火魅子伝 居場所 第10話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・星華・亜衣 J:シリアス)
日時: 09/24 09:57
著者: 蒼獅


―九峪達が砦跡に来てから十八日後―

九峪は、これからの戦において貴重な戦力となるであろう方術士や、狗根国の左道士に関して亜衣に尋ねていた。

「なあ亜衣。耶麻台国に方術士が居るように狗根国にも左道士が居るんだよな?」

「はい。そうです」

「その左道士は戦には表立って出てくるものなのか?」

「いえ、左道士は我々方術士の様に自ら術を唱え、攻撃することも出来ますが、左道士の最も得意なのは複数の術者のよる召喚術なのです。なので、戦に出てくる事は滅多にありません」

「召喚術?」

亜衣の言葉に九峪が首を傾けると、亜衣が説明し始めた。

「はい。召喚術とは術者の力を使い、魔人や魔獣を人間界に呼び出す事を言います。耶麻台国が狗根国に負けたのも、左道士によって召喚された魔人や魔獣の存在が大きかったのです。とは言っても普通の左道士は数十人という人数で召喚術を行います。それに召喚した後の左道士は立ち上がる事も困難なぐらい疲労するそうです」

「普通の左道士って事は普通じゃない左道士がいるんだな?」

亜衣の言葉を聞いていた九峪がそう言うと、亜衣は頷く。

「はい。私も実際に見たわけではありません。私が子供の頃に親に教えられ、その者に関する資料があったので、それを読んだだけなのです。そいつの名は“蛇渇”。現在は狗根国の左道士鑑という左道士達の頂点に立ち、狗根国の大王とも深い仲だそうです。蛇渇の力は凄まじく“東の咬龍”とまで各地で謳われているそうです」

「そんなに凄いのかその蛇渇ってのは?」

「はい。蛇渇は殆どの術を、詠唱無しで放つ事が出来、魔人や魔獣もたった一人で何十匹も召喚できるそうです」

「それは……凄まじいな」

九峪は亜衣に聞かされた事に驚愕を隠せずそう呟く。さらに亜衣は話を続ける。

「それだけではありません。蛇渇は既に数百年以上も生きているそうなのです」

「数百年って……そいつは魔人か?」

「いえ、正確にはわかりません。しかし、狗根国には“魔界の黒き泉”というのがあります。この泉を飲んだ者や、触れた者は上級魔人にも匹敵する力が手に入ったり、不老不死等が手も入ったり、様々な特殊能力を手に入れる事ができるようです。その分危険度は高く、殆どの者が泉の力に耐えられずに死んでしまうそうですが……。なので、蛇渇もその泉の力を手に入れたと考えれば、数百年生きていてもおかしくないという事になります」

「……そうか」

九峪は、亜衣の話を聞いて耶麻台国の復興は思っていたよりも遥かに困難だという事を改めて知った。





その後、これからの事について暫く話し合っていると、九峪が話し始めた。

「なあ亜衣。話は変わるけどさ、俺にも方術って出来ないかな?」

「え? 九峪様が方術を……ですか?」

「ああ」

「何故ですか? 既にあれほどの武術の腕をお持ちですのに……」

亜衣は、この間行われた紅玉との戦いを思い出し尋ねる。九峪は亜衣の問い掛けに少し考えながら答える。

「……いや亜衣の話を聞いてたらさ、これから俺達が戦う狗根国は俺の想像以上に強敵だと思ったんだ。だから俺は、皆を守る為の新たな力……方術の力が必要だと思ったんだ(本当は紅希に教えてもらって、使える事を知ったからだけど)」

「く、九峪様……」

亜衣は九峪の言葉に、心打たれる。今現在でも、九峪は己の鍛錬以外の時は、兵達の訓練や武器や道具の開発等をしてくれている。それだけでもありがたいのに、更に「皆を守る為」に方術まで覚えようとしている。実際に方術が覚えられる、覚えられない云々よりも、亜衣にはその言葉がとても嬉しかった。感激しながら亜衣は、九峪に力強く頷く。

「わかりました。私から星華様にお話しておきます。ただ覚える事は出来ても実際に方術を使えるとは限りませんが宜しいでしょうか?」

「ああ、わかっているよ。覚える事と、使えるのでは全く違うからな」

「そうです。では早速私は星華様の所へ話しに行ってきます。明日お迎えに上がりますので」

「いや、俺が教えてもらうわけだから……わかった。じゃあ何時も俺が鍛錬している場所に来てくれないか」

「……わかりました」

九峪は途中まで言いかけた言葉を、亜衣の視線を感じて言い直す。その答えに亜衣は渋々と言った様子で頷くが、内心では……。

(ちっ、密室での星華様との二人っきりで……と思ったが……まあいい。あそこは九峪様専用みたいな場所になってるからな。それに星華様も九峪様の事を嫌いではないご様子だったし……少しずつ行くか)

