火魅子伝(二次)第十七話(H:小説+オリ M:九峪 他 J:シリアス)
日時: 01/07 00:18
著者: おすん

 

 片手に竹槍を持ち、腰には剣の代わりに布袋を下げ、生き血をぶっかけたような紅の大マントを身に纏っている男。

「大丈夫そうだな。怪我はあるけど、どれも致命傷じゃない」

 九峪がホッとしたように、ため息をはいた。

「ぎざまあーーーー!!!」

 怒った魔人が腕を振り下ろす。

 九峪は咄嗟に上乃に覆い被さると、力強く抱きしめた。

 そのままゴロゴロと転げ回り、魔人の一撃を回避する。

 瞬時に立ち上がると、魔人に竹槍を突き立てる。

 魔人は、そんな蚊に刺された程にも感じない九峪の攻撃を無視して、こんどは横凪に爪をふるう。

 九峪はそれをしゃがんで回避する。髪の毛が数本当たったのか、ジッと擦れた短い音が鳴った。

 すぐさま、竹槍で魔人を突く。同時に叫ぶ。

「下がっていろ上乃!!お前等、あとは任せた」

 上乃は返事もできなかった。

ただ、どうして九峪がこんな所にいるのかを考えていた。

 その上乃を囮部隊特殊兵十人が取り囲み、肩を貸して助けおこすと連れて行った。

 引きずられながら上乃は兵に叫ぶ。

「どうして!九峪さまがここに!?」

「増援です!!ともかく今は後方に!!」

「後方って・・・九峪さまを助けに」

 上乃は戻ろうと暴れはじめるが、特殊兵はそれを押さえこんだ。

「ちょっと、離しなさいよ!!」

「いけません、命令です!」

 上乃はそれから何度も抵抗したが、特殊兵はガンとして譲らなかった。

 元々、手傷を負っていたうえに魔人からもらった攻撃に頭がくらくらしているのだ。普段なら振り払うことができただろうが、今の上乃に力は残されていなかった。

 すぐに味方の兵のところに着く。
































 九峪は先遣隊の様子を見て、自分の読みが外れたことがわかった。

 本能的に敵本隊と挟撃部隊が心配になったのだ。

 敵はやはり勘づいていたのだと思った。

 しかも、挟撃部隊の方向から恐怖にふるえる絶叫が聞こえてきた。

 九峪はここで腹を決める。

 亜衣に「あとは任せる!」と叫ぶと、囮部隊でただ一つ融通のきく特殊兵に後に続くように呼びかけながら走った。

 亜衣は必死に何か叫んでいたが、おそらく制止の言葉だろう。無視することにする。

 部隊を放っていくわけにはいかない亜衣は、九峪のあまりに唐突な行動にあっけにとられていた。その間に九峪はどんどん小さくなっていく。

 伊万里も清水も敵兵と切り結んでいたから気づきもしなかった。

 弓隊も仁清も矢玉が尽きたので武器を持って戦っていた。

 九峪を先頭に手勢三十人が後ろにつづき、ひたすら走る。

 すぐに退却というよりも、敗走している味方の兵に出くわした。九峪は思ったよりも戦況が悪いことに愕然となったが、能面の表情で全てを隠し、表にはださなかった。

 九峪が合図を送ると、特殊兵はうなずく。

 一斉に大声で叫んだ。

『どけえええーーーー!!!!』

 というか三十人程度が叫ぶだけでは止まらないし、道もあけないだろうと思った九峪は迷うことなく味方の兵を殴りつけた。

 鼻の下・・・人中の急所をえぐってやったので、一発で昏倒した。

 九峪のこの行動を見て、特殊兵の面々も味方を竹槍でブッ叩いたり、殴りつけたりしだす。

 どうもこの連中は、すっかり『農民兵』とは言えないような奴らになっているようだった。

 神の遣いであり、総司令官である九峪の姿と、適切な暴力によって兵士達に少しだけ平静さがもどった。

 九峪は兵達を叱りとばした。

「なにをやっている!?」

 逃げ出していた兵達は口々に「化け物が!」「もう負けだ!!」「殺される!!」と叫びだした。

 支離滅裂ながらも、九峪達は事情が大体のみこめた。

 九峪は冷ややかな目で彼らを睨みつけると、「だからどうした?」と言った。兵達にざわめきが起きる。

「だからどうしたっていうんだ!!」

