Lovers Ver衣緒  (H:小説 M:九峪×衣緒 J:ほのぼの)
日時: 03/20 23:43
著者:

11月。

この時期九州では紅葉の時期を迎える。

今俺が歩いている道路沿いに植えられた木々もだんだんと色づき始めていた。

住み慣れた街の光景なのに何か神秘的な感じがする。

もうすぐ綺麗な紅へと変わるだろう。

俺はふと足を止め、それを眺める。

・・・おっとこんな事をしてる場合じゃない。

早く帰らないと。

大学から俺の家まで大体四十分。

彼女もきっとそろそろ俺が帰ってくるころだと思って待ってくれているだろう。

俺は再び歩き始めた。



















俺こと九峪雅比古が古代の九洲から戻ってきたのは大体四年前の事だ。

俺の感覚から言って少なくとも一年以上は向こうにいたのに帰ってきたらまだ一週間もたっていなかった。

まったく・・・逆浦島かよ。

ほんとに危ないところだったぜ。

もし十年以上向こうにいたら・・・なんて考えるとな・・・

おっさんだぜ、俺!!

そんな事なく帰って来れたからよしとしようか。

まあそんなわけで俺は今大学生活を送っている。

一年以上も勉強なんてしなかったのだが俺の必死の努力は実り、何とか地元の大学に受かることが出来た。

だから今は自宅から大学通いだ。

なかなか充実した日々をおくっている。



















「ただいま!!」


俺は家のドアを勢い良くあけると大きな声で言った。


「お帰りなさい。」


家の奥から返事とともにパタパタと小走りで走ってくる足音が聞こえた。

柔らかな響きの声。

断じて母さんの声ではない。

俺は顔がにやけるのをこらえる事が出来なかった。

だってねぇ・・・帰ってきたら母さん以外の女性が出迎えてくれるんだぜ?

あ、もちろん姉さんとか妹だというような落ちじゃねえぞ?


「お帰りなさい、雅比古さん。」


にっこりと微笑みながら彼女が現れる。

彼女の名前は衣緒。

なんつーか・・・俺と一緒に現代に来たんだったりする。

聞いたところによると俺が光の中に入っていった時、つい飛び込んでしまったらしい。

すごく無謀な行為だと思うんだけどな。

その後俺は行く当てのない衣緒を家に連れてきた。

当然のごとく俺はすごく怒られた。

一週間とは言えその間ずっと行方不明だったわけだしな。

無理はない。

そして衣緒のことを聞かれた俺は信じてもらえない事覚悟で九洲のことを両親に話した。

まあなんつーかそこからが驚きなのだが・・・あっさりと信じやがった。

え!?

普通は俺が正気か疑うだろ!?

なんて思ったりしたのだが・・・


『こんないい子が嘘をつくわけないでしょ!』by母さん


『お前よりは信用できそうだ。』by父さん


何だよそれ。

実の息子はそんなに信用ないのかよ!

・・・そんなわけで衣緒は両親から暖かく迎え入れられ、とても信用されてるってわけだ。

結果オーライってことかな・・・

でも同じ屋根の下で四年も暮らしていたらなんていうか・・・こう・・・ねぇ・・・

衣緒は九洲では星華からスタイルについていろいろ言われてたけど・・・

あれは比較対象が悪かっただけだよな。

ハンマーをぶんぶん振り回す割りにはムキムキってわけでもなく胸だってある。

でもって顔はいい。

家事だって母さんの手伝いでいろいろやってるし。

な?こうムラムラきたっておかしくないだろ?

そんなわけで大体三年目にめでたく恋人同士になれたわけだ。

その後の両親の反応は・・・言うもでもない事だな。うん。


「ただいま。」


俺はもう一度そう言った。

薄桃色のトレーナにジーパンなんてありふれた格好だがエプロンがよく似合っている。

ほんとに家庭的だな・・・

俺がそんな事を思っていると衣緒は両手を広げてこう言った。


「お風呂にします?ご飯にします?それとも、 わ・た・し?」


ぶっ!!

俺は思わず顔を引きつらせた。

意味分かっててやってんのか?


