火魅子伝(二次)第二十二話−B(H:小説+オリ M:九峪 他 J:シリアス)
日時: 01/06 17:45
著者: おすん

 羽江率いる(形だけだが)本陣の兵は、戦場に到着すると、負傷兵の手当を始めていた。

 九峪の言葉通り、敵味方区別なくおこなわれた。

 負傷者の手当が終わると次に遺体を集め始める。埋葬してやらなければならない。

 死者の数は膨大だった。

 敵味方合わせて七百人近くも死んだのだ。

 全体の三分の一が死ぬなど、どう考えても死にすぎだった。

 九峪達は手の空いた、というよりも空かされた兵達を引き連れて当麻の街を目指した。

 すでに狼煙で勝利を知っていた当麻の街の人々は歓声をあげて復興軍を迎え入れた。







 当麻の街の至るところで篝火が焚かれていた。

 まぶしい。

 天を焦がさんとばかりに燃え上がる。

 燃え上がっているのは明かりだけではなかった。

 人々もまた燃えていた。城内のあちこちに耶麻台国の幟がはためき、人々の熱気をあおるかのようだった。

 星華や亜衣、衣緒、羽江などの宗像三姉妹が巫女装束に身を包み、歌い踊った。

 城内の興奮はますますヒートアップした。

 飛び入りで踊る者まででてくる。

 この時間帯なら、街に暮らす農民達はそろそろ寝る支度をする頃だが、今夜に限って寝ようとする者は皆無だった。

 戦勝の宴は夜を徹してつづくに違いなかった。

 兵士達も見張り以外は酒をかっくらって、大いに騒いだ。

 無事に生き残ったことをお互いの肩を抱き合って祝福し合う。













 そんな楽しく沸騰するような騒ぎに参加できない者がいる。

 乱破の女である。

 清瑞が高楼にのぼる急な階段の前で、機嫌悪そうに立っている。

(ったく、何が「誰も入れるな」だ)

 清瑞は内心毒づく。

 復興軍最高司令官にして神の遣い様は一人になりたいらしく、雑務がまだ少し残っているのに高楼に引っ込んでしまったのだ。

 兵の火葬も終わり、戦勝祝いの祭りも終わり、これからの方針を決める会議が明日始まるというのに・・・・。

 そう思いつつも、清瑞は黙って九峪の言う通りにした。

(上でなにをしているんだか・・・)

 考えごとなら部屋でも充分にできる。何もこんな所に来なくても、と思う。

 ふ〜、と清瑞はため息をついた。



















 参加していない者は他にもいた。

 もう一つの高楼の欄干に腕をついて、下で行われているにぎやかな祭りであり政りである騒ぎを、どこか眩しそうに見ていた。

「ね〜・・・・伊万里?」

 上乃が腫れぼったまぶたで隣りの伊万里を見る。

 上乃の顔をちらっと見て伊万里は重傷だな、と思った。

「何だよ」

「九峪さまに怒られちゃった」

「落ちこんでるのか?」

 上乃は「うん・・・・」と消え入りそうな声でこたえた。

「そりゃ、落ち込むよ。だってさ、あたしのせいで死んだって、はっきり言われてさ」

 上乃は農民兵の顔を思い出していた。


 あたしは馬鹿だ。

 ただの山人の娘のくせに。

 部隊を任されて、どこか慢心があったのかもしれない。


 上乃は唇をぎりっと噛みしめる。


 罰して欲しかった。

 誰かになじられて、怒鳴られて、殴りつけてもらいたかった。

 それなのに、お咎めなし。

 誰も自分を責めない。

「九峪さまの言うとおりだね」

「なにが?」

「九峪さまが『罰がない方が痛いときもあるだろう』って」

「・・・・痛いか?」

 上乃は欄干にのせて組んでいた腕のなかに、顔をうずめた。


 痛い。

 痛いよ。

 どうしようもないほどに・・・・・。

 自己嫌悪という名の重りがずっしりと胸にぶらさがっていた。

 わめき散らしたくなる。

 堪えるように、上乃は組んでいた互いの腕をギュウっとにぎりしめる。

 そんな上乃の様子を見て、伊万里は上乃に言おうかどうか迷っていたことを言う。

「実はな、一部の人達がお前や衣緒さんのことを非難していたんだぞ」

 えっ、と上乃は腕から顔をだす。

 全然、知らなかった。

「でも、九峪さまがその人達をお叱りになったんだ。そんなことは二度と言うなって、お前達なら失敗もせずにこなせたのかって、そんなこと誰にもわからないだろうって、終わったことをごちゃごちゃ言うな――てさ」

