火魅子伝 居場所 第5話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪×+オリ J:シリアス)
日時: 08/20 09:08
著者: 蒼獅


魔人深川が青白い光に包まれて消滅していくのを、九峪以外の他の者は唖然として見ていた。あれほど自分達を圧倒していた魔人が、たった一人によって、こうも呆気なく倒されたのだから当然であろう。そして、自然と皆の目は魔人を倒した九峪へと向けられる。しかし、九峪は1人呆けたような顔で、自分が握っている炎の御剣を眺めている。





―時間は少し遡り、九峪の意識が薄れていった頃―

「こ、此処は……? 確か俺は魔人と戦っていたはず…………」

九峪は自分の意識が薄れてから、気がつくと誰も居ない真っ暗な空間に居る事に気づき、呟く。そして、自分は魔人と戦っていた事を思い出す。すると、突然九峪の目の前に、九峪の身長とほぼ同じくらいの大きい鏡のような物が現れた。

「な、何だこれは?」

そう言いながら、九峪は鏡のような物の表面に触れる。すると、いきなり鏡のような物が輝きだし、ある映像を映し出し始めた。その映像の中には、ゆっくりと立ち上がろうとしている自分が映っていた。

「な、なんで俺が立ち上がれるんだ?」

混乱している九峪を他所に映像は続く。

『……ふう、まったく……』

そう言いながら自分はあの魔人の凄まじい速さで振るわれた拳をいとも簡単に受け止めていた。さらに続けて放たれた左も、同じように受け止めると、魔人を睨みつける。そこで、映像を見ていた九峪はおかしい事に気がついた。

「あれ? 何で俺なのに俺を見ることが出来るんだ? それに俺は真紅の目なんてしてないぞ……」

「それは、そうだろう。お前は俺の血を引く者だが、まだまだ未熟者なんだから…………」

「だ、誰だ!?」

いきなり聞えてきた声に、九峪は慌てて後ろを振り向く。そこには、二十歳くらいの、九峪より背が高く、見事に鍛えられた体を持ち、映像の中の九峪と同じように真紅の目の色をした男が立っていた。その男の顔は、何処と無く九峪に似ていた。九峪は、この男が先程言った言葉が気に掛かり、理解しようと頭を回転させる。そして、一つの答えにたどり着く。

「あ、あんたは……お、俺の……親戚か何かなのか?」

九峪は驚愕の面持ちで尋ねると、男はゆっくりと首を横に振る。

「違う……親戚ではない。俺はお前の父親が残した思念体みたいなものだ」

「親父の思念体?」

「ああ、お前が持っている鈴があるだろ? 俺はその鈴に宿っていた思念体なんだ。ちなみに思念体ってのは強い思いが意識を持った存在だと思ってくれればいい」

「い、いや、そう言うことじゃなくて……。俺の親父ってのはどうゆう意味だ?」

九峪は親父の思念体と名乗る男に尋ねる。それを聞いた思念体の親父は、真剣な表情になると、ゆっくりと話し始めた。

「そうだな、そのままの意味なんだが……。まずは俺の名前から教えておこうか。俺の名前は紅希(こうき)元、人間だ。ただ、生まれた時代が魔天戦争の最中で、両親の顔は幼い頃に魔人に殺された。そして、生まれた時から大人達に生き残る術を叩き込まれ、七歳頃から人間を殺す魔人達と戦う日々を送る 「おい、俺が聞きたいのは」……黙って聞いてろ」

九峪はいきなり自分の生まれの事を話し始めたことに口を挟むが、紅希に睨まれて口を閉じる。

「……続けるぞ。そのまま時は流れ、十八の頃、既に俺に生き残る術を教えてくれた大人達の大半は死んで、身近にいる人間達の中で俺は一番強かった。そんな時だ、ここのところ魔人相手に連勝続きだった俺達は、調子に乗って普段は一杯くらいの酒を連勝の宴会と称して飲みまくったんだ」

そこで一旦言葉を区切り、自嘲するように薄く笑う。あの時の自分達の行動がどれほど愚かだったか、悔やんでいるのだろう。そして、紅希は再び話し始める。

「後は、まぁ、よくある事さ。気がついたら俺達の周りには十体以上の上級魔人や、二十体以上の中級魔人が取り囲んでいた。そして俺の仲間は酒を飲んで酔っていた事もあり、呆気なく全滅。俺は、酒はあまり好きじゃないから酔っていなかったが、余りにも戦力に差がありすぎた。これが万全の状態で中級魔人だけならよかった。多少の犠牲が出ても生き延びる事が出来るからだ。俺達にはそのくらいの力はあった。じゃなきゃ連勝なんて無理だしな……話がそれたな。俺以外の仲間は既に死に、俺自身も中級魔人を十体倒したのと引き換えに体はボロボロ。もう終わりだと思ったその時だ、俺の前に一人の天女が舞い降りた。それが後の俺の妻であり、お前の母親である、天空人の姫由希(ひめゆき)だった」