「あれ?どうかしましたか?」

「あ、あのな・・・その台詞どこで覚えたんだ?」

「え?ああ、お義母さんがそう言ったら雅比古さんが喜ぶって。」


・・・あの馬鹿は・・・なんていうことを吹き込むんだ・・・


「・・・あ、う、うん。ご飯で・・・」

「はい!分かりました。」


衣緒はすぐにダイニングの方に歩いていく。

俺は靴を脱ぐとすぐさまリビングに駆け込んだ。


「おい!!母さん!!」

「ん?」


案の定母さんはリビングでのんびりとテレビを観ていた。

最近はちゃんと家事をやっているのかも怪しい。

この人が家で働いているのを見るのも少なくなってきた。


「何?うるさいわね。」

「母さん、なんで変な事を衣緒に吹き込んでるんだよ!!」


俺がそう怒鳴ると母さんはにやりと笑みを浮かべた。


「へえ・・・あの台詞言ってもらえたんだ?どうだった?うれしかったでしょ。」


そりゃできるものなら衣緒にするって答えてみたいけど・・・


「あのなぁ!あんなのは漫画や小説の中の台詞だろ!!普通は言わねえよ!!」


俺はむきになって言う。

しかしむきになればなるほど状況は悪化するばかりだ。

その時どこからか音楽が流れてきた。


「あ、私だ。」


母さんはテーブルの上に置いてあった携帯電話を手に取った。

サブウィンドウが青く点滅し画面にはいくつかの文字が並んでいた。


「はい、もしもし・・・うん・・・・・・ああ、予約取れたんだ・・・うん。分かった。」


短い会話を済ませると母さんは立ち上がった。


「今父さんから電話があってね。今日は外で食事をしてくるから。」


おいおい。

なんだよそれ。


「だから今日は私達が帰ってくるのは夜遅くになるからね。」


!!??


・・・・・・まじで?

良く見れば母さんはよそ行きの衣装を着ていた。

・・・確信犯かよ。


「食事の用意が出来ましたよ?」


衣緒がリビングに入ってくる。

母さんは衣緒に向き直ると、先ほど俺に言ったことを衣緒にも伝える。

彼女の顔が瞬く間に赤くなっていった。

やっぱりそういう意味か・・・


「いつも私達がお邪魔みたいだしね。たまには二人っきりで過ごしてみたら?」

「え!?でも急に・・・」

「・・・」

「じゃあね!」


散々爆弾を落として去っていく母さん。

・・・どうすりゃいいんだ・・・


「あ、あの雅比古さん・・・」

「・・・とりあえず食事にするか・・・」

「そ、そうですね。」



















・・・ジャアァ・・・・・・

ガチャ・・・ガチャ・・・


水の流れる音とともに食器同士があたる音が俺の耳に届く。

目を通していた本から視線を上げると衣緒が流し場で洗い物をしていた。

あの母さんの問題発言以来、どうも顔を合わせづらい。

はあ・・・

せっかくの機会がもったいないな。

こんなに沈黙が続くのはお互いにつらいし。

俺はため息をつくと椅子から立ち上がり流し場に近づく。

衣緒はどうやら俺には気づかなかったらしい。

すぐ真後ろまで近づくことが出来た。

腕を伸ばせば触れれる距離。

まいったな・・・

話しかけるつもりだったのに・・・


俺は両腕を伸ばして、衣緒を後ろから抱きしめた。


「きゃ!」


衣緒は一瞬体をこわばらせる。


「くた・・・じゃなくて雅比古さん!?」

「大丈夫。何もしないから。」


俺は少しだけ力をこめた。

ドクン・・・ドクン・・・

お互いの心音が聞こえる。

水の流れる音はいつの間にか消えてしまっていた。

しばらく俺達はそのまま立ち尽くしていた。


「どうかしたんですか?雅比古さん?」

「ん、なんか幸せだなって思って。」


尋ねる衣緒に俺はそう答えた。

腕を解くと、衣緒は振り向いた。



「私もです。」


にっこりと微笑みを浮かべる。

その表情に俺は目を奪われた。


「衣緒がいてくれてよかった・・・」


俺は少し体をかがめると衣緒の頤に手を添える。

静かに目を閉じる衣緒。

ゆっくりと唇を重ねた。





















「ずっと一緒にいてくれ。」

「はい。」



















【あとがき】


Ver衣緒です。

勝手に九峪の親を出してしまいましたがすごい困った。
何に困ったかというと・・・

九峪って母親の事をなんて呼ぶんだろう?

お母さん?母さん?おふくろ?

で、悩んだ末、結局無難に母さんにしときました。
まあその辺は個人の考え方次第ですね。

今回は今までとは違い、舞台は現代。
いやあ・・・なんのためらいなくカタカナが使えるよw

しかも例の台詞も言わせてしまったw

昨日SiNさんと龍虎さんとチャットで話しててこれを言わせようとw

だいたい夜はチャットルームにいますんで何か意見、感想がありましたらどうぞ。

次回はDODか深川(笑)ていごさんからのリクです。

ダークパターンと悲恋パターンがあるんですがどっちにしようかな・・・

まあその辺は考えとこう。

では次回!!