火魅子伝 居場所 第7話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・キョウ・伊雅・清瑞・星華・亜衣・伊万里・上乃・仁清 J:シリアス)
日時: 09/03 11:10
著者: 蒼獅


―翌朝―

九峪達は砦跡に造られた天幕の中に集まっていた。そして、全員が座るのを確認した亜衣は、立ち上がって話し始める。

「では、今後の我々の方針について協議したいと思います。よろしいですか、キョウ様、九峪様」

そう言って亜衣が九峪とキョウの方を見る。

「ああ、だがその前にちょっと話したいことがあるんだが、いいかな?」

「あ、はい。わかりました」

「じゃあ早速、キョウ、天魔鏡に入ってくれ」

「うん、わかったよ」

九峪がそう言うと、キョウは天魔鏡の中に入っていく。キョウが入るのを確認した九峪は、皆に話し始める。

「この天魔鏡は、火魅子の資質を持つ女性しか映らないことは知っているだろ? 昨日は色々あって確認できなかったが、星華はまだ覗いて無かったよな? 覗いてくれるか?」

「は、はい……」

九峪はそう言って星華に天魔鏡を渡す。星華は恐る恐るといった様子で天魔鏡を受け取り、覗き込む。そこには、星華の安堵した顔が映っていた。

「ほっ……映りました」

「そうか、これで伊万里に続き二人目の火魅子候補だな」

九峪の言葉に亜衣が驚きの表情で九峪に尋ねる。

「えっ!? 九峪様、彼女が火魅子候補とは如何いうことですか?」

「俺が説明するより実際に見てもらった方が早い。伊万里覗いてくれるか?」

「はい。星華様さん貸して頂けますか?」

「え、ええ……」

星華は、急な展開についていけず、差し出された伊万里の手に天魔鏡を渡す。受け取った伊万里は、ゆっくりと覗き込む。

「映りました」

「なっ!? ほ、本当に映った!?」

九峪、キョウ、伊万里、上乃、仁清を除く面々が、驚愕した顔で伊万里を見つめている。伊万里は自分を見つめている皆に、自分の思いを語り始めた。

「私が火魅子の資質を持っていると知ったのは、昨日此処へ着いて、九峪様から言われて時でした。最初は私自身信じられませんでしたが、先程のように天魔鏡に映り本当だとわかりました」

伊万里はそこで一旦区切り、再び話し始める。

「私は今まで山人として生きてきました。だから私に星華さんの様な王族としての立ち振る舞いなどは出来るとは思っていません。でも、そんな私でも復興の役に立つなら、そして、私が火魅子の資質を持っていると知っても私に着いて来てくれると言ってくれた、上乃と仁清の為にも私は火魅子候補になろうと思いました。至らぬ私ですが、これからよろしくお願いします」

伊万里はそう言うと皆に向かって頭を下げる。それと一緒に、上乃と仁清も頭を下げた。

「こ、こちらこそ、よ、よろしくお願いします」

頭を下げられた皆は慌てて頭を下げる。

「さて、これで俺からは以上だ。亜衣先に進めてくれ」

皆が頭を下げあっているのを見ていた九峪がそう言って先を促がす。九峪の言葉を聞いた亜衣は、頭を上げて、話し始める。

「では、先程も言いました今後の方針について……「あ、亜衣ちょっといい?」……なんでしょうキョウ様?」

「うん、これからの事を決める前にまずはこの復興軍の最高司令官を決めたいと思うんだけど、どうかな?」

「そうですね。やはりここは伊雅様にお願いしたいのですが……「それは出来ん」……何故ですか伊雅様?」

「神の遣いである九峪様を差し置いて、そのような事は出来かねる。それに、わしは一軍を率いて戦う事こそが自分の本分だと思っておる。ゆえにわしは辞退させていただく」

伊雅がそう言うと、キョウが話し始めた。

「あのね、僕は九峪がいいと思うんだ。ほらこの先、伊雅も言ったように、火魅子候補もそれぞれの軍を率いて戦うでしょ? やっぱり全軍の司令官にはそう言う立場を超越した人物がいいと思うんだ」

キョウがそう言うと、九峪を見つめる。だが九峪は内心では……。

(あ〜面倒だな〜)

なんて事を考えているが、実際伊雅がやらないのであれば、自分がやるしかないだろうとは予想していた。もし火魅子候補が一人であればやらなかったが、複数居る事で組織に亀裂が走る事は目に見えていたからだ。だから九峪は黙って皆を見ていた。

