪の顔。

そして次の瞬間。

亜衣は振り回されるような力を受けた。

思わず目を閉じる。

・・・・・・・

・・・



そして再び目を開けたとき、いつの間にか九峪と体が入れ替えられており、自分を上から覗き込む九峪の顔が目に飛び込んできた。

かろうじて自由な首から上を回して周囲を窺うと、自分が九峪に組み敷かれるような体勢になっていることがわかった。


「な、な・・・・」


亜衣は自分の顔がだんだんと熱を帯びていくのを感じた。

触れているところから九峪の体温が伝わってくる。



「あ、あの、九峪様・・・離してください。」

「やだ〜」

「やだって・・・子供みたいなこと言わないでください!」

「はいはい、酔っ払いに何言っても無駄無駄。」

「って、自覚してるんですかっ!?」


思わず突っ込んだ亜衣のを無視して九峪は離れようとはせず、右手を亜衣の目の前に伸ばす。

そして亜衣の眼鏡を取ると、それをポーンと前方に放った。


「ああっ!ちょっと九峪様っ!?」

「これから眼鏡なしで生活してみない?」


亜衣の抗議の声を無視して九峪は言った。

右手をそっと亜衣の頬にそえる。


「こっちの方がずっと綺麗なのに・・・」

「なっ、なっ!?」


九峪の言葉に亜衣の頭の中は真っ白になり、体が緊張で硬直する。

ゆっくりと九峪の手のひらが頬から首へと滑っていった。


「ねえ、俺が亜衣のことを好きだってこと知ってた?」


九峪は物憂げな表情で言う。


「!?」


対する亜衣はもはや言葉すら出てこないようだった。


「嫌なら抵抗しろよ?」


そのささやく声にだんだんと体の力が抜けてくる。


(嫌・・・ではない・・・と思う。でも・・・)


九峪の右指が亜衣の指に絡められ、ぎゅっと握られる。


(で、でも・・・雰囲気に流されるのは・・・嫌だ・・・)


「ごめんなさい、九峪様!」


亜衣は思い切り強く九峪の手を振りほどき押しのけようとした・・・

のだが・・・

九峪は少しも動かなかった。


「ざんね〜ん。抵抗してもいいとは言ったけどやめるなんて言ってないもんね。」

「なっ!?」


九峪はにっこりと楽しそうに笑う。

ゆっくりと九峪の指が亜衣の指に絡められ、ぎゅっと握られる。

九峪はすばやく唇を重ねた。

しばらくの間、やさしく深く口付ける。

亜衣はその熱く柔らかな感触にかすかな陶酔感を覚えた。

そして静かに目を閉じた・・・

のだが・・・


       バタ


唐突に九峪の体から力が抜けた。

ずるっと九峪の頭が布団の上に落ちる。


「く、九峪様!?」


亜衣は慌てて首を動かす。

するとすぐ横の亜衣の肩の上ほどに九峪の顔があった。

目は閉じられ、静かな寝息だけが聞こえた。


「ね、寝た!?」


亜衣の心に安堵と少しばかりの残念な気持ちが起こる。

もぞもぞと九峪の下から這い出そうとするのだが、


「手が・・・離してくれない・・・?」


九峪の右手が亜衣の左手をしっかりと握っており、この場から立ち去る事を許さなかった。


「ど、どうしよう・・・」














「・・・んっ・・・」


九峪の体がびくっと動く。

もぞもぞと起き上がろうと動くが・・・


「あ、頭いてえぇ・・・」


左手で頭を抱える。

そして右手を動かそうとして・・・感じた違和感に九峪は右手の方を見た。

そして硬直。


「な、なぜ・・・亜衣が・・・」


すぐ傍で亜衣が寝ているのが目に飛び込んでくる。

さぁっと血の気が引いていくのが分かった。


「ふ、服・・・着てるな。よし。」


自分の服装をチェックしとりあえず記憶をたどろうとした。


「思い出せねぇよ・・・おいおいおい、まずいだろう・・・」


九峪は自分の情けなさにはぁとため息をつく。

そしてこれからどうするかを考えていた時、


「あの、失礼いたします。」


朝が遅い九峪を心配したのか、女官が部屋の戸を開けて、


「・・・・・・」

「・・・・・・」


再び時が止まった。


「あ、ああああ、あの、あの・・・失礼しましたあああああああ!!!」

「ちょっとまてえええ!!」


絶叫とともに女官が部屋から飛び出していく。

九峪も必死で呼び止めようとするものの、瞬く間に走り去ってしまった。


「・・・ぅううん・・・」


さらに悪い事に亜衣まで目を覚まして・・・


「・・・あっ」

「うっ!?」


亜衣は九峪と目が合うと気まずそうに顔を伏せた。


「あ、あのな・・・」


九峪は何とか言葉を発しようとするのだが・・・


・・・・ドタドタドタッ!!

「「「く〜た〜に〜さ〜ま〜!!」」」


部屋の外から恨めしそうな声が聞こえてくる。


ガラっ!!


「あっ!!」










この日、耶牟原城で謎の爆発が発生するのもののけが人は出なかったらしい。


そして数日後、仲良く歩く九峪と亜衣の姿が目撃された。















【あとがき】

まずはじめに、

お酒は二十歳になってから。また飲んでも飲まれてはいけません。
さらに今回の九峪のような行動は犯罪となる恐れがありますので決してまねをしないようにw


ふう・・・
なんてつーか・・・
一応寸止め。規制には引っかかってないはずw


まあ、今までのLoversとは雰囲気が違うんですよね。
強引な感じがして。
そのせいでVer珠洲よりも早くに書き始めて完成間近だったにもかかわらずお蔵入りが検討されてましたw

ですが昨日龍虎さんが見たいと言ってくださったので出す事にしました。

まあ、今後こんな感じのLoversはないと思うんですが・・・

宮も明日飲み会があるのでこんな風にならないように気をつけますw



で、次回はDODをだしてから、たぶん清瑞そのA。

二人のもとに突然に小さなお客様がやってきて・・・って感じです。

ではまた!


PS リクエストと感想をお待ちしてます。