「九峪さまが・・・・」

 伊万里はこくりとうなずくと、さらに続けた。

「九峪さまは勝手に突撃させたのは悪くないって言ってた。『オレが思うに、兵士の戦闘意欲が爆発したときは、多少作戦通りじゃなかったとしても、爆発した勢いにのったほうがいい』って」

 上乃はぷ〜〜と頬をふくらませた。

「な、なによ。そのクセあたしや衣緒さんに『そんなこと』言ったのは九峪さまじゃない」

 上乃はだんだん腹が立ってきた。

「九峪さまだって、自分の部隊の指揮ほっぽりだしてたクセに・・・・!!」

 いかにも、お前には失望したみたいな目をしてたクセに・・・。

「そうだな」

 伊万里は静かにそう言うと、ふくれっ面している上乃の頬をつついた。

「九峪さま、他に何か言わなかったか?」

 他?

 そういえば、罵声とは違う言葉が一つだけあった。

「・・・・・・・・・・『次は、期待してる』って」

 言ってた。

 ぼそりとだけど、確かに聞き取れた。

 それを聞いた伊万里はやっぱり、という顔をした。

 なり切れてないな、九峪さまは・・・・。

「たぶん、それが九峪さまの本音だよ。あの人って、変なところで素直じゃないから・・・・」

 伊万里は気恥ずかしそうに「わたしが、な」と続けた。

「急に王族になって―――しかも火魅子候補だ。それが・・・・、それが、すごく嫌でさ」

 伊万里は望楼のことを話はじめた。

 急な変化にショックを受けたこと。それが受け入れられなくて苦しんだこと。そして、九峪が励ましてくれたこと。

 全て話した。

「最初は九峪さま本気で怒っちゃった。呼び止めても無視してさっさと行っちゃって・・・・」

「でも、伊万里は待ってたんでしょう?」

「うん。戻ってくると思ってたよ。・・・・・何となくだけど」

「へえ〜〜」と上乃が意味ありげに言うが、どこか遠くを見ている伊万里は気づいていなかった。

「その後、本当に来てさ。思い悩んだ顔してたから『どうしたんです?』って聞いたらバレバレの平然を装った顔で『星を見に来たんだ』って」

 話を続ける伊万里の横顔はどこか楽しそうだった。

「でも、わたしが元気になったら星も見ないでさっさと行っちゃった。『悩みがすっきりしたから、もう寝る』って」

「それって・・・」

 上乃が苦笑する。

「九峪さまは伊万里の事が気になって眠れなかったんだね」

「たぶん、それが本音だと思う。・・・・そう言ってくれなかったのが気に入らなかったからさ。ちょっと、つっついちゃった」

「そしたら?」

「『うるさいなっ』って言われた」

 九峪の声色を使って伊万里が言う。

 上乃はくすくす笑った。

 伊万里もくすくす笑う。

 九峪は変なところで素直じゃないらしい。

「だから、上乃にも最後に言ったのが本音なんじゃないかな?きっと、怒ってないよ九峪さまは。『次は』ってことは、上乃に成長してもらいたいって思ってるんじゃないか?」

「・・・・うん」

 うなずいた上乃は欄干に寄りかかっていた体を起こした。

 すうーっと息を吸うと、静かに吐く。

 よしっ!!

「じゃあ、とびっきりイイ女になろう!!」

「それはどこか間違ってるだろ」

 伊万里はビシッと上乃の肩にツッコミをいれた。

 上乃は胸を張って笑った。その笑顔を見て伊万里は思った。

 きっと、今よりもっといい女になるな、と。


















 あとがき

 中途半端ですけど一応ここまで書きました。話数がおかしい数字になってますね。このあたりなら十四話くらいだったはずなのですが・・・・。

 とりあえず、当初の目標どおりにここまで書けて肩の荷が下りた思いです。

 ここで、疑問なんですけど・・・ぶっちゃけ(二次)って面白いんですかね?このペースで書いててまず終わらないのですよね。

 たしか利用規約か何かに長編は 「完結」 させることと明記されていたかと・・・・。

 ご感想をよんで九峪と女の子の関係をどうするかを考えていたら、将来的にそんな長く続くのかな〜と思いまして。

 友達の一人に小説の(内容は伏せて)ことを相談したら、制作段階のおもしろさと読む人のおもしろさは違うらしいよ、となにやらカッコイイこと言われました。

 なのでつまらんのならここらで打ちきった方がいいかな〜と。当初は小説一巻の内容で終わらせようかと思っていたので・・・。

 続きを書くならですけど、次は多分藤那が主人公に。その次に日魅子に。そしてみんなが合流して九峪が主人公に。そしてEND。最後に九峪の裏設定と日魅子の裏設定を明かして、その後の未来をあとがきのあとにでもつけて、おしまい。

