火魅子伝 DOD (改訂版)第05話 (H:小説+α M:九峪・清瑞・天目・嵩虎・右真 J:シリアス)
日時: 03/18 21:18
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カツン   カツン   カツン


規則正しい音が続く。

九峪は机の上にのせられた地図を眺めながら人差し指で机を叩いていた。

昔からよくやる癖だった。

真剣な表情でじっと視線を地図に注ぎ、ただひたすら思考の深みに沈んでいく。


  予想以上に少ない狗根国兵
  筑後、筑前、火向の動向
  

状況は決して良いものではなかった。

たとえ征西都督府が無くなっていたとしても、アンヘルと九峪で敵を倒し続けたとしてもだ。

いつまでも狗根国軍が沈黙を続けるとは思えない。

筑後、筑前、火向に周囲を囲まれている限り、いつ一斉攻撃が始まったとしてもおかしくはなかった。

その時はきっと勝つことはできるであろう。

しかしそれはほとんどの兵力や施設をなくしたとしてだ。

九峪とアンヘルでは多方向から攻めてくる軍隊の全てに対応することは出来ない。

その払われる代価は大きすぎるだろう。

そして九峪がやらねばならないのは耶麻台国の復興だ。

そのためには耶麻台国の人間を立てて戦いに勝たねばならない。

すべてを九峪に依存させてはならないのだ。

そのためには九峪とアンヘルが戦わなくても済むようにしなければならない。

現在復興軍の兵力は三千ほど。その内二千が豊後の攻略に、残りは耶牟原城に残っていた。

訓練の時間はあまりなく、練度は高くない。

かろうじて武器防具は足りている事だけが救いといえるだろうか。


  さて、どうしたものか・・・


せめて筑後が落ちればまだましであろう。


  俺とアンヘルでつぶすか・・・いや、今度はきっと住民に被害が出る。

  そうなれば、必ずいらぬ反発が出てしまう・・・


九峪は大きくため息をついた。

かといって軍を動かすわけにはいかなかった。

先日の戦いで城壁の一部と宮殿のほとんどが破壊されていた。

城壁の修復と宮殿跡地の片付けは急務だ。

特に城壁に関して言えば、狗根国軍を迎え撃つだけでなく、魔獣達を防ぐ意味もあった。

数日で直せるものではないが、将来的にも急がなくてはならない。


  天目達に期待しようか・・・


九峪はもう一度ため息をついた。





















そのころ耶牟原城で天目は一人の客人を迎えていた。

天幕の一つ、それの内部は主の趣味を反映してか、いくらかの植物が飾られ華やかな印象を与えていた。

備え付けられた机ですらいくらか装飾が施されていた。

このような状況ですらなかなか余裕があるようだ。

机に向かっていた天目は天幕に映った影と聞こえてくる足跡に気づき立ち上がる。


「ようこそ、嵩虎殿。待っておりましたよ。」


大陸風の服装をした小太りの男が親衛隊員の後から天目の天幕に入ってきた。

両手を広げ、歓迎意を示す天目に対し、嵩虎は幾分戸惑った様子だ。


「なにやらいろいろとあったようで・・・」

「ええ、まったく。」


天目は少し肩をすくめる。


「今の私の立場は耶麻台国復興軍の一幹部、といったところですよ。」

「ではこれは耶麻台国との交易ということに?」


嵩虎の問いに天目は鷹揚に頷く。


「そのとおりです。この件は私に一任されておりましてね。」


嵩虎はほっとしたような表情を見せる。

それもそうだろう。

彼は純粋な天目の味方というわけではない。

ただ、利害が一致しているからこそ協力しているのだ。


「準備の方はどうなっているのです?」

「大体半分といったところですか。なんせ予定ではまだ先のことでしたからね。これでもできる限り急がせているのですよ。」

「半分でもかまいません。一刻も早く傭兵達を派遣していただきたい。」

「上陸地点はどういたします?」

「那の津が理想的ですね。陸と海からの攻撃、ということにしたいのですよ。」


淡々と要点だけの会話が交わされていく。


やがて話し合いが終わった時、嵩虎は満足そうな表情であった。


「今回もいい取引ができそうですよ。特に耶麻台国とのつながりができるとは・・・」

「ふふふ、こちらこそ大商人とのつながりは大切ですから。」


お互いに微笑みを浮かべた顔を見合わせる。

その笑みはまさに共犯者に向けるものだった。


「それではこれで。」

「もう帰られるので?少しここの様子を見ていかれては?」

「いえ、準備を急がせないといけないので。」


嵩虎は天目に一礼すると足早に天幕から出て行った。


「あとは待つだけか・・・」


天目はぼそっとつぶやいた。




 














