ひみこでん? 第一話(H:小説 M:九峪、キョウ J:コメディ)
日時: 04/23 00:51
著者: nag

 晴天。見渡す限りの青空だ。
 これだけを描写すると気分的にもハッピーなのだが今の俺の内情は180度異なっていた。
 まず晴天という時点でおかしいのだ。俺がいた場所は小屋の中でしかも夜だ。
 そんな俺の疑問を、

「つまり、何だ。ココは九洲とかいう異世界でお前が連れてきたと?」

「うん、そう」

 目の前に浮いている未確認浮遊物体は簡潔に答えた。
 成る程、言われてみれば納得の説明だ。先ほどまで居た場所に比べ木々は生い茂り心なしか空気も澄んでいる。俺とて今を生きる10代こういう事態は聞きなれている。……が。

「ふざけんな! こういうのはアニメと漫画で十分なんだよ! さっさと元の世界に還せや」

 俺は青いのを締め上げた。

「う、……はな……」

 クソ、まずい。これで還れたとしても向こうの世界で何日もたっていたらどうする?

「……く、ハードディスクの中身は見ないで消去してくれ。出来れば物理的に」

 俺は苦りきった顔で言った。

「ほんと、死ぬ……」

「……ち」

 無意識のままなら良かったのだがさすがに気づいた後で絞め殺すのは気が引けた。俺は手の力を緩め青いのを開放する。
 げほげほ、と呼吸を整えた奇妙な飛行生物は、

「えーと、その。僕の話聞いてくれるかな?」

「ああ、言ってみろ」

「さっきも言ったけどここは3世紀の九洲で。あ、誤字じゃないからねキミの知ってる九州とは別物なんだ」

 そんな字面でしか判別できないところで説明するな。媒体が変わったらどうするつもりだ?

「媒体って……とにかくここは、そうだね平行世界とでもいったところかな」

 なるほど確かに今こうして目の前に普通じゃない物体が浮いているのだから並行世界くらいあるのかもしれない。

「それで、キミを……というか本当は違うんだけど。とにかく呼んだのは耶麻台国を復興させるためなんだ」

「邪馬台国? 卑弥呼のあれか?」

「邪馬台国じゃなくて耶麻台国。それと火魅子だよ」

 また、字面でしかわからないネタを。

「ネタじゃないって」

 まーいい。それよりも問題なのは。

「なんで俺がそんなことを」

「だってそうしないとキミが……九峪?」

「ぐ……」

 あれ? どうした?

「く、九峪? どうしたの?」

「気持ちわるい……」

「え?」

「や、マジでヤバイ。死ぬ」

「ええ!?」

 突然の体の不調に体を支えることすら出来ずその場に崩れ落ちる俺。青いのは周りをおろおろと飛び回るだけで何の役にも立たない。

「誰か、人、呼んで……」

 それでも喋れるのだから猫以上の役にはたつだろうと助けを求めたりした訳だが。

「そんな……ボクがのこのこ出て行ったら下手すりゃ捕まって終わりだよ」

「いい……」

「良くないんだって! ああ、もう……火魅子はおいてきちゃうし変わりに変なの連れてきちゃうし、変なの死にそうだし」

 薄れる意識の中でもその声は聞こえた。そしてそれが俺になけなしの力を出させる。

「……コレ割ったら治りそうな気がしてきた」

 もちろん嘘だ。体調は冗談ではなく悪い。しかし、最後の力を振り絞ってでもやらなくてはいけないことはある。

「いやいやいや、絶対違うから! ソレ最後の力でやることじゃないから!」

 慌てて振り上げた右腕にしがみつく青いの。クソ力が入らねぇ、しかも妙に生暖かいのが不快だ。
 そうして無駄なエネルギーを消費した俺は力なく大地に横たわり意識すら遠のいていった。

「ちょ……え? 本気?」

 青いのがちょろちょろ飛んでいるが蚊を殺す力もでない俺にはもはやどうでもいいことだった。
 結論から言おう、その後一月ほど俺は身動きできない状態に追い込まれた。どうやらこの世界に医者と呼べる人種がいない、もしくはいても一般的ではない、様なのでマジで死ぬかと思ったぜ、やはり環境の全く違う土地に来て一番怖いのは病気だ、海外旅行でワクチンをうつ理由を身をもって知ることになった。
 俺が寝込んでいる間未確認浮遊物体、正式名称キョウがなにやら頭を抱えて一人悶えていたが……恐らく気にする程のことでもないだろう。