紅希は優しい口調で愛しい人の名前を呼ぶ。九峪は、その口調に紅希がどれほど姫由希を愛しているのかが分かったような気がした。さらに紅希の話は続く。

「彼女の力は凄まじいの一言に尽きた。彼女の放つ小さな炎が一体の中級魔人に当たると、大爆発を起こし、近くに居た魔人共々消滅させたんだ。その後はもう彼女の独壇場だった。今まで余裕を持っていた上級魔人が、一斉に彼女に襲い掛かるが、彼女は術者とは思えないほどの体術で、次々と魔人を屠って行くんだ。俺にはその光景がとても美しく感じられた。だが、俺が彼女に見惚れている間に、何時の間にか俺に向って魔人が突進してきていたんだ」

紅希はその時の事を思い出し表情を歪ませる。

「俺は咄嗟の事に碌に反応する事が出来なかった。あの時は俺も死を覚悟したよ……。でも実際には違った。俺に突進してきた魔人は俺のところにくる前に真っ二つに両断されていた。魔人を真っ二つにしたのは妙な形をした剣だった。姫由希は俺にその剣を使えと言うとまた魔人達を相手に戦いだした。後は、俺は魔人を真っ二つにした剣を使い、姫由希は術を使ってその場に居る魔人を全部倒したんだ」

紅希はそこまで話すと、一息つく。その様子を見た九峪は、紅希の話を聞いて、自分の考えが正しいかどうか尋ねる。

「じゃあ、俺は元々こっちの世界の人間だったんだな? けど何故俺は違う世界で暮らしていたんだ? それに、俺は本当はこの時代よりもっと前の時代に生まれていたはずだ。なあ、何でだ?」

「……それは……」

紅希は九峪の言葉を聞くと顔を歪める。その表情は、後悔がありありと見て取れる。九峪は何かあったのだろうと思いはするが、紅希のその表情を見て暫く考えた後聞くのを止めた。

「…………今はいいよ。それに、そんな顔されたら聞けないじゃないか。それはともかくだ、何故俺は此処にいるのに俺の体は勝手に動いているんだ?」

九峪は鏡のような物を見ながら尋ねる。そこでは魔人を蹴り飛ばしている九峪の姿が映っていた。その様子を見た紅希は、あはは、と乾いた声で笑う。

「実は……お前の体……今は俺が動かしたりしてるんだなこれが」

「は? 今何て言った? 俺の体を紅希が動かしている? どうやって?」

「いやぁ〜お前があんな雑魚にボコボコにされてるの見てたらさ〜。ついかっとなって……俺がやってやるって……やっちゃった♪」

先程までの真剣な表情や、己の過去を語った時とはまるで別人のように笑う紅希に、九峪は眩暈を覚える。そして九峪は、このような笑い方をする人物にもう一人心当たりがあった。

「なあ、今俺を育ててくれた親父も紅希と同じような笑い方をするんだが……」

九峪がそう言うと、紅希は、「あっ」と思い出したように呟くと、またまた先程と同じような笑顔で……。

「え〜と、今までお前を育てていた両親だけど……。実は……お前の本当の両親なんだ……」

なんて事を言っちゃいました紅希さん。

「は?」

言われた事の意味が分からない九峪は、思わず間抜けな声を上げる。そんな九峪に、紅希は笑いながら……。

「だから、お前を生んだ両親と、お前を育てた両親は同一人物なんだよ」

「えぇっ!? けど、この世界とあの世界ではパラレルワールドなはず…………」

考え込む九峪を他所に、紅希は再び真剣な表情で九峪を見つめる。その視線を受けた九峪は何事かと思い、見つめ返す。

「今は、お前の疑問に思ってることに答えてやる事は出来ない。だが、近いうちに必ず教えるから。それまで待っていてくれないか? 都合のいい事だとは重々承知している。だが、それでも……頼む」

