火魅子伝 DOD (改訂版)第06話 (H:小説+α M:九峪・藤那・閑谷・虎桃 J:シリアス)
日時: 05/01 23:59
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「ほう・・・なかなか考えてるじゃないか。」


九峪は机に置かれた布を見ながらクスっと笑みを浮かべる。

所々に血がつき、ぼろぼろになったそれにはいくらかの文字が書かれていた。


「く、九峪・・・」


九峪の傍をプカプカと浮かんでいたキョウが不安そうな声をあげる。


「なんだ?」

「なんだ、って・・・どうするのっ!?」

「そうだな・・・とりあえず幹部の連中を呼ぼうか。おい。」

「はっ!」


天幕の出入り口付近に立っていた兵達が足早に散っていく。

残された九峪とキョウの間にしばらく沈黙が横たわった。

外から聞こえてくる人々の声がやたらに大きく聞こえた。


「やっぱり九峪の言うとおりになっちゃったね・・・」

「ん?」

「まさか、本当に誘い込まれていたなんて・・・」































「なっ!?それは本当ですか!?」

「ほれ。」


勢い良く椅子から立ち上がって叫んだ伊雅に九峪は例の布を放り投げる。

それを受け取った伊雅は布を破りそうな勢いで丸まった布を広げ、目を通す。

伊雅の隣に座っていた虎桃はそっと伊雅の背後から覗き込んでいた。

その他の幹部達も緊張した面持ちで伊雅の手元の布を見つめていた。


「・・・・・・」

「何度読んでも同じだぞ?」


九峪は苦笑しながら言う。


「う〜ん、ほんとだねぇ・・・」


虎桃の場違いな軽い声。


「・・・確かに・・・」


伊雅がようやく布を手放し、顔を上げる。


「さて、状況は理解できたか?」


九峪は席に着いている面々をゆっくりと見渡す。

真新しく、まだほのかに木の匂いをただよわせる円卓。

その席に着いている幹部達の表情は重い。


「では詳しくは清瑞に報告してもらおうか。」


九峪の言葉によって清瑞に向かって一斉に視線が行く。

清瑞は状況の危うさによってか、はたまた集まった視線によってか、顔をわずかにこわばらせ、立ち上がろうとする。

しかしそれを凛とした声がさえぎった。


「話を遮る様で申し訳ありませんがその件について我々からも報告させていただけませんか。」


右手を軽く上げたその女性を九峪は見る。

先ほど戻ってきた清瑞達が連れてきたその女性。

数人の男達を引き連れてきた彼女は毅然とした態度で藤那と名乗ったのだった。


「別にかまわないよ。どうぞ。」


九峪は軽くうなずく。


「では私からその布を手に入れた経緯などについて報告させていただきます。」


藤那は立ち上がり、周囲の幹部達を見渡しながら言った。

彼女の動作の一つ一つ流れるようでがなかなか様になっており、幹部達の視線を集めつつ良く通る声で話し始めた。


さすがは火魅子候補か。


九峪は藤那の声を聞きながらクスッと笑みを浮かべた。






























約半日ほど前の事だ。

藤那一行はすでに豊後内に入り、順調に復興軍の下に近づきつつあった。

だが周囲に狗根国兵がいないとは限らない。

むしろ狗根国の物見や残党が潜んでいる可能性のほうが高い。

そのため彼女達は静かに周囲を窺いながら注意深く進んでいた。

だが彼女達の歩みは突然止まった。


「狗根国兵?」


藤那は眉をひそめて報告をする若者を見た。


「たぶんですが・・・数人の兵が・・・」

「ふ〜ん。」


若者の報告によると数人の狗根国兵が一行の付近を通って行ったらしい。

むろん見つかるようなことはなかったのだが、今後のこともあり、こうして藤那のところに報告がされたのだった。

口元に手を当て、考えるしぐさを見せる。

そんな藤那を閑谷たちはじっと見つめた。

こうして藤那が黙って考え込んでいるときはなるべく口を出さず待っている、これが彼らの間にある暗黙の了解だった。

もっとも閑谷は時折横から口を出してしまい、いびられるのだが・・・


「そいつらを捕まえることはできるかな?」


藤那が言う。

目の前にいた若者はうなるような声を発するが、すぐに縦に首を振った。


「今のうちならできると思います。まだ今なら十分追いつけますから。」

「よし、すぐに行くぞ!!」











しかし彼女たちの予想以上に狗根国兵は強かった。

七人の狗根国兵に対して藤那達はその三倍以上。

しかし彼らが振るう剣を前に若者達はうかつには近寄れず、状況は膠着していた。

そしてさらに悪いことに、


「禍し餓鬼!!」

「天の火矛!!」


ドオオオオォン!!