 そして、何もしないまま……俺的には生死の境をさまよったのだから大いにこの表現には異論があるのだが、一月という時間が流れた。


 体調がようやく回復し、長い間お世話になった農家の田吾作さん一家と別れを告げる日がやってきた。二周りは年の違う俺たちだが生死を潜り抜けた(主に俺が)二人にそんなものは何の隔たりにもならない。今日も朝から忙しいはずなのに田吾作さんは泣きながら俺の見送りに来てくれた。
 懐は絶対零度だったが心はとても暖かだった。
 感謝の気持ちを込めて鏡をあげようかと思ったのだが青いのが悲壮な顔で止めてきたので仕方なく鈴で代用することにした。他に持ち物が無かったのだから仕方が無い。

「冗談じゃないよ、どこの世界に神器をほいほい上げる人がいるんだい」

「ほいほいって、俺の命の恩人だぞ。命の次に高価な物を渡す義務があるだろ。これ高値で売れそうだし」

「命の恩人ってただの農民だよ?」

 俺は言ってはいけない事をすらすら喋りやがった青いのの胸倉を乱暴に掴む。

「おまえ、田吾作さんを馬鹿にするのか?」

「ゴメン……そう言うわけじゃ…………許して……ていうか、放して」

 ここで意識を無くされると俺が面倒なので適当なところで力を抜く。

「げほげほ……言ってることは納得できるんだけどさ。お願いだからその鏡大事にしてよ。後できれば僕も」

 わずか一月でこいつの威厳はライブ○ア株以上の落ち込みを見せたな。いや、もともとない分違うか。

「誰のせいだい」

 自分に自信がないやつはすぐに人のせいにする。こいつの場合見た目からして元々そんなものは存在しないのだから仕方がないといえば仕方がないか。

「っと、ンなことはこの際どうでもいい。えーと、何だったか」

 何か重大なことを忘れている気がする。そいえば農業一筋30年の田吾作さんの娘さん(17)は美人だったなぁ俺の体調が良かったらぜひお近づきになりたかった。しかし恩人である田吾作さんの愛娘だ、付き合うとなれば遊びでは済まされない。異世界に飛ばされてニートな今の俺には……。あれ?

「ああ!? そうだおい! どうやったら還れるんだ、俺は?」

 再び青いのの胸倉を掴む。

「タンマ、待って。言うから離して」

 離す。さっさと説明しろ。

「そもそもキミを呼んだのは耶麻台国を復興させてもらうため、って言うのは一月前に話したよね……覚えてる?」

 ……そういえばそんなことを言っててたよな無かったような。

「や、言ったんだよ。本当ならキミじゃなくて火魅子を……」

「何か言ったか?」

「え!? 何でもない何でもない。それでその当初の予定だと……とりあえず伊雅が蒼竜玉を持ってたから彼に会って善後策を立ててそれでキミには神の御遣いになってもらおうと思ったんだけど」

