火魅子伝 居場所 第14話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・キョウ・亜衣・藤那・紅玉・志野・珠洲 J:シリアス)
日時: 01/01 18:11
著者: 蒼獅


―数時間後―

当麻の街の門を潜った九峪達を待ち受けていたものは、民衆からの凄まじい歓迎の声と笑顔だった。城に行くまで通常の時間より倍近く掛かったが、民衆の笑顔と歓声を受けながら歩いていたので、復興軍の兵達は皆、戦いの疲れもあるのに終始笑顔で民衆にこたえていた。

特に凄まじかったのが星華のところだ。火魅子の資質を持つ者であり、街を開放してくれた英雄なのだ。星華が手を振ると、涙を流しながら叩頭する者まで居たくらいだ。そんな民衆の歓声は復興軍の幹部が城に入ってからも続き、現在では盛大な祭りが行われている。




民衆の祭りが城下で行われている頃、復興軍の幹部と藤那達は、旧留守の間に集まりそれぞれの自己紹介が終わると、九峪が話し始めた。

「皆お疲れ様。戦の被害は思っていたより少なかった。これは、敵が此方の策に見事掛かってくれた事。そして、敵を見事に此方に誘導してくれた囮部隊の働きがあってこそだ。亜衣、伊万里、囮部隊の皆にご苦労そしてありがとうと伝えてくれ」

「はい。わかりました」

「頼んだ。それと伊雅と遊撃部隊の判断も賞賛に値する。伊雅の部隊や遊撃部隊が残した兵のおかげで、囮部隊の負傷兵の多くの命が救われた。これからの働きにも期待しているぞ」

「「はっ。有難う御座います」」

伊雅と清瑞は九峪からの言葉を聞き、頭を下げる。さらに九峪は続ける。

「さて、今日はこれぐらいにして解散しよう。これからの事についてはまた明日という事でいいよな亜衣?」

「はいわかりました。それでは皆さん、これにて解散します。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」(×全員)

解散すると、殆どの者が城下に向って降りていった。そんな中、九峪は旧留守の間から城下の様子を眺める。

(これでようやく一つか……。先はまだ長いな……。だがやるしかない。死んでいった者達の為にも必ず……)

九峪は討ち死にした復興軍の兵達の事を思って黙祷をし、耶麻台国復興を必ず遂げようと新たに誓うのだった。




―翌朝―

九峪達復興軍の幹部達は、今後の方針を決めるべく、旧留守の間に集まっていた。

現在旧留守の間に集まっている人物は、復興軍側は、九峪、キョウ、伊雅、清瑞、星華、亜衣、衣緒、伊万里、上乃、仁清、香蘭、紅玉、音羽の十三人。

そして、当麻の街攻略戦の後に仲間になった、火魅子の資質を持つ藤那、その藤那と同じ出身の閑谷、孔菜代。その藤那達と行動を共にしていたという薬師の忌瀬とその助手の真姉胡の五人。

さらに多李敷を殺す為に当麻の街に居た旅芸人の一座からは、座長代理の志野と人形遣いの珠洲の二人で、合計二十人だ。

亜衣は全員が集まったのを見ると話し始めた。

「では、今後の方針を決める前に、ご報告したいことが御座います」

亜衣は、そう言うと中村の砦で見た事を話した。

「…………という事なのですが、何かご存知の方はいらっしゃいませんか?」

亜衣が話し終えると、藤那が話し始めた。

「亜衣殿。その黒いのは私達が倒した魔人の事でしょう。私達は中村の砦を襲おうと砦へ向かったのですが、既に砦の中に居た狗根国兵達は魔人に食われていたのです。そして私達は魔人と戦う事になり、最終的には忌瀬の持つ十歩蛇の毒という物で魔人を殺し、その後砦を焼いたのです」

「そうだったのですか……やはり魔人が……。では藤那様も魔人と戦った経験を持つと考えてよろしいでしょうか?」

「え? ああ、そうだな。それよりも“私も”と言う事は亜衣殿達も魔人と戦った経験があると?」

「ええ」

「そうですか……よろしければお聞かせ願いたいのだが宜しいか?」

藤那は、自分の他にも魔人と戦った事があるというので是非とも聞いてみたくなりそう尋ねると、紅玉が話し掛けてきた。

「では藤那様。まずは私と香蘭の方からお話いたしましょう」

そう言いながら、紅玉は隣で自分が話すと言いたげにしている香蘭を、ギンッと鋭い眼光で黙らせ、話し始めた。

「私達が戦ったのはある村に立ち寄った時です。その時の私達は此処には居ない只深様とご一緒させていただいている時でした。只深様達の隊商と一緒にその村へ休憩がてら立ち寄ると、狗根国兵達が村へやって来ました。何故狗根国兵達があのようなところに居たのかは分かりませんが、村人は私達を売り、只深様は囚われ、魔人に拷問を受けておられたようでした。その只深様の悲鳴を聞きつけ、私と香蘭、それに伊部殿という只深様の付き人の方で狗根国兵達を倒し、その後の魔人は私一人で、この覇璃扇を使って倒しました」