 九峪の一喝に、兵達がビクリと震えた。

 がなり立てていた兵達が静かになる。

「だから仲間をほったらかして自分だけが助かりたかったわけだ。よく、分かった」

 九峪は山の方向を指さした。

「もうお前等は必要ない。どこへなりと行けばいい」

 兵達の表情が驚きで固まった。

 兵達は、九峪に軽蔑の目で見られたことが、すでにショックだった。

 今まで砦をおとす時の戦や、平時の時も、九峪は自分達と楽しげに話をし、笑い合った仲だ。

 自分達の家族とも親しげに話してくれた、あの九峪が。

 今じゃ敵を見るような目で、自分達を睨みつけていた。

 あの九峪に、「消え失せろ」と言われた。

 九峪は水を打ったように静まりかえった兵達を、まるでそこに誰も居ないかのように無視し、ズンズンと前に進んでいった。

 自然と兵の海が割れていく。兵達が道を譲っていった。

 特殊兵が何食わぬ顔で九峪を呼び止める。

「九峪様。武器もなしでは心許ないでしょう。どうぞこの剣を」

 そう言って、特殊兵が剣を恭しく差し出した。

「お前が丸腰になるだろう」

 九峪の言葉に特殊兵はニヤリと笑った。

「いえ、先の戦で狗根国から二本ほどちょうだいしておりますから、お気遣い無く」

 そう言って特殊兵が九峪の腰に剣をとりつける。敵兵から拾った物なので鞘がないが、九峪は別に気にした様子はなかった。

 特殊兵の一人が剣を差し出すと我も我もと特殊兵達は、武器と言えば腰の後ろに差してあるナイフもどきしか持っていない九峪を武装化させる。

「この竹槍を。ないよりはマシでしょう」

「炸裂岩です。まだ一発も使っておりません。この紐を引けば一瞬にして袋の口が開きます」

 そうやって特殊兵が九峪に仕えて武装化させているのを、他の兵達はただ遠巻きにして見ていた。

 九峪は「まだ戦いは終わってない!オレにつづけ!!」と言うと走り出した。

 特殊兵の面々が迷うことなくそれに続く。

 今、挟撃部隊に必要なのは、たとえ数が少なくても援軍の存在だ。そして、神の遣いであり最高司令官である自分も必要だった。





















 呆然とそれを見送った衣緒隊と上乃隊の兵達の中から、叫び声を上げる者がいた。

「オレは・・・。オレは、何やってるんだ!!」

 兵達は唇が破けて血が流れるほどに、歯を噛みしめた。

 恥ずかしかった。

 兵達の心は、自らを恥じる気持ちでいっぱいになっていた。

 ただ、不様に逃げまどっていた自分。

 役目を投げ出した自分。

 仲間を見捨てた自分。

 そんな自分を殺したいと思うほどに、自らを恥じた。

 仲間が待っている。きっと苦しんでいる。

 それを見捨てた自分達は、仲間を踏みつけていった自分達は・・・・。

「まだ間に合う!!」

「オレは行く!!」

「オレもだ!!」

 衣緒隊と上乃隊の兵達の顔は、もう敗走に逃げまどっていた者のそれではなかった。

 一人、二人と前へ足を踏み出すとドッと一気に、皆で前方を進軍する九峪を求めて走り出す。

 かろうじて武器を持っていた者を先頭に、九峪達を追いかけた。

 追いつきはじめた兵達は、九峪の顔を恐る恐る、そっとうかがった。

 九峪はくるっと顔を向ける。兵達はビクッと下を向きそうになる。

 が、兵の不安を吹き飛ばすように、九峪はフッと優しく微笑んだ。

 兵達の顔がパアッと明るくなる。

「隊列を整えろ!!どこそこの部隊に所属なんて関係ない!!適当にやれ!!」

『はいっ!!!』

 九峪の表情と声に、兵達の頬に涙がつたった。何故か流れてしまう涙をそのままに、威勢よく返事をした。

「このまま前進!!伊雅達を助ける!!魔人もついでにぶっ倒すぞ!!」

『おおっーー!!!』

 逃げた敵を追い立てるタメに二十人ばかり狗根国兵が来ていたが、無表情で先頭を走る男とそれに続く鬼のような形相をうかべた特殊兵と少し遅れてやってくる衣緒隊と上乃隊の百以上の兵士それらが「ぶっ殺せっーー!!!」と叫びながら地響きをたててやってくる様に、思わず恐怖を感じた。

