火魅子伝 居場所 第11話 (H:小説+マンガ+オリ M:兎華乃・兎音・兎奈美・蛇渇・?? J:シリアス |
- 日時: 10/08 12:48
- 著者: 蒼獅
九峪達が砦跡に来てから三週間が過ぎ、現在九峪達は、所々にある砦を落す為に兵を率いて、砦までやって来ていた。
「では九峪様。仕掛けますぞ」
「ああ」
九峪と伊雅は、全体が見渡せる場所に立っている。そして、伊雅が九峪の返事を聞くと、全員に聞こえるように大きな声を上げる。
「では……突撃―――!!!」
伊雅の大声と共に、兵士達が一斉に砦へと向かって行く。砦に居た元九洲兵は、その様子を見ると慌てて武器を捨て降伏する。
「やれやれ、呆気ないものですな」
砦の様子を遠くから眺めながら伊雅は呟く。
「まあ、無理も無いさ。いいじゃないか伊雅。こんなところで犠牲者なんか出してたら復興なんて無理だぞ」
「それは……そうですが……」
「そんなに不満そうな顔をするな。それに、もうそろそろ街を落すからな。その時に存分に戦えばいいさ」
「それもそうですな。……おや? どうやら引き上げるようですな」
伊雅はそれぞれの火魅子候補が、兵達に引き上げるように指示を出しているのを見ながらそう言う。
「そうだな。それにしても、皆ちゃんと指揮をしているじゃないか」
「はい。しかし、この指揮を本当の戦の時も出来るかどうかはわかりませんが……」
九峪の言葉に、伊雅は頷きながらも心配そうに呟く。九峪はその呟きに頷くが、それぞれの火魅子候補の側居る、親しい者達を見つめながら伊雅に笑顔を向ける。
「ああ。その通りだ。でも彼女達は一人じゃないんだ。大丈夫さ」
―九峪達が表立って動き出した同時刻、阿蘇山の山奥―
兎華乃は、一月程前に感じた波動が自分の知る人物のものと確信し、ある事をしていた。
「如何したの姉様? 武器の手入れなんかして」
そう、兎音が言うように兎華乃は自分の武器の手入れをしていたのだ。その様子に、兎音と兎奈美は、自分の姉がどんな魔人よりも強い事を知っているので、不思議に思い尋ねたのだ。
「いえ、これから起こる事に準備をしているだけよ。あなた達も行くんだから準備しておきなさい」
「これから起こる事? 姉様が武器の手入れをするほどの相手が人間界にいるのか?」
「ええ、私の“能力”の限界を超える力を持つ男。その男の波動が一月位前に感じたの。それに、その男が
居るという事は“あいつ”もやって来るって事だから……」
「「あいつ?」」
兎華乃の言葉に、兎音と兎奈美は首を傾げる。
「……今はまだ知らなくていいわ。とにかく、あいつの力は私を倒したあの人と同等なの。あいつもあの人の波動を感じたはずだから必ず来るわ。だからその前に戦いの勘を取り戻したいのよ」
「ふ〜ん。……って、ち、ちょっと、戦いの勘を取り戻すって、わ、私達が姉様の相手をするのか?」
兎音は恐る恐るといった様子で尋ねる。すると、兎華乃は、何を当然と言わんばかりに頷く。
「当たり前でしょ。それに、これはあなた達の為でもあるのよ。鈍った勘のままだと、奴が呼び出す手下ですら勝てないかもしれないわよ」
「ね、姉様……。で、でも、姉様が負けるくらい強いんなら、私や兎奈美なんかじゃ歯が立たないじゃないか。それに、姉様は“空”の能力で強さが決まるんだから私達と戦っても意味が無いだろ?」
兎音は兎華乃にそう尋ねる。すると、兎華乃は説明し始めた。
「ええ。あなた達も知っている通り、私の能力“空”は相手の強さに合わせて自分も強くなる。でも、相手に殺意や敵対心が無いと、私の強さは上がる事は無いわ。それに、死人なんかの操られている者なんかも同じで、私の強さが上がる事は無い。そして、私の能力の限界以上の力の持ち主と敵対した時、私の体が耐え切れなくなり、戦う前に自滅してしまうの。ここまではいい?」
兎華乃が、兎音と兎奈美にそう尋ねと、二人とも頷く。更に兎華乃の話は続く。
「だから、私はあの人に負けてから“空”の能力を長年掛けて極めたわ。その結果、私は自分の力を相手の強さに関係なく自在に上げれるようになったのよ。そして、あなた達は私の妹。私が出来た事をあなた達が出来ない道理は無いわ。そういう訳だから、これからあなた達は私と戦ってもらうわ。高麗人参は最初はいいけど、後から飲まないで戦ってもらうからね。この一月程高麗人参を作らせていたのはその為よ」
「ええ〜〜〜!! そんな〜〜無理だよ〜〜!!!」
