火魅子伝 居場所 第1話(改訂版)前編 (H:小説 M:九峪・日魅子・姫島教授 J:シリアス)
日時: 07/24 19:18
著者: 蒼獅


「…………様。もう……時間が……」

「ああ、わかっている」

(また、この夢か…………)

「お前には……と思っている。何も……まま、巻き込んで……こと……本当に……。だがお前は、……………………だ。それに、お前が……ば…………は応えるだろう。愛して…………。後の事は頼んだぞ…………」

「…………はい。承知して……。…………様。……また……」

(声だけしかいつも聞こえない。何故なんだ?)

「あなたは、私と…………様と………………、でも………………ね。でも……あな…………。立派な…………」

「我、…………の…………。…………よ…………を…………」

(しかも、何を言ってるのか全然聞こえん。 くそっ、またここで終わりか)




――まもなく……、……です。お忘れ物のないようにご注意ください――

機内アナウンスが流れ、飛行機が空港に降り立つ。たくさんの乗客が降りようと席から立ち上がっている。そんな中、先程まで寝ていたのか、目を擦り欠伸をしながら一人の青年が起き上がる。

「ふ、ふぁ〜(ちっ、今日もいつもと同じか)……。ふ〜それより、……日本に来るのも三年ぶりか……元気にしてるかな、あいつ」

そう言いながら、青年は自分の荷物を持つと、出口へ向かって歩き出す。




とある空港で高校生くらいの女の子が椅子に座っている。

「ふう。……遅いなぁ。時間まちがえたかな?」

女の子は腕時計を見ながら呟く。彼女の名前は姫島日魅子。九州の大学で考古学者をやっている姫島教授の孫である。

「はぁ……せっかく帰って来るって言うから迎えに来たのに」

日魅子は自分の頬に両手を添えて溜息をつく。彼女は今自分が待っている人物、九峪雅比古のことを考えていた。

彼―九峪雅比古―は、日魅子の祖父である姫島教授の後輩であり、親友の九峪雅之と九峪美穂の息子だ。と言っても正確な親子ではなく養子という事になっている。

九峪と日魅子との出会いは、九峪の両親が日本に来た時姫島教授の元を訪れた時だった。当時のお互いの年齢は、九峪が10歳程で日魅子が8歳程、大人の話には興味がない年頃だ。九峪の両親と姫島教授の話が何時までたっても終わらないので、暇になった日魅子は、九峪の両親と共に来た九峪から色々な話を聞かせてもらっていた。

日魅子は九峪の話に夢中になり、九峪の両親が帰ると言っても、駄々をこねて九峪の服を掴んで離そうとしなかった。しかし、九峪から「また会いに来るよ」と言われ、渋々手を離すくらい、日魅子にとって九峪といる時間は楽しかった。そんな日魅子の様子を見て、散々彼の両親や祖父からからかわれたが今となっては良い思い出だ。

「ふふふ、確かにまた会いに来るって言ったけど、あれから会いに来たのは一回だけ。しかも二週間位したらさっさと行っちゃうし……会ったら絶対ぶん殴ってやる」

「それは勘弁してほしいな」

「えっ!?」

日魅子は聞こえてきた声にはっと顔をあげる。そこには日魅子が待っていた人物、九峪雅比古が笑顔で立っていた。

「久しぶりだな日魅子。三年ぶりくらいだな……ってどうした?」

「……えっ!? う、ううんなんでもないよ。ひ、久しぶりだね九峪」

久しぶりに会った九峪は、身長が180センチくらいに伸びており、体も無駄の無い引き締まった体をしていた。そして、優しい眼差しで爽やかな笑顔を自分に向けている。日魅子は、九峪の笑顔を間近で見て一気に顔が真っ赤に染まっていくのを自覚した。

「どうしたんだ日魅子? 顔が赤いぞ?」

「べ、別にそんなことないよ。そ、それより今回はどれぐらい居られるの?」

「くすっ、今回は一月位かな」

「な、何笑ってんのよ! もうっ……とにかく、おじいちゃんの所に行くんでしょ!」

「ああ、わかったよ」

真っ赤になった日魅子に九峪が笑うと、日魅子は怒りながらも、今回九峪が日本に来た目的を思い出す。今回九峪が帰ってきたのは、自分の祖父である姫島教授が、発掘をしている遺跡で発見した珍しい銅鏡を九峪に見せる事なのだ。日魅子は立ち上がって、九峪の手を取って歩き出す。九峪の手を取って歩いている日魅子の顔が真っ赤になっているのを見て、かわいいなぁと思いながら九峪は笑顔でついていく。