 っていうノリなんですけどね・・・。構想自体は出来ているのですよ。クライマックスまで。しかし長い。あとがきのごとく長い。
 
 ちょっと悩んでおります。

 それはさておき、下にこの話の続きがあります。というかAとBに分けたにしてはボリュームがなかったので(それは全話共通か・・・)急ぎに急いで書きました。

 ここまで読んでくださってありがとうございます。

 
























 人の気配を感じて、清瑞は顔を静かにあげた。

「伊万里様?」

「や、こんばんは」

 そこにはどこか嬉しそうな伊万里がいた。

 まあ、この祭りに復興軍の勝利だ。楽しそうな様子もうなずける。

「何か?」

「九峪さまはどこにいらっしゃるかなって・・・・・どこを探しても居なくて」

 清瑞が不満げに「ああ」とうなずいた。

「それでしたらこの上に居ますよ。誰も入れるなとのことだそうで・・・」

「あっ、それだったら後で来たほうが良かったかな」

 伊万里がそう言って今にも帰ろうとするのを清瑞はとどめた。

「いえ、きっと大したことではありませんよ。私が呼んできましょう」

「えっ。それだったら、私の方から行くよ」

「いいんです。私が呼んできますので」

 清瑞がずいっと身をのりだして伊万里にせまる。

 どうしてだか清瑞は不機嫌なようだ。

 伊万里はただこくこくとうなずいた。

 清瑞が高楼の階段を上り始める。足音一つしない。

 気配を消しているのだ。それも完全に。

 九峪を少し驚かせてやれねば気が済まない清瑞の心情など知らない伊万里はなぜ、気配を消すのかわからなかった。

 それにしても感心してしまう。

 見事に気配を断っている。さすがは清瑞だ。

 だから、九峪が気づくことはなかった。
















 
 高楼に上がった清瑞はあぐらをかいて座り込んでいる九峪を見つけた。

 背中を向けているので、まだ自分には気づいてないのは好都合だ。

 清瑞はニヤッと笑うと、すーと九峪の背後に近寄る。

 どうやらまだ気づいてないようだ。

(私につまらない任務を与えた罰だと思ってくださいね)

 清瑞はククッと笑い九峪の肩にぽんっと手をおいた。

 ビクンッ!

 面白いように九峪の体がはねた。後ろをバッと振り返る

「びっくりしました?くた・・に・・さま・・・」

 意地悪く笑っていた清瑞の顔がしだいにひきつっていく。

 九峪と目があったからだ。

「き、清瑞か!?お、おい、誰も来るなって言ったはずだぞ!!」

 九峪が顔を腕で隠しながら言う。

「・・・・・・」

 清瑞は静かに混乱した。

 九峪の顔になぜそんな物があるのかわからなかった。

「おい、聞いてんのかよ!?」

「・・・・・・・」

 九峪が怒鳴り散らすが、清瑞は沈黙したままだった。

「清瑞!?」

 呼びかける九峪の声は弱々しく震えていた。

「なぜ、泣いてるんですか?」

 清瑞はやっとの思いでそれを言った。

 九峪の頬には、涙の筋がいくつもつたっていたのだ。

 清瑞にそれを言われた九峪は顔を隠した状態のまま、腕で涙をごしごしぬぐった。

「これは、目にゴミが入っただけだ!!」

「ウソでしょう!?ゴミが入ったくらいで、そんなに涙がでますか!?」

「ゴミが入っただけだって言ってんだろ!?」

 言った九峪はどんどん溢れてくる涙をぬぐった。

 ぬぐってもぬぐいきれない。

 九峪は立ち上がると顔を背けた。

「見るな見るな!あっち行けよ!!」

 清瑞は呆然とした。

 震えている九峪の声。

 頬を静かにつたう幾筋もの涙。

 泣いていたのは明白だった。

 いつも明るく笑っている九峪が泣いているから、よけいに意外だった。

「な、なにか・・・なにかあったんですか?なにか、悲しいことでも?」

 復興軍は勝利したし、街もおとした。

 住民も喜んでいるみたいだし、万々歳じゃないか。

 吉報続きで何を泣いているのだろう?

 清瑞の言葉を聞いた九峪はギリッと音に聞こえるほど奥歯を噛みしめた。

 怒りで体が震える。

「なにか、悲しいことが・・・だと?」

 てめえ!!

