火魅子伝 居場所 第13話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:星華・衣緒・藤那・閑谷・忌瀬・真姉胡・志野・珠洲 J:シリアス) 
日時: 12/16 17:14
著者: 蒼獅


―多李敷達が出撃して半日後、当麻の街―

星華達は当麻の街の近くの森に潜んでいた。

「そろそろね……これから当麻の街を奪還します。乱破部隊の先導で見張りの兵士を速やかに排除し、留守の間に要る留守を捕らえます。よろしいですね?」

「はっ!!」

兵士達は勢いよく答える。その様子に、星華は満足げに頷く。

「各小隊に分かれて準備を、一番近くにいるあの門番を乱破が排除するのと同時に行きます」

「はっ」

星華達は、当麻の街に潜入している乱破に鏡の反射を利用して合図を送る。すると、向こうから合図が来た。

「あの光が三回輝いた後行きます。準備はいいですね?」

星華の問いに兵達は無言で頷く。そして、光が……。

―ピカッ……ピカッ……ピカッ!―

「突撃―――!!!」

三回輝いたと同時に、星華達は当麻の街へと走り出した。




「な、なんだ……ぐわっ!」

星華達が走ってくるのを見ていた門番は、何が起こったのか分からない顔をしたまま、背後から乱破に倒された。

そして、その乱破は、星華達の道案内をするように場内への最速の道を先導する。

星華達は、街に入ると同時に、予め分けておいた小隊ごとに分かれて、何が起こったのかわからない狗根国兵に斬りかかり、次々と倒していく。

「なんだお前達!! ぎゃっ!!」

「て、て、てきっ……ぐおっ!」

星華が率いる部隊は、そんな敵兵の声を聞きながら、城の中へと入っていく。




乱破の先導の元、城内を進んでいくと、乱破が、立ち止まった。

「星華様。ここが留守の間です」

「わかったわ。衣緒」

「はい。星華様」

衣緒は、星華の意図することを悟り、留守の間の戸を勢いよく開ける。

「な、何者だお前達! わしを誰だと……ぐえっ!」

留守は、入ってきた星華や衣緒の顔を見るなり叫ぶが、衣緒は問答無用で殴り飛ばし、気絶させる。

「ご苦労様、衣緒。さあ、次は街の人達に説明しなくちゃいけないわね」

「はい。星華様の腕の見せ所ですよ」

「ふふっ、そうね。でもこれから九峪様達の援護に向かわなければなりません。あまり長くはしないつもりよ」

「わかりました」

星華と衣緒はそう言うと、城内の街を見下ろせる場所まで歩き始めた。





―当麻の街、城下―

星華達が留守を気絶させた頃、城下で一組の男女が話をしていた。

「まったく、いったい何なんだあいつ等?」

「さぁ、でもこれでこの街を乗っ取るのは無理になったね」

男、と言うより、まだ少年の男の子が、笑顔で隣にいる、長身で、薄紫の髪の色をした女性に答える。その女性は、少年の嬉しそうな顔を見ると、不機嫌な顔になり答える。

「おい閑谷。何を嬉しそうに言うんだ? これじゃあ復興軍になんの手土産も持っていけないじゃないか。せっかくこんな格好までしたのに……。まぁお前はその服を気に入っているようだが(邪笑)」

「な、何言ってるのさ! そんな訳無いじゃないか!! それに僕は着たくないって言ったのに、藤那達が強引に着せただけで、僕は着たいなんて一度も言ってないのに……」

閑谷と呼ばれた少年は涙声になりながら、女性―藤那―に答える。そんな閑谷をみながら、藤那は鬱陶しそうにヒラヒラと手を振る。

「あ〜わかった。わかった。謝るからそんな顔するな」

「全然誠意が伝わってこないよ……」

「くっ、ま、まぁいいじゃないか。それに、私だって好きでこんな格好をしている訳じゃない。仕方なかったからだって事…………」

藤那は、閑谷がボソリと口にした言葉に、ピクッと普通の人間とは少し違う形をした耳を震わせながら答え、閑谷の下顎を細い指で、つ〜と撫でる。そして、甘い声で閑谷の耳元で囁く。

「……閑谷なら……分かってくれるだろ?」

妖艶な笑顔とその一言に、閑谷はまるでトマトのように一瞬でボッと赤くなる。

「ううう、うん、わかってよ。もちろんさ!」

(ふんっ。扱いやすい奴だ)