「九峪様、耶麻台国復興の為、我々に九峪様のお力をお貸し願いたい。つきましては、我らの最高司令官になって頂けませんでしょうか?」 

皆を代表して伊雅がそう言って頭を下げる。他の者も伊雅に続いて頭を下げる。

「皆、顔を上げてくれ」

九峪がそう言うと皆顔を上げて九峪を見つめる。皆を見ながら九峪は話を続ける。

「俺は確かに耶麻台国の復興の為に遣わされた神の遣いだ。だけど耶麻台国の復興を成し遂げるのは、君達九洲の民自身の手でやらなくてはならない。他人の力を借りて復興しても意味が無いしな」

その言葉を聞いて全員がはっとなる。皆困った時や危なくなったらあの廃神社の時のように何とかしてくれると心の何処かで思っていたからだ。

九峪の言葉に全員顔を俯かせるが、九峪は更に続ける。

「別にそんな顔をしなくていい。だだお互いに出来る事を協力してやっていけばいい。そうだろ?」

と言って九峪は微笑む。九峪の言葉に皆が笑顔になって九峪を見つめる。

「さて、じゃあ亜衣、今日の本題へ入ろうか」

「はい、九峪様」

九峪に言われた亜衣は、全員を一度見渡し話し始める。

「では、今後の我々の方針について……………」




 
それから暫く話し合いが続き、結果二つの意見に別れた。

一つは、このまま一気に東火向を北上するという意見。もう一つは、南火向を押さえ後方の安全を確保して、西火向と東火向の二手に分かれて北上するという意見。

この二つの意見は、前者に亜衣、それに賛成する伊万里、後者は伊雅、それに賛成する星華、とそれぞれの意見は平行線を辿っていた。

九峪はその様子を見て、小声でキョウに話し掛ける。

「なあキョウ、何で皆地図を使わないんだ?」

「この時代、正確な地図なんて作れないんだ」 

「そうか…………」

キョウの話を聞いた九峪は、皆に聞こえるように話し出す。

「あ〜ちょっといいかな? さっきキョウから聞いたんだけどさ、会議をする時に地図を使おうとか考えた事ってある?」

「えっ!? 地図ですか?」

「その様子だと無いみたいだね。じゃあちょっと会議は中断ね」

そう言って九峪は、キョウと話し合いながら地図を書いていった。

「ま、こんなもんか……どうだ? これならわかりやすいだろ?」

「おお!! 素晴らしい!」 

「す、凄い……」

皆が尊敬の眼差しで九峪を見つめる。九峪は皆の視線にちょっと照れながら笑うが、すぐに表情を引き締め話し始める。

「じゃあ、この地図を見て後方の安全とかって要ると思う? それに、俺達はあの時狗根国の部隊を全滅させたから、まだ狗根国の連中は俺達の事を知らないはずなんだ」

「でしたら、後方の安全を……「その後方の安全を取るために戦ってそれが狗根国の連中に知られたら如何すんの?」……うぅ〜……」

伊雅がそう言われて唸る。九峪は更に言葉を続ける。

「だから北上して国都を目指す」

その言葉に亜衣の表情がぱぁと明るくなった。しかし九峪は更に続ける。

「けどその前に、準備期間としては短いけど三週間。三週間というのは、いくら俺達の事が知られていなくても、狗根国が送り出した部隊からの報告が途絶え、その事を国都に居る連中が知るまでの時間だと思っている。もしかしたら、それ以上の時間的猶予があるかも知れないが、逆に、三週間以上もこの砦跡にいても人を収容する事が出来なくなるかもしれない。そう言う事で、三週間の間に来る限り、兵力、兵糧、武器や防具を集める。それと、各地に潜ませている耶麻台国縁の者にはそれに加え、近くの街等の情報も調べていおてもらおう。伊雅、俺が言ったような内容の文を耶麻台国縁の者に送ってくれ。その間にこの辺の街の情報は清瑞に調べてもらおうと思うのだが、いいか?」

そう言って九峪は清瑞を見つめる。真剣な表情で見つめられた清瑞は、頬を若干赤らめながら答える。

「え、ええ、もちろんです。九峪様」

「頼んだ。戦で一番大事なのは正確な情報だ。だから清瑞にはこれから色々な街の情報を探ってきてもらう事になるが、清瑞一人では到底無理がある。だから清瑞、お前はこれから乱破の育成をしてほしい。清瑞まではいかなくても、清瑞の足手纏いにならないくらいの乱破を大勢育ててくれ。時間が掛かるがそれについては気にしなくていい。負担が掛かるができるか?」

