火魅子伝 居場所 第6話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・キョウ・伊万里・上乃・仁清 J:シリアス)
日時: 08/27 10:25
著者: 蒼獅


九峪の言葉を聞いた伊万里は、暫く唖然としていたが、何かの間違いだと思い九峪に聞き返す。

「あ、あの九峪様? な、何かの間違いでは? ……私は山人なんですよ?」

「そう思うのも無理は無いよな。でもキョウが言うには、君は確かに火魅子の資質を持っていると言うんだ。そうなんだろ? キョウ」

「うん、間違いないよ」

九峪の側でフワフワ浮いているキョウが頷く。しかし、伊万里はいまだに信じられないような顔をしている。その顔を見た九峪は、側に置いてあった天魔鏡を手に取り伊万里に見せる。

「まあ、言われただけじゃあ信じられない気持ちもわかるよ。そこで、火魅子の資質を持っているということを証明する為に、この天魔鏡があるんだ。この鏡に映れば君は火魅子の資質を持っているということになる。試しに俺を映してみると……」

そう言って九峪が天魔鏡を覗き込む。鏡には九峪の顔は映っていなかった。

「えっ!? う、映ってない……」

「そう、火魅子の資質を持っていない者は、こうやって映らないんだ」

そう言って九峪は、天魔鏡を伊万里に渡す。

「じゃあ伊万里、覗いてみてくれるか?」

「…………はい」

伊万里は九峪から天魔鏡を受け取り、緊張した面持ちで覗き込む。

「!!!」

「その様子だと映ったみたいだな」

伊万里の驚愕した表情を見た九峪はそう判断する。そして、伊万里から天魔鏡を受け取ると、驚愕して固まっている伊万里に話し掛ける。

「伊万里、俺が伊万里だけに教えたのは、伊万里に選んでもらう為なんだ」

九峪の言葉に、伊万里は顔を上げて九峪を見つめる。

「私に……選ばせる為?」

「そうだ。伊万里が火魅子候補になると言うのなら明日の会議で皆に話すし、もしならないのなら皆には話さない」

伊万里は、九峪が選ばせると言ったことに意味がわからず問い掛ける。

「な、何故そのような事を? 九峪様が命令すれば私は…………」

そう言う伊万里に九峪は……。

「俺が伊万里に命令したら伊万里は拒否できないだろ?」

「!!」

「だから選んでもらうのさ。まあ、あまり時間的猶予はあげれないが決まったら俺に教えてくれ」

「…………わかりました」

伊万里は、重い足取りで九峪の部屋から出て行く。

「…………ふうっ」

「ねえ九峪、どうして伊万里に火魅子候補になれって言わなかったのさ? 九峪が言えば……「なあキョウ」……なに?」

「彼女は今まで山人として暮らしてきたんだろ?」

「うん、確かそう言ってたね」

「俺は山人として暮らしてきた彼女に、火魅子候補になれって言って、仮になったとしても続けれないと思ったんだ」

「どうして?」

キョウは九峪の言葉の意味がよくわからない様だ。九峪は身体を起こし、答える。

「覚悟が足りないからさ。俺が言ったからやる。そんな言われただけでやる程度で、火魅子候補なんて勤まる筈が無い。それに、これから戦争で多くの命が失われる。その時に、失われた命の重圧に耐えられるわけが無い。最初は何とかなるかもしれないが、どんどん戦の規模が大きくなり失われる命が増える。そして、もし遺族から恨まれるような事になったら……。そんな時、覚悟が無い伊万里が耐えられるとは俺には思えないからさ」

「そう……そういうことか。だったら九峪、君は……」

九峪の言いたい事を理解したキョウは、だったら九峪はと思い尋ねる。

「俺は…………お前に耶麻台国の復興を手伝うと決めた時から覚悟は出来ている。(それに……紅希の事もあるしな)」

「!! 九峪……ありがとう(そして、ごめん)」

九峪は、紅希との出会いの事を思い出す。自分とこの世界の間には何か関係があるのかもしれないと薄々感じていたが、まさか自分がこの世界の住人だとは思いもしなかった。内心そんな事を考えている九峪を他所に、キョウは自分が頼んだ事に、九峪がここまで考えていてくれた事に感心し、感謝するのと同時に、心の中で謝罪する。何故なら、そもそもの原因が自分にあるからだ。

