火魅子伝 居場所 第8話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪×紅希 J:シリアス)
日時: 09/10 10:27
著者: 蒼獅


―九峪達が砦跡に来てから九日後―

九峪は紅希と出会った場所、言わば自分の“精神世界”というような場所に来ていた。

現在、九峪の前には紅希が座っており、先程から自分の話を聞いてもらっている。話の内容は、以前此処へ来ようとする時に見た、炎の御剣の記憶の様なものの事だ。

「………………って事があったんだけど」

「う〜〜ん。多分記憶であってるぞ。確かに俺と姫由希で戦った覚えがあるし……」

九峪は、紅希が大した事じゃない様に言うので、溜息を吐きながら呟く。

「はぁ〜……そうか」

「ん? どうした?」

紅希が九峪にそう尋ねる。

「いや。紅希が、俺達が戦った魔人の事を雑魚って言った事に納得が言ったって事さ。あれだけの魔人を相手に圧倒して戦う姿を見せられたら……なぁ」

「なぁって言われても……。あれは俺が炎の御剣の力を引き出せていたから出来た事であって、お前も引き出せるようになったらあれくらい出来るようになるぞ」

「あれくらいって(汗)……凄すぎだろ? それに姫由希の方もあんなに凄いなんて……」

「まぁ姫由希は方術を使うのが本職だからな。それにお前はあいつの血も引いているんだから方術も使えるはずだぞ」

「そうなのか? だったら星華にでも教えてもらうかな」

「そうしろ。俺じゃあ方術は教えられないからな。じゃあそろそろ始めるぞ」

「ああ。で、何をするんだ?」

九峪は紅希が立ち上がるのを見ると、自分も立ち上がりそう尋ねる。

「まずは、今のお前の実力がどのくらいの物かを見させてもらう。その後は……まぁ戦ってから決まるわ」

「何か、てきとうだな?」

「………………始めるぞ」

「何か妙に間があいたが?」

「気のせいだ。そんな事よりも……」

紅希は九峪の言葉をはぐらかす様に炎の御剣を構える。九峪は釈然としないものの、紅希と同じ炎の御剣を構える。

ちなみに、何故炎の御剣を二人とも持っているのかと言うと、精神世界の中なので想像すれば創れるからだ。

「すぐに殺られるんじゃないぞ」

その言葉と共に、九峪に紅希の氷のような凍てついた強烈な殺気が放たれる。

「くっ!(なんて殺気だ! くそ動け俺の体!)おぉぉぉっ!」

九峪は、紅希の殺気に気圧されながらも何とか気合の声を上げて体を動かし、そのまま紅希に向かって行った。





―約十分後―

「はぁはぁはぁはぁ…………」

「まぁ、こんなもんか」

九峪は荒い息を上げながら大の字に横たわり、紅希はそんな九峪の様子を見ながら呟く。

「はぁはぁ……こんなもんって……」

九峪は紅希の言葉に落ち込むが、紅希は何を当然と言った顔で答える。

「当たり前だろ。俺とお前では戦闘経験が違いすぎるし、炎の御剣を使いこなせる俺と、全く使いこなせていないお前、俺が勝つのはわかっていたんだ。で、戦った感想だけど……ギリギリ及第点と言ったところかな」

「はぁはぁ……まじかよ……」

紅希の言葉を聞いて九峪は唖然と呟く。先程の戦いは、九峪にしてみれば手加減なんて一切せず、本気で戦ったのだ。しかし先程の戦闘を思い返してみると、紅希に一太刀入れることが出来ないばかりか、紅希をその場から動かす事さえ出来なかったのだ。これでは及第点と言われても仕方が無いだろう。

「そう落ち込むことも無い。前にも言ったようにお前の体はこの世界に適合していないんだからさ」

落ち込んでいる九峪を見かねた紅希がそう言うと、九峪は顔を上げて紅希に尋ねる。

「じゅあさ、俺の体は何時になったらこの世界に適合するんだ?」

「さぁ……前例が無いからわからないが……多分何年も掛かるなんて事は無いと思うぞ」

「……そうか……」

九峪は紅希の答えにそう呟く。

「まぁ、わからんものはわからんさ。それより、これから俺が炎の御剣の“力”の説明をするからよく聞けよ?
炎の御剣は身体能力の大幅な上昇と浄化の炎を出す事が出来る。俺があの魔人を斬った後の青白い炎。あれが浄化の炎だ。要するに炎の御剣は魔人や魔獣の様な魔の者には極めて絶大な威力を誇るのさ」