「? いまいちよく分からないけど、それじゃダメなのか?」

「伊雅たちは星華を火魅子に立てて当麻の街を占拠しちゃったんだ。いくらボクがいるからって今更のこのこ出て行って神の御使いだ〜なんて言える?」

 なるほどよくいる途中からやってきて偉そうにしてる奴だな。大体そういうのには死亡フラグが立つ。

「……何か、かわいそうな奴だな」

「どうやったらそういう考えに行き着くのかはさっぱりわからないけど、とにかく神の御遣いという線はなくなったんだよ」

「駄目か?」

「だね、一応鏡の精のボクが言うことだから考慮してくれるかもしれないけど……無駄に波を立てるだけだと思うし」

「ならやめた方がいいな」

「そうだね」

 始めてかもしれない二人の意見が一致した。出来るのならばこのまま良かったで済ませたいのだが俺にも譲れない一線があったりする。

「……で?」

「え?」

「え? じゃねぇ。俺はいつもとの世界に還れるんだ? というか早く還せ」

「そ、ソレなんだけど」

「還れないとか言う話なら聞きたくねぇんだけど?」

 青いのの口調に不穏な空気を感じ取り俺は手ごろな石を探すことにした。

「いや、まぁ還れることは還れるよ……多分」

「多分?」

 あの石なんか良さげだ。ちょうどいい大きさで俺の手にフィットしそうだ。

「いやいやいや、絶対確実100%」

「だったらさっさと元に戻せって」

「……え〜と、ボクには無理」

 おお、図ったように俺の手にすっぽりと合う。

「さて、どのくらい体力が落ちてるか鏡割って試してみるか」

「いやーーーー、待って待って待って! 大丈夫還れる、時の御柱を発動させれば還れるから!」

「時の御柱?」

 なにやら重要っぽい単語の登場に俺の手は鏡から数センチのところで止まった。

「はあはあはあ……」

 青い物体の息が荒い。

「い……」

「い?」

 何だ? ダイイングメッセージか? 何も言わなくていいから最後の力で俺を元の世界に戻してくれ。

「胃が……」

「胃なんて無いだろ」

「あるんだよ! 勝手に人の構造決めないでよ!」

 ああ、悪い。しかしそんな物はどうでも良いんだよ。ソレよりも。

「時の御柱ってなんだ?」

 俺は青いのの体などより今最も気になる単語について問うた。




 キョウ説明中。




 話を聞きながら俺は持ち前の知性と記憶力で内容を吟味する。

「……タイムマシーンみたいなものか?」

「平行世界をつなぐんだから少し違うけど、そう捉えてもらってもいいよ」

 なるほど意外にもちゃんとした方法を知っているんだな。俺は心の中で青いのの評価を30センチ程上げた。ちなみに最上評価は42.195キロ先にある。がんばってくれ。

「一歩も進んでないじゃないか!」

「気にするな。それより気にするべきはその時の御柱だ。そんな便利なのがあるならさっさと使って俺を戻せ」

「それは、無理だよ」

 ……。あれ? 何か良く聞こえなかった。

「すまん、もう一度言ってくれないか?」

「だから無理だって。耶麻台国が復興しないと時の御柱は動かないんだ、だから今九峪を元の世界に帰す方法は無いの、わかった?」

 恐らくは幻聴なのだろう。青いのが馬鹿だなーと言っているのが聞こえた。とりあえず殴る。

「な、何で殴るのさ!?」

「馬鹿にされた気がした」

「そんな!」

 連れてきたはいいが還せませんだと? そんな馬鹿げた……いや、王道的といえば王道的か。異世界迷い込みですんなり還れるなら話が続かないしな。

「あ、分かってくれた?」

 俺が頷いているのを良い方向に解釈したのだろう青いのがふわふわよってきた。

「まあ、大方。まず今俺が元の世界に還る方法は無い。そして還るためには時の御柱ってのを動かさなくてはいけない、その時の御柱ってのが耶麻台国を復興させないと使えない」

「そうそう、何だ分かってるんじゃないか」

 あー、よかった。と無い胸をなでおろす青いの。一応注釈しておくがコイツの場合は比ゆ表現じゃなくて本当に無い。少なくとも俺にはどこか分からん。

「じゃあ、そろそろ行こうか。それじゃなくても一月も出遅れてるんだからね」

「行くってどこに?」

「……キミ話し聞いてた? それとも頭が悪いのかな?」

「さて、神器ってどのくらい丈夫なのか試してみようか」

「ごめん許してお願いだから止めて」

 まったく。

「もっと分かりやすく説明しろ」

「うん、えーとさっき行ったけど当麻の街へ行って彼らと合流するんだよ」

 ああ、そうだ衣食住の確保をしなければいけない。

「そう言うことならさっさと行こう。俺も病み上がりだからな、休める場所は欲しい」

「そうそう、だから早く行こう。あ、僕は目立つから鏡の中にいるね。一応姿を消すくらいなら出来るけど疲れるし、左道とかで見つかる恐れもあるしね」

 ……理由の前半についてはこの際いいとして。

「左道?」

 聞きなれない言葉に怪訝な表情で問う。

「あー、まあ魔法とでも理解してくれればいいよ。詳しい原理なんて九峪に分かるわけ……ごほごほ……原理なんて知らなくても困らないし」

「……そうか」

 魔法、ね。本当にファンタジーだなここは。しかし反して景色は和風なんだよなー。

「じゃ、じゃあ。そゆことで……道に関してはここ道なりに行けば着くから」

 そう言うとキョウはふっと鏡に入っていった。こいつの使えなさ具合はこの一月で理解していたのであえて引き止めるようなことはしない。

「しっかし」

 前を見る。

「どのくらいで着くんだろ、その街」

 元いた世界と違い遮るものの無いここでは道はかなり先まで見通すことが出来る。が、街と呼べる代物はその影すら見えない。
 しかしまぁ、何にせよ街だ。逃げることは無い、歩いてけばそのうち見えてくるだろう。


 2時間後、俺は自分の考えの甘さを知ることになる。




 あとがき
 ここまで読んでくれた皆さんありがとうございます&始めましてnagです。
 読んで分かるとおり続き物なので次回もなるべく早く出したいと思います。
 それでは、次回にまた。