―耶牟原遺跡―

「おじいちゃ――ん!」

耶牟原遺跡の発掘調査の総責任者である姫島教授は、自分を呼ぶ声に振り返る。満面の笑みを浮かべながら丘を駆け上がってくる日魅子に、教授は顔を綻ばせた。

「はぁはぁ、おじいちゃん九峪を連れてきたよ」

日魅子は乱れた息を整えにっこりと笑った。

「おぉ、そうか。で、九峪君は何処に?」

「お――いっ」

丘の向こうから手を挙げながら九峪が近づいてきた。

「九峪、早く〜」

日魅子が振り返って手招きをする。九峪がふたりのところまで歩いてくるのを待って、教授が声をかけた。

「久しぶりだね九峪君。三年ぶりくらいだね」

「えぇ、そうですね。お久しぶりです」

「そういえば君の両親は?」

「相変わらずですよ。またどこかで遺跡巡りでもしてるんじゃないですかね」

「はっはっは、そうか相変わらずか。まぁ君の両親らしいといえばらしいな」

九峪と教授が話していると、日魅子が面白くなさそうな顔で会話に割り込む。

「もう、おじいちゃん。そんな事より九峪に銅鏡を見せるんでしょ?」

「ああそうじゃった。こっちに保管してある。案内しよう」

教授は、九峪に銅鏡を見せる事を約束していたのを思い出し、九峪と日魅子を銅鏡が保管してあるプレハブへと案内する。




銅鏡が保管してあるプレハブへ着くと、早速教授が奥から銅鏡を持って来て九峪に見せる。

「さぁ、これが発見された銅鏡だよ。どうだ凄いだろ?」

「確かに……これは凄いっすね。こんな精巧に作られた銅鏡なんてはじめて見ましたよ」

九峪は手にとって色々な角度から見ていた銅鏡を教授に返しながら感想を述べる。その感想を聞いて、教授は銅鏡を受け取りながら頷いている。

「そうだろ、そうだろ。この銅鏡は当時の人々が技術の粋を集めて創った物だろう。何かの儀式に使われていたのかも知れんな」

「ふうん。そうなんだ。ねぇねぇ、私にも見せて………………えっ!?」

日魅子が銅鏡を手にとって見てみると、一瞬鏡の中に何かが映ったような気がした。

「どうしたんだ日魅子? 変な声だして?」

「今、鏡の中に変なのが映ったの」

「はぁ? 変なものなんて…………映ってないぞ」

九峪は日魅子から銅鏡を受け取り鏡を覗き込むが、何もおかしなところは見つからなかった。

「きっと光の反射で何かに見えただけだろう。さあ今日はこれぐらいにして戻ろうか」

教授は九峪から銅鏡を受け取ると元の場所まで戻し、日魅子と九峪を連れてプレハブから出て行った。




プレハブから出た日魅子と九峪は教授の部屋で話し込んでいた。

「もうこんな時間だ。じゃあ教授、お休みなさい」 「おじいちゃんお休み」 

「あぁ、2人ともお休み」

教授の部屋で話し込んでいた2人は、教授の部屋を出ると歩き出す。すると突然日魅子が立ち止まった。

「ん、どうした日魅子?」

「…………呼んでる」

「は? なに言ってんだ? おいっ、日魅子!……たくっ」

立ち止まった日魅子は呟き、銅鏡が保管してあるプレハブへ歩き出した。九峪が呼びかけるが、何の返事もせず日魅子は歩き続ける。その様子に九峪は悪態をつき、仕方なく日魅子の後を追う。

「おい、いいのかよ? 教授に怒られるぞ」

九峪の声などまるで聞こえていないかのように、日魅子はプレハブの中へ入ると奥へ進んでいく。そして銅鏡が保管してある引き戸の前で止まり、引き戸を引くと懐中電灯で建物を照らしながら銅鏡を探していく。

「あった」

銅鏡を見つけた日魅子はそのまま銅鏡へ近づこうとする。しかし九峪が日魅子の腕を掴んで止めた。

「離してよ」

「ダメだ。(今のお前は様子が変だからな)そんなに見たいなら明日また見せてもらえばいいだろ?」

九峪はきつめの口調で日魅子にそう言うが、日魅子は九峪の腕から逃れようとして聞いていないようだった。

(さて、どうしたものか)

九峪は日魅子の腕を掴みながら考えていたが、次の瞬間そんな悠長な事を考えていられる余裕は無くなった。なんと銅鏡が突然浮かび上がり輝きだしたのだ。

「な、何だ!?」

九峪が困惑していると、光が弾け室内がまばゆい閃光に満たされて何も見えなくなった。

光が消えるのを確認すると、九峪はゆっくり目を開く。目を開けた九峪は目の前の光景が信じられなかった。何故なら不思議な緑色をした光の柱が日魅子の体を押し包んでいたからだ。

「な、日魅子!」

九峪が叫ぶが、日魅子は魂の抜け落ちたような空虚な笑顔を向けるだけだった。そして日魅子の体がだんだんと薄れていき、煌く無数の点となって銅鏡へ吸い込まれている途中……。

「ヨウヤクアエタネ、サア、イコウ、キミノイルベキセカイヘ」

という、不思議な声が九峪の頭の中に響いた。

ヤバイと思ったその時には既に体が勝手に動いていた。日魅子の腕を掴んだ手に力を篭め動かそうとする。しかし、何故かピクリとも動かせない。よく見てみると、鈴が銅鏡と共鳴するように鳴っているのに気づいた。

「これが原因か!」

九峪は日魅子の首に掛かっている鈴を掴むと、そのまま引きちぎる。すると、日魅子の体が元に戻っていった。

「ふう、よかった」

その様子を見た九峪は安堵の息を漏らし、日魅子に近づこうとする。しかし今度は自分の体が動かない事に気づいた。自分の周りを見てみると、今度は自分が先程の日魅子の様に不思議な緑色の光に包まれていた。

「こっ……これは!?」

九峪の体は、既に半分ほど無数の点となって銅鏡へと吸い込まれている。

(俺は死ぬのか? …………まぁ日魅子が助かっただけでもよしとするか)

そう思いながら倒れている日魅子を見る。そして次の瞬間、九峪は白い闇に閉ざされた。

九峪が覚えているのはそこまでだった。




あとがき

どうも蒼獅です。第一話の改訂版のつもりです。長くなってしまったので前編と後編に分けました。これは改訂版と言うよりほとんど書き直しと言った方がいいですね。前の第一話は、あまりにも酷すぎたので、こうして書いてみましたが、如何だったでしょうか?

第二話も改訂版を出す予定です。

では今回はこれぐらいにしてこれにて失礼します。何か指摘事項があれば感想掲示板にお願いします。