兎華乃の言葉に、珍しく(?)先程まで静かに聞いていた兎奈美が、大声を上げる。その隣では、声こそ出さないものの、兎音が不服そうな顔をしている。しかし、兎華乃は既に聞く耳を持たないのか、再び武器の手入れを始めていた。そんな兎華乃の様子に、兎音は諦めたように溜息を吐き立ち上がる。
「はぁ〜〜〜。ったく。ほら兎奈美、あんたも愚図ってないで早く武器を取りに行くよ」
「あ〜〜。兎音待ってよ〜〜」
そう言って兎音は、兎奈美を連れて自分の武器が置いてある物置へと向って行った。
この後、ある人物が此処を訪れるまで、兎音と兎奈美は地獄のような戦闘を毎日させられたのは言うまでも無い。
―???―
とある場所に佇む者が、やって来た珍しい来客に声をかける。
「……お前の方から我に会いに来るとは……何かあったのか?」
「ああ。“奴”が現れた。このままでも問題は無いかも知れんが、念には念をな」
やって来た者がそう言うと、佇む者は納得したとばかりに頷き尋ねる。
「そうか。で、すぐに行くのか?」
佇む者の問いに、やって来た者は無言で頷く。
「わかった。では行くとしよう」
佇む者がそう言うと、やって来た者は何事かを呟く。すると、次の瞬間には姿が消えていた。
―九峪達が表立って動き出した同時刻、狗根国本国、山都―
厳粛な雰囲気漂う空間に一人の男が座っていた。その男は、何かに気づいたように反応すると、ある方向を見つめる。すると、そこから二人の男が現れた。
「久しいな大王。元気そうでなによりだ」
「ああ、おまえ達もな」
突然現れた男の一人が大王に親しく挨拶し、もう一人は黙ったまま大王に軽く頭を下げる。大王は、突然現れた二人男の態度に気分を害した様子も無く、淡々と返す。
「して、今日は何用だ?」
大王が男に尋ねると、一人の男は頷きながら答える。
「うむ。一月程前、何故か懐かしい波動を感じた。あの波動は“奴だ”」
その男がそう答えると、大王は僅かに眉を上げる。
「奴?……奴とは……ああ、お前が昔話したあの男の事か?」
「そうだ。何故、奴の波動が感じられたのかはわからない。もしかしたら違うかもしれないが、私が知る限りでは奴しかいない。どちらにしても、私は行かなくてはならん」
「そうか……。で、その男は何処に居るのかわかるのか?」
「ああ。九洲の方から感じた」
「わかった。……すぐに行くのか?」
「そのつもりだ」
「わかった。そういえば九洲にはあの“馬鹿息子”が居たな。奴から左道士の補強の要請が出ていた事だ。表向きそのようにして行ったほうがよいだろう」
大王は、九洲の長官をしている馬鹿息子こと“紫香楽”の能力を、全くと言っていいほどあてにしていない。だが、それでは九洲を支配できないので、配下に優秀な人材を置いているのだ。今まで黙っていたもう一人の男が紫香楽の名を聞いてフンッと鼻を鳴らす。
「フンッ。あんな餓鬼に使われるのは癪だが、向こうには四天王の一人“天目”が居たな……まぁいい。天目如きどうということは無い……」
その男がそう言うと、もう一人の男も頷き、大王に話しかける。
「では大王。出来るだけ速く頼むぞ」
「ああ、わかった」
二人の男は、大王がそう言いながら頷くのを見ると、次の瞬間には姿が消えていた。その様子に大王はさして驚いた様子も無く、二人の男を九洲に向わせる為の準備を始めた。
―九洲、征西都督府―
あの二人の男達が大王に頼んでから二日後。既に男達は九洲へ到着しており、数名の左道士を連れて、征西都督府長官―紫香楽―の居る部屋へと案内されていた。
この男達がたった二日で表向きに九洲に来れたのも、男と大王との間に何らかの深い繋がりがあるからであろう。
暫く歩いていると、先に歩いていた兵士が止まり、扉の前まで行く。
「紫香楽様。蛇渇様と本国から来た左道士の方々が参られました」
「ああ。通せ」
扉の中から、若干不機嫌そうな声が返ってくる。兵士はその声に含まれた思いを知っているが、黙って扉の中へ入るように蛇渇達を促がす。
「ご苦労」
骸骨顔の人物が、その容姿に違わぬ不気味な声で兵士にそう言い扉の中へと入って行く。この骸骨顔の人物こそ、先程大王と話をしていた男のうちの一人で、“狗根国左道士鑑”にして、“東の咬龍”と各地で謳われている“蛇渇”である。
―数十分後―
「おい、もう帰るそうだ。送ってやれ」
扉の中から、先程よりもかなり不機嫌な声が聞こえてくる。その声に反応して、扉の前に待機していた兵士は、急いで扉を開け、出て来た蛇渇達を案内するために歩き出した。