禍々しい漆黒の闇と鮮やかな朱の炎。

それらはぶつかると周りにはじけ飛ぶ。

その衝撃で地面がえぐれ、木の幹にくっきりと破壊の爪跡が残される。

荒れた風が葉を散らす。


「ちっ!!」


藤那は舌打ちをすると新たな方術をつむぎ始めた。

そう、さらに悪いことに左道士がいたのだ。

本来なら相手にならないほどの力の者だったが戦況は狗根国が有利に動いていた。


周囲は森なので動きづらく遮蔽物が多い。


またあちこちに展開した味方にあたらないように方術を撃たなくてはならず、大規模な術は使えなかった。


さらに左道士は戦いなれていた。


うまく緩急をつけて術を放つ左道士に対し、藤那と閑谷は完全にいいようにあしらわれていた。

藤那達は里を出るまで戦いとはほとんど無縁な生活を送っていた。

剣の扱い方や方術については学んでいたものの実戦経験はほとんどない。

ここに到るまで数度にわたって戦ったものの、どれもたいした経験にはならなかった。


ドオオオオオオオオォン!!


再び爆音があがる。

藤那と閑谷の二人がかりで戦っているのだがいっこうに埒があかない。

チラッと藤那が剣を振るう若者達に視線を向けるが、彼らもなかなか決着がつかないようだった。

長引けば余計に状況はまずくなる。

藤那は一つの決断を下した。


「くっ、閑谷!時間を稼げ!!」

「えっ!?う、うん!」


藤那の声にわずかに振り向いた閑谷は藤那が唱える術の旋律からその意図を読み取り、再び左道士に対峙する。

大規模な方術の陣が藤那の周囲に浮かび上がる。

その集まる力の大きさを感じ取って左道士の顔から血の気が引いていく。


「なっ!?」

「いけぇっ!!」


幾つも束になった雷が木々の間を走っていく。

鼓膜を破りかねない豪音と閃光が周囲の世界を埋め尽くした。


ゴオオオオオオオオオォン!!


「くっ、・・・やったか?」


眩んだ視界はゆっくりと回復をはじめ、煙が流れていく。


「ふ、藤那ぁ〜、ひどいよ。いきなりなんて!」

「うるさい。ぐだぐだ言うな!」


視界が晴れた時、二人の目の前に焼死体が一つ現れた。

また周囲の様子は大きく変わっていた。

大きな木々も倒れて焼き焦げており、ところどころでまだ火がくすぶっていた。

抉れて吹き飛んだ土が二人の服に吹き付けられていた。


「むこうの様子は・・・」


いつの間にか剣戟も止んでいた。

むこうも無事に勝利したということだろうか。

二人の耳に微かに聞こえてくるのは女の声。

一行には藤那以外の女性はいない。

不安がよぎる。

二人ははっと顔を見合わせると急いで動き始めた。


そして急いで戻った藤那と閑谷の視界に入ったものは清瑞と右真によって制圧された狗根国兵達だった。


急に飛び込んできた清瑞と右真に対して戸惑いを隠せなかった藤那だが、彼女達が耶麻台国復興軍の者だと名乗るとさらに驚きをあらわにした。

しかしそれは清瑞と右真も同じだった。

火魅子候補を名乗る女性。

神器たる鳳凰鉞を所持し、さらに日輪をかたどった紋章が描かれた旗。

どれもがかつての耶麻台国の重要な遺物だ。

事の真偽はもはや論じるまでもない。

そしてさらなる問題。

それは兵が所持していた一枚の布だった。





























藤那と清瑞の報告の後、天幕内はざわめきはじめた。


「この布によると三日後に川辺と筑後から同時進攻が始まるらしいな。」


九峪は眺めながら言った。


「どうしよう・・・」


キョウがぽつんともらす。

徐々に広がる不安の波。

重い静けさが場を支配した。


「川辺の兵はどれくらいだと思う?」


九峪が虎桃に問いかけた。


「そうですね〜、火向の兵をどれぐらい集めているかは分かりませんが・・・四千ぐらいかなぁ・・・多ければ五千ぐらいかもしれませんねぇ。」


現在復興軍の兵力は二千弱。

残り三日間の志願兵を入れても三千には届かないだろう。

兵の練度も確実に違う。

もはや歴然とした差がそこに横たわっていた。


「ねぇ、何か策はあるの、九峪?」


キョウの声に皆が一斉に九峪の方を向く。

全員の視線を浴びて九峪はゆっくりと口を開いた。


「ある。」


驚愕のどよめきが生じる。


「あ、あるのですか!?」

「落ち着けよ、伊雅。策はある。」


九峪はフッと不敵な笑みを浮かべると虎桃に向かって言った。


「虎桃。とりあえず当麻あたりで反乱を起こして来い。」

「はい!?」










続く





【あとがき】


だいぶ遅れてすみません。
第六話です。
正直微妙な文章です。とっても文章力が落ちてる気がしてなりません。
う〜ん、がんばれ私。

で、今回さりげなく藤那合流。
当然一番乗りです。
まあ出発地点がもともと耶牟原城に近しね。

ちなみになぜ藤那は直接耶牟原城へ行かなかったのかというようなことは気にせずにw

次回は・・・私ががんばっちゃえば明日!無理なら今週中ということで。
では次回!

ちなみにHPの方もよろしくです。