「………………わかったよ。ただ、俺は強くなりたい。俺が耶麻台国を復興させる為に戦うなら、また魔人と戦うことだってあるんだろ? だから俺を強くしてくれ。」

「……わかったよ(そのほうが俺としても助かるしな)……俺に会いたいなら鈴に強く俺に会いたいと念じるんだ。そうすればまた此処へ来れる」

「わかった。よろしく頼む」

そう言いながら九峪は紅希へ頭を下げようとする。しかし、それは紅希の手によって止められた。

「止せ。お前が俺なんかに頭を下げる事なんて無い。それに、実はお前の体はまだこの世界に適合しきっていないんだ。お前の体がこの世界に適合するまでまだまだ時間は掛かるが、適合すればそれだけで今より遥かに強くなれる。要するに今のお前は全身に重りを付けている様なものなんだよ。まあその状態で鍛えれば適合した時に更に強くなれるからいいけど……。とにかく、今のお前はその鏡から俺の動きをよく見ておけ……って言っても相手が雑魚だから一撃で終わるが……。あと、お前に俺から贈り物をしてやる。楽しみにしてな。じゃあな“雅比古”またな」

紅希はそう言うとフッと姿を消す。そして後に残ったのは九峪と鏡だけであった。

「……はぁ〜……まったく、言いたいことだけ言って何処かへ行くっていうのは相変わらずだな……。まあいいか。今は大人しく見るとするか」

九峪は薄く笑いながらそう言うと、鏡の映像を見始めた。




『来い、天の炎』

映像の中の九峪(以後、紅希と称します)は天の炎の名を呼ぶ。すると紅希の呼びかけに答えるように天の炎が紅希の右手から2メートル程浮いたところに突然現れた。

「なっ!? ……あんなことまで出来るのか?」
 
突然の事に唖然と呟く九峪だが、さらに驚くべき事が起きる。

『天の炎よ、我が命により、在るべき姿に戻り、我が力となれ』

紅希がそう言うと、天の炎から炎が凄まじい勢いで放出し、天の炎自体を炎が球状にして包み込む。

「…………」

もはや言葉も出ない九峪を余所に、天の炎を炎が完全に包み込むのを確認した紅希は、右腕を上から前に移動する。すると、紅希の右腕の動きにそって、球状の炎が九峪の前まで移動した。そして、球状の炎に向かって、右腕を一気に突っ込む。

「ばっ!! ……燃えてない?」

九峪は自分の体を使っている紅希に、聞こえないとは知りつつも思わず声を上げる。しかし、炎の中に入れられた右腕が燃えるような素振りは一切見えない。

『いでよ、炎(かぎろい)の御剣』

「炎の御剣? ひょっとして……これが、紅希が言ってた剣か?」

紅希が手にとった炎の御剣を見ながら九峪は呟く。

『悪いな。また一緒に戦ってくれるか?』

「やっぱり……これが言ってた剣だな。凄い力が秘められていそうだ……」

『さて、……貴様如きでは肩鳴らしにもならないからな。……さっさと掛かって来な』

「おいおい本気か? いや本気なんだろな……さっき雑魚って言ってたしな。紅希にしたらこれほどの相手でも雑魚なのか……さて、紅希の力がどれほどのものか見せてもらうか」

『私では肩鳴らしにもならないだと?…………ふ、ふざけるなよ貴様っ!!』

『はぁぁぁっ―――!! 死ね―――――――!!!!』

『……遅い……』

魔人が叫び声をあげながら、紅希に向かって右腕を物凄い速さで振りぬく。一方紅希は、向かって来る魔人にそう言うと流れるような、動きで炎の御剣を水平に振りぬく。

紅希と魔人が、一瞬交錯し、そのまま通り過ぎる。2人が立ち止まると、魔人の方に変化が訪れた。魔人の体が腹部のところで、上半身と下半身に綺麗に斬られていたのだ。

「は、速すぎる……あんなの人間の出せる速度じゃないぞ!」

紅希の攻撃を辛うじて見ることの出来た九峪は、この時の九峪は紅希の動きを見ることが出来た事自体凄い事に気づいていないが……。紅希の言った言葉が本当だと改めて知った。だが逆に、自分の体なのだから自分に出来ない筈が無いと思い直す。九峪がそんな事を考えているうちに外では……。

『ごふっ!……ば、馬鹿な……』

『ふんっ、やはり肩慣らしにもならなかったな。……さっさと滅べ』

紅希がそう言うと、魔人深川の斬られた所から青白い光が輝きだし、魔人深川を包みこむ。

『グハッ! ……そんな……こ、この私が……人間如きに……グッ、グワァァァァ―――!!!!!』

「……こんなにも魔人を呆気なく倒すとは……。それにしても……俺はどうやったら戻れるんだ?」

九峪は、あの魔人を呆気なく倒した紅希の力に驚愕する。そして、今になって戻る方法がわからない事を思い出す。すると、いきなり目の前にある鏡から光が放たれた。

「な、なんだこの光は……? 「大丈夫。その光に身を任せれば戻ることが出来る」……紅希……わかった」

聞えてきた紅希の声に九峪は頷くと、光に身を任せた。





(はっ! 戻ったのか……?)

