火魅子伝 DOD (改訂版)第07話 (H:小説+α M:九峪・アンヘル・藤那・ J:シリアス)
日時: 05/05 23:56
著者:
URL : http://shrine-of-miya.hp.infoseek.co.jp/

本当に何をやってるのだか・・・



俺は神など嫌いだ。

たとえ祈っても肝心なときには何の役にも立たないし助けてなどくれない。

それどころか神は俺からいろいろなものを奪っていった。

俺の帰る場所であり、家でもあった封印騎士団。

かけがえのない友人達。

そして最愛の恋人である日魅子。

何もかも奪い去っていき、俺には絶望と力しか残っていない。



なのに俺は未だ神に囚われているのか・・・



本当に何をやってるのだか・・・



神の遣いを名乗るなんて・・・



いや、戦いたいだけか・・・































「虎桃。とりあえず当麻あたりで反乱を起こして来い。」

「はい!?」


虎桃は素っ頓狂な声をあげる。

微妙に表情を引きつらせ、まじまじと九峪を見た。


「当麻で反乱が起きれば川辺の目をひきつける事ができる。少なくともその反乱の対応に五百から千の兵力をさくだろうな。」


言葉を切って九峪は幹部達を見渡す。


「少しでもこちらに向かってくる兵力を減らす。これは重要だと思うが?」

「たしかにそうだけど・・・でもそれじゃああまり変わらないよ。」

「なあ、キョウ、戦いというのはな、相手が死ぬか戦闘不能になればいいんだよ。」


九峪は顔の前で手を組み、キョウを見る。

手で隠れた口元はうっすらと弧をえがき、目は暗い光が宿っていた。

その様子に周囲の緊張感が増す。


「何も剣や槍を打ち合わせるのが戦いじゃあないのさ。」


誰かがごくっと息を呑む。


「ひとまず筑後は放って置こう。この布が届いてないのなら三日後には攻めてこないだろうしな。問題は川辺の兵だが・・・森ごと焼き払ってしまえ。」































会議の様子とはうって変わってにぎやかな街、長湯。

先日の戦いで破壊された建物、城壁の補修、徐々に集まってくる志願兵など、さまざまな人々でにぎわっている。

その街の中央部、数日前までは宮殿があったそこは材木が散らばった広場と化していた。

その広場の真ん中にアンヘルが堂々と居座っていた。

その圧倒的な存在感は人々の畏怖の対象となっており、遠巻きにその姿を見ようとする人々が詰めかけていた。

さすがに近くまで寄ってくる者はいないものの、祈りをささげる人、なにやら叫ぶ人などを見て、アンヘルは閉じた目を開き微かに身動ぎをする。

首が持ち上がり、上体を起こす。

だがすぐに興味をなくしたのか、ゆっくりと地面に寝そべった。




「ほう、これが龍か・・・」


人垣を押しのけて一番先頭に陣取った藤那が言う。

傍にいる閑谷はただ黙りこくって、アンヘルに視線を注ぐ。

会議が終わり、それぞれが受け持ちの仕事のために解散したのだが特にする事がない彼女達は広場へ来ていたのだった。


「すごいな・・・」


口から出る言葉はただそれだけ。

それ以外の表現が見つからなかった。

ただそこにあるだけなのだが、世界が違った。

誰もそれ以上に近寄れず、遠巻きに眺めるだけ。

まるで境界線が引かれているかのようだ。


「私は違う。」


藤那は確認するようにつぶやく。

その声に閑谷が顔を上げ藤那を見る。


「どうかしたの?」


閑谷の声を無視し、藤那は一歩踏み出した。

ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと、一歩一歩ずつ踏み出す。


「ちょっ、藤那っ!?」


もう背後からの閑谷の声も耳に入らない。

藤那の視線はアンヘルに釘付けになっている。


不意にアンヘルの首が持ち上がる。

金色の瞳がしっかりと藤那を捉えていた。

まるで剣を突きつけられたかのような、そんな気分になる。

思わず鳥肌がたった。


やがて藤那の歩みが止まる。

すぐ目の前にアンヘルがいた。


『・・・なんの用だ。』


低い声が発せられる。

決してしゃべれないと思っていたわけはないが・・・

藤那は言いようのない感動を覚えた。


「いや、ただ近くであなたを見てみたかっただけです。」


視線をそらさずに藤那が答えた。


『・・・名は?』

「藤那と、申します。これからも我々をお導きください。」

『・・・・・・』

「・・・・・・」

『・・・くだらぬ。』


思いがけない言葉に藤那は目をむく。


『所詮人間どもの利権争い。我にはどうでもよいことだ。』

「・・・・・・」