閑谷は、藤那が内心で思っていることなど知らず、満面の笑みを浮かべて答える。

「は〜閑谷も報われないね〜」

「そうですね。でも忌瀬さん。閑谷君はあれで喜んでいるからいいんじゃないでしょうか?」

「あ〜真姉胡は若いからいいね〜。“恋は盲目”とはよく言ったもんさ〜。あたしにゃあもう……」

「そうですよね〜。何て言ったって忌瀬さんももう二十……「それ以上言ったら薬の実験台になってもらうよ」
……ゴメンナサイ。モウイイマセン」

「まったく……。けど、さっき城に向かって行ったのは多分復興軍の奴らだよ」

「やっぱりそうですよね。それにしても、此処まで鮮やかに街を奪うとは……今までとは違いますね」

藤那と閑谷のやり取りを遠くから見ながら話すこの二人の女性。天目から復興軍の者と渡りを付けろと言われた忌瀬と、忌瀬の手伝いと、天目への連絡役として同行した真姉子胡いう女性。というより、こちらは少女だ。

二人は、中村の砦で魔人に襲われていた藤那達と出会い、行動を共にしてこの街に来たが、先程行われた街の奪還をやってのけた復興軍と予想される者達に、高い評価を下していた。

「けど、その分面白い人とか、いそうじゃない?」

「は〜忌瀬さんは……もう少し真面目に物事に取り組んでください」

「はいはい。わかってるよ。まったく、真姉胡は硬いんだから……おや? 城から人が出てきたよ」

「え? あ、本当だ。演説でもするんですかね?」

二人は、そんな事を話しながら、城下を見下ろせる場所から姿を現した、星華達を見上げた。





星華は留守を拘束している場所に立ち、下から自分達を困惑顔で見つめている当麻の街の民衆に語りだした。

「皆さん、私の名は星華。耶麻台国の王族であり、火魅子の資質を持つ一人です」

星華の言葉に民衆がざわめく。星華は続けて側に控えていた衣緒から天魔鏡を受け取り、高々と掲げる。

「これは天魔鏡。耶麻台国の神器です!」

天魔鏡が太陽の光を受け、神々しく輝く。すると民衆が物凄い歓声を上げた。なにやら「噂は本当だった」や「これで俺達は安全だ」等と言っている。そんな民衆に再び語りかける。

「私達は、耶麻台国を復興させる為に立ち上がった復興軍の者です。今、私達の仲間がこの街を支配している狗根国兵と戦っています。そして、あなた達は今から狗根国の支配から解放されるのです!」

そう言って星華は兵から刀を受け取り、状況を理解して恐怖に顔を歪めている留守の側により留守の首を…………。

―ザンッ―

「今、この瞬間あなた達は解放されたのです!」

斬り落とした留守の首を掲げて星華は宣言するように言い放つ。すると何時の間にか静まりかえっていた民衆が、先程よりも凄まじい歓声を上げた。その歓声の中、星華は更に続ける。

「皆さん。私達はこれから仲間の元へ駆けつけます。その間、此処をあなた達の手で守っていてくださいませんか? 私達は必ず戻ってきます。仲間の勝利と共に!」

星華の言葉に応じるように更に歓声が高まる。その歓声を背に、城内に十名程の兵を残した星華が、外へ出ようと城内を歩いていると、前から数人の団体が此方に向かって来た。





星華は向かってきた人物に武器を構える兵士達を制止する。すると、数人の女性の中から藤那が一歩前に出て話し掛けてきた。

「私の名は藤那。耶麻台国の王族で貴女と同じ火魅子の資質を持っている。これが証拠の鳳凰越だ」

そう言って藤那はなにやら取り出し、星華に判る様に掲げた。すると天魔境からキョウが出てきて暫く鳳凰越を見つめる。

「星華、間違いないよ。これは本物の耶麻台国の神器の一つ、鳳凰越だ(……ん、あれ? あの娘)」

キョウは、星華にそう言いながらも、藤那の後ろに居る青い髪を持つ白拍子の衣装を着た女性を見つめる。

「本当ですか!? わかりました。藤那さん。色々聞きたい事がお互いにあると思いますが、私達はこれから仲間の援護に向かわなければなりません。あなた達は如何しますか?」

