火魅子伝 居場所 第15話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・清瑞・志野・珠洲・織部・忌瀬・真姉胡 J:シリアス)
日時: 01/13 14:10
著者: 蒼獅


―当麻の街、城下―

志野と珠洲は九峪の言葉を聞いてからお互い無言で一座まで歩いている。歩いている最中、志野は先程九峪とキョウに言われた事を考えながら一座に帰ってくると、既に一座の皆は芸を始めていた。

披露する芸に、観客達が大いに盛り上がって笑顔で笑っている事に、志野は喜びを感じていた。

(私はどうすれば……)

しかし、志野は観客達の笑顔に喜びを感じながらも、九峪の言葉が頭にちらつく。

そんな状態の志野に、先程まで相撲をとっていた織部が舞台から降りてきて話し掛てきた。

「おっ、座長、珠洲、お帰り。もうすぐ座長の出番だから準備しとけよ」

「わかったわ。織部姉さん」

志野は織部にそう言われて、九峪とキョウに言われた事を一時頭の隅に追いやりながら答える。

そして、舞台に上がり、自分の演目を披露する。この一座のとりである、真剣を使った剣舞だ。

志野の演目は進み、そして演目が終了する。

すると、観客達が歓声を上げながら、おひねりを投げ込んできた。

志野はその歓声に一礼して舞台から降りる。そして、舞台を降りてくると座員の皆が居たので、座員の皆から労わりの言葉を受けると思っていたら、織部の怒声が聞こえてきた。

「おい座長。なんだあの剣舞は? あんた真面目にやったのか?」

「え? 織部姉さん?」

「俺はさっきの剣舞は真面目にやったのかって聞いてんの」

「え、ええ。ちゃんとやったわよ」

志野の答えを聞いた織部は、そうか、と呟き……。

―パンッ―

突然志野の頬に張り手を放った。

「あ……」

頬を叩かれて唖然とする志野に、織部は怒鳴りつける。

「何がちゃんとやった、だ!! 今までで最低だ!! あんなん剣舞なんかじゃねえ!! 座長、あんた気づいていたか? さっきの演目で何回か危ないところがあったのを?」

「…………」

志野はそう言われて沈黙する。珠洲は事情を知っているが、演目に手を抜くのは御法度と理解しているので、黙っている。

「座長。あんたが何を考えていたか知らねぇが、座長であるあんたが演目に手を抜くなんて、しちゃいけねぇだろ?」

「はい。……御免なさい」

志野は素直に座員に向けて頭を下げて謝る。すると、織部はふぅ〜と溜息を吐く。

「まったく。で、何があったんだ?」

「え?」

「え? じゃなくって、何かあったんだろ?」

「はい。実は…………」

志野は九峪とキョウに言われた事を話し始めた。





「………………以上が私が九峪様とキョウ様に言われた事です」

「………………」

志野が話し終わると、全員が黙り込む。暫くすると、織部が志野に尋ねてきた。

「で、座長はどうするのさ? 俺らに相談って言ったって結局は座長が決める事だぜ」

「でも、もし私が火魅子候補になったらこの一座を続けることが……それに、もしかしたら戦で皆が死んでしまうかも知れないんですよ?」

「一座云々じゃなくて座長はどうなんだよ? その火魅子候補ってのになりたいのか、なりたくないのか。結局はそれだけだろ? それに、復興軍には借りがあるんだ。座長だってその借りを返すために復興軍に入ろうって考えてたんだろ?」