暫く歩いていると、蛇渇が一緒に来ていた男と、部下に話し掛ける。
「わしはこれから儀式を行ってくる」
男と部下達は、蛇渇の言葉に無言で頷く。蛇渇は頷いたのを見ると、儀式を行う場所へと歩いていった。
―蛇渇達が紫香楽の部屋を出てから数十分後―
この数十分の間に、何があったのかはわからないが、紫香楽は大きないびきをかいて寝ていた。そして、紫香楽の部屋に一緒に居たと思われる女達の一人、長身で、見事な肢体を持つ緑色の髪をしている美女―天目―は考え事をしていた。
(蛇渇と一緒にいたあの男……いったい何者だ? まぁたいした使い手には見えなかったが……)
天目がそんな事を考えていると、一人の女が近づいて来た。
「天目様、忌瀬が戻りまして御座います」
その女はそう言うと後ろに下がる。すると、後ろに居た旅衣装の女が前へ出てペコリと頭を下げた。
「お久しぶりです、天目様」
「うん。久しぶりだな忌瀬」
忌瀬と呼ばれた女は、亜衣と同じような遠眼鏡を掛け、髪は薄紫色で、天目には及ばないものの美しい肢体を持った美女だ。
天目と忌瀬は、少しばかり話をしていたが、天目は真剣な表情になり忌瀬に話し始める。
「忌瀬、お前に頼みがある」
「え、頼み……ですか?」
「ああ。最近耶麻台国の生き残りが反乱を起したらしい」
「へえ〜そりゃそりゃ」
天目から聞いた事に、忌瀬は目を丸くする。最も内心では……。
(耶麻対国の生き残りがねぇ〜じゃあ、天目様は私に頭の暗殺でも命じるのかな?)
なんて事を考えていたが、天目は何でもないように忌瀬に言う。
「お前な連中に渡りをつけて来い」
「はぁ?」
すっとんきょうな声を上げる忌瀬に、天目は身を寄せて何事か囁いた。
蛇渇は紫香楽の部屋を出てから魔人を呼ぶ為、黒き泉がある神殿へとやって来ていた。黒き泉の前で、蛇渇が皮と骨だけの様な腕から、一滴の血を黒き泉の中に落とし、何事かをぶつぶつと呟くと、黒き泉から五、六体の魔人が出現した。
「ま、こんなもんかの……」
蛇渇は魔人を一人で五、六体召喚したにも関わらず、たいした事無い様に平然としている。この事から、蛇渇の力が異常だと物語っている。そんな蛇渇の後ろから扉が開かれる音が聞こえた。
「何奴だ!」
蛇渇が怒鳴り声を上げながら後ろを振り向くと、そこには天目が立っていた。
「天目!? 貴様がこんなところに何用だ?」
蛇渇が尋ねると、天目はニヤリと笑い持っていた竹簡を蛇渇に突きつける。
「紫香楽様のご命令だよ。呼んだ魔人は全て私の指揮下に入ってもらう」
そう言われた蛇渇は、一瞬驚愕した素振りを見せるが、すぐにフンッと鼻を鳴らすと……。
「そういうことだ。お主等はこの女の言う事を聞いてくれ」
蛇渇が魔人達にそう言うと、低い声が返ってきた。
「まあ俺等は楽しく遊べればいいしな」
「そうねぇ、早く遊びたいねぇ」
「それはお前らの働き次第だ」
そう言いながら天目は魔人達を睨みつけ、内心では……。
(これで予定通り事を運べるな。まずは復興軍の奴等にもう少し大きくなって貰わないとな)
と思いながら、魔人達を引き連れ、神殿から出て行く。
「フンッ、あの女……何か企んでいるな……」
男は、与えられた部屋の中で、丸い水晶の様な物の中に映っている、天目と蛇渇の様子を眺めながら呟く。
「まあいい。暫くは様子見といくか」
こうして阿蘇山の山奥にいる魔人達や、狗根国側の人間達も動き始めた。九峪達、耶麻台国復興軍は彼等を退け、見事耶麻台国を復活させることが出来るのか? その答えを知る者は誰もいない…………
あとがき
どうも蒼獅です。第十一話如何だったでしょうか?
今回は狗根国側の人物や、魔兎族三姉妹の事をお送りしました。それと、兎華乃は一度紅希と戦った事があります。その結果、某戦闘民族のように戦闘能力を自在に操れるようになりました。あと、蛇渇と一緒に来た男は何者なのかというのは伏せておきます。
さて次回ですが、遂に当麻の街を攻略です。準備期間として動いた三週間という原作(小説)には無い期間。さらに、只深、伊部、紅玉、香蘭が戦闘前に復興軍に居る事で、どのように当麻の街を攻略するのか……というのをお送りします。それと同時に、近いうちに火魅子候補が全員揃います。
宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。
それではこれにて失礼します。
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