「じゃあ九峪、僕はもう休むよ」

「ああ、わかった」

そう言ってキョウは天魔鏡の中へ入っていく。九峪は、床に置いてあった炎の御剣を手に取り呟く。

「伊万里の事は一先ず置いといて……(紅希の所へ、紅希の所へ、紅希の所へ……)」

心の中で念じる九峪だが、突然炎の御剣の刀身に刻まれている文字が輝きだした。

「なっ!?」

驚愕と共に九峪の意識は薄れていった。





「こ、ここは……?」

九峪は気がつくと何故か戦場の様な場所に立っていた。辺りには、異形の形をした者や、翼を生やしている者、普通の人間のような者まで、数万以上の単位で死体がゴロゴロと転がっている。

「な、何なんだ此処は? それにこいつ等はいったい……」

九峪は目の前の光景に口元を押さえて呟く。そんな九峪の元に、物凄い爆発音が聞えてきた。九峪は何事かと思い爆発音がした方向へ顔を向けると、そこには一組の男女が数万の死体が転がっている荒野で、大勢の異形の者と戦っていた。



彼らの力は強大で、男が剣を一振りするだけで数百の異形の者が斬られ動かなくなり、女が小さな炎の塊を敵に放つと、物凄い大爆発を起こし数百の異形の者が消滅していく。異形の者達は、その光景に一瞬怯むが、再び彼らに向かって突き進む。

 九峪は、その光景を唖然と見ていた。異形の者達の力は決して弱くはない。九峪達が倒した魔人よりも遥かに強い。しかし、そんな異形の者達を相手に赤子の手を捻るように次々と倒していく二人に、九峪は驚愕していた。

(な、なんて強さだ! それにあの剣は俺が持っている剣と同じ……ということは……あれは……紅希?)

 九峪がそんなことを考えていると、突然辺りが輝きだし、眩しさで目を閉じた。




目を閉じていた九峪が目を開けると、元の場所に戻っていた。

「……何だったんだ今のは? もしかして今のは…………この剣の記憶みたいなものなのか?」

九峪は、炎の御剣を見つめて呟く。

(もしさっきのがこの剣の記憶だったら……。紅希に聞いた方が速いな)

九峪はそう考え、再び紅希の所へ行こうと念じようとすると、部屋の外から声が聞えてきた。

「九峪様、伊万里です。入ってもよろしいですか?」




―時間は少し遡る―

九峪とキョウから火魅子の資質があると言われた伊万里は、重い足取りで自分の部屋まで戻ってきた。

「あ、伊万里お帰り。キョウ様に呼ばれたみたいだけどなんだったの?」

上乃が帰ってきた伊万里に声を掛けるが、

「…………上乃」

伊万里は暗い顔を上乃に向ける。そんな伊万里の様子を怪訝に思いながら上乃は問い掛ける。

「如何したの伊万里? まさか何かされたの!?」

「いや何にもされてない。ただ話をしただけだよ」

「そっか。で、何の話だったの?」

上乃は伊万里に問い掛けるが、伊万里は暗い表情のまま呟く。

「私が火魅子の資質を持っているって話」

「へぇ〜…………って、う、嘘でしょ伊万里!?」

「いや本当だ。天魔鏡っていう火魅子の資質を持つ者しか映らない鏡に、私の姿が映ったんだ。試しに九峪様にも覗いてもらったけど映らなかった」

上乃と静かに聞いていた仁清は、伊万里の言葉に沈黙する。暫くして、上乃が伊万里に問い掛けてきた。

「じゃ、じゃあ伊万里は星華様みたいに火魅子候補になるの?」

「九峪様が明日の会議までに考えておいてくれって言ってからまだ決めてない」

「え? 何で九峪様はそんな事を?」

「それは、私に選ばせる為だって言ってた。俺が命令したら拒否できないだろ? って言って……」

「そ、そうなんだ…………」

三人の間に沈黙が流れる。そして伊万里が縋る様な目で上乃と仁清を見つめる。

「なあ、上乃、仁清、私は如何したらいい? 如何すればいい? ……私にはわからない……耶麻台国を復興させたいとは思っていた。でもそれは山人としてであって、火魅子候補としてなんて……」