紅玉はそう言うと、バッと覇璃扇をみんなに見せる。

「そ、そうですか……紅玉殿は一人で魔人を……お強いのですね……」

藤那は紅玉が一人で魔人を倒したというのを聞き、唖然として呟くと、紅玉は優雅な笑みを浮かべながら答える。

「いえいえ、私などまだまだですよ。九峪様達の方が余程の相手だったそうですから。それに、聞いた話しによると、私が戦った魔人は下級魔人だそうです。九峪様達は中級魔人を相手に戦ったようですから……」

ころころと上品に笑いながら紅玉はそう言う。すると、今度は九峪を見つめる。九峪は苦笑しながら話し始める。

「じゃあ今度は俺達の番かな。まず俺達が戦ったのは、深川という左道士が自分の命と、連れてきていた部下の命を使って召喚した魔人だ。奴は自分の肉体というものを持っていないらしく、召喚者の深川の体を使って俺達と戦ったんだが、俺達は奴が手加減をしているのにも拘らず手も足も出なかった。けど、なんとか隙を突いて、星華と亜衣の放った方術で、奴に手傷を負わせたんだけど、奴を倒すには至らず、怒った奴に再び叩きのめされたんだ」

九峪はそこまで言うといったん区切り、再び話し始めた。

「その後は、俺の持つこの鈴が鳴り、この炎の御剣という剣を呼び出し、この剣を使って、奴を倒した。という事だ」

藤那は九峪が手にとって見せている炎の御剣を見ながら、疑問に思ったことを聞いてみる。

「九峪様の仰ったその炎の御剣と言うのはいったい何なんでしょうか?」

「ん、これは……まぁ俺専用の武器かな。まだまだ俺自身、炎の御剣を使いこなせていないからよく分からないけど、これは“魔”の者に絶大な効果のある武器なんだ」

「そうですか……わかりました。ありがとう御座います」

藤那は九峪に礼を言う。

「じゃあ、この話しはもう終わりにして、今後の方針を決めていこうか」

九峪の言葉に、亜衣は頷くと話し始めた。

「はい。では、これからの方針について話し合いたいと思います。私としては引き続き北上し、火向の国都を目指すのが妥当かと思います」

亜衣がそう言うと、藤那が手を上げながら話し始めた。

「ちょっといいかな? 今後の方針を決める前に、街を一つ奪還した事だし、これからは復興軍では無く、耶麻台国軍と名乗ってはどうだろう?」

「それは……耶麻台国の復活を宣言するという事でございますか?」

「そう。このあたりで内外に耶麻台国復活を大々的に宣言してもいいのではと思うのだが」

藤那はそう言いながら頷く。すると、伊雅が藤那の考えに賛同するように声をあげた。

「それはいい考えですな」

伊雅がそう言うと、周りも賛成の意思を見せた。そんな周りを見ながら、藤那は亜衣に問い掛ける。

「どうですかな亜衣殿?」

「ええ、そうですね。狗根国軍を打ち破った事ですし、時期的には丁度よいのかもしれません」

亜衣は藤那にそう言いながら九峪を見つめる。

「九峪様はどう思われますか?」

亜衣が九峪に尋ねると、九峪はゆっくりと答えた。

「俺は……まだ早いと思うな」

九峪のその言葉に室内がざわめいた。





「どういうことでございますか?」

亜衣が驚いたような顔で九峪に尋ねる。伊雅や藤那、他の者たちも困惑した顔を九峪に向ける。

皆が困惑しているのを他所に、九峪は厳しい言葉を発した。

「じゃあ言うけど、たった一つ街を奪還した位で皆調子に乗りすぎだ」

「んなっ!?」

「だってそうだろ? 南方の街一つ奪還した位なんて、狗根国側にすれば“今回の反乱は今までよりは手強い”くらいにしか思われていないだろうな。それに、これから先、国都に近づくにつれ戦いは激しさを増していく事になる。そして、忘れてはならないのが狗根国側はまだまだ本気じゃないという事だ。そんな状態で、耶麻台国復活なんて挑発するような事してみろ。すぐに何千、何万の兵ならまだしも、魔獣や魔人が俺達を襲うかもしれないんだぞ」

九峪はそこまで言うと一旦区切り、皆を見つめ話を続ける。

「それに、耶麻台国の復興を成す為には、九洲の民達の協力が必要不可欠だ。彼らが狗根国に反感を持ち、俺達に協力してくれるからこそ、俺達は戦う事が出来るんだ。その事を忘れてはいけない」