「……御一緒させてもらっても宜しいか?」

「ええ、それは構いませんが何故ですか?」

星華が尋ねると、青い髪をした白拍子の衣装を身に纏った女性―志野―が話し掛けてきた。

「詳しい事は言えませんが、私達はある男に復讐する為に此処にいました。ですがその男は此処には居ない様なので、御一緒させて頂きたいのです」

星華は話し掛けてきた志野の目を見る。彼女の目の奥には、静かな殺意と揺るがない決意が感じられた。その目を見て星華は頷く。

「わかりした。ただ、もしもその男が既に死んでいても文句を言わないで下さいよ?」

「わかりました」

「では行きましょう」

そう言と星華達は急ぎ足で歩き始めた。





―星華達が当麻の街を開放している同時刻―

「さて、そろそろだな……」

九峪は腕を組みながら呟く。

「九峪様、来ました!」

物見に向かわせた乱破が片膝をついて九峪に報告する。

「わかった。ご苦労だったな」

九峪は乱破に労いの言葉を掛ける。すると、乱破は驚いたような顔を浮かべるが、すぐに一礼して下がっていく。九峪は自分の部隊の兵達へ体を向けると威厳のある声で話し始めた。

「いいか! 敵は高々三百程度、俺達が負ける要素なんて何一つ無い! だが油断はするなよ! 自分が油断したら仲間が死ぬと思え! いいな!!」

「ははっ!!」

「よしっ! 全員戦闘配置に着け」

九峪はそう言って只深から買った白銀の剣を鞘から抜く。ちなみに炎の御剣は物騒なのと、その力に頼らないようにと、砦跡に置いてきている。

九峪が周りを見渡すと、既に伊雅と香蘭の部隊も戦闘配置について待機しているようだ。遊撃部隊は、二百の内、五十を囮部隊の負傷者を治療するために残したようで、後は伊雅の背後に控えている。

そして、数十分後、亜衣と伊万里が率いた囮部隊の兵、約二百人程の一団の後に、百名程の狗根国兵の一団、さらにその後方に百六十程の狗根国兵の一団が此方へ向かってきた。すると…………

―ウォォォォッ!!―

凄まじい雄たけびと共に、正面に位置していた伊雅の部隊が、囮部隊と入れ替わるように突撃を開始した。どうやら伊雅は、五百の内三十程の兵を囮部隊の兵達の治療に当てる為やや早い突撃をしたようだ。ならば此処は一気に行くしかないと思い、九峪は大声を上げる。

「俺達も続くぞ! 突撃!!」

―ウォォォォッ!!―

凄まじい雄たけびをあげ、復興軍の兵達は狗根国軍突撃して行く。九峪の正面、伊雅から見れば左翼の香蘭の部隊も、九峪と同じ考えに至ったのだろう。あちらも凄まじい勢いで突撃を開始した。





怒涛の勢いで、三部隊が一斉に先行していた狗根国軍を潰しに掛かって来る。その様子に、狗根国兵達は唖然としながらも、正面の敵に向かって行った。

「な、何だこいつ等はっ――!?」 「て、敵だ――――!! 迎え撃て――――!!」

狗根国兵達は、大声を上げながら向かってくる復興軍の兵達を斬って行く。

「ぎゃぁぁぁぁ――――!!」

周りは叫び声や、悲鳴、剣戟が響き渡る。そのなかでも、正面から狗根国兵とぶつかった伊雅は、率先して部下の兵達の前に立ち、戦い、大声を上げている。

「おぉぉぉぉ―――!!」

伊雅が大声を上げながら、鬼神の如く剣を振るう。すると、伊雅に向かっていた狗根国兵達が次々と斬られ倒されていく。

「怯むな――!! わしに続け―――!!」

「おぉ――――!!!」

そんな伊雅の戦いぶりに、部下達は伊雅の姿に尊敬を抱き、己を奮い立たせて狗根国兵に向かって行った。




次に、右翼を見てみると、敵の横腹を突いた形になる香蘭の部隊から、狗根国兵が次々と中に舞う。

「はぁ―――!!」

ズンッと音を立てながら地面を踏みしめ、目の前の狗根国兵に拳を放つ香蘭。すると狗根国兵はボールの様に飛ばされ、仲間を巻き込んでいく。

「全然弱いね! どんどん行くよ!!」

「おぉ―――!!」

香蘭の大声に、香蘭の部隊の面々が力強く答える。その様子を紅玉は、狗根国兵を吹き飛ばしながら何も言わずに見つめている。

(香蘭も、少しは成長しているようですね)

