貴方の好みを聞かせてください! (H:小説 M:九峪・大勢の女性陣 J:ある意味シリアス)
日時: 05/02 19:18
著者:
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それはとある日のことであった。


「九峪様ってどういう女性が好みですかぁ?」


突然の忌瀬の質問に九峪は戸惑いを顔に貼り付けて固まった。

え、一体何、さっきまでそんな会話してなかったよな?

たしか先程までは当たり障りの無い会話だったはずだ。

仕事の合間の休憩と言うこともあって各県の様子や政治関連の、どちらかと言えば固い感じの真面目な話題。

えっと、とりあえず落ち着け自分。

九峪は飲みかけのお茶を一気に喉に流し込んだ。

ぬるめのお茶のほろ苦さが心を和ませてくれる。

チラッと周囲を窺えばこれまたキラキラと好奇心に満ちた視線を寄越してくる女性陣が多数居り、皆九峪の言葉を待っているようだ。

そんな女性陣の面子はと言えば、余計な話題を提供した忌瀬、この国のブレインとも言うべき亜衣、偶々豊後から出張中の上乃、財政担当の只深、そして何故か遊びに来ている兎華乃。

なんと言うべきか、ある意味濃い面子ばかりであった。

話術に長けた亜衣や只深がいる時点で誤魔化しは効かないだろう。

この手の話題が好きそうな上乃や兎華乃は絶対に根掘り葉掘り聞いてくるはず。

やべぇ・・・

九峪は嫌な予感に身を震わせた。

九峪に思いを寄せる女性は多い。

これは周知の事実であり、九峪自身も鈍感ではないから自覚していることであった。

しかしながら現在九峪には恋人はいない。

一応好きな人はいる。

いくらスケベと言われようと、真面目な恋愛に関しては超絶に弱気なのであった。

すなわちこの話題はその停滞した状況を打破する一石になりかねない危険な話題だ。

下手なことを言えば確実に言質を取られるっ!?


「い、いや・・・別に好みって・・・」

「いやいや、九峪様、ちょっとした参考程度のことですからぁ〜」


何の参考だよっ!

思わず心の中でそうつっこみを入れる九峪。

ひとまずこの話題を終わらせてさっさとこの場から抜け出すために九峪が腰を浮かそうとした瞬間、


「九峪様、逃げちゃだめですよ?」

「あ、上乃!?」


いつの間にか背後に回っていた上乃が九峪の両肩を押さえていた。

再びその場に腰を下ろすハメになり、そして肩に置かれた両手にはさりげなく強い力がこめられていた。

指が肩に食い込み痛い。

絶対に逃がさん、と言わんばかりに・・・


「九峪様」

「な、何かな、亜衣」


恐る恐るぎこちない動きで首を回してみれば不気味な薄笑いを浮かべる亜衣がいた。

眼鏡がキランと光ったような気がしなくも無いがきっと気のせいだろう。


「私は以前から思っていたのですが・・・、まさか九峪様は兎華乃さんのような方が好きなのですか?」

「ち、ちが、ちが「嘘っ!?まさか九峪様って幼女趣味っ!?」

「うわっ、九峪様、そないな趣味はあきまへんやろ」

「へぇ、私が好きなのねぇ」


上乃には肩を揺さぶられて九峪は発しようとした言葉は喉の奥に引っ込んだ。

まずい、このままではロリコンだと思われてしまう!

九峪は慌てて弁解しようと亜衣に向かって身を乗り出す。


「違うぞっ、こんな奴は好きじゃない!俺はもっと普通の好みなんだっ!」


兎華乃はひどい!と叫ぶが九峪はそれを黙殺する。

己の人としての沽券が関わっている重大な問題だ。

変な噂など流されようものならどうなるか考えたくもない。


「ほう・・・九峪様は真っ当な好みであると?」

「そうだよっ!」


亜衣は相変わらず薄笑いを浮かべたまま人差し指で眼鏡を押し上げる。


「では、どういった方が好みなのでしょうか?ここはきちんと証明するためにもできる限り具体的に述べられた方がよろしいですよ?」


具体例を挙げていただければより良いでしょうと続ける亜衣。

もはや絶望的に外堀が埋められているのを九峪は悟った。

もう正直に誰が好きかを言うか・・・?

