火魅子伝(二次)お帰り日魅子2(H:小説+オリ M:日魅子 J:シリアス)
日時: 05/27 07:45
著者: おすん


 夏の焼け付くような日差しが、部屋の隅で眠っている少女の瞼を照らした。

 ちりちりと眠気を焼かれた少女はしかめっ面をすると、機嫌悪そうに目を開けた。腹が冷えないようにかけている薄い掛け布団を一気に放ると、上半身をむっくりと起こす。

 顔を見るだけでこっちが眠くなりそうな顔でこしこしと目をこする。一つ、小さくあくびした。

「・・・・朝・・?」

 寝場所が悪かったと少女――日魅子は考える。

 窓はすぐ隣りにあり、加えて方向が真東だったようだ。カーテンなどと言う物はここには存在しないためにモロに朝日を瞼に浴びせられ、早めに起床してしまった。

 まだ頭が完全に起動していない日魅子はうずくまるとう〜〜〜〜ん、と唸った。

 歩き通しの筋肉痛でダルいだけにもう少しだけ眠りたかった。しかし、そういうわけにもいかない。

「起きなきゃ・・・」

 つぶやいた彼女は乱れた髪を手ぐしで整えながら寝間着を脱ぎはじめる。日魅子は古代の衣服は生地が荒いな、と思った。

「火魅子様。風三(かざみ)でございます。入ってもよろしいでしょうか?」

 すっかり制服に袖をとおし終え、鏡を見ながら丁寧に髪をとかしていた日魅子はすぐに返事をする。

「あ、は〜〜い!―――っと、どうぞーー」

 日魅子はスーッと引き戸を引くとキチッと正座をして控えている風三に「おはよう」と笑いかける。

 風三は自分の世話を焼いてくれるぽっちゃりした可愛い子だ。その可愛い顔が驚きに目を見開かれている。

 日魅子は思った。わたしが早起きしているのがそんなに珍しいか、と。

 確かに、朝五時だが四時半だがに起きているのが普通の彼らにくらべれば、七時起きの自分は「寝坊助」に思われるだろう。でも、今までの習慣なんだからしょうがないじゃん。

 それに毎回毎回おこされにくれば、さすがに慣れてくる。断じて今日は日差しのおかげで早めに起きたわけではないのだ。

 日魅子は腰をおりまげると、不満げな目で風三の顔を覗き込む。

「なによー・・・。なに驚いてるのよー。わたしが起きてるのがそんなに珍しかったわけ?」

 酔っぱらいのようにからみ始めた日魅子に風三は慌てて答える。

「い、いえ!決してそのようなことは・・・・」

「ふ〜〜ん」

「本当ですってば!!」

 苦笑いをしながら言う風三の瞳に嘘はなかった。

 もともと風三から答えを聞く気がなかった日魅子はすぐに話題を切り換えることにした。

「まあ、いいわ。朝ご飯だから呼んでくれたの?」

「え、あ、はい、そうです」

 急に聞かれた風三は戸惑いながらもそう答える。

「あ、それと双元様がお食事がお済みになられましたならば、出来上がった衣服を試し着していただけないでしょうか、とおっしゃっていました」

「服?」

「はい、泗国の大王(おおきみ)にお会いになられるのですから、それなりの格好をしなければならないのでしょう」

 言われて日魅子は納得した。偉い人に会うのだから高校の制服ではマズイだろう。

 この服はここではかなり目立つ。というよりも変な格好だ。これで泗国の王の前にでたら刑罰の一つもくらうかもしれない。

「ん。わかった」

 日魅子は短く答えると、座った姿勢のままでいる風三をうながして歩き出す。

 風三は先払いをするために、慌てて日魅子の前に行く。

 風三が声をかけると、廊下の向こうから日魅子に挨拶するために色々な人がやって来る。挨拶するためにわざわざ部屋の戸を開ける人もいる。どの人も平伏して日魅子に思い思いの声をかけるのだ。

