火魅子伝 居場所 第3話(改訂版) (H:小説 M:九峪・キョウ・伊雅・清瑞・星華・亜衣・衣緒・羽江・伊万里・上乃・仁清 J:シリアス)
日時: 08/06 10:22
著者: 蒼獅


九峪達が捕虜を救出するための準備をし終えてから暫くして、林の方から捕虜を連れた狗根国の一団が九峪達の居る神社へと近づいて来た。すると、近くまで来た狗根国の一団から、三人の兵士が神社の中へ入っていった。



ここで、現在の九峪達と狗根国兵と捕虜達の状態を説明しよう。

まず九峪は、神社の中(九峪達が作戦会議をする時に使った部屋のこと。)の、天の炎があった部屋に、気配を絶って伊雅から借りた刀を持っている。さらに天の炎と、キョウが入った状態の天魔鏡を、すぐ手に取れる場所に置いて、何時でも攻撃できる様な体勢だ。

次に、伊雅と清瑞は、神社の中へ入るための階段が良く見える木の上に、火砕岩を持って、気配を消して敵が通り過ぎるのを待っている。

最後に狗根国兵と捕虜達は、階段より離れたところで捕虜を先頭にして、神社の中へ入っていった兵士の報告を待っている。

以上が現在の九峪達と狗根国兵と捕虜達の状態である。



神社の中へ入って来た三人の狗根国兵は部屋を見渡す。三人の兵士は奥の部屋で気配を消して隠れている九峪には気づかず、誰も居ないと思い一人の兵士が外へ出て行った。

「深川様、何処にも異常ありません」

神社の中から出てきた兵士の報告を聞いた深川と呼ばれた女が兵士に命令する。

「よし、捕虜を連れて来い」

深川の命令で狗根国兵が四人の捕虜を先頭に歩かせ神社の中へ入るための階段を登り始める。狗根国兵達の半数位が階段を登り終えると、突然先に行っていた三人の兵士が死体となって落ちてきた。

「な、何事だ!?」

深川は上を見上げる。そこには天の炎と天魔鏡を持った九峪が立っていた。                                                                                                   

「貴様、何者だ!?」

深川は叫ぶが、九峪は天の炎を天魔鏡の鏡面に映し出し、木の上で待機していた伊雅と清瑞に合図を送る。そして次の瞬間、爆発音と共に狗根国兵の悲鳴が聞えてきた。

「ぎゃぁぁぁっ!」 「ぐわぁぁぁっ!」

「て、敵だ―――!」

階段をまだ登りきっていない狗根国兵に、伊雅と清瑞の投げた火砕岩が炸裂し何人か倒れる。そして爆発に混乱している狗根国兵に、すかさず伊雅が斬りかかり次々と倒していく。一方階段の上にいた狗根国の兵士達も、背後の爆発音に思わず振り向く。

「敵か!? ……慌てるな! 応戦しろ!」

深川が兵士達に指示を出す。その間に九峪は、天の炎と天魔鏡を置き、刀を抜いて狗根国兵達に斬りかかって行く。

「わりいな、やると決めた以上あんた等に怨みは無いが死んでもらう」

そう言うと九峪は、背後の爆発音に気をとられている兵士達を、次々と斬って行く。

「う、うわ――こっちも敵だ――」

「敵は少数だ蹴散らせ!」

慌てる兵士達に深川が指示を出すが次々と倒されていく。

「ちっ、慌てるなっ! 敵の目的は捕虜だ! 捕虜を逃がすなっ!」

上から九峪が、下から伊雅が狗根国兵を倒している間、清瑞が深川の指示が出る前に、捕虜の周りにいる狗根国兵を倒し終わる。

「大丈夫か?」

「ええ、あなた達はいったい……」

「話は後だ。……まずはこいつらを片付ける」

清瑞は捕まっていた捕虜の拘束を解き、問い掛けてきた巫女服の女にそう答えると、まだ戦っている九峪と伊雅の方へ走り出す。



一方九峪と伊雅が狗根国兵と戦っていると、林の中から2つの影が飛び出してきた。

「助太刀する!」

凛とした声と共に、飛び出してきた2つの影が狗根国兵に向かって斬りかかる。すると瞬く間に数人の兵士が倒れる。倒れた兵の体には矢が刺さっていた。

「ま、また敵だ!」 「ど、どこから射ってやがる!?」

兵士達は叫ぶが、斬りかかって来た二つの影と、二つの影を味方だとすぐさま判断した九峪達の攻撃により、狗根国兵は全員倒されてしまった。

途中から戦いに参加してきた二つの影が立ち上がった。二人とも女性で、一人は赤茶色の髪をした女性で剣を持ち、もう一人は青い髪を頭の上で括り、手には槍を持っている。二人とも革をなめした服が敵の返り血で真っ赤になっていた。服だけではない。顔まで血に染まっているが、二人の美しさは損なわれることはなかった。一人の少年が林の中から出てきてその二人に向かって近づいて行く。どうやら先程の矢を射ったのは彼のようだ。