ある意味最も建設的だが危険な選択肢だ。

だがその本人に迷惑がかかるかもしれないし(その誰かにしてみればむしろ嬉しいことなのかもしれないが)、まだ正直自分の心の準備ができていないから却下だ。

となれば物理的に逃げることができないこの状況下では無難な答えを返す他ないわけで、


「えっと・・・優しい人かな?」

「は〜い、忌瀬ちゃんも優しいで〜す」

「じゃあ天目は対象外ということね、ふふふ」

「うちも優しいと思うんですけどどないです?」

「う〜ん、それじゃあよく分からないですよ、九峪様」

「ええ、抽象的過ぎますね」


おいおいおいおいおい。

さりげなく自分をプッシュする発言や誰かの批判が入っていて怖い。

九峪はわずかに顔を引きつらせた。


「まあこの際性格に関しては置いておきましょう」

「賛成〜!」

「って、おい!重要だろう、性格は」


だがそんな九峪の反論を亜衣はさらっと受け流す。


「いえ、どうせ九峪様のことですから真面目だとか芯が強いだとか曖昧で有りがちなことを挙げるに決まってますよ」

「っ!?」


げ、完璧に読まれてる!?

冷や汗が頬を伝って滑り落ちる。


「では外見に関して上から順にいきましょう」

「上から〜ってことはまずは髪の毛かなぁ」

「ええ、そうですね。九峪様、髪は短い方か長い方か、どちらがお好きですか?」


じろっとやたらと真剣な目で問う亜衣。

九峪は思わず後に下がろうとするも相変わらず上乃に邪魔されて動けなかった。


「別にどっちだって・・・」

「本当にそうですか?短い方が爽やかで知的な魅力があっていいかもしれませんよ?」


はい?

なんかさり気なく誘導しようとしてませんか?

意図的に選択肢の幅を狭めようとしている亜衣が怖いな、と九峪は思った。


「ええっ!そんなことないですよね〜、九峪様」

「そうですよ、長い方が女性的で綺麗ですよね」

「いやぁ、中間がええんとちゃいます?」

「ふふふ、愛されてるわね、九峪さん」


いや、これは脅迫されてるとしか思えない。

皆口々に勝手なことを言っているが、九峪にしてみれば髪の長さや髪質は実際あまりこれといった好みはない。

忌瀬のような柔らかなボリュームのある長い髪も、星華や伊万里のようなストレートの艶のある髪も、亜衣のような短めの髪だって皆それぞれ似合っていていいと思っている。

重要なのは個々のパーツではなく全てのパーツによって構成される人そのものなのに・・・


「なぁ、そんなこ「ではさらに下へ、顔はどうでしょうか?」って無視ですか」

「う〜ん、九峪様は結構面食いやと思うんですけど」

「そうそう」

「いや、さ、皆美人だと思うけど・・・」

「いや〜ん、九峪様正直〜」

「こら、どさくさに紛れて九峪様にくっつかない!」


もはや事態は収拾がつかないものになりかけている。


「ではこれはかなり重要です。胸はどうでしょう!」

「おお〜、これは結構好みがありそう〜」


そんなことはない、と九峪はすかさず否定しようとするが彼女らは九峪にそんな隙など与えてくれなかった。


「さあ、九峪様、どうです!?」

「だ、だからさ、外見はあんまり・・・」

「そんなことはありません、きっと大きすぎず、小さすぎずがいいはずです!そうですよね!?」


おいおい、それって結局星華や香蘭に対する当て付けですか・・・

てか星華は亜衣の本来の主君じゃねぇの?

亜衣にとって恋愛には主従関係は影響しないものなようだ。

九峪は驚き、また呆れて口がふさがらない。


「さあさあ、お答えください!」


妙な迫力を纏って亜衣が迫ってくる。

九峪の両脇は忌瀬と只深によって、背後は上乃によってがっちりホールドされていた。

唯一少し離れた場所にいる兎華乃は完全に傍観者の立場を崩さず、楽しそうにこちらを見ている。

だ、誰か助けて・・・

九峪がそう神に祈りを捧げた次の瞬間・・・


ガラガラ・・・


「九峪様、そろそろ仕事なん・・・ですけれど・・・?」


戸が開かれ、黒を基調とした服に身を包んだ清瑞が現れた。

清瑞は目の前の光景に眉を顰める。


「何をなさっているんです?」


そしてその背後から志野が珠洲を伴って部屋に入ってくる。


「あ、またすけべが女を侍らせて遊んでる」


ぎろっと冷たい目で九峪を睨みつける珠洲。

だがそれすら九峪にとって救いに見えた。

ありがとう、珠洲!