「…………」

織部は、煮え切らない志野の言いように言葉を荒くして尋ねる。志野は、織部にそう言われて押し黙る。

「…………私は志野についていく」

「珠洲……」

沈黙が支配する中で、志野の隣に居た珠洲はそう言いながら志野の手を握る。

「ま、俺も座長が決めたことに従うから。別にこれから絶対に一座を続ける事が出来なくなるって分けでもないんだしさ」

織部は、先程とは打って変わって優しい口調で志野に話す。すると、他の皆も織部の言い分に賛成するように頷く。

「皆……ありがとう。分かったわ。私やってみるわ。私なんかで勤まるかどうかは分からないけど……」

「そんなことない。藤那……様よりは絶対いい」

「もうっ珠洲ったら。そんな事言っちゃ駄目でしょ」

志野は、珠洲の言葉に僅かに微笑みながら答える。

「よっしゃ! じゃあ、今日は座長の為に宴会だ!」

「おぉ――!!」

織部がそう言うと、一座の皆は一斉に立ち上がり、宴会の準備を始めた。

「もうっ、織部姉さんったら」

志野は、そう言いながらも笑顔を浮かべて座員の皆を見ている。その隣で、志野の手を握ったまま珠洲は嬉しそうに笑う志野を笑顔で見つめていた。

そうして、その日の夜、一座では一日中宴会が行われた。





―翌日―

九峪は清瑞と一緒に城下町を歩いていると、忌瀬と真姉胡が、先の戦の負傷者の手当てをしているのを見つけた。

「忌瀬、真姉胡。負傷者の手当てをしてくれているのか? ご苦労様」

「あ、九峪様。いえいえ、これが私の仕事ですから」 「私は忌瀬さんのお手伝いです」

九峪の言葉に、忌瀬と真姉胡は、負傷者の手当てを一旦止め、九峪達の方に振り返りながら答える。そして、再び手当てを始める。二人の手当ての様子を見ていた九峪と清瑞は、真姉胡の動きの所々に普通の山人達と比べると、どこか訓練された動きに見えた。その事に気づいた二人は、お互いに見合わせると頷き、真姉胡に尋ねる。

「そうか。ありがとう二人とも。ところで、話は変わるけど、真姉胡は山人なんだよな?」

「え? は、はい。そうですけど……」

「じゃあ狩とかやるんだろ? どのくらいの腕前なんだ?」

「え〜と、どうなんでしょう忌瀬さん?」

「え!? 何で私に聞くの?」

いきなり聞かれた忌瀬は恨む様に真姉胡を睨み付ける。その様子に真姉胡は心の中で謝りつつも、期待の眼差しを忌瀬に向けている。その眼差しには……。

(何とか誤魔化して下さい。忌瀬さん)

という意味が込められていた。忌瀬はその眼差しを受け、またもや冷汗を垂らしながら何とか答えようとするが、その前に九峪が話しかけてきた。

「悪い。困らせるつもりは無かったんだ。ただどれぐらいか興味があったから聞いただけで、別にわからなかったら答えなくていい。そうだな……清瑞」

九峪はそう言って真姉胡に謝り、清瑞の名を呼ぶ。すると、清瑞は心得たとばかりに頷く。

「わかりました九峪様。真姉胡、これからちょっと付き合ってくれ」

そう言って、清瑞は真姉胡の腕をグイッと掴む。

「え? あ、で、でも……」

「真姉胡。後は私一人でも出来るから行ってらっしゃい。(ごめん真姉胡)」

救いを求める様に真姉胡は忌瀬を見つめるが、忌瀬はそんな眼差しを無視して内心は謝りながらも、清瑞に答える。それを聞いて、泣きそうな顔をしている真姉胡に、九峪は苦笑しながら話す。

「そんな顔するな真姉胡。別に何かするわけじゃないんだからさ。じゃあ清瑞任せた」

「わかりました。じゃあ真姉胡。行こうか?」

「ははは、はい。わかりました」

引きつった顔でとぼとぼと真姉胡は清瑞に引っ張られていく。その様子を見送ると、九峪は忌瀬に向けて話しかける。

「じゃあ俺もそろそろ行くわ。伊雅達ばかりに負担をかけさせるわけにはいかないからな」

「あ、はい。わかりました」

九峪は忌瀬にそう言って城のほうへ歩き出した。

(あちゃ〜九峪様、絶対真姉胡の事疑ってるよ。まぁ疑われる事は分かっていたけど、まさかこんなに早いとはね〜。ま、いざとなったらすべて話してもいいって天目様も言ってたし…)

忌瀬は九峪を見送りながらそんな事を考えつつ、負傷者の手当てを再び始めた。






―その日の夜―

「九峪様。失礼致します」

清瑞は、九峪の部屋の戸をスッと音を立てずに開け、中に入ると同じように音を立てずに戸を閉める。

部屋の中には、炎の御剣と天魔境が置かれており、布団が敷かれている。その布団の上で、九峪は静かに座っていた。

「九峪様。真姉胡の事ですが……」

清瑞が九峪にそう言うと、九峪はゆっくりと尋ねる。

「どうだった?」

「はい。やはり真姉胡はただの山人ではありません。試しに乱破部隊にさせている訓練をさせてみたところ、本人は上手くごまかせていると思っているようでしたが、私から見ればあれは鍛えられた乱破であると一目でわかりました」