なんて事を考えていた。そして、この時星華は背筋の凍るような悪寒を感じたらしい……。

そして、亜衣は内心の思いを全く顔に出さずに、九峪に一礼すると立ち上がる。そして、九峪からは見えなかったが、魔人でも道をあけそうな不気味な笑みを浮かべながら星華の元へと歩き始めた。





―その日の夜―

「星華様。九峪様に方術の訓練をお願いできませんか?」

「私が九峪様に方術を……ですか?」

「はい。九峪様が覚えたいと仰ったので……。私はやる事が多いので、星華様にお願いしたいのです」

「待ってよ亜衣。とにかく事情を話して」

星華はそう言って、亜衣に事情を聞きくと亜衣同様感動し暫く考えると頷く。

「……そういうことなら、わかりました。明日九峪様が何時も使っている場所に行けばいいのね?」

「はい。そうです。……ところで星華様。星華様は九峪様の事をどうお思いですか?」

いきなり亜衣の雰囲気が変わり、星華は訳も分からないまま、鋭い眼光に体を射抜かれる。星華はその眼光に押されながらも、なんとか答える。

「え、な、何突然? 九峪様の事? え〜と……尊敬や、憧れはありますけど……」

その答えに、亜衣はあまりいい顔をしない。

「(まあ、それは私も思うが……)星華様、そういう事ではなく、男としてではそうですか?」

「お、男として? う〜ん……(確かに、顔は良いし、強いし、優しいけど……それは私だけじゃなく誰にでもだし……)」

星華は九峪の事を思い浮かべる。確かに九峪は現代でも美形の部類に入る顔立ちをしているし、この時代ではかなりの長身だ。そして武術の腕前は魔人との戦いの時や、この前の紅玉との戦いを見て知った。更に、此処に来た志願兵や、手伝いに来てくれた老若男女誰にでも優しい。そこまで考えて星華は思い出す。そう、羽江の相手を偶にしてくれている時の笑顔。あの笑顔は……。

(あの笑顔はとっても魅力的だわ……あんな笑顔向けられたら……きゃ♪)

頭の中で、九峪の笑顔を思い出した星華は、いきなり顔を赤くしてイヤンイヤンと首を振る。その星華の様子に、亜衣は内心ガッツポーズをとる。

「では星華様。九峪様と方術の訓練をする時はこの服で行ってください」

そう言って亜衣が星華に渡した服は、星華が持っている服の中で、一番胸元が大きく開いている巫女服だった。

「ちょ、ちょっと亜衣! 何なのよこの服! 九峪様に方術を教えるのに服の事なんて関係ないじゃない。それに、これじゃあ私、九峪様を誘ってるみた…………あ、亜衣まさかあなた私に……「星華様」……ひっ!」

星華は亜衣に、顔を真赤にして怒鳴っていたが、亜衣の凍てつく様な声に思わず悲鳴を上げる。

「星華様……その服で行って頂けますよねぇ」

その言葉に星華はガクガクと震えながら必至に首を縦に振る。すると、亜衣は先程の様子がまるで嘘の様に満面の笑みを浮かべる。

「よく言ってくれました♪ では星華様。お願いしますね♪」

そう言って亜衣は自分の部屋へ戻ろうと星華へ背を向ける。その後ろで、星華はほっと息をついていたが、亜衣が部屋から出る去り際……。

「ああ、言うのを忘れていました。もしその服で行かなかったら…………ふっふっふっ……」

その言葉を残し、亜衣は部屋から出て行った。その後、亜衣が去った星華の部屋から、なにやら悲鳴が聞こえてきたが、皆関わりたくないのか誰も様子を見に行こうとはしなかった…………星華哀れ。





―翌日―

九峪が何時もの鍛錬をしている場所で座っていると、星華が近づいてきた。時間に遅れたのを気にしているのか、着替えてすぐに来たらしく、星華の美しい肌が僅かに赤く染まっていて、なんともいえない色っぽさを醸し出していた。

ちなみに星華の服装は、昨晩亜衣に渡された服を着ている。その所為で、九峪が目のやり場に困っていたりするが、星華は九峪にというか男に見られているという思いがあるのか、顔が赤い。