「そ、そうだよな!いけないことだよな!じゃ、俺は仕事に「今ちょうど九峪様にどんな女性が好みなのか聞いているんだけど〜、三人ともどう〜?」よ、余計な・・・」


それを聞くや否や志野はハッと驚いたような表情を見せ、そして次の瞬間、


「ぜひ参加させてください」


にっこりと艶やかな美しい笑みで答えた。

普段なら見惚れるようなそれも今の九峪にとっては鬼のようにしか見えない。

慌てて九峪は珠洲に向かって叫ぶ。


「お、おい、お前の大切な志野がこんな会話に参加していいのかよ!駄目なんだろ!?」


だが現実は無情にもあっさりと九峪を裏切った。

珠洲は腕を組むとふるふると首を横に振る。


「いいの、私も参加するから」


う、裏切り者ぉおお!!

思わずこぼれそうになった涙をこらえて、九峪はもうただ呆然とする他なかった。

しかし虚ろになりかけた目に最後の希望が飛び込んでくる。


「き、清瑞、たくさん仕事があるよな!絶対あるよな!?」


あると言ってくれ、と視線にありったけの思いをのせて九峪は懇願するように言うと、清瑞は困ったように告げた。


「それは・・・確かにありますけど・・・」

「だよな!じゃあ戻らないと!」


さすが清瑞!

九峪はそう感謝の念を抱いていたが、それもつかの間で、


「その話題、私も少し気になります」


・・・・・・

・・・お前もか・・・

九峪はがくっと肩を落とした。

なんと言うのか、これが四面楚歌かぁ〜、と九峪は現実から逃避し始めていた。

だが清瑞の発言はまだ終わっていなかった。


「この際九峪様にお聞きしたいのですが・・・」

「ん、何?」

「九峪様は、その、私のことをどう思っていますか?」


おい、ちょっと待て、空気読んでますか?清瑞サン!?

ほんのり赤く頬を染めて清瑞は続ける。


「私は、その、えっと、九峪様が・・・」



・・・・・・

・・・



ば、爆弾投下する気かぁああ!!





天然なのか、それとも意図的なのか、全く空気を読まない清瑞の発言に九峪を除く一同に緊張が走った。

もうそれは緊張と言うよりも殺気立っていると言った方が正しいかもしれない。

暗黒を背負っているような皆のオーラに、九峪は鳥肌が立った。

そして一斉に視線が九峪に集中する。


「ひっ!」


必死で悲鳴をこらえる。

やべぇ・・・

九峪は必死で考える。

現状を打破する策はっ!?

・・・・・・

・・・



こ、これしかないかっ!?

もうこうなればやけくそだ。

どうにでもなれ!


「お、俺が好きなのはっ!!」

「「「「「「「「好きなのはっ?」」」」」」」」






























その日、耶牟原城では火魅子をも巻き込んだ大騒ぎにより全ての業務が停止した。

この騒ぎで生じた物理的な被害は騒ぎの中心となった部屋と九峪自身だけという極めて小さいものであったのは不幸中の幸いというものであろう。

そして騒ぎの原因とも言うべき九峪であったが、後日改めて想い人に想いを告げ、二人は結ばれることになる。

しかしながらこの時代における権力者は一夫多妻が常である。

したがって九峪は今後も我が強く独占欲の強い女性達が巻き起こすトラブルに巻き込まれ続けることとなる。





【この騒ぎの顛末を聞いた男性陣の声】


「さすが九峪、かなぁ?」by キョウ

「むぅ、世の中ほどほどが良いということでしょうなぁ」by 伊雅

「羨ましいようなかわいそうなような・・・」by 仁清

「ふ、藤那までぇえ!?九峪様、恨みます!」by 閑谷

「ああ、なんつうか・・・女って怖いな」by 重然

「只深の親父さんになんて言えばいいのやら・・・」by 伊部

「八方美人ではっきりしない奴が悪い」by 帖佐

「けっ!」by その他大勢