九峪が、三人を見つめていると、天魔鏡から出てきていたキョウが驚いたような顔をした。

「キョウどうかしたのか?」

九峪がキョウに尋ねると、驚いた顔をしたまま呟く。

「あの子、火魅子の資質を持ってる」

「何!? どの娘だ?」

「たぶん赤茶色の髪をした女の子だよ。」

「そうか。……だがまだ確定した訳じゃない。後で本人に確認してみよう」

「うん、分かった」

キョウから聞いたことに驚きを隠せない九峪だが、まだ敵が1人残っているので一時そのことを頭の隅に追いやる。

「九峪様、キョウ様、ご無事ですか!?」

伊雅と清瑞が九峪達の元へ駆け寄ってくる。2人とも敵の返り血で真っ赤に染まっていた。

「ああ、伊雅と清瑞も大丈夫そうだな」

「はい大丈夫です」

九峪と伊雅が話をしているのが聞こえた捕虜達と三人が、いっせいに伊雅に視線を送った。

「い、いが!?」

「伊雅様!?」

「いが……様?」

全員の注意が伊雅に向けられたその瞬間に、深川が左道の呪文を唱えていた。

「禍し餓鬼!」

「あっ、しまった!」

清瑞が舌打ちしながら小刀を投げるのと、左道が放たれるのとほぼ同時だった。

清瑞の投げた小刀は深川の左の腕に突き刺さり、彼女は思わず片膝をつく。しかし、放たれた左道は、まっすぐに九峪めがけて飛んでいった。

「九峪、避けてっ!」

キョウが叫んだが間に合うはずもない。九峪は、自分に向かってくる闇の塊を、ただ見ているだけしか出来なかった。とその時、リーンという音が九峪の耳に聞こえてきた。そして、次の瞬間、ゴォォォー!と音を立てながら天の炎が燃え出し、九峪を守るかのように、炎の壁を作り闇の塊を打ち払った。

「なにいっっ!?」

左腕に刺さった小刀を気にもとめず、深川は驚愕に目を見開いた。

(さっきの炎の中に人の姿が見えたと思ったんだが……? あの人は……)

内心困惑する九峪をよそに、全員が呆然として九峪を見つめていた。

(九峪は、僕が間違って連れて来たただの人間なのに、火魅子ですらあんなこと出来なかったのに……九峪、君は一体何者なの?)

キョウは唖然とした顔で九峪を見ながら思う。そう、本来こんなことがあるはずがないからだ。

深川は左腕に刺さった小刀を抜いて腕を押え、みんなの注意が今度は九峪に向けられた隙に後方に飛び、九峪や伊雅達から間合いを取った。

「おい、悪あがきは止めておけ」

途中から戦いに参加した三人の内の、赤茶色の髪をした女性―伊万里―が、深川に刀の切っ先を突きつけた。

「そうよ、そうよ。もう残ったのはあなただけなのよ、おとなしく捕まんなさい。まったく往生際が悪いわね」

続けて三人の内の青い髪をした、槍を持った女性―上乃―が息巻く。その側で、弓を持った少年―仁清―も弓を構えている。捕虜にされていた女達も深川を睨んでいる。

「深川とか言ったな。この亜衣様をこけにした代償は高くつくぞ」

捕虜にされた時何かあったのか、亜衣は四人の中で人一倍深川を睨んでいる。だが突然深川が笑い出した。

「なに?」

全員が身構えた。

「あっはははは、残ったのがわたしだけだと。そのとおりだな。貴様ら、見事に我が兵達を殺してくれたものだ。だが、それが仇になる」

深川は自由になる右手を懐に突っ込むと、呪文を唱えつつ札を引っぱり出した。 

「根の国、常世の国、大通返し、魂返し、不治なる不「そんなことさせるかよ!」ぐっっ!」

手にした大量の札を空中高く撒き散らし呪文を唱えていたが、飛んできた刀により右腕を貫かれ呪文を唱えきることができなかった。

「お、おのれっ、貴様!!」

刀を投げた体勢で止まっている九峪を見つけ睨みつける。

「はっ、呪文なんて唱えさせるかよ!」

九峪は刀を投げた体勢で、睨みつけてくる深川に言い放つ。

「九峪様、今のうちに始末しましょう」

伊雅が九峪にそう言いながら深川の方へと向かって行く。他の者も深川の方へと向かって行くが、深川はなにやらぶつぶつと呟いている。

「(何なんだあの男は!? わたしの邪魔ばかりして、くそっ許さんぞ! あいつだけは殺してやる!)ころしてやる、ころしてやる、ころしやる、ころしてやる………………………」