深緑の森の中をいくつかの影が走ってゆく。

その中でも先頭を走る影は一際早く、じわじわと後方の影との間が広がっていた。

しかし少しも走る速度を緩める気は無いらしい。


「ちょ、ちょっと待ってくれないかな〜!清瑞隊長。部下が追いついてないよ。っていうか右真もだけど。」


焦ったように後方の影の一人が叫んだ。

先頭を走っていた清瑞が振り向く。


「このぐらいで音を上げるの?」


その挑発的な台詞に右真はむっとするものの、言い返す体力が惜しいのかコクコクと頭を縦に振る。

さらにその後ろでは数人の天目親衛隊員が走っているのだがもはや息絶え絶えな様子であった。


「分かった。じゃあしばらく休憩。」


は〜っと隊員たちから安堵の息が漏れ、それぞれゆっくりと歩きながら息を整え始める。

それに対し清瑞は息一つ乱れていなかった。


「ちゃんと水分をとっておくように。」


清瑞はそう言うと自らも背負っていた小さな背嚢から水が入った竹筒を取り出し口をつける。

自分でも気づかないうちにのどが渇いてたのだろうか。

水を口に出来た事がうれしかった。


「う〜ん、体力には自信があったんだけれどなぁ・・・」


右真がつぶやく。

他の隊員たちは夢中になって水を飲んでいたり、座り込んで息を整えている。

清瑞はその様子を見てため息をついた。

この分ではしばらく休憩を続けなければならないだろう。


「ちょっと周囲の様子を見てくるから。」

「あ、右真も行くよ。」


清瑞の下に右真が近寄ってくる。

さすがというべきか、その足取りはしっかりとしたもので、もうすでにだいぶ回復したようだった。

二人は静かに周囲に気を配りながら歩く。

右真はこっそりと清瑞の横顔をみた。


現在彼女たち天目親衛隊は耶牟原城残留組と豊後攻略組に分けられていた。

虎桃や右真は豊後攻略組であり、案埜津や、隊員ではないが真姉胡は耶牟原城残留組だ。

そして今回川辺偵察に数人の隊員がかりだされたのだが彼女達の隊長は清瑞が任命されたのだ。

もともと清瑞が九峪に頼まれたため清瑞が隊長を務めるのはなんらおかしい事ではない。

しかし今まで苦楽をともにしてきた親衛隊には強い連帯感や自尊心がある。

それゆえ彼女達にとって余所者である清瑞が指揮を執ることに不満を感じていたのだ。


(でも・・・わたし達の方が劣っているんだもんなぁ・・・)


悔しいがそれは事実だ。

それに天目からの厳命で九峪の命令には絶対に従わなくてはならない。

下手に刃向かって主たる天目の立場を悪くするわけにはいかないのだ。



不意に清瑞が歩みを止める。

「ど、どうしたの?」


右真は清瑞に顔を近づけてささやいた。

対する清瑞は真剣な表情だ。


「人の声がする。複数だ。」


人目のつかない所を通っていたためこの周辺は普段は人が通る場所ではない。

近くには狗根国の砦があり、その砦も数日前に九峪とアンヘルによって破壊されたばかりだ。

山人という可能性もあるがそれよりもありうるのは・・・


「狗根国兵の残党かな?」

「かもしれない。」


   ゴオオオオオオン!!


大きな爆発音が周囲に響き渡った。

そう遠くないところからだった。

二人は顔を見合わせると一斉に走り出した。






続く









【あとがき】


なんか中途半端なとこで終わった気がしますw

その辺はご勘弁を。

でもぜんぜん進んでないなぁ・・・

しかも香蘭達も出てきてないし。


たぶんすぐ次を出しますんで。

今週は投稿週間ですからw


ってなわけでまた次回!!

あとがきも少なくてごめん!!