「へぇ〜あの時の炎か……。俺にも出来るのか?」

「ああ。ただ、訓練と炎の制御が出来る様にならないといけないけどな」

「そうか」

九峪は、炎の御剣の力が自分にも使えると知って内心喜んでいた。

「さて、まずは身体能力を上げる方法なんだけど……。雅比古」

「ん?」

「あの時、俺が炎の御剣を取り出すために炎の中に腕を入れた時の事を覚えているか?」

「ああ」

九峪はそう言われて、紅希が天の炎を包んでいる炎の中に腕を入れた時の事を思い出し頷く。

「あの時、なぜ腕が燃えなかったかわかるか?」

「う〜ん……もしかして、あの炎を制御していたからか?」

「そうだ。つまり、身体能力の上昇の方法とは、炎の御剣が吸収したあの炎を自分の力に変える事なんだよ」

「あの炎をか?」

九峪は、あの時の天の炎を包み込んだ時の炎の量を見ているので、確かにあれだけの炎の量を、自分の力に変えられたら身体能力は大幅に上がるだろうと考える。

そんな事を考えている九峪に紅希は更に続ける。

「それから、あの炎を完全に制御できる様になれば、俺のように魔人を一太刀で滅ぼす事も出来るし、炎の塊を打ち出す事も出来る。こんなふうに……なっ!」

紅希がそう言うと、炎の御剣から炎の塊が出現し、紅希が剣を振るうとそれに合わせて炎の塊が打ち出された。

「す、凄い……(この力があれば……)……」

九峪は、目の前で見せられた事に興奮しながら呟き、内心ではこの力を手に入れれば復興ぐらい簡単だと思う。
そんな九峪の内心を察したのか、紅希が、真剣な表情で話し始める。

「雅比古。今のような事が出来るようになっても、決して力に呑まれるなよ。もし、お前が呑まれたら俺は、お前の体を乗っ取り炎の御剣を天の炎の姿に変えて使えないようにするからな」

紅希はそう言い終わると、九峪に先程の戦闘の時よりも濃い殺気を放つ。その殺気に、九峪は顔を青褪めながらコクコクと頷く。その様子を見た紅希は殺気を放つのを止める。

「悪いな。だがこの力は使い方を誤れば取り返しのつかない事になる。そうならないために言ったんだ。わかってほしい」

「あ、ああ……俺の方こそゴメン。確かにこんな力、一人の人間が持っていて良いものじゃないよな」

「そういうことだ。力に呑まれた者の末路なんて良いものじゃないからな(そう、あいつのように……)」

紅希は、九峪にそう言いながら一人の男の事を思い浮かべる。嘗ての親友であり、力を追い求めすぎたが故に人としての道を外し、魔に落ちた者の事を……。

「……紅希?」

紅希は、九峪の声にはっと我に返る。少々物思いに耽っていたようだ。

「……何でもないよ。じゃあ早速炎を制御する修行を始めるか。まずは、炎の御剣から炎を出現させるように念じるんだ」

「わかった」

九峪は紅希の言葉に従い炎の御剣に念じる。すると、炎の御剣の刀身の文字の様なものが輝きだし、いきなり大量の炎が放出された。

「うわっ!」

「慌てるな! 炎を鎮めるように念じるんだ! (予想以上に多いな)」

九峪は、いきなり放出された炎に驚くが、紅希の言葉を聞き必死に放出され、あちこちに飛び回っている炎を鎮めようとする。

「くっ! こ、紅希! 鎮められないぞ!」

九峪が鎮まるように念じているのに、何時まで経っても炎は暴れまわるので、紅希に訴えるように叫ぶ。しかし、そんな九峪に紅希は突き放すような口調で話す。

「甘えるな! この程度の事で取り乱すんじゃない! お前の念じ方が悪いだけだ!」

「ぐっ! く、くそっ!」

紅希の冷たい言葉に、九峪は必死になって炎を鎮めようとするが、炎は一向に鎮まる様子を見せない。そんな時、紅希が更に追い討ちをかけるように九峪に向って怒鳴る。

「(こうなったら……)どうした? もう終わりか? はぁ〜情けない。まったく……強くなりたいとかほざいてた割にはすぐ力に呑まれそうになるし……この根性無しが!(そろそろ離れるか……)」

―ブチンッ―

「好き勝手な事ばっか言ってんじゃねえぞてめえ―――――!!!」

紅希の言葉にキレた九峪がそう叫ぶと、今まで必死に鎮めようとしても鎮められなかった炎が、一瞬にして九峪の持つ炎の御剣の元に集まる。そして刀身の文字のようなものが光ると、集まった炎を吸収し吸い込まれていく。そして、吸い込まれた炎が光になって九峪の体中に入っていく。すると……。

「おぉぉぉぉ―――!!!」

雄たけびと共に九峪の姿がブレる。

―ガキィ―――ン―

九峪の姿がブレた次の瞬間、金属同士の甲高い音が響き渡る。なんと、先程の一瞬で、九峪から百メートルほど離れていた紅希に、九峪が炎の御剣を振り下ろし、それを紅希が受け止めていたのだ。