 激昂した九峪は清瑞の首根っこを掴んだ。

「人が、人が死んだんだぞ!?悲しまないわけないだろうが!!」

 九峪は涙で濡れている顔を隠すのも忘れていた。

「あっ・・・く、苦しい」

 清瑞が身じろきすると、九峪は慌てて手を放した。

 清瑞の美しいうなじに、九峪の赤い手形がくっきりと残っていた。

 気まずげに九峪が頭をかく。これが彼の癖のみたいだ。

 九峪は頭をさげた。

「わ、わりぃ・・・。勝手に熱くなっちまって・・・・」

「い、い、いえ・・・」

 心の底から驚いた。

 九峪に殺されるかと思った。この自分が反応もできずに、だ。

 心臓がもの凄い速度で脈打っている。

「ほんとうゴメン」

 九峪はすっかりしょげてしまっている。

 こんな九峪は想像もできなかった。

「い、いえ、それはもういいんです。でも・・・」

「でも?」

「あの、戦で人が死ぬのは、当たり前のことじゃないですか」

 清瑞は九峪の言っていることが理解できなかった。

 九峪は軍事に通じているようだし、それを知らないとは思えない。

「当たり前だよ。それはわかってるよ。わかってんだよ・・・」

 九峪は「でも」と続けた。

「・・・・それでも、悲しいんだ」

 言葉にしたら我慢できなくなってきた。

 こらえようとしたがこらえられない。

 両手で顔を覆うと九峪は泣き崩れた。

「うわあああああーーーーーっっ!!!!」

 堰を切ったように九峪が泣き叫ぶ。

 恥も外聞もなく泣き叫ぶ。

「ちょっ・・・」

 清瑞が驚いて九峪の肩に手を置く。

 震えていた。

 わんわんと泣き続ける九峪に清瑞は戸惑いを隠せない。



(・・・ちくしょう。・・・・カッコわりい)

 九峪は自分を罵倒した。

 情けない情けない!情けないぞ!弱虫め!!

 こんな泣いてる姿は誰にも見られたくなかった!

(オレは・・・)

 自分は人を殺している。

 戦の指揮をとっていたのは誰だ。

 戦争を起こしたのは?

 別にそれらが決定的に悪いことだとは露ほどにも思っていない。

 必要なら自分は手を赤色に汚す、自分は自分がやると決めたことをやる。

 なのに、そのクセ涙が流れてくる。

 第三者からすれば、そんな自分はひどく滑稽に映るだろう。

(この涙は・・・)

 ただ、悲しいだけだ。

 ただ、胸が苦しいだけだ。

 きっと、意味はない。意味のない涙なんだ。お前は本当は人の死を悲しんでいないはずだ、九峪。お前はもっとえげつない代物だ。そうだろう?

 さっき清瑞に言ったのは言葉のあやさ。

 人が死んだから?オレは・・・オレは・・・そんなことで悲しんだりしないっ!!そんなやつじゃないっ!!



 九峪は喋ろうとするのだが、声が勝手にしゃっくりをあげるので上手く喋れない。

 そんな九峪を清瑞が何とかしようとするのだが、おろおろするだけで何もできない。

 困った様子の清瑞が目に入り、九峪に少し落ち着きがもどる。

 九峪はにっこり笑った。ひどく滑稽な泣き笑い。

「え、えっと・・・・・ち、ち、違うんだ清瑞!!や、やっぱ、さっきのなし、なしだ。オレがそれで悲しむやつかよ。オレって、かなり冷たい男だからさ。そんな神経細くねえよ。目に、目にゴミが入ったんだ。本当にそれだけ。それだけだから・・・・。」

 九峪は半袖を無理矢理ひっぱりごしごしと涙をふく。すぐにびちょびちょになる。それでもふき切れてなかった。

「あ、あの・・・」

「本当に風が強くてイヤになっちゃうよ。きっと祭りで焚いてる灰が飛んできたんだな」

 清瑞の言葉を遮り、笑顔を精一杯つくろって嘘を言う九峪。ひどく滑稽。

「何か用があったんだろ?亜衣が呼んでるのか?軍議は今夜することになったのか?」

 九峪はそう言いながら立ち上がると、何でもないようにゆっくりと階段へ向かう。

 歩く後ろ姿を見ながら、清瑞は思う。

 弱々しいと。

 そこには軍議で見せた凛々しさや、戦場で見せた雄々しさはなかった。

 むしろ、それらの姿を見たからこそ、今の九峪は苦しいまでに儚い。


(・・・・・支えたい)


 そう思った清瑞は、自身の思いにびっくりしてハッと口元を押さえた。

 万が一、口にだしてやしないかと不安にかられたからだ。

 辺りもきょろきょろと見回してしまう。

 誰もいないに決まってる。

 自分の行動が恥ずかしくて、恥ずかしさを誤魔化すために清瑞はこほんと咳払いする。

 また、九峪の背中を見る。

 胸が苦しくなる。

(元気づけたいけど・・・・)

 自分はこんな時にどんな風にすればわからない。

 ずっと、伊雅と旅をし続けてたから。乱破の修行に明け暮れてたから。

 何と言っていいのかわからない。

 余計なことをして、帰って九峪を傷つけるかもしれない。

(何て、何て言えばいいんだ!!)