そんな思いを胸に、紅玉は香蘭部隊の手薄なところをさり気無く助けていった。




最後に、左翼の方では、香蘭部隊と同じ様に、敵の横腹を突いた九峪の部隊が狗根国兵を次々と倒していた。

「はぁぁぁ―――!!」

九峪気合の声を上げながら、狗根国兵を斬る。

「あ、ありがとう御座います九峪様」

「礼はいい。それより自分が生き残る事を考えろ!」

「はっ、はい!!」

助けてもらった兵士が九峪に礼を言うが、九峪は兵士にそう言うとまた違う場所へと走り出した。




「な!? 敵がこんなに!?……ば、馬鹿な……何故これほどの兵力が……」

多李敷は先行させた大物見部隊が、瞬く間に敵兵に飲み込まれるのを唖然と見ていた。いくら狗根国兵が強くとも、千五百対百ではあまりに数が違いすぎた。唖然としている多李敷だが、このままでは負ける事は必至。ならば此処は逃げるべきだと後退しようとする。しかしそこへ四百程の武装した兵がこちらに向かってきた。

「なにっ!? く、くそっ! 此処は引くぞ! 引けぇ! 引けぇ!」

多李敷が大声を上げながら四百程の兵が居る方へ走り出す。しかし、逃げているうちに、味方の兵は次々と倒されていく。多李敷は敵の策に嵌められた事にやっと気づいたが、自分の周りの居る僅か十数人の兵だけではこの状況を打破する事は不可能だと悟った。

(ならばこいつ等には俺が逃げ延びる為の犠牲になってもらうか)

そんな外道な事を考えながら多李敷は兵に指示を下す。兵達は走りながらも多李敷を囲むように移動し、向かってくる復興軍の兵達を斬って行くが、相手の数が多すぎる事もあり、敵を倒しながらも次々と走り続けるうちに倒れていく。

「ぎゃぁぁぁ!」

叫び声と共に最後の兵が倒れ、ついに多李敷一人になってしまった。すると四百の兵達の中から外套を着ている二人が前へ進み出ると、他の兵は多李敷を取り囲むように移動しただけで、攻撃はしてこなかった。

「くっ! 貴様等、何者だ!」

多李敷は周りの兵より自分に近い二人に怒りの形相で言い放つ。すると二人は外套を脱いだ。外套を脱いだ二人、志野ともう一人、人形使いの少女―珠洲―は多李敷に強烈な殺気を放ち、志野は静かに言い放つ。

「座長の仇、お前の命を持って償え」

ただ一言。その言葉と共に、志野は愛刀の双龍剣を構え斬りかかる。多李敷は自分に放たれた殺気で相手の力量を感じ取ったと思っていたが、予想以上の攻撃の鋭さに防戦一方になっていた。

(くそっ! 何だこの女は!? 強すぎる)

焦る多李敷に構わず志野は剣を振るう。その剣筋は鋭く、今までの恨みや憎しみを全て出し尽くすかの様だ。そして、志野の猛攻に防戦一方の多李敷は珠洲の事を完全に失念していた。

「ぐ、くそ!」

叫ぶ多李敷に構わず、何故か志野はスッと後ろに下がる。攻撃の手が止んだ志野に、多李敷は初めて攻勢に出ようとするが……。

(か、体が動かん……。何故だ!?)

まるで何かに縛り付けられる様に身動きが取れない。そんな様子の多李敷に珠洲は馬鹿にした様に言い放つ。

「ば〜か。体を見てみろ。もうあんたは動けないんだよ」

「い、糸!? ぐ、くそっ! こ、こんなところで…………」

体に巻きつけられている糸を何とかしようと体を動かすが、その分体に糸が喰い込み、更に動けなくなっていく。

「往生際が悪いわね。己が犯した罪を悔いて死になさい」

そう言いながら志野は多李敷の体に剣を突き刺す。

「ぐわぁぁぁぁ!」

志野は剣を突き刺し、一旦抜くと後ろの下がる。すると周りから数人の外套を着ている者達が次々と多李敷に近づき、各々の武器を突き刺す。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ―――――!!!」