「くっ(怒らす所まではよかったんだが……この力……予想以上だ)」

「はぁぁぁぁ―――!!」

紅希は、九峪の一撃を受け止めた時に感じた重さに、予想以上の重さを感じる。一方九峪は続けざまに炎の御剣を振るう。

「このっ……いい加減に……しろっ!」

九峪の猛攻を防いでいた紅希は九峪の懐に素早く入り込み、炎の御剣の腹の部分で九峪の腹部を打つ。

「ぐはっ!!」

その一撃で九峪は十メートルほど吹き飛ばされる。

「はぁ〜〜まったく。ちょっと挑発しただけですぐキレる。姫由希にそっくりだな」

紅希の一撃を受け、気絶している九峪を見ながら自分の妻の姿を思い出す。

「まぁあいつがキレた時に比べればまだまだ可愛いものか。キレたあいつはまさに無敵だったからなぁ〜」

紅希はそうしみじみと呟きブルッと肩を震わせる。どうやらキレた姫由希の事を思い出したようだ。

「……はっ。そうだ雅比古を起さないと……」

紅希は頭を振るとそう呟き、九峪の元へ近づいて行く。





「お〜い、起きろ〜」

紅希がそう言いながら九峪の頬をペチペチと叩く。

「う〜ん。……はっ……紅希……お、俺は何故寝ていたんだ?」

気がついた九峪が体を起こしながらそう呟く。すると九峪の肩にポンッと紅希の手が乗せられた。

「よくやったな雅比古。ちゃんと炎を扱えたじゃないか」

「え!? 本当か? 全然覚えてないけど……」

「(はぁ〜キレた時の事を覚えてないのか。こんなとこまで姫由希そっくりだな)じゃあ試しにやってみな」

「……わかった」

九峪は紅希にそう言われ、立ち上がると炎の御剣に念じ始める。すると、炎の御剣から先程のように勢いよく放出されたかと思うと、九峪の念じたように刀身の文字に炎が吸収され、光となって九峪の体の中に入っていく。

「こ、これは……力が溢れてくる……」

九峪は、自分の体に信じられない程の力が漲ってくるのを感じ、唖然と呟く。そんな様子の九峪に紅希が話し掛ける。

「だから言ったろ? 扱えるようになったって」

「ああ。でも如何して……」

「自分では覚えていなくても体が覚えたんだよ。これで身体能力の向上については一応終了だ。ということで今日は終わるぞ」

「ああ、わかった」

九峪は紅希の言葉に頷くき帰ろうと念じ始めると、紅希が九峪に話し掛ける。

「あ、それと、次に此処ヘ来るのは大分先になるぞ」

「え? 何でだ?」

九峪は全くわかっていない様子で紅希に尋ねる。

「あのな、今お前は初めて炎の御剣の力を使ったんだぞ。今は精神体だから疲れないだろうけど、肉体の方が限界なんだよ。だからゆっくり休む事。いいな! それに、お前は他にもやらなくちゃいけない事があるだろ?」

「ああ、わかったよ。じゃあ戻るわ」

「ああ」

九峪は、紅希の言葉に頷くと念じ始め、暫くするとフッと姿を消す。そんな九峪を見送ると、紅希は深い溜息を吐く。

「はぁ〜〜〜〜〜俺の言った意味が本当に分かっていたのかな? まぁいいか。今頃悲鳴を上げてる頃だろうしな」

紅希はそう呟くと自分もフッと姿を消した。






紅希がそんな事を言っていた頃、現実世界に戻った九峪は紅希の言ったように悲鳴をあげていた。

「う〜〜〜〜〜痛って〜〜〜(何でこんなに痛いんだ? 肉体の限界ってこの事なのか?)う〜〜〜〜」

九峪は全身を襲う痛みに呻き声を漏らす。

(くっそ〜〜〜。もっとちゃんと教えろよ! 紅希の奴〜〜〜!!)

九峪は、全身を襲う痛みに耐えながら、紅希を恨む。すると、何故か満面の笑みを浮かべて親指を立てている紅希の姿が見えた様な気がした。

(はっはっはっ、頑張れ〜〜〜〜)

(くっそ〜〜〜〜〜紅希の馬鹿野郎―――――!!)

痛みの余り声が出せない為、心の中でそう雄たけびを上げるしかない九峪であった。







あとがき

どうも蒼獅です。第八話如何だったでしょうか?

炎の御剣の“力”の事は私の完全なオリジナルです。なので、ご不満や、反則だろとか、こんなのおかしいだろ、等と思う方もいらっしゃるかと思いますが、ご容赦を。

次回は、魔人を倒した紅玉と、その娘の香蘭との試合の様子をお送りしようと思います。

宜しければ感想掲示板に意見や指摘、感想などをお願いします。

ではこれにて失礼させて頂きます。