「はい、九峪様のご命令ならば」

「ありがとう、清瑞」

清瑞ににっこり微笑みながらそう言って、今度は星華と伊万里の方へ話し掛ける。

「じゃあ、星華と伊万里はそれぞれ近隣の村や、縁のある者達に声を掛けて志願兵を募ってくれ。狗根国にはまだ知られたくないからその辺の事も考えて集めてくれ」

「「はい、わかりました」」

九峪の言葉に星華と伊万里は声を揃えて答える。そして次に亜衣に話し掛ける。

「あと亜衣」

「なんでしょうか?」

「あの、飛空挺だったか? あれは方術使いしか乗れないのか?」

「はい。風を方術で操る事が必要なので…………」

「そうか、じゃあ方術士なら乗れるんだよな?」

「ええ、多少訓練が必要になるかと思いますが乗れます」

「じゃあ方術使いの人たち全員が飛空挺に乗れるように訓練しといてくれ。あれは此方にとって大きな戦力となる」

「はい、わかりました。しかしあれを作れるのは羽江だけですので、人数分作るのは時間が掛かりますがよろしいでしょうか?」

「それは仕方ないな。出来る限りでいいからやってくれ」

「わかりました」

九峪はそう言うと最後に伊雅に話し掛ける。

「伊雅には此処に来た志願兵の育成を全般的に任せたい、いいか?」

「もちろんです九峪様」

「頼んだ」

そして今度は皆に向って話し掛ける。

「よし、大体やる事はわかったな? これからやることが沢山あるが、これを怠る事は決して許されない。いいな!」

「はっ!!」

「じゃあ、それぞれ準備に取り掛かってくれ」

その言葉と共に、各人が慌しく動き始めた。





―九峪達が砦跡に来てから八日後―

九峪達、耶麻台国復興軍は着々と準備を整えていた。しかし、そこで九峪が懸念していた一つの問題があった。

「このままでは武器や防具なんかの数が足りなくなるな……」

九峪が自室でそう考えていると、外から声が聞えてきた。

「九峪様、亜衣です。入ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、どうぞ」

「失礼します」

亜衣は九峪の部屋の戸を丁寧に開け、九峪に一礼してから話し始めた。

「九峪様、先程清瑞が外で乱破の育成の訓練をしていた時に、此処ヘ向っている一団があると報告してきました。狗根国の者では無いようでしたので、清瑞が話を聞いたところ、その一団は耶麻台国に武器を売りに来た武器商人という話です」

「武器商人? ふ〜ん……で、今その一団は何処にいるんだ?」

「はい、今は外で待ってもらっています」

「そうか……じゃあ、その武器商人の所へ連れて行ってくれ」

「わかりました。ではご案内します」

そう言って、亜衣と九峪は立ち上がり、その武器商人が待っている場所へ案内してもらった。




武器商人が待っている場所へ案内してもらうと、そこには十五、六歳の少女と、物凄い背の高い男が座っていた。九峪は何も言わずに亜衣に先を促がす。亜衣は頷くと、二人に話し始める。

「只深殿、此方が我が耶麻台国復興軍の総司令官にして神の御遣い、九峪様です」

その言葉を聞いた二人は慌てて平伏する。そして、只深と呼ばれた、ピンク色の髪をした十五、六歳の少女が話し始めた。

「あ、う、うち……じゃない、私がこの隊商の頭をさせて頂いてます只深いいます。よろしゅ……じゃなくって、よ、よろしくお願いします。神の遣い様」

只深は何故かかなり焦っているようだった。

「ああ、よろしく。で、早速なんだけど、どうして俺達に武器を売ってくれるんだ? 今なら普通狗根国に武器を売った方が儲かるんじゃないか?」

九峪は、疑問に思っていたことを二人に聞く。すると、只深がばっと顔をあげ物凄い勢いで話し始めた。

「いや〜実はですね……此処ヘ来る前にある村に寄ったんやけど、そこで狗根国に酷い目に合わされてましてな。せやから狗根国の奴らに武器を売るなんて嫌やし、どないしょ〜かとこの辺を歩いていたらなんかこの砦跡に、えらい人が集まっとんのが見えたんですわ。せやから、行ってみよ思たら……清瑞さんでしたっけ? 彼女に止められましてな、彼女に事情を話して武器を売りたいって言うたら此処で待つように言われたんですわ」

そんな只深の話を聞きながら九峪は内心……。

(何故関西弁なんだ?)