ぶつぶつと呟いた後、まるで憑りつかれたかのように同じ言葉を繰り返している深川を、伊雅達は「こいつ、狂ったのか?」と怪訝な顔をするが、ゆらりと立ち上がった深川を見て武器を構え直す。

「此処で貴様らに捕まるぐらいなら死んだほうがマシだ! だがな、ただでは死なん。貴様ら全員みちずれにしてやる!!」

深川の声と共に散らばっていた札が、まるで意思を持っているかのように死んでいる狗根国兵の体に張り付いた。
 
―むくり―

すると死んでいた狗根国兵が起き上がり、深川の周りを囲むように集まりだした。

「むっ! 左道か!」

叫んだ伊雅が手近の死人兵に斬りかかり、一刀両断に斬り捨てる。しかし、死人兵は体を真っ二つにされても、なお立ち上がってきた。内臓をずるずると引きずり、血を滴らせながらも攻撃してきた伊雅のことなど無視して、再び深川の元へ歩き寄っていく。

「ちっっ」

伊雅は斬っても動く死人兵を見て舌打ちする。

「あははははは、そいつらはもう死んでいる。先ほど貴様らが殺したではないか。そしてこれから貴様らに目にものを見せてやる!」

狂ったように笑い出す深川の周りに全ての死人兵が集まったのを確認すると、さらなる呪文を唱えた。

「さあ来よ、闇の者ども。闇よりも黒き血を持つ魔界の住人よ、黒き水の民の呼びかけに応えよ」

深川の呪文に反応して死人兵に張り付いた札が闇色に輝く。次の瞬間には深川を中心として集まっていた死人兵の姿が消えており、代わりに闇の空間が深川の周りを包み込んでいた。

「なっ、何だあれは!?」

驚愕する九峪達をよそに、深川が闇にむかって再び呪文を唱え出した。

「我が呼びかけに応える者には、約束しよう、うまし血、うまし肉、うまし骨を捧げることを」

深川は、闇にむかって血が出ている両腕を差し出した。
 
ぞわりと闇が動き、闇が深川の両腕に覆い被さった。深川は両腕に被さってきた闇を見て口元を歪めて、九峪達を見ながら最後の呪文を唱えていく。

「さあぁ、来よ、魔界の住人よ。我を贄に我と魂の盟約を交し、我に刃向かう愚か者どもを殺し尽くせ!!」

呪文を唱え終えた深川の体全体に、闇が覆い被さってくる。闇の中から肉の千切れる音や、血が噴出す音が聞こえ、九峪達は青褪めた顔で口元を押さえた。数分間そんな音が聞こえてきた後、闇が凝縮しそこから人の形をした者が出てきた。

「いったいどうなったんだ?」

九峪達が凝縮した闇から出てきた人の形をした者を見つめていると、だんだんと姿がはっきりとしてきた。 そこには、先ほど闇に覆い被され、体を食われて死んだと思っていた深川と、同じ姿をした者が立っていた。

「な、何であいつが生きてるんだ!?」

驚愕している九峪達をよそに、深川と同じ姿をした者は自分の体を見ている。

「ふっふっふっ、この体と魂は素晴らしい。力が全身に溢れてくるぞ」

深川と同じ姿をした者が、自分の体を微笑みながら見た後、九峪達の方へ目を向ける。

「どうした? 何をそんなに驚いている? あぁ、何故私が、先ほどの女と同じ姿をしているのか疑問に思ったのか? いいだろう、冥土の土産に教えてやる。先ほどの女は、死人兵を贄に我々を呼ぶに値する闇の空間を作り出し、さらに自らの肉体と魂を持って、今回の場合は私を呼び出すことに成功したのだ。私は実体を持っていないからな、この女の肉体を貰うことになったという訳だ」

深川と同じ姿をした者(以下、深川と同じ姿をした者の事を、魔人深川とします。)

魔人深川は体を動かしながら更に続ける。

「それにしても、……そう貴様、貴様のことは殺しても殺したりないほど憎んでいたようでな。あの女の好みに合わせて、いたぶって、いたぶって、命乞いをしてからも、いたぶり尽くしてから貴様を殺してやる」

魔人深川は九峪の方を見て、にやりと笑い物凄い威圧感を発してきた。




「まずい!!」誰もがそう思った。相手は体を動かして具合を確かめているのか、まだこちらに襲い掛かってはこない。しかしまだ襲い掛かってこないだけで、襲ってきたら此処にいる全員で戦っても勝ち目は無いだろう。それほどまでに魔人深川は、物凄い威圧感を発していた。



「ど、どうしよう伊万里!?」

途中から戦いに参加した上乃が伊万里に聞くが、体は震えその声も震えている。

「ど、どうしようって、戦うしかないだろ上乃」

「伊万里の言う通りだよ上乃」

「仁清まで……」

伊万里は刀を構え、仁清も弓を構えながら震えていたがしっかりとした声で上乃に答える。

(2人が戦おうとしているのよ! わたしだけが震えているだけじゃ駄目じゃない!)