長い叫び声が途絶えると、多李敷の首がガクッと落ちた。

「やったね志野」

「ええ、そうね」

志野は駆け寄って来た珠洲にそう答える。すると周りから拍手が聞えてきた。志野と珠洲が周りを見てみると、復興軍の兵士が皆笑顔で拍手を送っていた。そして藤那が二人の元へ来て話し掛ける。

「お見事だった。これであんたの目的は果たせたな」

「ええ、そうね。それに星華様にお礼を言わなくちゃいけないわね。あの人達が居なかったら復讐は果たせなかったと思うわ」

「そうだな。私達がやる前にあっさりと街を開放した事といい。この兵力といい。この復興軍は今までの奴等とは違うみたいだな…………」

「どうしたの藤那?」

「ん、何でもないよ閑谷」

「そう……」

閑谷は藤那に声を掛けるが、藤那は素っけなく答える。その答えに藤那の事が好きな閑谷はガクリと肩を落す。その肩を藤那の護衛として一緒に来ていた青年―孔菜代―に叩かれ、密かに涙したのは閑谷と孔菜代だけの秘密だ。

 


藤那や志野達がそうしている間、星華は隊列を組みなおして九峪の元へ行こうと部下に指示を出していた。

「さぁ、早くしなさい! 九峪様に我々が街を無事に解放した事をお伝えするのよ!」

「はっ!」

星華の言葉に兵達はしっかりと返事をすると、隊列を組みなおし始めた。

そんな星華に、藤那が尋ねる。

「星華殿。先程仰った九峪様とは誰のことです?」

「九峪様は私達復興軍の総司令官にして“神の御遣い”です」

「“神の御遣い”ですか? 私は聞いた事ありませんが……」

「ええ、知らなくて当然です。復興軍の者にしか知らせていませんから」

「そうですか。では私達も御一緒させて頂けませんか?」

「ええ、いいですよ」

そう言うと、星華達は九峪の居る方へと移動し始めた。





「負傷者は敵味方関係なく治療しろ。いいな」

「はっ」

指示を下している九峪に、星華達の部隊が近づいてきた。

「九峪様」

九峪は自分の名を呼ばれて振り向く。そこには、星華と衣緒、それに藤那や志野達が立っていた。

「ああ、星華に衣緒。ご苦労だったな。無事に終わったか?」

九峪は星華と衣緒に笑顔で労いの言葉を掛ける。九峪は返り血で所々服が汚れているが、何処にも怪我はないようだ。

「はい。街の解放は無事に終わりました」

「そうか。ところで、そちらの人達は?」

九峪は藤那や志野達の方を見ながら尋ねる。

「あ、はい。此方の方々は街に居た旅芸人の一座の皆さんです。それと、此方の藤那殿は私と同じ火魅子の資質を持っている耶麻台国の王族です。キョウ様にも確認して頂きました」

「そうか……」

九峪は星華の言葉に頷くと、藤那達の方を向き話し掛ける。

「初めまして。俺の名は九峪。耶麻台国を復興させる為に遣わされた神の遣いだ」

「……は?」 

思わず間抜けな声を思わず出してしまった藤那達は慌てて口を塞ぐが、九峪は苦笑すると構わず話を続ける。

「まぁ、信じられないだろうけど取り合えず今は負傷者の手当てが最優先なんだ。手伝ってくれないか? それと詳しい話は街に行ってからでいいよな?」

「は、はい……」

藤那が返事をすると、九峪は再び指示を下し始める。

「さあ、私達も負傷者の手当てに行きますよ」

「はっ」

星華は部隊を何組かに分け負傷兵の治療等に当たらせた。その様子を見た藤那達も、負傷兵の治療に向かい始める。そして暫くすると、負傷した者と負傷者を治療する者を残し、復興軍は当麻の街へと移動を始めた。


こうして、耶麻台国復興軍の初戦は、復興軍の圧倒的勝利で幕を閉じた。





 
あとがき

どうも蒼獅です。第十三話如何だったでしょうか?

藤那達は原作(小説)の様に街の奪還はしませんでした。というより出来なかったんですが……。まぁそれは置いといて……。今回の伊尾木ヶ原の戦いは、原作(小説)より圧倒的な兵力を持つ九峪君率いる復興軍と、欲望にまみれた多李敷率いる狗根国軍。まあ結果は圧勝という形になりました。

次回は、当麻の街を開放した九峪君達復興軍の様子をお送りしたいと思います。

宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。

それではこれにて今回は失礼させて頂きます。