「…………」

九峪の言葉に全員が無言になる。その中で、突然藤那が口を開いた。

「流石は神の御遣い様。深い深謀遠慮。この藤那、感服いたしました」

「ええ。確かに九峪様の仰る通りです。では耶麻台国軍と名乗るのは、まだ先にしましょう」

九峪の言葉に、藤那と亜衣がそう言うと、周りの者も納得したような顔になる。

「では、今後の方針についてですが………………」




その後、暫く会議が続けられた結果、基本はこのまま引き続き北上し、火向の国都を目指す。という事になり、狗根国側が当麻の街の奪還をするべく、討伐軍を送り込んでくることが予想されるので、それまでに出来るだけ迎撃の準備をするというものであった。





「では、これにて終了いたします。皆様お疲れ様でした」

亜衣がそう言うと、皆旧留守の間から出て行く。九峪とキョウ以外居なくなると、キョウが九峪に話しかけてきた。

「九峪、ちょっといい?」

「ん? いいけど、どうしたんだキョウ?」

「あのね、志野の事なんだけど……あの娘、火魅子の資質を持ってるよ」

「何!? じゃあこれで……」

キョウの言う事に九峪は驚愕した顔でキョウを見つめる。

「うん。これで全ての火魅子候補が集まった。この戦争に負けるか、彼女達が死んだら……耶麻台国の復興は無理だね」

「…………」

キョウは真剣な声で九峪にそう語る。その言葉を聞いて九峪はしばし考え込む。

「キョウ、本当にもう居ないんだな?」

「うん。間違いないよ」

九峪はキョウに確認するように尋ねると、キョウは頷く。

「そうか……でも志野は知らないようだったし、伊万里の時みたいに選ばせようと思う」

「うん、わかったよ」

九峪の言葉を聞いたキョウは、そう言うだけで反論はしなかった。

「じゃあこれから俺は志野を探して連れてくるからキョウは鏡の中に入っていてくれ」

「うん、わかったよ」

キョウはそう言うと天魔境の中に入っていく。キョウが天魔境の中に入っていくのを確認した九峪は、志野を探すため、旧留守の間を出て行った。




―当麻の街、城下―

九峪は志野を探すために、城下まで降りてき暫く歩いていると、街の一角で芸をしている志野の一座を発見した。

志野の一座の者達は皆、芸達者な者達ばかりで、観客達は大いに盛り上がっている。

特に凄かったのが志野の剣舞だ。本物の真剣を用いて行われる剣舞に、観客達は驚きと興奮が混じった声を上げながら、剣舞が終わると凄まじい歓声を上げた。

それを遠くから見ていた九峪は、志野の一座の者達が戦闘者としても一流の者達だと見抜いていた。特に志野と、相撲をとっていた女性―織部―と、人形劇をしていた珠洲は復興軍の幹部達と同等の腕を持っていると判断した。

九峪は、そんな彼女達を見ながらしばし芸を見ていると、どうやら終わりらしく、観客達が帰っていく。

「あ、九峪様。どうかなされたのですか?」

九峪が、観客達から投げ込まれたおひねりを集めて籠の中に入れている芸人達を、遠くから見ているのを発見した志野と珠洲はそう言いながら九峪に近づいていく。

「あ、志野に珠洲……。いや、城下に来てみたら芸をやっているのが見えたから見させてもらっていたんだ」

「そうですか。どうでしたか私達の芸は? 九峪様にも楽しんで頂けたでしょうか?」

志野は笑顔でそう尋ねてくる。その隣にいる珠洲は、九峪には無関心なのか、黙っている。

「ああ。楽しませてもらった。それにしても志野のあの剣舞は凄いな。真剣でやってるのにも驚いたけどあの人数を圧倒する剣の腕にも驚いたよ」

「そうですか。九峪様に喜んでいただけて幸いです」

志野は九峪の賛辞に微笑みながら答える。すると、隣に居た珠洲の顔がわずかに不機嫌になり、志野の服を引っ張る。

「志野、そろそろ行こ」

「珠洲……わかっわ。すみません九峪様」

「いや、気にしなくていいよ。(珠洲は志野から離れる様子は無いか……なら)……志野、大事な話があるんだ。後で留守の間に来てくれ。ああ、珠洲も来てもらって構わないから」

「え? あ、はい。わかりました」

九峪は真剣な表情で志野を見つめがらそう言うと、志野は戸惑いながらも頷く。その様子に珠洲の眉がピクリとしたが、ついて来ても良いと言われたので、何も言わずに志野の服を引っ張り、一座の方へ向かって行く。

