火魅子伝(二次)第十六話(H:小説+オリ M:九峪 他 J:シリアス)
日時: 01/07 00:17
著者: おすん


「隊長!反乱軍の連中を見て下さい!」

 副官が嘲るように逃げまどう復興軍の兵士を指さす。

 魔人という猟犬に追い立てられ、ただただ狩られるだけの獲物。

 どこか哀れを感じる。

(あの連中は無視して構わないだろう)

 どう見ても烏合の衆と化している。

 魔人を前にしてはしょうがないことだろうが。

「二十名ほどでかまわん。魔人と共にあの連中を追い立てろ!いいか、追い立てるだけで良いからな!!」

「はっ!!」

「残った本隊でのこる敵部隊を総攻撃し、一気に蹴散らすぞ!!」

 そう言って、隊長は伊雅隊と星華隊に向けて進軍命令をくだした。



















「上乃様!魔人がこちらに・・・・!!!」

 兵の叫びに、上乃は覚悟を決めた。

「ヤツを倒す!!」

 一瞬、時間が止まったような気がした。

 動き出した時間で上乃の周りに居た兵達は、冗談だろっ!?という感じで叫ぶ。

「そんな無茶な!!」

「殺されてしまいます!!」

「見て下さい!あの化け物を・・・!!」

 上乃がたまらず叫び返す。

「じゃあ、このままここで死ねっていうの!?あたしはそんなの我慢できないっ!!最後まであきらめずに戦うのよっ!」

 上乃が必死になって兵を説得する。

 最前線で戦っている上乃の傷だらけの体と、こんな状況になっても、なおまっすぐな瞳に、兵は動揺した。

 死にたくない!・・・・・・でも、この人について行きたい。

 兵は葛藤した。

 が、次の瞬間には頭を悩ませる必要がなくなった。

 なぜなら魔人の尾の一振りに、ボロ雑巾のように骨が砕け、体がどこかに吹っ飛んでしまったからだ。

 魔人の目に上乃の姿が映った。

「げへへへへ・・・。女だ。こんな所に女がいる」

 あまりに突然の出現に、上乃は何が起こったのかしばらく解らなかった。

 ただ唯一わかったのは、自分のまわりにいた味方の兵が目の前からいなくなったという事だけだった。

「ま、魔人・・・」

 呆然としたようにつぶやく。

 どうやら、やっと頭が現状を認識したようだ。

 まわりに居た狗根国兵もいなくなっていた。

 たとえ味方の狗根国兵ですら、魔人に近寄ることはしないようだった。

 魔人は興味深そうに笑う。

「お、おまえ。けっこう、上質の生気をもっでいるな」

 魔人が舌なめずりをする。

 自分は生気を吸い取り、魂を喰らう魔人の血を引いている。

 遠縁であり、低級の魔人である自分は食べることはできないが、匂いはわかる。

 と言っても、その匂いも接近しないとよく分からないが・・・。

 生気が上質のものは大抵、骨のあるやつだ。ただ食うだけにそろそろ飽きてきた。

 ちょうどいい、楽しいことをしたくなってきたところだ。

「ちょ、ちょっとあいでをしてくれよ。ほら、最初は何にもしないから。一撃で殺せば助かるかもなあ」

 そう言って魔人は邪悪そうに笑った。

 その表情を見て、魔人の考えを上乃は理解した。

 楽しんでいる。

 ただ、遊んでいる。敵わないことを知っていてこんな事を言っているのだ。

 上乃は持っていた剣をギュッと握りしめた。

 悔しかった。そして憎かった、自分の弱さが。

 (でも!!)と上乃は魔人を睨みつける。

 こうなったら、やれるだけやってやる!!

「はあっ!!」

 裂帛の気合いと共に上乃が魔人に斬りかかる。

 速い剣筋だった。風がうなりをあげている。

 魔人は迫り来る上乃を見て面白そうに、そして感心したように「おほ」とつぶやいた。

(決まった!)

 敵は本当に棒立ちだった。避ける気配もない。

 上乃は力の限り、剣を振り下ろした。

 ボグッ!!

 という、鈍器で叩いたようなニブイ音がした。

 上乃の顔が驚愕に見開かれる。代わりに魔人はニヤッと余裕の笑みを浮かべた。

 上乃の刃は魔人の腹目がけて正確に斬りつけられた。

 しかし、剣の刃は魔人の皮膚を切り裂くどころか、傷ひとつつけられなかった。

「どおうしたぁ?ふるえでるぞ〜?」

 魔人がわざとらしい声できいてくる。

 きかれた上乃は答えを返すことなく、剣を握りしめた手をただ震わせていた。
 
 上乃は魔人と戦ったことは初めてだった。だから魔人の真の恐ろしさを、正しく理解していなかった。

 渾身の力で振り下ろした剣で、傷もつけられないような化け物だということを。

「わあああ!!!」

 叫んだ上乃はめちゃくちゃに剣を魔人に叩きつけた。

 ボグ、ボグ、ボグ、ボグ、ボグ、ボグ!!

 たとえ何回も斬りつけたところで、肉の斬れる音は出なかった。

(こんな・・・こんなことって・・・)

 ウソだ!と叫びたかった。いくらなんでもこんなに遠いわけがないと思った。

「うるざい」

 魔人が上乃をはらった。

 魔人にとっては撫でたような打撃でも、上乃は派手にすっころび、視界がぐらついた。

「一回だけ、だっでいっただろう?」

 魔人が苛ただし気に言う。

 上乃の顔を上から覗き込む。

 絶望の表情だった。

 それを見た魔人は満足そうに、にんまりと微笑んだ。

 腕を天高く掲げる。

 上乃はそれをぼ〜と眺めていた。魔人の一撃のせいか、頭が朦朧としていて、よく働かない。

 次の瞬間には、あの爪が自分に突き立っているだろうということくらいしか解らない。

 魔人が聞いたら「それ以外に運命はなく、それだけ解っていれば充分だろう」とでも言ったかもしれない。

(もうダメ・・・)

 上乃がギュッと目をつぶると、思わず神に祈った。

 ズシュゥ!!!

 肉が貫かれる音がする。

 上乃は、ただそれを静かに聞いていた。

 続いて起きる、大気を震わせる悲鳴。

 上乃はそれを、人ごとのように聞いていた。

























 いや、実際のところ人ごとだったのだ。

 上乃はゆっくりと、閉じていた目を開けた。痛みはなかった。

 開けた目でまず見たのは、目に剣が刺さった魔人が絶叫をあげている様だった。

 ギャアアアアアァァーーーーーーー!!!

 大地を揺るがすような悲鳴をあげながら、魔人はところ構わず暴れ回った。

 足が地面を踏みつけるだけで、草と土がまきあがる。

 上乃は肩をゆさぶられた。

「おい、上乃!!無事か!?」

 上乃の目が信じられないと見開かれる。

 どうして!?

 なぜ、この人がこんな所にいるの!?

「九峪さま・・・」

 能面のような無表情で上乃を覗き込んでいるのは、紛れもなく九峪雅比古その人だった。










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 ↑初めてやったんで失敗しているやも・・・・。