「そうか……。清瑞はどう思う? 俺は狗根国が送り込んだ乱破なのは間違いないと思うんだが、誰かの暗殺を狙っているようには見えない」

「はい。私もそう思います。もしかしたら狗根国ではなく、狗根国の幹部の個人的な部下の類ではないでしょうか?」

「それはありえるな。だとしたら狗根国側は一枚岩ではないという事になる」

九峪はそう言うと、腕を組んで考える。そして数分後……。

「よし、清瑞。真姉胡の監視はしなくていい。代わりに、忌瀬に真姉胡を伝令用の乱破として協力してほしいと頼んできてくれ。もし無理なら無理で構わないから」

「え? 真姉胡に伝令役をやらせるのですか? それでは敵に情報が筒抜けになってしまいます!」

慌てる清瑞に、九峪は静かに一言。

「普通ならそうだな」

「普通なら……?」

清瑞は、九峪のその一言の意味を、頭を回転させながら考える。そして、閃いた様に九峪に尋ねる。

「もしかして九峪様は、真姉胡が敵に情報を教えるか教えないかで、真姉胡の目的を探ろうとしているのですか?」

清瑞がそう言うと、九峪は大きく頷く。

「まぁ、そんなところだ。さらに、今の乱破部隊の中から優秀な者を三名、征西都督府に送り込み、現地の情報を得れば、誰が敵に塩を送るような真似をしているのかわかるかもしれないだろ?」

「九峪様。その言い方では真姉胡は私達に協力するよう言われて来たと断言しているようなものです。もし、本当に敵に情報を教える乱破ならばどうするのです!!」

清瑞は九峪にズイッと迫る。その反動で清瑞の小振りな二つのメロンがプルンと揺れる。

(くっ、こんな不意打ちをっ!!)

九峪は清瑞の小振りな二つのメロンが揺れるのを見てしまい、とっさに顔を逸らす。

「……だ、大丈夫だって。いざとなったら俺が何とかするから」

そういいながら、九峪は無理やり作った笑顔を清瑞に向ける。

「九峪様……わかりました。九峪様がそう仰るのなら……」

九峪の行動に首を傾げるが、九峪が何とかすると言うのだから任せようと思い、清瑞は頷く。

「じゃあ、真姉胡の事についてはそういう事だから、忌瀬に言っといてくれ」

「わかりました。明日、忌瀬殿の所へ行って聞いてみます」

「任せた」

清瑞は九峪の言葉に頷くと一礼し、来た時と同じように音を立てずに出て行った。

その後、清瑞が出て行ったのを見ると、九峪が安堵の息を漏らしていたとか……。






―清瑞が九峪の部屋で話している同時刻―

「で、清瑞さんに連れて行かれた後、どうなったんだい?」

「え〜とですね、乱破の訓練を少しやらされて終わりました。清瑞さんからは特に何も言われませんでしたよ」

真姉胡は、昼間清瑞に連れて行かれた後、何が起こったのかを忌瀬に話していた。忌瀬は、「乱破の訓練をやらされた」という事に、九峪と清瑞が真姉胡がただの山人じゃないことを、やはり勘付いているのだと考える。

(あちゃ〜。やっぱりそうか〜う〜ん困ったな〜)

忌瀬は腕を組んでウンウン唸りながら考える。その様子に、真姉胡は……。

(忌瀬さんが困っているのって、もしかして私の所為? ど、どうしよう……けどちゃんとあの時は手を抜いていたんだけどな〜)

真姉胡は手加減していたつもりでも、真姉胡より実力の高い清瑞から見れば、わざと力を抜いているのは明白であり、その事が余計に疑われる原因だとは分からず、何が原因だったかを必死で考える。

お互い考えること数分。忌瀬が顔を上げて真姉胡を見る。

「真姉胡、とりあえず今は私の手伝いとして大人しくしていなさい。いいわね? 後、復興軍の幹部達にバレたら素直に話なさい。天目様からはいざとなったら話してもいいって言われてるから」

「えぇ!? 天目様が?」

天目がそんな事を言うなんて、何を考えてるんだ。といったような顔をしている真姉胡に、忌瀬は続ける。

「あんたはそこまで聞いてないようね。けど、私はそう聞いてるから、あんたもバレたら話しなさい」

「はぁ……わかりました」

真姉胡は忌瀬にそう言われて、頷く。

「じゃあ明日からはそう言うことだから、今日はもう寝るわよ」

「わかりました。お休みなさい、忌瀬さん」

「うん、お休み」

そう言うと、真姉胡は忌瀬の部屋から出て行った。忌瀬は真姉胡が出て行った後、ふぅ〜と溜息を吐くと、呟いた。

「まったく、天目様も人使いが荒いんだから……」







あとがき

どうも蒼獅です。第十五話如何だったでしょうか?

今回は志野と座員達の様子と、忌瀬、真姉胡の様子をお送りしました。真姉胡は、原作(小説)では曼陀羅華を採りに行く時に出会うのですが、忌瀬の共として、最初から着いて来ていました。

さて、次回は、今回の後半の、真姉胡に伝令用の乱破にならないかと尋ねる清瑞の様子と、巨漢な海人と相撲好きな海人が当麻の街に来る様子。さらに、志野が九峪へ答えを出す様子をお送りしようかと思います。

宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。

では今回はこれにて失礼します。