なんてことを思ったが、今は武器の事を聞かなくてはと思い只深に問い掛ける。

「話は大体わかったが、俺達は今準備中で金を全く持っていない。だから武器を買おうにも買えないんだ」

九峪がそう言うと、只深はにっこりと笑顔で……。

「それでしたら、ある時払いで構いまへん。さらに、今後もお引き立てしてくれはる言うなら、今持ってきている武器や防具、兵糧を寄付させて頂いても結構でっせ」

と答えてきたので、九峪がどれぐらいあるか聞いてみると、かなりの数があり、九峪と亜衣は驚いて顔を見合わせていたが、只深から白銀の剣もあると聞き更に驚いた。結果、九峪は只深達からある時払いでいいという事で武器を買うこととなった。

「あ、それと九峪様にご紹介したい人達がおりますねん。お〜い、紅玉はんと、香蘭はん」

只深の声に、チャイナ服を着た二人が此方へ近づいてくる。

「只深殿。何か御用ですか?」

「ええ、お二人の事も九峪様にご紹介しようかと思って」

只深から話を聞いた紅玉は此方に向き直り、優雅に一礼する。

「初めまして九峪様。私の名は紅玉、此方は私の娘の香蘭です」

母親が九峪に一礼するのを見ると、慌てて香蘭も一礼する。

「こちらこそ初めまして。俺の名は九峪。聞いたと思うが耶麻台国を復興するために遣わされた神の遣いだ」

「お〜〜〜い。九峪ぃ〜〜〜〜」

その時、キョウが此方に向って飛んで来た。その後ろには、伊雅と清瑞が天魔鏡を持ってこちらに向ってきている。

「どうしたんだキョウ? そんなに慌てて」

「九峪! ひ、火魅子の資質を持つ娘がこの近くにいるのを感じ……た……ん……」

キョウは九峪にそう言っている途中に、只深と香蘭の方を見て、口をパクパクさせた。

「どうしたんだよキョウ?」

「く、九峪その娘達を天魔鏡に映してくれない?」

「あ? ああ。只深、香蘭ちょっとこの鏡を覗いて見てくれないか?」

「はぁ……わかりました」

只ならぬキョウの様子に、九峪は言われたまま伊雅から天魔鏡を受け取り、只深に渡す。そして、九峪に言われるがまま、只深が鏡を覗くと、そこには只深の顔がはっきりと映し出された。驚愕に目を見張る九峪達をよそに、只深は何が何だかわからないような顔をしている。それに気づいた九峪が只深に話し掛ける。

「只深。詳しい話は後からするからちょっと待っていてくれ」

「はぁ、わかりました」

「じゃあ次、香蘭覗いてみてくれ」

「わかたよ」

そう言いながら香蘭が鏡を覗くと、先程の只深と同じようにはっきりと香蘭の顔が映し出された。

「やったね九峪!! これで四人も火魅子の資質を持つ者が此処に集まったんだ」

「……そうだな。それはいいんだけどさ」

「ん、何? ……ああ。僕の名前はキョウ。その鏡、天魔鏡に宿る精さ」

キョウは自分に集まる視線をやっと理解し、そう言う。その言葉を聞いた只深達は目を丸くして驚く。いきなり飛んで来た変な生き物が、精霊だと言うのに対し、この位の驚愕で済むのは凄い事だろう。実際、志願兵として密かにこの砦跡に来ていた耶麻台国縁の者や、近くから来た者達は、額を地面に擦りつけるようにして叩頭している。

(ああ、僕って本当はこんなに凄いのに……)

キョウはそんな事を思うが、キョウを見慣れている九峪達は、そんなキョウを無視して紅玉と香蘭の話しを聞いていた。



紅玉と香蘭の話を要約すると、紅玉と香蘭は耶麻台国復興をする為にこの地へ来たということだ。その途中に只深達と知り合い、共に行動して此処まで来たらしい。そして、紅玉の今は亡き夫が耶麻台国の王族であるということ。これは証拠として持ってきた物を伊雅が確認し、間違いなく王族という事が判明した。ちなみに香蘭が火魅子の資質を持っていたことは知らなかった様だ。

そしてこの後、幹部にも只深達の事を紹介して、その日の夜は歓迎の宴会がささやかながら行われた。





あとがき

どうも蒼獅です。第七話如何だったでしょうか?

廃神社での戦闘で狗根国の一団を全滅させたので、時間的猶予と狗根国に此方の存在を知られていないということで只深と伊部、紅玉、香蘭親子を登場させました。原作(小説)とは違い、当麻の街を攻略するまえに彼等が復興軍に加わる事で当麻の街をどうやって攻略していくのか……というのはもう少し先です。

次回からは、九峪君が強くなる為に修行をする様子をお送りします。まずは紅希の所へ行き修行をする様子をお送りしようと思います。さらに、九峪が紅玉、香蘭と戦う様子や、九峪が星華に方術を学ぶ様子などもお送りしたいと思っています。

宜しければ感想掲示板に意見や指摘、感想などをお願いします。

ではこれにて失礼させて頂きます。