「はぁはぁ、遅くなりました九峪様」

「いや、こっちが教えてもらう側なんだから気にしなくて良いよ。それより座りなよ」

「は、はい」

星華が九峪の隣にちょこんと座ると、九峪が話し掛けてきた。

「悪いな星華。俺が無理言ったばっかりに負担かけさせて」

「い、いえ、九峪様が謝る事などありません。亜衣から九峪様がなぜ方術を覚えようとしたのか聞きましたから。それに私で九峪様のお役に立てることが出来て嬉しいんです」

九峪は星華に笑顔でそう言われ、一瞬言葉を詰まらせるが、笑顔で答える。

「……星華……ありがとう」

「い、いえ……(やっぱりこの笑顔は反則よ!)」

星華は昨晩の事を思い出し、妙に九峪を意識してしまう。いきなり赤くなった星華に、九峪は怪訝そうな顔をするが……。

「………………はっ! あ、で、では九峪様。早速始めましょうか?」

「ああ、そうだな。まず何をやればいい?」

九峪は星華の言葉に頷くが、何をやればいいのかわからず、星華に尋ねる。

「はい。まずは自分の中にある方力を認識する事から始めます。最初は、私が九峪様の体に私の方力を送ります。その時、私は九峪様の体の中に送った方力を移動させますので、九峪様は私が移動さしている方力の流れを感じてください」

「けど星華。流れを感じるってどうやるんだ?」

「それは、実際にやってみた方が速いと思います。そうですね、九峪様は出来るだけ体の力を抜いて頂いた方がいいかもしれません」

「わかった」

「では、……はぁぁぁっ」

星華が九峪と向き合うように座りなおす。そして、九峪の両手を握りながら大きく息を吐き、ゆっくりと方力を九峪の方へと送っていく。

「んっ?」

九峪は、星華に手を握られたところから、何か暖かいものが自分の中に流れてくるような気がした。それに気づいた星華は、方力を移動させ始めた。

「おっ? 何か腕のところが……」

星華は、九峪のその言葉を聞くと、一旦方力を移動させるのを止める。

「九峪様、今私の方力が九峪様の体のどの部分にあるか分かりますか?」

「…………多分右肩あたりだと思う」

「そうです。その右肩に感じているものが、私が送った方力です。では、次は九峪様が私に方力を送ってみてください」

「送ってみてって言われても、自分の方力なんてどうやって送るんだ?」

九峪が、困惑した顔で星華に尋ねると、星華は九峪の両手を握ったまま答える。

「あ、はい。まずは私と繋いでいる手に、意識を集めてください」

「わかった。(紅希と修行した時のような感覚でやってみるか)」

九峪はそう思うと、紅希と修行した時に出来た、炎の御剣から炎を放出させ、自分の力に変えるというあの修行を思い出す。そして、その要領で意識を集中し始めると、手に何か暖かいものが集まって来るのを感じた。

「星華、こんな感じでいいのか?」

「…………」

九峪は星華に尋ねるが、星華は唖然として九峪と繋いだ手を見ている。星華のその様子に、九峪が首を傾げるが、暫くすると星華は話し始めた。

「…………あ、はい。そのままの状態で術を唱える事により、方術を放つ事が出来るのです」

「ふ〜ん、そうなのか」

九峪は、星華の言葉を聞きながらそう呟く。そんな九峪に星華が疑問に思っていた事を尋ねる。

「……あの九峪様。何処かでこういう事をした事があるのですか? 普通は訓練が必要なのですが、九峪様はたった一度で方力を感じ、自分の意のままに操る事が出来ました。何故ですか?」

「何故って言われても(紅希と精神世界で修行したからって言っても信じてもらえないだろうし)出来たんだからいいんじゃないの?」

「そ、それは……そうですけど」

星華はちょっと残念そうに呟く。

(折角、九峪様とこうしていられるのに……それにさっきから全然こっちを向いてくれないし……)

どうやら九峪に教える事が思いの他早く終わりそうなのと、九峪が自分をあまり見てくれないのが気に入らないらしい。そんな星華の様子に気付かず、九峪は話し始める。

「じゃあさ星華。早速方術を試したいんだけど、どうやったら星華みたいに炎の塊とかを出せるんだ?」

「……え? あ、はい。えっと……まずは私がやりますので、九峪様は見ていて下さい」

「わかった」

星華は九峪にそう言うと立ち上がり、2メートル程の高さがある岩の前まで行くと立ち止まる。そして、ゆっくりと方力を溜めると術を唱え始めた。

「では……。“我、火の力持ちて、矛を放つ”……天の火矛!」

星華のその言葉と共に、炎の塊が放たれる。そして、放たれた直径八十センチ程の炎の塊が岩に当たると、爆発と共に土煙が立ち昇る。そして暫くして土煙が晴れてくると、そこにあったはずの岩が見事に木っ端微塵になっていた。