 清瑞はギュッと固く目をつぶると、うつむいてしまう。

「おい、清瑞。なにやってんだよ。はやく行こうぜ?何か用があったんでしょ?」

 九峪が「清瑞?」としきりに顔を覗き込んでくるが、目をつぶっている清瑞にはそれはわからない。

「あ、あの!」

「な、なに?」

 清瑞の気迫のこもった声に九峪はたじろいた。

「そ、その!」

「な、なに?」

 清瑞は顔を真っ赤にしながら、目を閉じたまま言う。気恥ずかしくて九峪の顔を見れなかったのだ。

「く、九峪さま・・・。ええと、何て言ったらいいか・・・」

「・・・・・・・・・」

「その、そのですね・・・・・。なんて言うか・・・・」

「・・・・・・・・・」

「らしくないですよ・・・・そんなの・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「ええと・・・・九峪さまは・・・その・・・・」

「・・・・・・・・・」

 必死になればなるほど言葉がまとまらない。

(あ〜〜〜ん!私のばかばか〜!ぜんぜん、駄目じゃないか〜〜〜!!)

 穴があったら入りたかった。

「その、九峪さま・・・」

「・・・・・・・」

「九峪さま、その・・・わたし・・・」

 清瑞が恐る恐る、うかがうように顔をあげる。

 しかし、予想に反して、そこには満面の笑みを浮かべている九峪がいた。

(あ、あれ?)

 九峪は自然に微笑でいた。

 無理矢理に作った笑顔ではなく、彼本来の笑い。

「やっべ〜〜〜・・・・・・超うれしいっ!!!」

「え?」

 頬についたままの涙が月光に照らされてキラキラ輝いている。

 九峪は本当に輝くように笑った。

 激情を抑えられなかったのか、清瑞に抱きつく。

「ええっ!?」

 清瑞の顔がカァッと真っ赤に染まる。

 九峪の体が密着してきた。

 あの時とは別に、心臓が早鐘を打ったようにドキドキと脈打ちだす。

 そんな清瑞には気づかず、喜んだ九峪は抱きしめている力が強くなっていく。

 より体が密着していく。

 九峪の心臓の音を胸で感じる。このまま二人の心臓がくっついてしまうのではないかと思えるほどに。

 九峪は体を少しはなすと、清瑞の顔を正面から見た。

「初めてだよ、清瑞!!初めて名前で呼んでくれたな!!」

「あ・・・」

 ・・・・そういえば。まともに呼んだのはこれが初めてかもしれない。

 九峪は清瑞をはなすと、よしっ!とガッツポーズをとる。

「これでまた仲良くなったな」

 そう言って笑う。

 つられて清瑞も笑った。

 ほらほら、早く行こうぜ、と九峪が階段の前まで走って手を振り回す。

 すっかり元気になったようだ。

(あんなことで、ね・・・・?)

 そう考え呆れながらも、清瑞の顔は嬉しそうだ。

(この人の中には子供がいるんだな。いい意味でも悪い意味でも・・・・)

 どうしてだろう?

 あの人の弱い部分を見たはずなのに、それが強いと感じるような気がする。

 温かい気持ちになってくる。

 おかしいな?


「おい。早く行こう」

 清瑞はハッとした。

「は、はい」

 清瑞は、慌てて九峪のところに駆け寄った。

























 あとがき2

 この話の言い訳をするなら九峪は結局のところ羽江に衣緒のことを頼んだように、伊万里にも上乃を励ますように頼んだのでした。伊万里は上乃はもう大丈夫と話をしたかっただけなのですよね。

 ・・・・・・・・・はて?よく考えたら、階段の下で待っている伊万里に会話や泣きは筒抜けだったかもしれませんね。

 彼女の性格なら「なにかあった?」と乱入しそうな気が・・・。

 そ、即席なんでその辺は許してください。ごめんなさい。今から書き直すのちょっと無理です。

 ああっと・・・・。

 ところであとがき2を書いているのは(二次)の九峪の性格とかプロフィールとか書こうかと思ったのですけど・・・・・やめときましょう。

 では、また次回(でも、次で終わってしまうやもしれない)

 ここまでお読みになってくださってありがとうございました。