上乃はそんな二人を見て心の中で自分を叱咤し、震える手で槍を構えた。



「星華様、どうしましょうか?」

亜衣が星華に問い掛ける。

「亜衣、……戦うしかないでしょう」

「やはり、それしかありませんか」

静かに方力を溜めながら星華が亜衣に答える。

「ちょ、ちょっと星華様、亜衣お姉様正気ですか?相手は魔人なんですよ? 勝てるわけ無いじゃないですか」

「そ、そうだよ逃げようよ」

「だがな衣緒、羽江、戦わなくてもあの魔人がわたし達を見逃してくれると思っているのか? そんなわけないだろう? それなら戦ったほうがマシだ」

「お姉様……」

「お姉ちゃん……」

亜衣の答えに、引き締まった体をした女―衣緒―と、まだ幼い少女、―羽江―が、慌てて聞き返すが、返ってきた答えと苦渋に満ちた顔の亜衣に言葉を掛けることが出来なかった。

「そうですね、どうせ死ぬなら戦って死んだほうがマシですね」

「羽江、あなたは戦いに巻き込まれないところまで離れていなさい」

「分かった」

星華、亜衣、衣緒が戦闘態勢をとり、羽江は星華達から離れていった。



「伊雅様どうしましょうか?」

清瑞が伊雅に問い掛ける。

「やはり……戦うしかないであろうな」

清瑞の問い掛けに伊雅は少し間をおき答える。

「そうですか……分かりました」

「すまんな、清瑞」

「いえ、かまいません」

伊雅と清瑞は短い会話をした後静かに構えをとった。



「おいキョウ。魔人に勝つ方法って無いのか?」

「そ、そんなのないよ。下級ならともかく、あの魔人はおそらく中級、魔力だけ見れば上級に匹敵するぐらいなんだ」

「下級ならって、……じゃあ中級魔人ってのは俺達では倒せないのか?」

「けど今回の魔人はまだ付け入る隙があると思う。あの魔人は魔力が高い割に、下級魔人より耐久力が低いはずなんだ」

「何でそんな事わかるんだ?」

「あのね、いくら魔力が高くても、あの魔人が使っている体は人間のものなんだ。だから魔力さえ何とかできれば……」

九峪は、キョウに聞の聞いた事から考える。

(とにかく、あいつの魔力を何とかできればいいわけだ…………だけど如何すれば……仕方ない。打開策を見つけるまで、持つことが出来るかどうかわからないが、何とかするしかないな)

九峪は少し考えた後、他の者を見る。他の者達はすでに戦闘態勢をとっていた。

「(こうなったら、やれるだけやってみるしかないな)キョウお前は天魔鏡の中に入っていろ。巻き添えを喰らうぞ」

「うん、分かった」

キョウが離れていったのを確認し、九峪は伊雅の元へと近づいて行く。

「伊雅、俺も戦うぞ」

「なっ!? 九峪様正気ですか? 相手は魔人なのですぞ」

「分かっている。それにキョウが言うには、あいつの持つ魔力を何とかできれば、勝機があるかもしれないと言っていた」

「そうですか。……ではそれに賭けるしかありませんな」

九峪が伊雅と話し終え、魔人深川に向かって戦闘態勢をとると、魔人深川が笑みを浮かべていた。

「さて、別れの挨拶はすませたか? まぁそんな事をしなくとも、私が全員まとめて殺してやるから必要ないがな」

その言葉と共に、魔人深川の体から放たれる威圧感が増した。

「さぁ、少しは楽しませてくれよ」

口元に歪んだ笑みを浮かべながら魔人深川が動き出した。





あとがき

どうも蒼獅です。第三話改訂版如何だったでしょうか?

今回は、改訂前とあまり変わっていません。狗根国兵との戦いの戦闘シーンが違うぐらいです。

さて、今回で改訂版は終わりです。というか三話までしか出していないので出すにも出せませんが……(汗)次回は、魔人深川との戦いなので、戦闘シーンを沢山書くことになると思いますが、ちゃんと書けるかどうか不安です。できれば感想掲示板に指摘等をお願いします。

ではこれにて失礼させて頂きます。