「す、凄ぇ〜岩が粉々になってる」

「九峪様。今のが“天の火矛”を放つ時の呪文です」

星華はそう言うと、先程の爆発音を聞いて何事かと見にきた者達に事情を説明し、納得させて帰らせる。

「ふ〜ん。そうなのか…………じゃあ早速俺もやってみるか」

九峪は、そう言って歩き出す。星華は、九峪が歩き出したのを見て、すぐに自分も九峪の後を付いて行く。暫く歩くと、九峪は先程星華が木っ端微塵にした岩と同じくらいの岩の前で立ち止まる。

「よ〜し、じゃあ早速……“我、火の力持ちて、矛を放つ”でいいんだよな?」

九峪は、そう言って確認するように星華に尋ねる。

「はい。それであっています。ですがその前に、まずは方力を自分の両手に集めてからです九峪様」

「そうだったな……はぁぁぁっ」

九峪はゆっくりと息を吐きながら方力を両手に集める。

「(よし、このくらいかな)……“我、火の力持ちて、矛を放つ” ……天の火矛!」

九峪のその言葉と共に、九峪の両手から炎の塊が放たれる。炎の大きさは、先程星華が放ったものより小さい、直径四十センチくらいだ。そして、炎の塊が岩に当たると土煙が立ち昇る。土煙が晴れた後には、星華の様に木っ端微塵というわけではないが、半分ぐらいまで岩が無くなっていた。

「どうだ星華? ちゃんと出来ていたと思うけど……」

九峪がそう言って、半分くらいまで無くなった岩を見て星華に尋ねる。尋ねられた星華は、九峪へ拍手を送る。

「素晴らしいです、九峪様。まさか一度で出来るとは思いませんでした」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。俺自身出来た事に驚いているんだから……。でも、星華に比べるとまだまだだな」

「九峪様、それは方術士にとっては嫌味にしか聞こえませんよ。本来、一日で方術を放つところまでいくなんてありえないのですから……(やはり神の遣いである九峪様は私達とは違うのね……)」

九峪が、自分の放った方術の威力に納得が行かない様子で呟くと。星華は内心、九峪が改めて自分達とは違う存在だと思いながら、九峪にそう言う。事実たった一日で此処まで出来るとは思ってもいなかったのだ。そして術を放つ事が出来たという事は後は……。

「九峪様。後、私がお教えさしあげる事が出来る事と言えば、術だけです。もちろん方力の制御等もしなくてはいけませんが、それは九峪様お一人でも出来る事です。なので今後は術を放つのに必要な呪文を覚えてもらいます。宜しいですか?」

「ああ。多分、戦が始まればこんな事をする暇は余り無いだろうし、出来る事は今のうちにやっておきたいんだ。そのせいで星華に負担を掛けさせる事になるが……」

「いえ。私自身、今は自分の部隊の訓練が殆どです。なので負担になんかなりませんよ」

「そうか。ありがとう。じゃあ、今日はこのぐらいにしようか。また宜しくな星華」

「はい。わかりました九峪様」

九峪は、星華にそう言うと自分の部屋へ歩いて行った。星華は、九峪のその背中を見つめながら溜息を吐く。

九峪の予想以上の出来に、星華の教える事がたった一日で殆ど終わってしまった。今日の様子だと、後一月程で自分と同じ位の所までくるだろう。

その事に不満が無いわけではない。今まで何年も自分は訓練してきたのに、それがいくら神の遣いとはいえ、たった一月で自分と同じ位になるのだ。

しかし、帰り際に自分に礼を言った時に見せたあの満面の笑み。あの笑みを見せられては……。

「……九峪様……あんなの反則です……」

星華がそんな事を考え、頬を赤らめながら呟くと、何故か九峪が戻って来て星華に話し掛ける。

「星華。その服とても似合うんだけど、兵達の前では見せない方がいいぞ。暴走する奴とかいるかもしれないからな。じゃあ」

九峪はそう言うと再び自分の部屋へと歩き始める。一方星華はというと、笑顔のままピシッと凍ったように固まり、暫くするとフルフルと肩を震わせる。

どうやら星華は、先程の九峪の言葉を……。

「星華。よくそんな厭らしい服を着られるな。兵達の前では見せない方がいいぞ。お前の事を厭らしい女だと思うからな。じゃあ」

と解釈したらしい。ここで重要なのは、九峪に自分が厭らしい女だと思われた事だ。(注意、九峪君は普通に誉めただけで、後半部分は星華の事を思って言った言葉です)