(さて、もう此処に用は無いな)

九峪は、志野と珠洲が一座の方へ戻っていくのを見ると、旧留守の間へ行く為に歩き出した。




志野の服を引っ張り、一座まで戻ってきた珠洲は志野を見つめながら尋ねる。

「志野、本当に行くの?」

「え? 九峪様の所? ええ、行くわよ」

「そう、私も来て良いって言ってたからついてく」

珠洲は志野の言葉を聞くとすぐにそう答える。

「わかったわ。でも大人しくしているのよ?」

珠洲は志野の言葉にコクンと頷く。

「そう。じゃあ行きましょうか」

志野は、そう言うと珠洲の手を取りながら九峪から言われた旧留守の間を目指して歩き出した。




―旧留守の間―

志野と珠洲は、旧留守の間の扉の前まで来ると、部屋の中に聞こえるように声を掛ける。

「九峪様、志野と珠洲です。入ってもよろしいですか?」

「ああ、入ってくれ」

「「失礼します」」

志野は九峪の返事を聞くと、珠洲の手を引きながら留守の間へと入っていく。旧留守の間には、九峪が座っており、その近くに天魔境が置かれていた。

「早速なんだけど……これから話す事は志野個人の問題であり、復興軍全体の問題でもある。でも、この問題をどうするかは志野に決めてもらおうと俺とキョウは考えている」

「はぁ……私個人の問題でもあり復興軍の問題でもあるですか? よく分かりませんが、もし私がこの話を聞かなかった場合私はどうなるのです?」

「いや、別に何も。今までと変わらないよ」

(いままでと変わらない言う事は、この話を聞いたら何かが変わるという事ね)

志野は、九峪の言葉を聞いて考える。珠洲は、志野の手を握りながらじっと黙っている。

「まぁこの話を聞いても変わらないと言えば変わらないんだが……」

九峪は、考えている志野にそう言う。

「(話を聞いても変わらない? どういう事かしら?)……あの九峪様?」

「あ、悪い。で、どうする? 聞くだけ聞いてみるか?」

「…………はい」

「わかった。……志野は……火魅子の資質を持っている」

「は?」

九峪の言葉に、志野と珠洲はポカンとした顔をする。

「だから、志野は火魅子の資質を持つ耶麻台国の王族の生まれという事なんだ」

「え? 私がですか?」

「ああ。キョウが言うんだから間違いない。それに、この鏡を覗いて、自分の顔が映ったら確定だ」

九峪はそう言って天魔境を志野に渡す。志野はそれを受け取ると、確かめるように鏡を覗くと、そこにはしっかりと自分の顔が移されていた。

「……映った……」

「嘘っ!?」

唖然とした声で志野は呟く。すると隣の珠洲が天魔境を志野の手から奪い取り自分の顔を映す。

「え!? そんな……どうして映らないの?」

「その天魔境は火魅子の資質を持つ者しか映さないんだよ」

愕然として呟く珠洲を見ながら、申し訳なさそうにそう言い、九峪は珠洲の手から天魔境をとる。

「志野、火魅子の資質を持つ者は君で最後なんだ。全ての火魅子の資質を持つ者が今回の反乱に参加している。この意味わかるか?」

「……この反乱が失敗して火魅子の資質を持つ者が死んだら、王族の者は居なくなるということですね」

「ああ、だから志野……君はどうしたい?」

「え? どうしたいとは?」

「志野は今、一座の座長なんだろ? 火魅子候補になってしまえば今までの様に芸をする事は出来なくなるかもしれない。だからどうしたい?」

「私は…………」

志野はそこから言葉を紡ぐ事は出来ず、押し黙る。

「志野。今すぐに答えを出す事はない。一座の皆になら話してもいいから相談するといい。ただ、話すなら他の人達には他言無用でお願いしたい」

「あ、はい。わかりました」

「これで俺の話は終わりだ」

九峪がそう言うと、志野と珠洲は九峪に一礼して旧留守の間を出て行く。その姿を見送ると、天魔境からキョウが出てきた。キョウは何も言わずに九峪の側にフワフワ浮かんでいる。

「キョウ、あれで良かったのかな?」

「それは僕にも分からないよ。全ては志野しだいさ」

九峪はキョウにそう尋ねるが、キョウはそう答えるだけで、他には何も言ってこなかった。





あとがき

どうも蒼獅です。

まずは、あけましておめでとうございます。今年一年も頑張っていきましょう。

さて、第十四話如何だったでしょうか?

今回は会議の様子と、志野に火魅子の資質があるという事を教える様子をお送りしました。
志野が火魅子候補になるかは次回にて……。

さて、次回は、その志野の答えと、忌瀬と真姉胡の様子をお送りします。

宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。

では今回はこれにて失礼します。