『同族同士で殺しあうのは人間の特性か。どうすればそれほどまでに憎み合えるのか・・・』


蔑むような声。

重苦しい声が藤那に浴びせられる。


「私達は九洲の民を救うためにっ!!」

『・・・支配する人間が変わるだけのことだ。』

「・・・・・・」


周りに集まる人々には聞こえていないのだろうか依然様子は変わらない。

変わったのは藤那の表情だけだった。

血の気のひいた表情。

無理もない。

目の前にいる神獣たるべき龍は彼女の存在価値を、生まれてきた時から持ち続けてきた使命を否定したのだ。

真一文字に結ばれた口から微かにもれる苦悶の声。

藤那はぎゅっと目を閉じると、回れ右をして足早に去ろうとした。


『支える杖がなければ立つ事も歩く事もできぬのか。』


背後からかけられた声にびくっと肩を震わせる。

だが振り向くことなく、去っていった。



『・・・神や神話などは所詮まやかしよ。』






























「また何かやったのか?アンヘル。」

『真実とはさまざまな面を持つ。・・・その一面を見せただけだ。』



辺りは静かだった。

音を立てるのは風に吹かれた草木か、虫だけ。

出ている三日月の光がわずかな明かりとなり世界を照らしていた。

広場の隅にある松明の明かりはここまでは届かない。

まだ誰もが眠っている時間帯、その場にいたのは、九峪とアンヘルだけだった。

深い闇の中に彼らの姿が浮かびあがっているようだった。

九峪はアンヘルの体に背を預け、地面に座り込んでいる。

いつもは腰にくくり付けられていた大剣はすぐそばの地面に刺さっており、月明かりを浴びて鈍く光っていた。


「そうか・・・だが一応俺達は神の遣いを名乗っているんだ。言動には気をつけてくれ。」

『・・・神の遣い、か・・・』


神の遣い。

その言葉に二人の間にしばらくの間沈黙が横たわる。


『神と神話。人間はどうしてこうも事実をねじ曲げたがるのか・・・」

「ああ。どうしてこの世界の人間はこうも神を信じるのだろうな。」


二人にとって神とは災厄を意味するものであり、決して自分達を守るものではなかった。


「神話なんて征服者が作り上げたただのプロパガンダ。知ってるか?この世界の天界と魔界とやらのことを。」


魔天戦争。

それは天界と魔界が人間界を舞台に繰り広げた大戦争。

この戦いで多くの犠牲が出た。

天空人にも、魔人にも、そして人間にも。

この戦いで何の関係もない人間が犠牲を強いられているのだ。

それもおそらく他の二界とは比べ物にならないほど多くの。

そして戦争の終結後、耶麻台国が建国される。

他ならぬ天空人の手で。

同胞を殺し、大地を荒らした天空人に支配される人々の心情はいかなるものであったのだろうか。

この時から今まで、確実に神話による事実の隠蔽が行われていた。

全ては支配者に都合がいいように。


「人は縋るモノ無くしては生きなれないか・・・」

『・・・そんな事を言うためにここに来たわけではあるまい。』


アンヘルがつぶやく。


「ああ、ちょっと筑後に『遊び』に行ってくる。だからしばらくここの守りを頼みたい。」

『・・・好きにするがいい。』


クスッと九峪が笑みを浮かべた。

地面に手をつくと手と足で地面を押し、その反動で勢い良く立ち上がる。

大剣を地面から抜くと素早い動作で腰から下げている革でできた鞘に剣を収めた。


「三日後までには戻る。そう伝えてくれ。」

『・・・分かった。』


九峪は自分の天幕に向けて足を運ぶ。

その数分後、一つの黒い影が深淵の闇の中に姿を消した。

そしてその影を見た者はいなかった。












【あとがき】


今回はなにやら深い話になってしまった気がします。
まあ深いといっても宮的な解釈で、ですが。

微妙に藤那をいじめてみたんですが、決して藤那が嫌いとかいうわけではなくて、ただアンヘルのキャラをはっきりさせたかっただけなんです。
まあこんな感じですかね。
基本的にアンヘルは人間を見下しています。ちなみに九峪は特別です。
またこの戦争にもほとんど興味を示してません。
ただ九峪がやるなら付き合うか、と思って参加してるわけです。

また、今回は魔天戦争についていろいろと書きましたがそれらは全て私的な考えであって他の解釈を否定するわけではありません。
こういう考え方もあるよね、という程度のものですので。
でもこういう観点から見ると天空人も決して正義ではないと言えるのかもしれません。
特に姫神子は何を思って耶麻台国を建てたのか。
まあ混乱に陥った人間界を救うためという解釈もできますが・・・

次回の更新は・・・未定です。
がんばりますw

また、感想もお待ちしてます。というかくださいw
切にお待ちしてます。

ではまた、第08話でお会いしましょう。