「この服が似合うなんて…………私は厭らしい女って事?」

星華は、自分が九峪に厭らしい女だと思われた原因を作った人物を思い出す。星華の頭の中には、何故か満面の笑みを浮かべた亜衣の姿が浮かび上がった。

「亜衣、……ふふふ、ふふふふふふふ…………」

星華はそう呟くと、不気味な笑い声を上げ、なにやら黒いオーラを纏いながら自分の部屋へと戻って行った。






―その日の夜―

「星華様、九峪様とは如何でしたか?」

星華が湯浴みから部屋に戻ってくると、亜衣がいきなりそう尋ねてきた。

「何よ亜衣。如何でしたかって……。別に普通よ、普通……(そう、元々“こいつ”が……)」

「そ、そうで御座いますか……(星華様はいったい如何なされたのだ?)」 

内心、亜衣の事を“こいつ”呼ばわりし、黒いオーラを外側へ出さないようにしている星華は、表面上、亜衣の問いに冷静に答える。亜衣は、帰ってきた素っ気無い星華の答えに、首を傾げながらそう答える。

部屋の隅で星華と亜衣の会話を聞いていた衣緒は、星華の機嫌が最悪に近いくらい悪い事を察し、星華の様子に怯える羽江を連れて部屋から出て行った。

(そう、元々“こいつ”があんな服を渡したのがいけないんだわ。そうすれば九峪様はもっと私を見てくれたかもしれないのに……)

星華は亜衣に脅されたとは言え自分であの服を着た事は棚に上げて、九峪に方術を教える時に、あまり九峪が自分の方を向いてくれなかった事を思い出す。そして、今目の前にその元凶がいると思うと……。

「亜衣」

「え?」

次の瞬間、星華は亜衣の頭を鷲掴みにしていた。驚く亜衣を余所に、星華は更に力を篭めていく。

「い、いたたた……ちょ、ちょっと星華様? あの、い、痛いんですけど……」

「痛い? ええ、そうでしょうね。だって痛くしているんですもの」

「あ、あの星華様? 私、何か気に障ることでもしましたか?」

―ブチンッ― ―ブワッ―

亜衣のその言葉に、遂にキレた星華の体から、黒いオーラが外へ凄まじい勢いで放出された。

「ひぃぃぃぃっ!!!」

放出された黒いオーラに、亜衣は悲鳴を上げる。しかし、星華はそんな亜衣に構わず話し続ける。

「ふふふ、“何か気に障ることでもしましたか?”ですって? ええ、したわよ。貴女の所為で……私は、私は九峪様に厭らしい女だって思われたわ! この責任どう取ってくれるのよ!!」(注意、九峪君はそんな事思っていません。星華の妄想です)

「せ、責任って……。あ、あの星華様…………」

恐る恐る尋ねる亜衣に、星華は無言で手を振り上げる。

「そ、その振り上げている手は……」

「ふふふ、大丈夫よ亜衣。…………あなたの“お仕置き”と同じくらいで許してあげるから(邪笑)」

「ひぃぃぃぃぃっ!!! お、おおおお許しを〜〜〜〜〜!!!!」

「問答無用!!」

―バチィィィィン―

……静かな夜にそんな音が鳴り響いた……そして、この後の亜衣の運命は……

「亜衣〜〜〜〜まだまだ終わらないわよ〜〜〜〜〜〜!!!!!」

「も、もう許して〜〜〜〜〜星華様〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

そんなやり取りが朝まで続いたとか続かなかったとか……それを知る者は当人達のみである。

ちなみに、衣緒と羽江は、隣の部屋でお互い身を寄せてガチガチと歯を鳴らしていたが何も被害は受けなかったそうだ。







あとがき

どうも蒼獅です。第十話如何だったでしょうか?

今回は、九峪君が方術を覚える話でした。まぁ最後は星華暴走しちゃいましたが(笑)。

今回の方術に関することは私の想像です。原作(小説)でも天の火矛は術の詠唱は無かったので、陳腐な呪文ですがつけてみました。もしかしたらつけない方がよかったかな?

さて、今回の事で、九峪君は炎の御剣に加え、方術を覚えるという、まさに最強への道を突き進んでいますね。いったい何処まで強くなるのやら(汗)。

次回は、いよいよ本格的に動き始める復興軍。そして、それと時を同じく動きだす狗根国側の人物達や、山奥に住む兎さん達の様子をお送りしようと思っています。

ではこれにて今回は失礼させて頂きます。

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