 これを何度か経験しているのだが、日魅子はいまだにこれが慣れなかった。

 日魅子は普通に挨拶して欲しいし風三の横に並んで歩きたいのだが、そういうわけにはいかないらしい。

 なんの物理法則が働いたのか知らないが、自分は「お客様」らしい。一度、風三に普通に接してみたらものすごく驚かれたし、風三が双元にひどく怒られていた。

 風三は悪くないのに怒られるのを理不尽に感じて文句をつけたのだが、言っても何が変わるわけでもなかったので、風三が無駄にしかられないよう「そういう行動」はなるべく控えるようにして、少しずつ自分のやり方に慣らすことにした。

 風三は会った時よりは大分マシになった。

 三週間前はあまりにバカ丁寧すぎて、こちらの方がかえって恐縮してしまうほどだったのだ。

(こっちに来てから、もう三週間か〜・・・・)

 血は繋がっていないが、祖父が新しい遺跡を発掘したのを見に行ったのがかなり昔のように感じる。

 日魅子は何がどうなったのかよく覚えていないのだが、新発見かもしれないと話題の鏡を九峪と一緒に夜中こっそり見に行ったのが、こんな所にいる原因だったと思っている。

 会ったばかりの双元という商人に世話になり、彼の勧めで泗国の王に会うため、三日前に国都に着いたばかりだ。

 泗国は狗根国という国が侵略してきたために、王は前線に近いところへ向かったので不在だったのだが、わざわざ会いに戻ってきてくれるらしい。

(わたしは火魅子じゃないって言ってるのに・・・)

 向こうは自分が高貴な血筋だと勘違いしているらしい。そんなことはないと知っている日魅子にしてみれば、騙しているようで悪い気がしてならない。

(九峪はどうしてんのかな〜?)

 ふと、そんな事を考える。

 日魅子の顔がすこし赤らむが、前を歩いている風三は気づかない。

 毎日何度も九峪のことを考えている自分に気づいてから、彼のことを考えると顔が勝手に赤面するようになってしまったのだ。

 日魅子はこんこんと頭をかるく小突いた。赤い顔がすぐ戻るようにだ。

 別に気に入らないわけではないのだが、さすがに恥ずかしい。

 みんなはどう言うか知らないが、日魅子にとって九峪は可愛い人だった。昔から一緒にいる、傍にいるのが当たり前の存在で、何だかんだでいつも頼りになる。大好きな人。

 そこまで考えた日魅子はさっきより顔が赤くなるのがわかった。何を考えているんだわたしは、とまた頭をかるく小突く。

 しかし、変わらず顔は赤いままだった。

(あ〜〜、もう〜〜!!!九峪!九峪のバカ!!スケベ!!浮気者!!)

 日魅子は恥ずかしさを紛らわすために、とりあえず九峪に罵声をあびせてみた。ついでに脳内でジャブからラッシュに入り右ストレートでダウンさせたあとにバックドロップを決めて目標を完全に沈黙させてみるが、顔の火照りはおさまらなかった。

(なによ!まだ、やられたりないの!?)

 日魅子は食事をとる部屋に着くまでの間に脳内九峪を三回ほど気絶させたが、やはり顔は赤いままだった。
















 

 

 あとがき

 どうも、お久しぶりのおすんです。

 え!?「あんたダレ?」ですって!?そんな・・・もうお忘れになられたのですか!?

 そんな貴方様と初めましてな御方は(あとストーリーを忘れられたかたは)火魅子伝(二次)を第一話からお読みになっていただけませんか?(宣伝)

 まあ、忘れ去られてもしょうがないのですけどね。存在感うすいですし・・・。

 長編って間が空いてはマズイと思って(ただでさえ存在感うすいですし・・・)マメに投稿するようにしていたのですが、スランプに陥りまして、その状態は実は現在進行形です。

 なので、今回のものは本編の続きじゃありません。続きは全然書けてないんですよ、これが・・・。

 だから今回のはリハビリと息抜きです。私生活も息詰まっているので(←進路ふみはずした(泣))ちょうどいいかな、と。でも主な理由は忘れ去られないために。

 前回のあとがきで続き書くがどうか迷っていましたが、できるだけやってみることにします。感想を頂けなかったらおそらくこうは思わなかったでしょう。

 本当にありがとうございました!!

 無反応っていうのは一番つらいですね。書く側になって初めてわかることです。

 で、肝心の続きは当麻の街の後日談を書いて、藤那達を合流させます。ここは原作に近いながれです。

 たぶん途中で挫折するでしょうが、生暖かい目で見守ってやってください。