伊万里はそう言いながら肩を震わせる。そんな伊万里の様子に、上乃と仁清は何と言っていいかわからず黙っていたが、やがてお互い顔を見合わせ頷くと、伊万里に話し掛ける。

「(伊万里は王族…………でも…………)伊万里、私は伊万里がどっちを選んでも伊万里の側にずっと居るよ。たとえ生まれが王族でも、今まで私達と一緒に過ごして来た時間が消えるわけじゃないし……ね! 仁清」

「うん。僕も上乃と同じ、伊万里の側に居るよ」

「上乃……仁清…………」

伊万里は二人の言葉に涙を流す。そんな伊万里に、上乃がちょっとふざけた口調で……。

「それに、伊万里が火魅子候補になって、もし火魅子様になったら私達も鼻が高いし……」

と言って、笑う上乃に伊万里は……。

「ああ、二人が一緒に来てくれれば火魅子候補もちゃんとやっていけると思う。二人ともこれからもよろしく頼む」

と二人に満面の笑みでそう答えると、二人も嬉しそうににっこり笑う。 

「じゃあ、これから九峪様の所へ行って来るよ。“火魅子候補になる”って言いにね」

「「いってらっしゃい伊万里」」

そう言って伊万里は部屋から出て行く。上乃と仁清は、そんな伊万里を笑顔で送り出す。この一件により、三人の絆は更に強くなっていくのだった。

一方九峪の部屋の前まで来た伊万里は、一度深呼吸して、声を掛ける。

「九峪様、伊万里です入ってもよろしいですか?」






「九峪様、伊万里です入ってもよろしいですか?」

「…………あ、ああ、どうぞ」

「失礼します」

部屋の外から聞えてきた伊万里の声に、九峪は紅希の所へ行くのを止める。そして、まだそれほど時間が経っていないのに来た伊万里を不審に思いつつも、伊万里を招き入れる。

「どうしたんだ伊万里、さっき出て行ったばかりなのに……まさか、もう決めたのか?」

九峪は、招き入れた伊万里を座らせると、そう尋ねる。そして、尋ねてきた九峪に、伊万里は真剣な表情で答える。

「はい。私がどちらを選んでも着いて来てくれると言った上乃と仁清の為にも、そして私が火魅子候補になる事で九洲の民が少しでも速く救われる事が出来るのなら、私は火魅子候補になります」

そう言いながら、真剣な表情で自分を見る伊万里の目元が赤いのがわかった九峪は、これなら大丈夫と思いながら確認するように伊万里に話し掛ける。

「わかった。だが、これから戦が始まり、多くの部下の命が伊万里の肩に重く圧し掛かるだろう。一度皆に言えば後戻りは出来ない。それでもいいのか?」

「はい。覚悟の上です」

九峪がワザと殺気を放ちながら伊万里に問い掛ける。しかし、伊万里は九峪の殺気を受けながらも九峪の目をしっかりと見つめる。その様子に九峪は頷くと、殺気を放つのを止め、すまなそうに伊万里に謝る。

「悪いな。本来なら知らないでいられた事なのに……俺とキョウの我儘につき合わせて……」

「いえ、いいんです。確かに知った時は、何故私が……と思いました。でも、上乃と仁清は私に着いて来てくれると言ってくれましたから……」

「……そうか。もし俺で相談に乗れるような事があったら言ってくれ。力になるから」

「は、はい。よろしくお願いします九峪様」

「ああ、こちらこそよろしく。じゃあ、今日はもうゆっくり休むといいだろう」

「わかりました。では失礼します」

九峪に深々と礼をして伊万里は九峪の部屋から出て行く。九峪は伊万里が出て行ったのを確認すると、ごろんと横になる。

(あの様子なら伊万里は大丈夫だろう……。今日は疲れたな……もう寝るか)

紅希の所へ行こうと思っていたが、体が予想以上に疲れている事に気づき、行くのを止める。そして九峪はゆっくりと瞼を閉じ、眠りについた。







あとがき 

どうも蒼獅です。第六話如何だったでしょうか?

今回は、九峪から火魅子の資質があると言われ悩む伊万里の事を自分なりに考え書いたのですが……如何だったでしょうか? 中々今回のような“悩み”というのは書くのが難しいと思いました。

次回は、会議の様子と、ある人達が登場する様子をお送りします。

また、宜しければ感想掲示板に意見や指摘、感想などをお願いします。

ではこれにて失礼させて頂きます。