 ビクッとなって体が止まる。

 止まった狗根国兵を蹴散らしながら九峪は指示をとばす。

 追撃に来ていた狗根国兵二十人を衣緒隊と上乃隊の兵で袋叩きにする。武器もないので剣で刺されながらも飛びかかるという、めちゃくちゃな戦いぶりだった。

 どうもこいつらは完全に頭のネジが吹き飛んでしまったらしい。

 彼らの頭の中にあるのは一つ。

 どんなことをしてでも、恥をそそぎたかった。

 そのためなら死んでも良い!!

 汚名返上のために命を惜しむことなく、自殺行為かとも思える攻撃を平然とやる復興軍の兵士達に、狗根国兵は大いに戸惑った。

 武器も持ってない連中が、剣を構えてくる自分達に迷わず突っ込むその神経が理解できなかった。

 こいつらは死ぬのが恐くないのか?馬鹿なのか?というのが偽りざる感想だった。

 数だけなら復興軍が有利だったのは、もう言うまでもない。

 ある兵が剣に刺されている間に、足に飛びつき背中に飛び乗り、数人がかりで押さえ込むと全員で殴り殺した。

 まるで獣のように噛みついてきたり、鎧をはぎとり、うばった兜で敵の顔面を奇声をあげながら狂乱状態で叩き続ける復興軍の兵に、狗根国兵はパニックに陥った。

 九峪は特殊兵十名を、即席の小隊長に任命すると衣緒隊と上乃隊の指揮を任せた。

 元からいた小隊長達も復帰しだす。

 瞬く間に狗根国兵を全滅させると武器を奪い取り、再び雄叫びを上げながら進撃する。

 走りっぱなしなのに兵達は疲れを感じていないようだった。

 脳内がアドレナリンで溢れてしまっているのか、ランナーズハイになっているのか、変なクスリでもきめてしまったのか。

 そのどれでもないだろう。

 ただ胸を焦がす熱い思いに駆り立てられて進んで行ったのだ。

 狗根国は戦術を間違えたわけじゃない。

 狗根国の隊長は逃げ出した兵はもはや戦力外だと判断した。

 それを追い立てる兵を送り出すと、全力で伊雅隊と星華隊にぶつかって行っていた。まずはこいつ等を全滅させ、後に残敵を掃討すればいいと考えたのだ。

 間違った判断ではなかったが、まさか逃亡した兵が戻ってくるとは予想していなかっただろう。

 兵士たちは今にも崩れそうな伊雅と星華の戦線を見て、走る速度が自然と上がった。

 兵士たちは止まることなく、そのままの勢いで獣のように吼えながら狗根国の後ろに食らいついた。

 盲点を突かれた狗根国兵は動揺した。

 先ほどの戦いの様に正気の沙汰とは思えないような命を惜しまない彼らの戦いぶりと、狂気じみた奇声をあげて繰り出される猛攻に、狗根国兵は二の足を踏んだ。

 襲われた四番隊の隊長は、三番隊の隊長が囮部隊と戦った時と、奇しくも同じことを叫んだ。

「なにを考えてるんだ、復興軍の連中はっ!!!!」

 しかし、叫んでも、答える者はただの一人とていなかった。


















 九峪の目に、孤立している上乃と衣緒達が映った。

 九峪の手が震えた。

 即席の隊長に命じた特殊兵十人を残し、のこり二十人を引き連れて救出しに行くことにする。その二十人が二手にわかれる。

 すぐに亜衣達が来るから、来たら今度は彼女達の指揮下につくように伝える。

 しかしながら・・・、もう、この戦いの様は指揮がどうのこうのと言えないような惨状になっている。指揮をとるなど無駄なことだと思えた。

 事実、先遣隊を破竹の勢いで倒し、九峪を追うために走りに走った亜衣達は、この無茶苦茶な戦場を見て、言葉を失った。

 トドメと言わんばかりに、特殊兵が恭しく「では、亜衣様。指揮をお願いします」と言うと亜衣は悲鳴に近い声をあげたのは、もう少し経ってからのことである。









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