九峪がはっと顔を上げ、きょろきょろと周りを見渡していると、伊雅と清瑞が九峪の元へ駆け寄ってきて、伊雅が深々と一礼した。

「流石は神の遣いたる九峪様。あれほどの魔人をこうも呆気なく倒されるとは、この伊雅感服致しました!」

「…………」

伊雅は、九峪から何の返事もないので、怪訝に思い九峪に尋ねる。

「あの、九峪様? どうかなされたのですか?」

九峪は、伊雅が自分に話し掛けているのにやっと気づき、伊雅のほうへ顔を向ける。その時には既に目の色は元の色に戻っていた。

「あ? あ〜別に……なんでもない」

「そうですか……」

九峪と伊雅が話している最中、星華達や、伊万里達は、先程の伊雅の発言について話し合っていた。

「ねぇねぇ伊万里、神の遣いって?」

「さあ、わからないな」

「亜衣姉様、あの人はいったい……」

「いや、私にもよくわからん…………」

「ねえねえ、お姉ちゃん、変なのが浮いてるよ」

「こら、変なのとはなんだ、あぁそんなに銅鏡を振り回さないで」

そこには何時の間にか羽江とキョウも交じっており、銅鏡を羽江が振り回している。そんな様子で、各人がばらばらに話し始めてしまい収拾がつかなくなってきた。九峪はそんな皆に気づき、全員に向かって口を開く。

「皆、今は早く此処から離れないか? もう敵は居ないと思うが、何時までも此処にいるわけにはいかないだろ?」

九峪の声に皆が反応しぴたりと喧騒がやむ。続けてキョウが口を開く。

「そうだね、ねえ伊雅、まずは場所を変えようよ。後からちゃんと説明するからさ」

「そうですな、しかし、どこへ?」

伊雅が考え込んでいると伊万里がそっと手を挙げた。

「あの……ここから西へ少し行った所に、昔の砦跡があります。獣を防ぐことも出来ますし、高台にあるので周囲の見晴らしが利きます。多少の敵なら食い止めるぐらいは可能ですし……いかがでしょう?」

「そうか。よし、では、そこへ移動しよう」

そう言いながら伊雅が頷いた。

「よろしいですかな、九峪様、キョウ様」

「ああ、分かった」

「いいよ」

「では、急いで出立の支度をせねばなりませんな」

伊雅がそう言うと、皆急いで支度を始めた。その間に、九峪とキョウは皆から少し離れたところまで行くと、話し始めた。

「キョウ、あの娘はどうだった?」

「うん、やっぱり持っていたよ」

「そうか、じゃあ着いたら天魔鏡を覗いてもらうか。ちゃんと説明してからな」

「うん、分かったよ」

キョウとの話を終えると、ちょうど伊雅が声をかけてきた。

「九峪様、キョウ様、支度が整いましたので参りましょうか」

「ああわかった」

「うん」




九峪達は歩き始めて三時間程で砦跡に到着した。到着した後は、今日はもう日が暮れるということで、互いの自己紹介だけで済ませた。その時、伊雅が元副国王ということに伊万里達が驚いたり、九峪が「神の遣い」と紹介され、皆は廃神社での魔人を倒した時の事を思い出し納得する。そして、九峪から明日までは各自休むようにという言葉を聞き、それぞれ別れて行く。九峪とキョウも休もうと、部屋へ行く。部屋に着いた九峪は炎の御剣を床に置き、キョウに話し掛ける。

「じゃあキョウ、あの伊万里っていう娘のこと……」

「うん、わかってるよ。じゃあちょっと呼んで来るね」

「頼むわ」

キョウは伊万里のいる部屋へ飛んでいく。そして数分後、キョウと共に、困惑した顔をした伊万里が、九峪の部屋に入ってきた。

「あの九峪様、何か御用でしょうか?」

「ああ、伊万里に話しておかなくちゃいけないことがあってね」

「話さなくてはいけない事? 何の事ですかそれは?」

いきなり呼び出されて、何の話かと思う伊万里に、九峪から信じられない事を告げられる。

「君は…………火魅子の資質を持っている」

「……………えっ!?」

いきなり告げられた事に、伊万里は唖然と固まってしまった。





あとがき 

どうも蒼獅です。第五話如何だったでしょうか?

今回は、意識が薄れたところから九峪君と九峪君の親父である紅希との出会いをお送りしました。紅希はオリキャラなのですが、これから九峪君に色々と教える事になりますので、出番はまだまだあります。

さて次回は、火魅子の資質を持っていると言われた伊万里がどのような決断をするのかをお送りします。

もし宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。

ではこれにて失礼させて頂きます。